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Nothing’s Carved In Stone Vo./G.村松 拓 たっきゅんの受け身の美学 Vol.4

Print優れた音楽性とシーン最強のアンサンブルを武器に目覚ましい成長を遂げ、8/19にバンド初のライブアルバム発売&再現ライブ開催、そして9月のニューアルバムリリースと10月の全国7公演のリリースツアーを控えているNothing's Carved In Stone。当連載は、同バンドのフロントマン村松が、様々な“表現者”とガチのぶつかり合いを行い、その際に起こる化学反応を赤裸々にレポートしていく村松拓強化プロジェクトである。

 

 

 

 

 

Vol.4:ホリエ&いっそん対談を振り返る「受け身の美学」反省会の巻

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前々回はストレイテナー・ホリエアツシ、前回はHUSKING BEE “いっそん”こと磯部正文との対談を行った当連載。たっきゅんこと村松拓が愛して止まないヴォーカリスト2人との対談を経た今月号は、当連載四半期の総決算として2回の対談を振り返る反省会。果たして「たっきゅんの受け身の美学」はこの方向で間違っていないのだろうか?


 

 

yamanaka213今回は『たっきゅんの受け身の美学』の四半期の区切りということで、今まで2回行ってきた対談を振り返る反省会をしたいと思います。

 

taku213わかりました!

 

yamanaka213ホリエさんと磯部さんの対談、どうでした?

 

taku213やっぱり新鮮でした。自立したバンドをやっていて、1つのプロジェクトをずっと引っ張ってきている人と、こうやって正面切ってゆっくり時間をかけて話すっていうことが俺はなかったんですよね。

 

yamanaka213そうおっしゃってましたね。でも、人として興味がある人は当然居るわけですよね? そういう人に、色々訊きたくならないんですか?

 

taku213なりますよ。だからそういう人にはバンドマンに限らず色々と訊いちゃう。質問攻めになっちゃうんです。

 

yamanaka213確かにホリエさんとの対談、色々と拓さんから質問して、回答があったらそれで満足してた。

 

taku213そうなんですよ。だから俺、ホリエさんとの対談とかめっちゃ焦りましたもん。“会話が続かない!”って(笑)。インタビュアーって大変ですよね。

 

yamanaka213え?

 

taku213ホリエさんのときも磯部さんのときも、俺の感覚ではインタビュアーのつもりだったんです。

 

yamanaka213うん。拓さんもっと無責任な感じで来るのかなと思ってたら、“僕がホストです”みたいなスタンスだった。

 

taku213でも言ってもさ、俺が大好きで尊敬してて、みんなから慕われている人気者の人をさ、“たっきゅんの〜”と名前が付いている場所に呼んで話を訊くんですよ? そりゃあもう、ものすごいプレッシャーですよ。だから、そこはちゃんと“しっかりホリエさんの魅力を引き出したい”と思ったし、俺が好きな磯部さんの“なにか”を伝えたいと思ったし。だから手を抜けないっていうか。

 

yamanaka213アハハハ(笑)。

 

taku213だから焦っちゃって、後で自分で読み返すと、結局俺が訊きたいことだけ訊いて満足して、受け身を取ってないんですよ。

 

yamanaka213あっ、ホントだ! “受け身の美学”と言ってるのに受け身取ってない!

 

taku213俺は毎回思うんだけど、言ってもらったことに対して“それについては僕はこうです”と言いたいんですよ。その都度ちゃんと受け身を取って、転がしていきたかったんです。

 

yamanaka213議論がなかったですよね。

 

taku213そうそう。何も転がってない。言葉をもらっただけ。だからね、なんか俺、それが難しくて。根掘り葉掘り訊くっていう感じになっちゃうんですよ。どうしたらいいんですか?

 

yamanaka213え? 僕に訊いてるんですか?

 

taku213うん。インタビュアーの立場から見て、『たっきゅんの受け身の美学』をどういう方向に持っていくべきだと思うのかなって。

 

yamanaka213ホリエさんのときも磯部さんのときもそうなんですけど、拓さんが準備してきた質問というのは、たぶんどこかの雑誌や記事で読めるものだったと思うんです。

 

taku213そうなんだよ〜。そうなんだよね。そこが俺は結構びびってて。“適当な事できないよな”って思っちゃうから。実際に2人には普段から訊きたいと思っていたことを訊いたんですけど、でももっと深いところまで話したかったというか。

 

yamanaka213なるほど。参考になるかどうかわからないですけど、僕自身は“この人がどういうところで心を動かしているのか?”ということに興味があるというか、そこにドラマがある気がしているんです。

 

taku213うんうん。

 

yamanaka213その人の魅力を引き出す方法のひとつとして。“心が動く”ということは、嬉しいだけじゃなくて苦しかったり、人に言いたくなかったり、恥ずかしかったりすることだと思うんです。そこをインタビューしながら“訊く”というより“一緒に探す”という感覚で。

 

taku213ああ〜、なるほど。

 

yamanaka213だから僕、拓さんにも結構ズケズケ言いますよね? 「対談怖くないんですか?」とか。それって、あまり人に見せたくない部分だと思うんです。

 

taku213そういうところ、JUNGLE☆LIFEにめっちゃ載ってるよね(笑)。

 

yamanaka213そういうのって自分から言わないことだから。

 

taku213なるほどね。それはすごく大きなヒントですね。対談はなんか難しかったなぁ…。すごく、本当に難しいと思った。たぶん来てくれた2人は“対談で何の話するの?”と思っていたと思うんです。まずそれが、俺にとってのハードルだったというか。だから俺の中では“俺はあなたのことが好きです。だからあなたを紹介したいです”というつもりで、2回とも対談をしたんです。

 

yamanaka213そういうことか。

 

taku213完璧に自分本位じゃないですか。「対談があるから来てください」って言って来てもらって、なんだかよくわかんないまま帰すのは嫌なんですよ。だから“人を呼ぶ”ということをあまり理解していなかったかも。

 

yamanaka213でも2回の対談は面白かったと思います。さっき拓さんがおっしゃっていましたけど、拓さんが好きな2人の側面を引き出せていたと感じますし、僕自身も対談を通じてホリエさんと磯部さんを今まで以上に好きになった。

 

taku213こういう風にしゃべると、やっぱり知らないうちにいっぱい影響を受けているんですよ。そういう誌面だけじゃないところに影響が出ているというのは、すごくいいことだと思っているんですよね。

 

yamanaka213この2回の対談をやってみて感じたことは、刺々しかった時代を経て“意図的に自分を変えていかなきゃ”と思ったホリエさんのように、自分自身を知って自分の個性や良さを伸ばしていこうと思った磯部さんのように、拓さんもなってほしいなと思ったことで。

 

taku213なるほど〜。じゃあ結果的に2回の対談は良かったということですか?

 

yamanaka213うん。良かったと思います。でも欲を言えば、拓さんの内面も同時に知りたかった。対談相手と拓さんの気持ちの絡み、みたいなものが出れば、本当にいい対談だと言えるんじゃないかなと僕は勝手に思ってるんですけど。

 

taku213じゃあ次からは、ここにあまり責任を持たないようにする(笑)。

 

yamanaka213そうですよ。そもそもこの連載は「我々が好き勝手にやる」というのが裏テーマだったし。

 

taku213でも、これを編集長に言うのも失礼だけど、俺の連載がそこまで影響力を持っていると思ってないから、“せめて少しでも魅力を伝えたい!”と考えちゃうよね。

 

yamanaka213いや、あんたはウチのキラーコンテンツなんだよ! だから対談に来てもらうのは、対バンと同じなんだよ。

 

taku213アハハハ(笑)。そっか(笑)。じゃあ次からはここに責任を持たないようにします。

 

yamanaka213はい。“村松拓”に責任を持ってください。

 

taku213お、いいこと言った。

 

yamanaka213でもホリエさんも磯部さんも、話しててすごく気持ちいい人でしたね。

 

taku213なんというか、空気の支配力があるよね。返事をしてるのか、話をしているのかがすごくわかりやすくて、会話も上手で、伝えることを普段からしている人だなって。俺、そこはめっちゃサボってる(笑)。

 

yamanaka213サボってる(笑)。というか“伝える必要がない”と思っているんですよね。

 

taku213うん。バンドで歌っていれば敢えて伝える必要はない気がしてる。後はくだらないことをしゃべってればいい。普段の些細なこととかを気にしていたんですけど、ここ最近はいい意味でどうでもよくなってきた。

 

yamanaka213どういうことですか?

 

taku213バンドやれていればそれでいいっていう気がしてきたというか(笑)。

 

yamanaka213なんで?

 

taku213いや〜、なんでかわかんないけど(笑)。

 

yamanaka213そこはちゃんと言いなさいよ!

 

taku213ハハハ(笑)。さっき言われましたけど、“村松拓に責任を持つ”ということにもっと真面目に生きようと思って。色んなことに力が分散しすぎると、大切なことが疎かになるというか。今まで色んなことがいっぱい見えてたよ。色んな人の色んな気持ちがいっぱい見えてたけど、そこを気にし過ぎると、自分にとって何が大切かが俺はわかんなくなる。

 

yamanaka213ほう。

 

taku213だからこれから生きていく上で、もっと自分に責任を持つという部分で、周りの人にも責任を持ちたいという部分で、“じゃあ何がいちばん大事なの?”と問うたら、やっぱり歌ってバンドやって生きていくということがいちばん大事。

 

yamanaka213自分らしくいる、ということですか?

 

taku213そうです。

 

yamanaka213周りのことを気にし過ぎると、“自分らしく”をないがしろにして周りに合わせてしまっていたということ?

 

taku213そうそう。そういうことです。それが今、すごく視界がクリアになったというか。でもその分、色んなものを見るザルの目がめっちゃ拡がったので、今まで何を気にしていたのかもあまり覚えてない(笑)。

 

yamanaka213それ、楽になったんですよね?

 

taku213めっちゃ楽になりました。俺ね、昔からそうなんですけど、わからないことはめっちゃ気になって悩んでしまうんですけど、一度わかったら悩む必要がなくなるんです。自分の中で決着がつくから。物事には理由と順序があるでしょ? その理由がわかんないと俺は釈然としないんです。

 

yamanaka213ほう。理由がわかんないと釈然としない。

 

taku213でも理由を知って、“だからこうなんだ”とわかればそれでいいの。一回自分の中で決着がついたことはもう悩まない。あんなことで悩んでいた自分、ファックオフだよ(笑)。

 

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悩んでいた自分、ファックオフ

 

yamanaka213ちなみに今後はどんな人と対談がしたいですか?

 

taku213ヴォーカリストと歌詞を書いている人ですね。曲を書いている人にはあまり興味がない。

 

yamanaka213あ、そうなんだ。

 

taku213生き方にフィーチャーされるのはヴォーカリストだけだと思うんです。今の時代をどういう風に見て、どういう風に生きてて、何を考えているか。その人の生き方を知りたい。作詞家も同じ。松本隆さんとか阿久悠さんとか。

 

yamanaka213絶対に対談ができなさそうな有名人ですね(笑)。

 

taku213松本隆さん大好きなんですけど、俺が“知りたいな”と思うのはやっぱり生き方だった。そこがわかんないと本当のことがわかんないなって。松本さんの歌詞を形成しているものを知りたいというか、そういう人が出す空気に触れてみたい。

 

yamanaka213なるほどね。

 

taku213みんなが受け入れているということには理由があると思うんです。世の中に生きている人たちの気持ちをえぐるようなポピュラリティがあると思うんです。なんか、尊く見えるんですよね。それが何なのかわかんないんです。

 

yamanaka213言葉の洗練した感じとかじゃないですか。言葉に力を宿す方法を知っている方というか。

 

taku213そうですよね。そこに辿り着きたいです。

 

yamanaka213ということは、日本語?

 

taku213そうですね。だから最近も日本語の歌詞はありますし、歌詞の書き方も変えていて。

 

yamanaka213お! どういう風に変えたんですか?

 

taku213ストレートなものが気持ちよくなってきたんです。歌詞って、普段使うような言葉を、普段使わないように並べて歌うから“歌詞”だと思うんです。倒置法も入れない、比喩もしない、日記に書くような文章そのままを歌詞にしたら、歌詞じゃないと思うんです。でもそれを平気で歌っている人はいっぱいいて。それは全然いいんだけど、俺たちは同じことをしたくなかったんです。俺が書く意味がないから。

 

yamanaka213うんうん。

 

taku213だから心の風景を書いて、そこに人の心が寄り添えるようなものを書きたいんです。「朱い群青」が今のところ俺の中では最高傑作なんですよ。あの歌詞が書けたときに“俺の作詞家としての才能は花開きました”と自分で思いましたもん(笑)。

 

yamanaka213ハハハ(笑)。

 

taku213「Brotherhood」もそうで。“壊れてゆく記憶の水面を蹴るよ”とか…記憶に水面なんてないもん。

 

yamanaka213うん、ない。

 

taku213それは、俺が好きな松本隆さんとかの表現に近づける作業をずっとしてきていて。でも松本隆さんが理想なんじゃないよ。それに近い理想が頭の中にあって、歌詞を書くのはそこに近づける作業なんです。…恥ずかしげもなく言うと、俺もたぶん歌詞に関しては天才だと思うんよ。

 

yamanaka213は?

 

taku213あると思うんよ、才能が。

 

yamanaka213恥ずかしげもなく?

 

taku213うん。すごく美しいと思うもん。自分が書く歌詞が。

 

yamanaka213アハハハハハ(笑)。何言ってるねん。

 

taku213だってさ、“記憶の水面を蹴るよ”だよ。これ書けるって、もうこれは天才でしょ。

 

yamanaka213いや、天才だったらもっと評価されとるやん。

 

taku213だから“なんでみんなそこに気づかないの?”って思うもん。

 

yamanaka213それバカじゃん!

 

taku213アハハハ(笑)。

 

yamanaka213「(as if it's) A Warning」の歌詞も拓さんですよね。僕は「(as if it's) A Warning」の方が天才だと思いますけど。

 

taku213え? 本当に?

 

yamanaka213だって“対角線向こう側の自分”、“誰も私を許せない”ですよ? わけわからへんけど、わかるもん。全裸で勃起してるような全能感。

 

taku213アハハハハハハ(笑)。その表現本当に好きだな。前から言ってますよね(笑)。

 

yamanaka213メロディも含めてのあの無敵な感じ。なんで全裸で勃起しながら“誰も私を許せない”って偉そうに歌えるんだ? って。あのイッちゃってる感じ。すごくいい。

 

taku213というか「全裸」ってよくわかりますよね(笑)。あの曲は何をイメージしたかというと、腰布を巻いているローマ時代の人たちを想像して俺は書いてるから。

 
Jupiter Smyrna Louvre Ma13

 

yamanaka213というか腰布も巻いてないです。僕のイメージとしては、ものすごい権力を持っている王様が、何万人もひれ伏している前で、全裸で勃起しながら「誰も私を許せない!」と言っている狂気の世界。そういう全能感。

 
Laocoon Pio-Clementino Inv1059-1064-1067

 

taku213そこに責任を持っているんですよね、あの歌詞は。

 

yamanaka213わかるわかる。でも「天才」って自分で言っちゃだめだと思う。

 

taku213天才だよ。評価されなくても言っていこうよ(笑)。

 

yamanaka213それまさに裸の王様ですよ!

 

taku213アハハハハハ(笑)。だってみんな気づいてないだけだもん!

 

yamanaka213こいつバカだ(笑)。

 

taku213でも文章書くのもそういう感覚ないですか?

 

yamanaka213え? うーん…、似たような感覚はあるかもしれないですね。例えばNothing’s Carved In Stoneのライブレポートを書いたとき、バンドのアンサンブルと拓さんの歌を“巨大な金属の機械に血液が流れ込んだ”という表現をしたんです。

 

taku213かっけー!

 

yamanaka213でも誰も評価しない。みんな気づいてない。そんな天才な表現したのに、誰1人気づいてないんですよ。

 

taku213あ! 自分で「天才」って言ってる!

 

yamanaka213誰も気づいてないんですよ。だから自分で「俺は天才だ!」って言っていこうと思ってるんです。

 

taku213今わかった。俺、こういう感じだったのか…。

 
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天才だと思うんよ。

 

 

 

たっきゅんの受け身の美学へのメッセージや感想は
yamanaka@hirax.co.jpまで!!




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