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怒の百十三 「敵に渡すな、大事なリモコン!」

最近、街を歩いていても、ついつい人間観察している自分に気づく。大声を出している人や、横に並んで道を塞いでいる人とかに出くわしても、イラッとしないのだ。それどころか、「観察材料発見!」とばかりに嬉しくなってしまうのである。それにしても、ほんとに世の中には色んな人間がいる。
大阪で多いのが、「棚に上げおばん」だ。自分のことを棚に上げて人を批判するおばちゃんを何人見たことか。今から数年前のことだ。京橋からバスに乗って蒲生に向かっていた。途中、いくつかのバス停がある。普通、自分が降りるバス停が近づいて来ると、車内の前方に移動する。降りないのに、前を塞いでいると他の人に迷惑をかけるからだ。
僕は、蒲生に着くまでいくつかのバス停があるので、後ろの方に佇んでいた。その日は、ほぼ満員だったので、運転席横の降車扉あたりも人が群がっていた。その一番前に陣取っていたのが、60歳くらいのおばさん二人だった。どちらも天龍パーマで、ジャージともなんとも言えないルーズっぽい服を着ている。僕は、「あの二人は、次ぎのバス停で降りるんだな。だから、ああして、降車扉前にスタンバイしているんだな」と、思っていたのである。だが、違った。バスが停まっても、降りようとしないのだ。そればかりか、他のお客が降りようとしているのに、天龍パーマが身じろぎもせず立ち塞がっているので、スムーズに降りられないのである。しかも、しかも、他のお客がおばさんの横をすり抜けようと努力しているのに、舌打ちで威嚇しているのだった。
結局、その天龍パーマコンビは、蒲生でも降りなかった。おそらくは、終点まで乗って行ったのではないか。なら、最後尾にいてもよかったはずなのに、最前列に居座る「棚に上げおばん」。その面目躍如だったのが、僕が降りる時に耳に入って来た彼女たちの会話。
一人のおばさんは、料金箱に肘を乗せ、もう一人のおばさんは、手摺りのパイプに尻を擦りつけ、見るからに怠惰な状態で何か言い合いしていた。僕が把握したのは、次ぎのようなやりとりだった。
「あんたな、うちの団地で評判やで」
「なんてや?また悪口違うの」
「いいや、あの人は、神様みたいな人やって」
「アホ言いなや。私は、普通の人間や」
「でも、素晴らしい人やて」
「言うとくで、私は、神様でも聖人でもあらへん。ただな……」
きつめの天龍パーマが、そこで、一呼吸置いた。僕は、そのあとどんな言葉を吐くのか、とても気になったので、ジッと耳を澄ましていた。そのおばさんのなんとも強烈な一言。
「ただな、これだけは言える。私は、人に迷惑かけたことだけは一回もないんや」
僕は、頭がクラクラした。おばさん二人が、降車扉前に陣取って、降りようとするお客に目一杯迷惑をかけている。そのおばさんが、「人に迷惑をかけたことがない」と断言する。
まさに、アンビバレントな瞬間だった。

この頃、日焼けを嫌う女性が増えた気がする。だからだろう、大きな日焼け防止の帽子を着用している人が目立つ。顔の半分以上を覆う溶接用の面みたいな日よけグラス。耳元から首筋までフォローする覆面。遠目で見ると、まるでダース・ベイダーだ。そんなものを着けて、自転車で疾走するおばさんは、甲冑で身を包み、槍を携えて、馬上で決闘する騎士そのもの。ヒース・レジャー主演の映画「ロックユー」を彷彿とさせてくれる。
この前、蒲生の交差点で、信号待ちしていたら、僕の横に、日焼け防止のメットでフル装備し、自転車のハンドル部分に傘を屹立させたおばさんがいた。そして、対面で信号待ちしている人の中に色違いの同じメットと、傘に自転車のおばさんがいた。この両者が、信号が青に変わると同時に差し違えるかのように走り出したのである。蒲生の交差点が、完璧に、「ロックユー」の世界に変貌した瞬間だった。

日焼け防止の帽子は、ダース・ベイダーだけではなく、ロケッティアみたいなのもあるし、ボバ・ヘッドみたいなのもある。京橋近辺で目撃したのは、ベイダーとロケッティアが並んで歩いている向こうから、茶色い毛布のようなもので全身を包んだホームレスだった。遠くから見ると、タスケン・レイダースそのもの。そして、さらにその向こうからジャージの上を伸ばして頭を覆ったおじさんが歩いて来る。頭を覆っている分だけ、両手が上に引っ張られ、まるでジャミラみたいに見える。
ベイダーに、ロケッティアに、タスケンに、ジャミラ……、一体ここは日本なのか。タトウィーンのカンティーナではないのかと思えて来る。人間観察が趣味の僕からすれば、何時間見ていても飽きが来ないのである。

最近、仕事場を引っ越しした。谷町四丁目から、阿波座に。で、そこでも凄い人間を目撃した。この前、夕方に仕事場に向かっている時のことだった。駅前の喫茶店の横で、若い女性が掃き掃除をしている。僕は、それを邪魔しないように通り過ぎようとしたが、その時、女性の動きがピタリと止まったのだ。手を止めたのではない。ピクリとも動かなくなったのだ。変だなと思いつつ先に進むと、目つきの鋭い女性と遭遇した。その女性の目は、掃除をしている女性に向けられている。睨んでいるというか、見据えているというか、突き刺すような視線なのだ。その女性は、手にエアコンのリモコンみたいなのを持っている。それを、動かない女性に向けている。僕は、歩きながらもその二人の女性に注目していた。気になってしかたなかったからだ。リモコンを持った女性は、そのリモコンを大きく振り上げ、どこかのボタンを押したように見えた。
すると。
ピタリと止まっていた女性が、再び掃除を始めたのだ。僕は、言葉を無くした。これは、偶然なのだろうか?それとも、掃除の女性は、リモコンによってコントロールされているアンドロイドなのだろうか?その二人の女性がその後どうなったのか、僕にはわからない。ただ、偶然とは思えない不可思議な現象を、たまたま僕が目撃したのは確かである。
あの「鉄人28号」の正太郎君のように、その女性が持っていたのは、アンドロイドを自在に動かす大事なリモコンだったとすれば、絶対に敵に渡してはならないものだと思う。
そしてまた、あの若い女性型のアンドロイドが、掃除だけの能力しかないのか、もっともっと秘めた能力があるのか、その疑問も解明されないまま、今に至っている。
その後、何回も、駅前の喫茶店の前を通っている。
だけど。
あの二人には、会えないままだ。

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