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かりゆし58

デビュー5周年を記念して初のベストアルバムをリリース! 大切な想い出を胸に4人はさらなる名曲を生み出す決意を固めた

 2006年に1stミニアルバム『恋人よ』をリリースして以来、かりゆし58が今年でデビュー5周年を迎えた。同年に発表したシングル『アンマー』での大ブレイクをキッカケに、数々のヒット曲を生み出してきた彼らが初のベスト盤をリリースする。松山ケンイチ主演ドラマ『銭ゲバ』主題歌の「さよなら」に代表されるシングル曲から、ライブでも人気の「心に太陽」や新曲「このまちと」まで大充実の全17曲を収録。ファンからの投票によって収録曲を決定するという今作での試みも、ツアー各地での反響から多くの名曲を生み出してきた彼ららしい。ファンと共に歩んできた想い出の詰まった作品にして、ここに収められたモノ以上の名曲を生み出していくという今後への決意と覚悟も秘められた今作。この1枚を大きな入り口として、彼らがさらに支持を広げていくことは間違いないだろう。秋には初のホールツアーも控えている4人に、楽曲が生まれた背景も振り返りつつ話を訊いた。

Interview

「30歳になった自分たちが歌っても、聴く人の心に刺さる曲なんじゃないかな。ちょうど5年目の節目に、かりゆし58が最初に世の中へ出た"産声"みたいな曲を入れられて良かったですね。みんなが俺と一緒にバンドをやろうと思ってくれたのも、この曲を聴いたからなんですよ」(「恋人よ」について)

「"かりゆし58ってどんなバンド?"と訊かれた時にジャンルでどうこうじゃなく、答えられる形ができたのがこの曲だった。そこから"温かい"とか"隙間のある音楽"とか言ってもらえるようになって。転機だったと思うし、本当に色んな想いがありますね」(「アンマー」について)

●今回はデビュー5年目で初のベスト盤リリースということですが。

前川:今年はちょうど自分が30歳になることもあって、何かと節目は感じていますね。今回のベスト盤はファンの方に投票してもらって、上位にランクインした楽曲を収録しているんですよ。だから今までかりゆし58を好きで聴いてきてくれた人たちとの"想い出アルバム"的な意味合いがまずあって。それに加えて今後リリースする作品では"今作に入っているどの曲よりも良いモノを打ち出していく"っていう、自分たちへの楔(くさび)でもあると思っているんです。その2つの意味合いが今作にはあるかな。

●自分たちにとって予想外な選曲もあった?

前川:M-9「心に太陽」やM-15「流星」みたいな、PVも作っていない曲が入ってきたのは意外でしたね。シングル曲はどうしてもタイアップの関係とかもあってメンバー以外の意見も聞きつつ作るんですけど、この2曲は自分たちの中から素直に出てきたモノを形にしただけなんです。そういう曲を選んでくれたというのは、自分たちのもうちょっと内面にまで入って聴いてもらえている感じがしてうれしかったですね。

●自分としても気に入っている曲だったりする?

前川:俺は「流星」の歌詞が気に入っているんですよ。ハッキリしたことを言っているようで言っていないんだけど、漠然と"何か"を感じてもらえる歌詞なんじゃないかなと思っていて。それもあって、この曲が選ばれたのはうれしいです。

●M-1「恋人よ(アコースティックver.)」はアレンジを変えて、新たに録ったんですよね。

前川:このバージョンをライブでやっていたのもあるし、良い曲なので前から録り直したいという話はあったんですよ。ちょうど良いタイミングだったので、今回録ってみました。アレンジし直したことで、5年間で成長した部分を象徴するモノの1つになったかなと思います。

新屋:この曲をライブでやると、ちゃんと自分たちが成長してこられたんだなって感じますね。昔から聴いてくれている人たちの反応もすごく面白いんですよ。

●デビューミニアルバムのタイトル曲ということで、思い入れも深い?

前川:今、30歳になった自分たちが歌っても、聴く人の心に刺さる曲なんじゃないかな。ちょうど5年目の節目に、かりゆし58が最初に世の中へ出た"産声"みたいな曲を入れられて良かったですね。デビュー前に今の事務所へ送ったデモにも、「恋人よ」が入っていたんですよ。

中村:今回、録り直してみて俺も改めて良い曲だなと思いました。かりゆし58として最初期に録った曲だし、この曲を聴いてメンバーが集まったわけなので。

●結成のキッカケでもある。

前川:みんなが俺と一緒にバンドをやろうと思ってくれたのは、この曲を聴いたからなんですよ。

新屋:まだメンバーが5人いた頃だよね(笑)。

●最初は5人編成だったんですか?

前川:まだ"かりゆし58"という名前になる前なんですけど、最初はツインボーカルでまだ俺はメンバーじゃなかったんです。ボーカルが1人抜けたタイミングで、俺がギターとして入って。その後にベースが抜けたり、もう1人のボーカルも抜けたりもして結局、俺がベース・ボーカルをやることになった。

新屋:実は、俺と洋貴(Dr.中村)が初期メンバーなんですよ。

●直樹くん(G.宮平)はデビュー当時はまだ加入していなかったんですよね。

宮平:メンバーになったのは、M-12「ウクイウタ」をシングルで出した頃(2008年)からですね。

前川:レコーディングとしては1stフルアルバム『そろそろかりゆし』(2007年)からサポートで参加していたんですけどね。だから今作の中では、M-8「電照菊」が直樹が参加している最古の曲です(笑)。この曲は初めて、外部のアレンジャーさんの意見も聞きながら作ったんですよ。

●そこからアレンジ面にも変化があった?

前川:そもそもM-2「アンマー」なんて、ろくに楽器も弾けない人間が"レゲエってこんな感じかな?"っていう感覚でアレンジしましたからね(笑)。でもそれによって、ちょっと歪(いびつ)になったところが面白かったりもするのかな。今は色んなことを知ってしまった分、頭で考えすぎてしまってつまらなくなっている部分もあると思うから。

●知識も技術も足りなかった分をアイデアで補って作ったことで、逆に自分たちにしか作れないモノになったんでしょうね。

中村:実は最初は「夏草恋歌」がシングルになる予定だったんですけど、レコーディング前日にやっぱり「アンマー」にしようということになって録り直したんです。急だったので、何となく…(笑)。

新屋:本当にみんなが"何となく"だったんですよ。ギターを裏打ちにしたらレゲエっぽくなるんじゃないかっていうところから始まって…。

前川:誰もレゲエがよくわかっていないから、イメージがすごくフワッとしていましたね。終わり方も思い付かなくて、とりあえずフェイドアウトすることにした(笑)。

●色んな偶然が重なって生まれた名曲だと。

中村:元々はパンクバンドとして活動していた俺たちが、じっくり聴かせる感じの曲をやったのは「アンマー」が初めてだったんです。シングルにもなったし、起点となった曲なので自分たちでも思い入れはありますね。

●元々はもっとパンク系の曲が多かった。

前川:『恋人よ』の頃は俺の中でガガガSPや10-FEETみたいなバンドになりたいと思いながらやっていたんですけど、その時は独りよがりなだけで。相手がいて初めて音楽には意味が生まれるんだということを「アンマー」で知った。カッコつけることをやめた時に初めて人が振り向いてくれるとわかったのも、この曲からでしたね。

●歌詞の内容も変わったりしたんでしょうか?

前川:当時の俺は日本文学にハマっていて、明るいところだけじゃなく闇の部分もちゃんと描こうとしていたんですよ。だから「アンマー」も最初は歌詞の表現がきつすぎて、耳に痛いくらいの部分もあったんです。そういう部分をマイルドにした結果、今の歌詞になって。当時は自分の中の妄想を形にするのが楽しくて、つい作り込みすぎてしまっているところもあったのかな。

新屋:"もうちょっとリアルなことを書いた方がいいんじゃない?"って言いました(笑)。

●そこでリアルな表現に変えたから、ここまで支持される名曲になったんでしょうね。

前川:"かりゆし58ってどんなバンド?"と訊かれた時にジャンルでどうこうじゃなく、答えられる形ができたのが「アンマー」だった。そこから"温かい"とか"隙間のある音楽"とか言ってもらえるようになって。転機だったと思うし、この曲に関しては本当に色んな想いがありますね。

新屋:昔、(ラジオDJで有名な)小林克也さんが「かりゆし58に誰でも入っていけるのは隙間だらけのバンドだからこそで、それはすごく良いことだ」とほめてくださったんです。

●特定のジャンルに偏っているわけでもない分、間口も広いというか。

前川:「上手だね」とは言われないかもしれないけど、バンドとして「何か良い」って言われるのがうれしいなと思っているんですよ。

●今作で過去の曲を改めて聴いてみて、気付いたこともあるんじゃないですか?

前川:マスタリングは変えているけど、録音自体は当時のモノなのでその時々の雰囲気を感じられるんですよ。聴いていると"その時の自分はこういうことがしたかったんだな"というのがわかって、自分の好みの遍歴も見えますね。今だったら絶対にやらないこともやっているし、上手くできていないところも逆に歪(いびつ)さが面白いなと思える。曲として成り立つかっていう、ギリギリの危ない感じが面白くて(笑)。

●その時々ならではの面白さも楽しめるし、自分たちの成長も感じられる。

前川:客観的に自分たちの曲を聴いて、やっぱり良いなと思えるのはいいですね。他の人が聴いても面白いと思ってもらえるんじゃないかな。自分たちが歩んできた段階の進み方は、すごく自然だなと思うんです。お金をものすごく掛けてプロモーションしたわけでもなく、口コミで広がってきたというか。TVでも音楽番組だけじゃなくて、バラエティ番組にも呼ばれるっていうのは音楽専門じゃない人たちからも良いと思ってもらえているからだと思うんですよ。

●メンバーの人間性がすごく前面に出ているバンドであり、音楽だからこそでしょうね。

前川:キャリアも長くなってきたので最近は他のバンドの人から相談も受けるようになって、そこで自分たちは変わっているんだなと気付いたんです。その面白さが自分たちではわからなくて、きちんとやろうとして失敗していた時期もあったけど、そういう時の曲も今聴くと面白いんですよね。技術的に至らなかったことによって生まれた面白さみたいなモノが、ちょうど良いバランスで曲の中に同居しているというか。"それでいいや"って思い始めたら、ダメになるのかもしれないけど。

新屋:昔は何もわからないままに"何か良いね"っていうのが重なっていって、そういう曲が生まれていったのかな。

●昔は偶然の産物でも良かったけど、今はもっと意識的にやろうとしていたりする?

前川:5年間で色んなことを経験してきたし、それぞれに成長しているはずだから。ここから先もそのまま"まぁいいか"を続けて、自分たちのユルさに甘えるのは悔しいんですよ。新しいアプローチをしても結局は上手くいかなくて、それがまた別の面白さになるのかもしれないけど、最初からあきらめるんじゃなくて努力はしたいですね。

●ユルそうに見えても実は、自分たちの中ではそういう葛藤をしつつ作ってきたから今の形がある。

前川:最近は"どっちでもいい"というよりは"どっちもいい"と思い始めてきたんですよ。ここから先どっちに行ったとしても、選んだ方向で楽しめていればいいなと思います。

●新しい方向性も見えてきたりしていますか?

前川:M-16「さよなら」のシングル以降で一緒に作業しているアレンジャーの久保田光太郎さんが、俺たちの新しい引き出しを開けてくれるんですよ。俺たちのポテンシャルを引っ張り出してくれるというか。光太郎さんは俺たちにないモノをやれという人じゃなくて、"こういう感じだったら、かりゆし58が違和感なくやれるんじゃないか?"っていう意見をくれるんです。

●かりゆし58らしさを活かしてくれる。

前川:自分たちの中にあるモノに気付かせてくれる人かも知れないですね。そういう"気付き"が今は続いているんですよ。そこで提示してもらったモノを今後、自分たちが作るモノにも反映していけるかもしれない。M-17「このまちと」でも"U2みたいにケルティッシュな感じにしても面白いんじゃない?"っていうアドバイスから、こういうアレンジになって。

●「このまちと」は東日本大震災後に書いた曲なんですよね。

前川:でもM-6「ウージの唄」が反戦や平和を願う唄かと言われればそうとも言い切れないのと同じで、この曲も単に震災が起きた街に向けた唄というわけじゃなくて。そういう状況の中でこの曲の歌詞になっているようなことを言ってくれた人がいたので、それがイケているなと思って書いただけなんです。そういう意味では、そのイケている人に向けた唄なんですよ。

宮平:デビュー作から「恋人よ」が新しいバージョンで入って、最後が新曲の「このまちと」で終わる流れがいいなと思っていて。今までの集大成と"これから"みたいな感じになっているかなと。

●曲順はどうやって決めたんですか?

前川:みんなで話し合ったんですけど、「恋人よ」が1曲目で最後は「このまちと」にしようっていうのは一致していましたね。洋貴だけは1曲目にM-10「風のように」を推していましたけど、みんなが聞こえないフリをしました(笑)。

中村:最近のライブでも1曲目にやっていたからいいかなと思って…、却下されましたけど(笑)。

新屋:あとは曲調のバランスを見ながら決めた感じです。

●今作全体ではどんな作品になったと思いますか?

前川:自分たちの変なこだわりとか細かい音楽性はとりあえず置いておいて、最大の入り口を作ったらこういう感じになるのかなって。とても素直で聴きやすい曲が集まった作品だと思うので、初めての人にとってはすごく良い入り口になると思うんですよ。

●先日(5/5)の日比谷野外大音楽堂でのライブもそうでしたけど、最近は家族連れやカップルも増えて本当に一般的なところまでファン層が広がっている感じがします。

前川:ライブ中に客席を見ていると、"ライブハウスに初めて来たんだろうな"っていう人が必ずいるんですよ。よく来る人たちと違って阿吽の呼吸みたいなモノがない分、熱の上がり方も自然な感じで。最初は恥ずかしがっていたりとまどっていたりするんだけど、ライブの盛り上がりと共にそういう人もゆっくりゆっくり盛り上がっていく感じがする。"初めて会う人たちと今日は何をして遊ぶかを考えながら、一生懸命ライブをしていこう"と思うようになったのは、「アンマー」をリリースして以降ずっとですね。

●普段からライブハウスに来ない分、そういう人たちは余計に特別感があって盛り上がるのかもしれないですね。

前川:それはありますね。夏フェスとかって、こっちが何かを見せる前からもう盛り上がってくれているので、ある意味で楽なんですよ(笑)。あれはあれで、人と一緒にライブをしている感じが特にあって良いんですけど。

●野音でのライブも去年よりさらに盛り上がっている印象がありました。

中村:去年は客席のベンチ下にプレゼントのタオルを隠したりしたんですけど、スベったので今年はやめました。

●賢明でしたね(笑)。

宮平:僕も去年の反省を踏まえた上であまり作り込まず、なるべく自然にお客さんとライブをする形にしました。ああいう大きな会場でワンマンをやるのも久しぶりだったんですけど、本当に自然な感じで気持ちよくやれたんじゃないかな。

●去年は確かMCで長々と喋っていましたよね。

宮平:去年は話している途中で色んなモノが絡まって…。

前川:それで結局、何も伝わっていないっていう。会場がシーンとなっている中で、最後の最後に「何か喋って」って俺に振ってきましたからね(笑)。

●かりゆし58のライブって、毎回そういう印象的なエピソードがありますよね(笑)。

前川:観ている人たちに"大丈夫かな?"っていう不安を毎回与えているからじゃないですかね。

●観ている側もハラハラする(笑)。

前川:観ている人たちも単に受け身じゃいられないんですよ(笑)。

●今作リリース後のホールツアーも楽しみですね。

宮平:今作で今までの集大成を形にできたので、ホールツアーも頑張っていきたいです。

新屋:このベストが色んな人に聴いてもらえるキッカケにもなると…。

中村:ブッ!

●今、オナラをしましたよね?

中村:いや……。

一同:(笑)。

新屋:何を話していたか忘れちゃった…(笑)。あ、色んな人に聴いてもらえるキッカケにもなると思うので、…ツアーも成功できるように頑張ります。

●洋貴くんのオナラで心が折れて、途中で投げちゃったよ(笑)。2人とも「頑張ります」しか言っていないし…。

前川:色んな人たちとライブをする中で、俺たちみたいなライブをする人が他にいないっていうことに最近気付いて。今回のベスト盤を入り口として入ってきた人には、他では観られないライブをこのホールツアーで味わって欲しいなと思います。

中村:ホールツアーでは、他とは違うライブを見せられたらなと思います。

●あ、パクった!

一同:(爆笑)。

Interview:IMAI

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