音楽メディア・フリーマガジン

怒の百二十 「金さんに言いたい」

時代劇のヒーローでは、誰が好きですか?

僕は、圧倒的に遠山の金さんですね。あの国民的ヒーローの水戸黄門より、バガボンドの宮本武蔵より、神出鬼没の鞍馬天狗より、はたまた必殺仕事人よりも金さんなのです。
それは、何故か?

今の僕たちは、いろんな意味で「難解」な世の中で生きています。マスコミの偏向報道、行政の事なかれ主義、モラルの崩壊……。政界を巡る胡散臭さやいじめ問題で、僕たちは嫌というほど「責任逃れ」の大人どもを目撃しています。大人である彼らは、本質をずらし、物事を相対的にすることによって本来の問題をウヤムヤにしてしまいます。

例えば、大津市のいじめ自殺(というより殺人)。これに関しては、少年法や人権を持ち出して、いじめた側を追及することをせず、一般論としてのいじめ問題にすりかえてしまいます。いじめを見て見ぬふりをしていたと生徒から指摘されている担任は、決して表舞台には出ようとしません。学校も市の教育委員会も担任を隠す動きに終始しています。
隠すことによって、自分たちの立場を守ろうというわけですね。生徒よりも、自分たちが大事なのです。
こんな時、僕はこう思うのです。

生徒と一番近いところで日常業務を行っているだろう担任こそが、いじめの実態に精通しているはずなのです。だから、責任逃れで「あれはいじめではなく、遊び」とか眠たいことを言い放つ「いじめた奴」と「その親」。それを受け、「いじめはなかった」と言い続けていた「校長」と「教育委員会」。そんな輩に対して、担任が「オゥオゥオゥ、何眠たいこと言ってやがるんでぃ。お前たちの悪行三昧は、この二つの目でしっかりと見ているんだ」と、啖呵のひとつでも切ってほしかったのです。ほんとに、金さんがいてくれたらとつくづく思ったのでした。

さて、遠山の金さんは、実在した北町奉行遠山景元がモデルになっています。若いころ、不良仲間とつるんでいる時に、勢いで彫り物(桜吹雪だけではなく、女の生首とか、花弁一輪とか諸説あります)を入れたらしい。
奉行になってからは、町人の立場になって業務遂行したことから、庶民の味方の名奉行と呼ばれ、のちに講談や舞台のヒーローとしてキャラクター化されました。そして戦後は、陣出達郎の手によって小説化され、広く一般に伝播されたのでした。昭和30年代に全盛を誇った東映時代劇が、金さんのキャラクターに目をつけないわけがありません。
大御所の片岡千恵蔵を主演に多くの金さんものが製作されました。主な作品を挙げると、「喧嘩奉行」「荒獅子判官」「長脇差奉行」「海賊奉行」「はやぶさ奉行」「火の玉奉行」「たつまき奉行」「江戸っ子判官と振り袖小僧」「ご存知いれずみ判官」「さいころ奉行」「さくら判官」あたり。ほとんどの作品が、遊び人の金さんが幕府を揺るがす陰謀の解明を進め、悪党と対峙した時にさくらの刺青を見せて啖呵を切り、奉行職の達しを受けた金さんが白洲でしらばっくれる悪党に再びさくらの刺青を見せておそれいらし一件落着……このパターンを踏襲しています。
それはいわば、「気持ちいいマンネリ」。言ってきれば、テレビドラマ向きなのですね。1970年からテレビ朝日が金さんのテレビシリーズをスタートさせることになりました。記念すべき第一弾が中村梅之介主演の「遠山の金さん捕物帖」。1973年からは、市川段四郎主演で「ご存知遠山の金さん」を。

1974年には、橋幸夫で「ご存知遠山の金さん捕物帖」、1975年は、杉良太郎の「遠山の金さん」、1982年には、高橋英樹で「遠山の金さん」、そして1988年、松方弘樹の「名奉行遠山の金さん」同じ松方弘樹で「金さんVS女ねずみ」へと続くのです。2007年には、「暴れん坊将軍」でお馴染の松平健で「遠山の金さん」が作られてもいます。

金さんを演じる役者によって、金さんぶりは微妙に違うのですが、やはり共通している「見せ場」は、さくら吹雪の刺青の開陳シーンでしょう。一話のドラマの中で、基本的には二回開陳します。クライマックス直前の悪党との対決シーンと、最後のお白州のシーンでです。映画版は、悪党との対峙シーンでもろ肌を脱ぎます。テレビ版は、ほとんど片肌ですね。刺青のメイクは難しく時間もかかるので、予算のことも考えると片肌ということになるのでしょうね。しかし、テレビ版でもここぞという時はもろ肌を脱いでいましたね。

千恵蔵の金さんは、あの独特の濃い演技と、啖呵が粋でした。悪党の配下に囲まれた金さんが、ぱっともろ肌を脱ぎ、「ご存知金さんの金看板、夜目にも鮮やかな背中のさくら、悪に汚れたうぬらの目にはまぶしくってまともには見られまい。切って血が流れなきゃお代はいらない。さあ、どっからでもかかって来やがれ!」と啖呵を切る。もう、ここが快感なのです。テレビ版は、啖呵があっさりしていて、そこが食い足りなかったですね。

時代劇自体が衰退した今の時代では、金さんの復活は難しいのかもしれません。ならば、学園ドラマで金さんバージョンはいかがでしょうか? 学園長が、不良生徒となって学園内のいじめや犯罪を探り、最後は教育委員会の会議で自らの正体をばらし、いじめっ子やモンスターペアレンツをおそれいらすドラマとかを作ってほしいものです。

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