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南壽あさ子

目に見えないものを旋律と言葉を使って形にしていく感覚の表現者

20歳の頃から作詞/作曲を始め、2010年よりライブ活動を始めた南壽あさ子(なすあさこ)。

風景画家である祖父より“南壽”という苗字を受け継いで弾き語る彼女は、自分の中に生まれた目に見えないものを旋律と言葉を使って形にしていく感覚の表現者。プロデューサーに湯浅篤を迎え、クリエイターたちの共鳴を呼んで制作された1stシングル『フランネル』。まるで澄み切った水の中で鳴っているような彼女の歌は、聴く者の中に潜む目に見えないものを呼び起こし、人と人を繋いでいく。

#Interview

「自分の芯を持って、好きなものは好きだと言える力があれば私自身は日々を生きて、自分を活かすことができるのかな」

●南壽さんのお祖父様は風景画家の南壽敏夫さんとのことですが、そのお祖父様の苗字を拝借して"南壽あさ子"としたらしいですね。

南壽:そうです。本名は違うんです。南壽敏夫は母方の祖父なんですけど、おじいちゃんが絵描きで同じ芸術繋がりだということと、母は3姉妹で全員嫁いで苗字が変わってしまったので、私が受け継ぎたいなと思って。すごく珍しい名字ですし。

●ピアノは子供の頃からずっとやっていたんですか?

南壽:幼稚園の頃からピアノ教室に通っていて、自分では覚えていないんですけど、小さい頃から1回トイレに入ると1曲歌い終わるまで出てこなかったみたいです(笑)。

●ハハハ(笑)。

南壽:外では恥ずかしくて歌えなくて、一人きりのときに自己満足で歌っていました。でも、大学生になって軽音のサークルに入り、ステージに立つようになったり自分で活動したりするようになって、人に聴いてもらうと反応があるということを知ったんです。聴いてもらって、心を動かしてもらえるのはいいなあと思って。それが衝撃的だったんです。

●人前では恥ずかしくて歌えなかったのに軽音サークルに入ったのは、何か理由があったんですか?

南壽:大学を入学するときに実家ごと引っ越したんですけど、そのときに小さい頃から一緒だったグランドピアノを連れて来られなかったんです。それが悲しかったし、新しい環境だし知らない土地だから誰も知り合いがいなくて、すごく心細かったんです。今までみたいに1人で弾いて歌うことができなくなってしまったんですよね。そんなとき、大学に音楽をできる環境があるのならやってみたいなと。

●作詞/作曲を始めたきっかけは?

南壽:大学の友達とオリジナルのバンドを組むことになって、曲なんて作ったことがないし「どうしよう?」と話していたんです。そしたら次の日にその友達が「作ってみたらできた」と。「あさ子も作ってみなよ」と言われたので、やってみたのが最初です。

●で、作ってみたらできたんですか。

南壽:一応"これでいいのかな?"というものができて、いいか悪いかも分からないままライブハウスでやっていくと反応をもらえたので"これでいいんだ!"と。

●「聴いてもらって、心を動かしてもらえるのが衝撃的だった」とおっしゃいましたが、なぜそれが衝撃的だったんでしょうか。

南壽:それまでは自分で詞や曲を書いてみても、全然才能がないと思い込んでやめていたんです。歌うのは好きだけど、人にもらった曲しか歌えないんじゃないかと思っていて。でも大学でのひょんなきっかけから再挑戦することになって。きっと部屋の中で1人で歌って完結していたら、もうダメだったかもしれないです。でも人からの反応があったことで次の創作意欲が湧いてきて。その感覚がすごく衝撃的だったんですよね。

●今作の歌詞には"つながる"という表現がしばしば見受けられますよね。「人からの反応がある」というのは"繋がる"という感覚なんでしょうか。

南壽:あ! そうなのかもしれないですね! その言葉も衝撃的です(笑)。

●アハハハハ(笑)。今回リリースとなる1stシングル『フランネル』と1stデモCD『回遊魚の原風景』を聴いたんですけど、すごく不思議な感じだったんです。「掴みどころがない」というと語弊があるんですが、聴けば聴くほど多面的に捉えられるんですよね。

南壽:それはたぶん私の性格が表れているんだと思います。

●結論を明確に出したくない?

南壽:そうですね。すごく曖昧にオブラートに包んで、遠くから。

●本人の中では核心があるんですか?

南壽:いろいろ混ざり合っています。「本当はこういうことが言いたい」ということでもないんですよ。

●曖昧なものを曖昧なまま出しているケースもあると。

南壽:そういう曲もあります。漠然としたイメージとか。ちゃんと自分の気持ちを言いたいから作った曲もあるんですけど、細かく述べていないので、聴く人がそれぞれで受け取り方が違うんじゃないかなと思います。それぞれの感性で聴いてもらえたらいいと思っています。

●どういう感覚で曲を作っているんですか?

南壽:書きたいことがいっぱいあって、一生あっても書ききれないと思っているんです。

●書きたいのは気持ち? それとも感覚?

南壽:感覚に近いですね。

●なんとなくですけど、ひと言では表現できないような感覚を表現するために情景描写も含めて言葉を綴っていると感じるんですよね。その感覚とは、瞬間的なものなんでしょうか?

南壽:実は全部似たようなもので、基本的には"寂しさ"みたいなものですね。やっぱり1人で歌っていたこともあって、楽しい感情よりも内にこもった感情が多い気がします。

●曲はピアノを弾きながら作るんですか?

南壽:先にメロディだけ出てきたものに、後からピアノをつける感じです。

●ということは、最初は鼻歌みたいな感じ?

南壽:そうです。鼻歌を録音して、ピアノで音を付けていって、歌詞はその後に。でもメロディができた時点で、自分の中ではバチッと風景が決まっていることが多いんですよ。不思議ですね。

●メロディができたときに、そのメロディに当てはまる感覚が自分の中にあるんでしょうね。

南壽:そう。その感覚とメロディが繋がるんです。

●作詞は、その感覚を言葉に落とし込む作業ということか。

南壽:まさにそうですね。今までに感じてきたこともあるし、これからいろいろな景色を見たり、いろんな気持ちになったり、いろいろな体験をしていっても、きっと言いたいことや寂しい感情は終わらないんじゃないかと思っています。歌を作ったときにその"寂しさ"は浄化するけど、寂しい場面はいくらでもあるので。私は曲を作り終えた瞬間に、手放す感じがあるんです。解き放たれるというか。

●自分から離れていく?

南壽:出来上がったら自分が作ったものではない気がするんです。それまでは自分の中の気持ちを投影させているつもりなんですけど、いざ作り終えてみると、自分のものではないような気がするんですよね。自分でも謎なんですけど。"なんでこの曲を作ったんだっけな?"って。

●そこまで?

南壽:不思議なんです。でも、ライブでやると呼び戻されるというか魂が入るというか。

●歌うごとに、もう一度魂を吹きこんでいく感じ?

南壽:そうですね。

●あと印象的だったのが、何かを喩えで表現することが多いということで。

南壽:ああ~、確かに。

●M-3「星のもぐる海」で"形のないものが こわくて仕方がないの"という歌詞がありますけど、音楽に限らず、何かを別の言葉で喩えたときに上手くハマったら解決する、みたいな感覚ってあるじゃないですか。

南壽:ありますね。言われるまで自分では気が付かなかったですけど(笑)。

●自覚はなかったのか(笑)。

南壽:頭の中のイメージが出来上がっていて、それに自分の気持ちとかをはめ込んでしまっているのかなと思うんです。喩えることで解決しているのかな。

●歌詞にあるように、目に見えないものをひとつの形として表現したいという気持ちがあるんでしょうか?

南壽:確かにそうですね。見えないものや空気…感情もそうですけど…実際には見えないものを言葉や歌にすることで、聴く人の中に呼び起こせるんじゃないかと思うんです。もちろん自分にとってもそうだし。それがすごく気持ちいいんじゃないかなと思っていて。人にそう感じさせることも嬉しいし、自分にもそういう作業は必要だと思っています。

●持ち曲は20曲ほどあるらしいですが、「フランネル」をデビューシングルに選んだのはなぜですか?

南壽:「フランネル」には"今をつらぬく力があるなら わたしは 生きるでしょうか"という歌詞があるんです。

●まさにそのフレーズがすごく衝撃的だったんです。"生きるでしょう"ではなく"生きるでしょうか"という。

南壽:投げかけているんです。これは、今作の中でいちばんストレートに言っている歌詞かもしれないですね。今の世の中というか、東京に来て感じたことなんですが、人で溢れかえっていて、知りたくないことまで知っちゃったり、知りたいことが本当のことかどうか分からなかったりしてしまって、ちょっと生きづらいなって。その中でも自分の芯を持って、好きなものは好きだと言える力があれば、私自身は日々を生きて、自分を活かすことができるのかなと思うんです。そういう意味で、芯を持ちたいと強く想って書いた歌なので、主張という意味ではこの曲が強いんです。

●意志が強く表れていると。

南壽:そうなんです。あと、20歳から曲を作り始めた中で、この曲は2番目にできた曲なんです。だから歌ってきた期間が長いということもあるし、思い入れが強いんです。

●ライブをしているときはどういう感覚なんですか?

南壽:いろいろな感覚になるんですけど…たまにどこかへ行ってしまうときもあります。

●どこかに行ってしまう?

南壽:静かに歌っているので人から見たら変化はないように見えるかもしれないけど、本当に不思議な感覚になっているときがあります。言葉にするのは難しいんですが、すごく興奮して、どこかへ行って戻って来られないときがあるんです。

●でもさっき「曲を作り終えた瞬間に手放す感じがあるけど、ライブでやると呼び戻されるというか魂が入る」とおっしゃったじゃないですか。それなのにどこかへ行ってしまうんですか?

南壽:もしかしたら、そうなるのは魂が吹き込まれたタイミングなのかもしれないですね。

●なるほど。再び楽曲の世界に入り込んでしまうから、ライブハウスとは別のところに行く感覚があると。

南壽:そうかもしれないですよね。

●それは気持ちがいいんですか?

南壽:気持ちいいです! "すごい体験をしているなあ"と思います。そういうことがない日もあれば、ずっとその状態な日もあるんですけど、そういう感覚もライブをするようになって初めて知ったことなので、"やっている意味があるなぁ"と思います。きっとこういう場でやっていないと生まれないと思いますし。

●それと、今作は編曲/プロデュースに湯浅篤さんが関わっているんですよね。南壽さんの楽曲は歌がメインというか、サウンド的には歌だけのところも多いし、隙間がたくさんありますよね。今作は、その中にピアノ以外の楽器がすごく自然に馴染んでいて。湯浅篤さんとはどういう関わり方だったんですか?

南壽:湯浅さんは打ち込みを得意とされていらっしゃる方じゃないですか。私は自分の曲に打ち込みの音が入ることを想像していなかったんですけど、最初に湯浅さんがデモを作ってきてくださったんです。それを聴いてみたらすごくすんなりと自分の中に入ってきて。打ち込みといっても全然うるさい感じではなくて、私の歌に寄り添ったものを作ってくださったので、すごく相性がよかったというか、理解してただけていて嬉しかったです。

●南壽さんから何かリクエストはしたんですか?

南壽:細かいことはあまり何も言わずに、逆にどういう感じになるのか私が聴いてみたいという感じで。「私の曲だからこうしてほしい」というよりも、湯浅さんと合体してどうなるのか。作っている間もすごく楽しかったです。本当によく理解してくださって。

●感覚を共有できたんでしょうね。

南壽:すごく近い感覚でできたと思います。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M

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