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怒の百十二 「5・1チャンネルへの道!」

いくつもの原稿を抱え、順次執筆していたのですが、あの忌むべき災害が勃発しそのショックから何も手つかずになっていました。あれからほぼ10日がたち、やっと気持ちも落ち着き始めたところです。冷静に考えて、僕達に出来るのは被災された方々の無事を祈ることと義援金の寄付を積極的に行うことだと思います。この義援金活動に関しては、テレビでの扱われ方が少なくなって来ても続けるべきで、正直いくら集まっても足りないという認識を持つべきではないでしょうか。ただ、あくまでも自分の出来る範囲での寄付が大事だとも思います。
今、僕の一番の趣味はホームシアター鑑賞です。何年か前に知人から安価で譲ってもらったプロジェクターは、気が向くと寝室の壁とかに映していたのですが、面倒くさいのとそれほど綺麗に映らないので、しばらくは押し入れの中で睡っていたのです。ホームシアターに対するあこがれはありました。しかし、きちんとしたホームシアターを作るにはかなり高額の資金がいるのです。それやこれやがあって、一時僕の頭の中からはホームシアターは完全に姿を消していたのです。それが、どうして僕の中でシアター熱が再燃したのでしょうか? そのきっかけは実にたわいないこと。ほんとに、ひょんなことからでした。谷町四丁目のマンションが手狭になってきたこともあって、去年の夏、阿波座の方に仕事場を移動させたのです。で、その新しい仕事場のレイアウトが偶然にもシアター向きだったのですね。ちょっと変形のリビングがあって、そこを仕切るために棚を置きその手前にソファを置きました。そのソファに座ったら、ちょうど目の前3メートルくらいの所に白い壁があったのです。うまい具合にソファの背には棚がある。この棚にプロジェクターを置いて壁に映写してみたらどうだろう。思いたったが吉日で、すぐにセットしてみたのです。古いDVDのデッキがあったのでそれをプロジェクターに繋いで。プロジェクターをオンにし、リビングの電灯を消すと、なんと見事に美しく映像が白い壁に姿を現したのでした。ソファに身をしずめながら少し見上げる感じでスクリーンを凝視する。まるで映画館。いえ、ある意味劇場よりも美しい迫力がある。なんともいえない贅沢な快感が僕を虜にしました。この時は、絵だけを映したのですが、やはり音もほしい。絵だけではドラマがわからない。なので、手持ちのカセットデッキにラインを繋いでそこから音を出しました。ピンプラグのラインが短くて、プロジェクターの真下にデッキを置くしか無く、うしろから音が聞こえてくる状態でしたが、それでも感動しました。買っただけでパッケージすら開けてなかったDVDをひとつひとつ紐解いてじっくりと見る毎日でした。
何日かそういう生活を続けていると、少しずつ贅沢になっていくものですね。もっといい環境作りに思いがいくようになってきたのです。といっても、たわいないことです。まず、うしろから聞こえている音をスクリーン側から聞こえるようにしたい。そのためには、カセットデッキを壁側に置かないといけない。つまり、長いラインのピンプラグが必要なのです。早速、ヨドバシまで出かけました。いろんな長さのプラグ、アタッチメント、変換機器が揃っていました。そこで7メートルのピンプラグを買い、デッキを壁側に設置したのです。最高でした。最高ゆえに、また別の考えが頭をもたげてきたのです。こんなカセットデッキの流用でこんなに凄いのだから、ちゃんとしたスピーカーを繋いだらもっと凄いのではないか、と。そういえば、昔買ったコンポがチューナーの故障で押し入れに押し込まれている。アンプとスピーカーは生きているから、あれを繋いでみては。
ほこりをかぶりながら、押し入れを大捜索し、見つけました。そして、繋ぎました。ステレオで聞こえるその音の素晴らしさ! さあ、そうなると、今度はDVDデッキです。何年も前のモデルですから、再生能力が実に低いのです。ここは、ブルーレイデッキをと考えました。プロジェクターは、ハイビジョン対応ではないので、通常のデッキでも充分なのですが、やはりブルーレイのデッキで再生するとクリアさが違ってくると言われていました。日本橋に出て、再生オンリーのブルーレイデッキを探しました。ポイントは、安価であること。すると、中国製のが9千円であったのです。それをセッティングして上映すると、これが期待以上に綺麗に映る。もっと、もっと、と気持ちがアップしていく。つまり、通常のピンプラグで繋ぐのではなく、もっとスキルの高いプラグで繋ぐ。ピンプラグの高価なのを使用すると、やはり違う。解説書とかを読むと、コンポーネントプラグというのが、アナログ対応としては最高らしい。ヨドバシカメラに出向き、購入。ただ、このコンポーネントはノイズが出て、繋ぐのを断念しました。
そんな最中、以前知人からもらっていたフロントとリアの4本のスピーカーと1個のセンタースピーカーがあるのを思い出したのです。ただし、これを繋ぐにはちゃんとしたアンプが必要になる。でもそのアンプさえあれば、前からも後ろからも音が聞こえるのです。音響も劇場並になるのです。僕は、思い切ってヨドバシに向かい、一番安いアンプを見つけ購入したのでした。ブルーレイのデッキから音声出力しアンプの入力へ。これで、いわゆる5・1チャンネルの世界――そう思っていました。デッキにセットしたソフトは、嵐の国立。ワクワクしながら、アンプのスイッチオン! ああ、しかし、5・1チャンネルどころか、どのスピーカーからも音が出ません。解説書を読んで、試行錯誤しましたが、音が出ないのです。悩みました。繋ぎ方は完璧です。なのに、音が出ない。三時間くらい考えこんで、ある瞬間ハッと感じたのです。もしや、と。それは、ブルーレイデッキ! これは、中国製の安物。ひょっとしたら、このデッキ、版権無視なマシーンではないのか。日本製のアンプは、それを察して、繋げなくしている。そう考えると、コンポーネントプラグがノイズで再生が出来なかったのもわかるのです。僕は、ヨドバシに走り、日本製のブルーレイを買いました。まずは、コンポーネントを繋ぐ。そして映写。思惑通りでした。なんというクッキリした画面。あのステージ上の滝の迫力。そこから登場する嵐五人の爽快感。これで音響も、と思ったのです。確かに音は、スピーカーから流れてきました。でも、フロントからのみなのです。リアは、うんともすんともいいません。僕は、このスピーカーをくれた知人に電話で相談をしました。不備はどこにもない。なのに、リアが作動しない。知人は、ふといいました。アンプにはどれで繋いでいる? 僕は、答えました。赤と白のピンプラグです、と。知人は、低い声でいいました。
「そら、そやろ」
「何で?」
「アナログのライン二本でつないでたら、二本のスピーカーからしか音は出ない」
知人は、常識やろという言葉をなんとか飲み込んだみたいでした。そうです。5・1チャンネルに対応するには、デジタルのラインが必要なのでした。僕は、ヨドバシに走り、光デジタルのラインを買いました。それで、スイッチオン! だけど、やはりフロントだけ。僕は、ちょっと怒った感じで知人に電話をいれました。言う通りにデジタルラインにしたのに、リアから出ないんだ、と。知人もさすがに困ったようでした。ゴメン、そう一言いうと、知人は電話を切りました。もしかしたら、このスピーカーが壊れているのかも。そう僕は、思いました。そんな時、知人から電話がかかってきました。嵐のDVD、5・1チャンネル対応かと聞くのです。僕は、パッケージを点検しました。STEREOとなっていました。彼は、いいました。ステレオは、2チャンネル。リアから音が出るはずない、と。残念ながら、嵐のライブは5・1チャンネルではなかったのです。
僕は、パッケージをチェックし、5・1チャンネルに対応しているソフトを探しました。そして、白羽の矢をたてたのが、「千と千尋の神隠し」でした。きちんとパッケージにも、5・1チャンネルと表記されています。僕は、今度こそとそれこそ神に祈るきもちで「千と千尋~」を再生したのでした。ああ、だけど、無慈悲にもリアからの福音は僕の耳には届きませんでした。
今、僕はゆったりとソファに腰掛け、すべてのスピーカーから流れる音響とじつに美しい映像で「千と千尋~」を楽しんでいます。本編を見る前のセットアップで音声を5・1チャンネルに設定するだけでした。まあ、ここに辿りつくまでの道のりは決して平坦ではなかったけれど、結果としては苦労したからこそ、今の充実感があると思っています。
100インチのスクリーンと、全身を包む音響に酔いしれながら、もしこれ以上の願いを叶えてくれるのなら、是非とも嵐のコンサートは5・1チャンネル対応のブルーレイディスクでリリースしていただきたいと思います。

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