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怒の百十六 「ウルトラマンが、墓を参る時……」

やっと、そうやっと発売された。僕が、書き下ろした新しい小説「ウルトラマンの墓参り」が。梅田の某大手書店の棚に平積みされているその本を眺めしみじみとしたものだ。思えば、長い道のりだった。この小説を構想したのが、十数年前。5年ほど前には一度完成していた。だけど、その原稿はお蔵入りのまま日の目を見ることはなかった。その後、どういうきっかけで「ウルトラマンの墓参り」は復活したのか? そもそも何故この作品は、かくも長きに渡って封印されていたのか? そこらあたりの裏事情を語ってみたいと思う。
僕は、20歳くらいの時に、家出同然で和歌山から大阪に出て来た。以来、56歳になる現在までずっと大阪に居を構えている。大阪で暮らし始めた時、余りの極貧ぶりに餓死一歩手前にまで追い込まれたことがあった。身内もいない、友達もいない、ましてや彼女なんていようはずがない。絶望のどん底な状況だったが、後になって考えるとそれが「青春物語」として実に貴重な体験になっていることがわかったのである。30歳くらいから、コラムニストとして生活し始めた僕は、いつかその体験を小説というカタチにしたいとずっと思っていたのである。20年くらい前に書いた自伝的エッセイ「長靴を履いた猫の靴下」に、当時の雰囲気を若干醸し出したのだが、いずれ本格的に描いてみたいと常に思い続けていたのである。それにプラスして、その頃バイトで関わったいわゆる着ぐるみショーの実態みたいなものも小説の素材としては面白いと思っていた。そこで、企画したのが、「ウルトラマンの墓参り」という作品だったのだ。つまり、極貧の青春時代と着ぐるみショーの哀切が混然一体となったストーリーを描こうと思ったのである。最初に考えたのが、こんな話しだった。
大学のオリエンテーションで知り合った2人の若者。1つの部屋に同居し、同じ演劇部に入り、同じ演劇部のマネージャーの女の子を好きになる。演劇部の顧問が、演技の練習と部活動の費用のために、デパートの屋上での「ウルトラマンショー」を企画する。演技力では劣る主人公がウルトラマン役になり、もう一人が敵の怪獣ウーとなる。ウー役の若者は駅前デパートのショーを目前に演劇部を辞め、田舎に帰ってしまう。残された主人公は、精一杯ウルトラマンを演じ、その姿を見せることで彼を演劇部に戻そうとする。そんな気持ちも知らず、故郷の公園で時間を浪費する彼。しかし、彼の後を追ってきたマネージャーから主人公の気持ちを聞き、主人公の姿勢に感銘を受けた彼は、ショーの開始直前にウーの着ぐるみを着て現れる。ウルトラマン対ウー、主人公と彼のステージパフォーマンスは圧倒的な迫力だった。2人は、ステージで絡むことによって、すべてのしがらみが消え失せ、心が一体となれた。と、その時、子供連れのお客さんのくわえタバコの火の欠片が風に乗って運ばれ、化繊で出来ているウーの着ぐるみに着火する。あっと言う間にその火は、ウーの全身を包み、中の彼はほぼ即死の状態になる。彼は、その瞬間、演じているウーとして「死」を迎えようと決意する。それが彼の演劇に対する愛だった。その気持ちを察した主人公は、両の手をクロスさせ十字に組み合わせると、燃え上がるウーに向けた。それは、ウルトラマンのスペシウム光線。彼――ウーは、不慮の事故で焼け死んだのではない。ウルトラマンの必殺技で昇天したのだ。それが、主人公のせめてもの手向けだった……。
とまあ、こんな感じの小説を書き上げたのである。で、それを近しい人3名に読んでもらった。1人は大手出版社の編集、1人は東京のプロダクションの社長、最後の1人が北野誠くん。で、その感想は? 結論から言うと、散々だった。編集は、「最後のウルトラマンとウーの闘いはいい感じ。ただ、演劇に関する主人公たちの想いが陳腐すぎる」とのことだった。なるほどそうだなと感じた。演劇に関わったことも熱心に観劇したこともない僕が、俄に演劇通ぶっても説得力なんかない。社長は、「面白くない」の一言。言い返す言葉もなかった。誠くんは、「面白くないわけないけど、普通」と、考えようによっては一番厳しい意見だった。この3人の感想を踏まえた結果、出した結論が「お蔵入り」だった。そして、数年、「ウルトラマンの墓参り」は、僕の創作リストから抹消されていたのである。
「ウルトラマンの墓参り」を復活させようと思い始めたのは、ちょうど1年くらい前のことだった。新しい会社を立ち上げようとの話しが盛り上がりだした時、その会社のキラーコンテンツをどうしようとの展開になった。僕は、自分の書き下ろし小説で勝負したかったし、パートナーもそれを期待してくれていた。株式会社アワーズが登記されるのと同時に小説が出版されるのが理想だった。そのためには、一刻も早く作品を決定し、執筆に入らなければならない。会社のためには、訴求力があり売れ線となるものがほしい。かといって、僕らしさがなくなってもいけない。そんなこんなを考えている時に、ふと脳裏を掠めたのが、お蔵入りの「ウルトラマンの墓参り」だった。内容はともかく、そのタイトルのキャッチーさは魅力だった。一度聞いたら忘れられないネーミング。「ウルトラマンの墓参り? どうしてウルトラマンが、墓参りするの?」。そう思ってもらえたらこっちのものである。よし、この作品に決めた! そこで、問題になったのが、内容である。以前のままで出すつもりはまったくなかった。でも、そうは言っても、一体どんなストーリーにしていいのか皆目見当もつかなかった。毎日、毎日、ずっと内容のことを考えていた。何も出ないのはわかっていても、ずっと考えていた。頭の中が、飽和状態になった時、溢れるように物語りが流れ出した。僕は、プロットをまとめ小説の基本骨格を決めた。当初の作品とは、180度違うものになった。そして、実にエモーショナルなものになった。賛否はあれど、人の心を揺さぶる作品だと自覚出来た。
書き始めから、半年、小説は完成した。出来上がったものを編集に渡した。2日で読んでくれた編集は、「面白い。うちでやりましょう」と言ってくれた。その言葉通り、「ウルトラマンの墓参り」は、2011/11/11に店頭に並び、アワーズの第1弾として日の目を見た。出来上がってきた単行本を、知り合いの辛口読書人に謹呈した。その翌る日、その人から短いメールが届いた。

~今、読み終わりました。よかったです。泣きました~

何故、ウルトラマンは、墓を参るのか? その秘密が知りたい方は、本屋さんに足を運んでいただきたい。

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