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ノイズブラスバンド

非日常空間へと一瞬で連れ去る圧倒的ライブのカタルシス 異国の奥地に潜んでいたかの如き秘宝的バンドが遂に出現!!

 初めて彼らのライブを観た時に、度胆を抜かれた。真っ赤なライトの下で、妖艶に舞う踊り子。赤いディスコティックな衣装を身にまとった、どこかエスニックな雰囲気のメンバーがラテン的な情熱を内包したダンサブルなビートを奏でる。スケールの大きな歌唱を聴かせる男性ボーカルに、ミステリアスな女性コーラスが絡み合う様は今まで見たことがないものだ。そんな“何なんだ、これは…!?”という強烈なインパクトと共に出会いを果たしたのが、ノイズブラスバンドだ。2002年の結成以来、幾多のメンバーチェンジを経て現在のツインギター&ツインボーカルの5人編成に至ったという彼ら。初の全国流通盤となるミニアルバム『太陽と月のメリーゴーランド』は、“ノイズ”でも“ブラスバンド”でもないが底流には熱いロックスピリットを持った彼ら独自のサウンドを凝縮した1枚だ。これまでほとんど知られずに来たことが不思議なくらい、完成度の高い楽曲と圧巻のオリジナリティ。まるでどこか異国の奥地に隠されてきたような、秘宝的バンドとの出会いがここにはある。今作で運良く彼らと出会えたのなら、非日常の空間へと一瞬で連れ去られるライブもぜひ体感してみて欲しい。

Interview

「僕が観ている夢を歌にして、それをみんなと一緒に奏でている感じですね」

●これまで活動してくる中で、メンバーチェンジも何度かあったんですよね。

MaiMai:オリジナルメンバーは1人しか残っていないんです。中北くん以外は総入れ替えで(笑)。

中北:活動歴としては、来年で10周年になるんですよ。元々はメンバーも違ったし、もっとギターロック寄りな音で。そこから人が入れ替わる内に色んな好みが加わったり、新しいメンバーから影響を受けたりもして今の形になっていった感じですね。

●"ノイズブラスバンド"という名前になったのは?

中北:名前は結成の時から変わっていません。ブラスバンドっていうのはブラス隊がいないと成り立たないっていうのを考えずに、響きのカッコ良さだけで付けてしまったんですよ(笑)。よくツッコまれるんですけど、響きが良いからいいんじゃないかと。

●ブラスを入れたいと思っていたわけでもない?

中北:ないです! まあ、やってくれる人がいるなら、入れてみてもいいですけど…。

野本:でも、前は「3ピースでやりたい」とか言っていましたからね。

一同:(爆笑)。

●ブラスを入れるどころじゃない(笑)。

中北:でも今の音楽性ならブラスが入っても面白くなるんじゃないかと思うし、いつかやってみたいですね。今の形になったのは5年前くらいなんです。

MaiMai:私とDr.久原は現メンバーでは一番最後に入ったんですよ。

●初めてライブを観た時に、MaiMaiさんがステージでいきなり踊り出すのには驚きました。

MaiMai:最初にサポートで入った時のオーダーが"フフ~ン"っていう感じのコーラスと(笑)、「踊って欲しい」っていうことだったんです。

中北:僕はダンスミュージックが好きなのでステージ上は華やかな方が良いし、もっと前に出て踊って欲しいというお願いをしました。

●ダンスミュージックがお好きなんですか?

MaiMai:僕は好きな音楽がすごく幅広くて、テクノや打ち込み系の音楽にも影響を受けていますね。

●…ノイズブラスバンドに、打ち込みの音って入っていましたっけ?

中北:ウチは人力です(笑)。打ち込みを聴くのは好きなんですけど、やるのは人力なんですよ。今回も全部アナログでやっています。楽器としてはギターとベースとドラムしかないですね。やっぱり機械よりも、人間の出す音の方が味があるから。

●確かにライブでも"人間"が前に出てくるから、すごく生々しさを感じました。

中北:5人とも、ものすごく個性が強いんです。それを包み隠さず前に出すっていうのがウチらのやり方なので、人間臭さみたいなものを出せたらいいなと思っていますね。

●5人とも個性が強いんですね。

中北:今のメンバーは本当に濃いですね! それぞれが"これは俺のバンドだ"と思っている気がします(笑)。

野本:全員、自分がリーダーだと思っているんじゃないかっていう(笑)。

●中北くんが唯一のオリジナルメンバーなのに…。

MaiMai:関係ないです(笑)。

中北:この微妙なバランス感覚がライブにも出ているんじゃないかと思います。

●曲はどなたが書いているんですか?

中北:曲は全部、僕が書いています。

野本:なのに、周りのメンバーの方が強かったりしますね。僕も"いずれギターを弾いてやる"くらいの勢いですよ(笑)。

●みんながフロントに出ようとする(笑)。

MaiMai:私がリーダーですから(笑)。

中北:いつの間にか、自分が一番目立たなくなっているっていう。ライブでも"俺、主役なんだけど…"っていう感じになりますね。

野本:いや、主役は俺だって。

MaiMai:私だよ(笑)。

●そういう性格のメンバーがたまたま集まった?

中北:たまたまですけど、集まるべくして集まったのかもしれないですね。まあ、事故みたいなもんですよ(笑)。

一同:(笑)。

●現メンバーになってから、バンドとしても固まったところもある?

中北:この5人が揃ったあたりから方向性も今のものに近くなってきて、そこからどんどん形ができてきたという感じです。

●ライブを観た時にラテン的な熱さを感じたんですけど、それは音楽性というよりも濃すぎる人間性からかなという気がします…。

MaiMai:それはそうかもしれない。

中北:ライブ映像を観ていても、臭いがしてきそうな感じですよね(笑)。

●(笑)。あとは全員の衣装が赤いというのも関係しているのかなと。

MaiMai:テーマカラーが赤なんです。

中北:最初は目立つから赤を着ていただけなんですけど、次第に赤のディスコシャツで全員が揃えるようになって。

●一見、陽気な感じもしますよね。

中北:陽気というのは当たっていると思います。基本的にテンションが高いし、毎日飲み会をしていますからね(笑)。

野本:誰が飲み終わった後に車の運転をするかはじゃんけんで決めるんですけど、負けた人がいつも逆ギレするっていう(笑)。

●メンバー同士、仲が良いんですね。

中北:それもこのメンバーになってから特にだと思います。個性が強いので、ケンカもメチャクチャしますけど(笑)。不思議な関係ですよね。

●5人を結びつけているものは何なんでしょう?

中北:曲を作っている時もモメるんですけど、結局はこの5人じゃないとできないことをやっているんです。だから、メンバーがなくてはならないものになっていますね。

●それを感じ始めたのはいつ頃?

中北:面白いものができるようになってきたと思い始めたのは2年くらい前ですね。

●自主制作で1stミニアルバム『サーカスキャラバン』(2009年)を出したのも、現メンバーになってからですよね。

中北:自信を持って出せるっていうものが、ここで初めてできたのかもしれないですね。

●今回の2ndミニアルバム『太陽と月のメリーゴーランド』に収録のM-2「指ナビゲーション」は前作にも入っていますが。

中北:ライブでもお客さんからの人気が高い曲なので、よりカッコ良くするために録り直したんですよ。前作は全部、自分たちで作ったというのもあって。

MaiMai:今作ではエンジニアさんに第三者的な目線からアドバイスをもらったりしたので、それも良かったのかな。

●いつ頃から今回の制作に入ったんですか?

中北:今回の構想は1年くらい前からあって、みんなで話し合いながら曲も作っていったんです。まとまらないところには、第三者の意見ももらって。今回も自分たちがやりたいことは全部やれましたね。

野本:今作のM-1「二人のディスコ」はウチらの個性が固まった、他にはないものができたんじゃないかと思いますね。

●ディスコと言えば、ノイズブラスバンドには"哀愁ディスコロック"というキャッチフレーズもあるんですよね。

野本:最初はお客さんに言ってもらったんですけど、自分たちの中にも"哀愁"と"ディスコ"、"ロック"っていうのはキーワードとしてあったんです。歌謡曲っぽいメロディにディスコ的な要素を加えて、バックのサウンドはロックでやるというイメージが"哀愁ディスコロック"っていう言葉のイメージと一致したんですよ。

●ディスコ的な要素は原曲の時点からある?

中北:原曲の段階では全くリズムの入っていない状態で僕が持ってくるので、そういう要素はないですね。それをメンバーで合わせると、いつも予想もつかないものになってビックリするんですよ。特に「二人のディスコ」はミラクルが起きたというか、5人全員がやりたいことをやったのにそれが1曲の中にきっちり収まったんです。

野本:最初のスタジオで合わせたアレンジをほとんど変えないまま、今回もレコーディングした感じなんですよ。

●そういうことは初めてだった?

中北:初めてですね。自分たちでも、すごいものができてしまったと思います。この曲を作っている時点ではアルバムを作ることが念頭にあったわけではなくて、レーベルも決まっていなかったんです。元々、この曲は僕の30歳の誕生日にやった記念のイベントで無料配布しようと思ってレコーディングしたんですけど、たまたまそこに今のレーベルオーナーが来ていて。そこで気に入ってもらって、今回のリリースにつながったんです。

●この曲が、今回のリリースをするキッカケにもなっている。

野本:それが八王子での自主企画だったんですけど、そもそも僕らが出会ったのも八王子なんですよ。その時はそれぞれ別バンドをしていたんですけど、僕は現ギターの小林と一緒にやっていて。当時はメンバーが脱退して中北1人だったので、「キーボードみたいなギターが弾けるヤツがいる」といってそそのかして(笑)。当時、中北は3ピースがやりたいと言っていたんですけど、「でも3人に加えて、もう1人フロントに女性コーラスがいたらカッコ良くない?」と言ってMaiMaiも引き入れて…。

中北:自分の予想しない方向にどんどん行った。

MaiMai:絶対、リーダーじゃないよね。

一同:(笑)。

●でも衣装は揃えていたりと、バンドとしての方向性は全員が一致しているんじゃないですか?

中北:イメージはありますね。そういうのも全部、"人間"から生まれていると思うんですよ。この5人になってから本当にガラッと変わったので、それぞれの人間性が一番影響しているんじゃないかな。

●濃い人間同士がぶつかり合うことで、良い方向にも行けている?

野本:もちろん、それはありますね。

中北:ぶつかり合う時も、遠慮はしないんです。

●それで気まずくなったりはしないんですか?
3人:しますよ!

●きれいに声が揃いましたね(笑)。

中北:言い過ぎたなと思った時は後で電話をして、お互いにフォローしています(笑)。

●そこが長続きする秘訣なんでしょうね。今作にはディスコっぽいアッパーな曲もあれば、M-5「マーガレット」のような聴かせる曲も入っていますが。

MaiMai:これは古い曲なんですよ。

中北:結成直後くらいの曲ですね。この曲が好きって言ってくれる人も結構いて、いつか出したいと思っていたんです。元々、僕が群馬で活動をしていた時の曲で色んな思い出もあるから大事にしていて。

野本:ライブではずっとやっていたんですよ。

●今作で他に古い曲もある?

中北:M-4「街」は、野本と出会った時に初めて合わせた曲なんですよ。

野本:それを現メンバーで固まった時に、アレンジし直してやってみることになったんです。

●他は新曲?

中北:「指ナビゲーション」は3年前くらいからありますけど、M-3「アニーこっちへおいで」とM-6「リンゴスタージャクソン」は、今作に向けて作りました。曲のストックはたくさんあるんですけど、やっぱり新しいものも入れたかったから。新しいものから古いものまで色んな時期の曲がまんべんなく入っていますね。

●「リンゴスタージャクソン」をラストに持ってきた理由は?

中北:最後は楽しく終わりたいなという気持ちがあって。真剣に音で遊びながら楽しく作った曲なので、そういう曲で終わるのがいいかなと。

野本:それもウチらっぽいよね。

●メンバーが遠慮なく言い合うのも、より楽しくやるためというのがあるんじゃないですか?

中北:やっぱり言いたいこともやりたいことも全部出したいですからね。全員がワガママなので、なかなかまとまらないんですけど(笑)。

●意見がぶつかって進まなくなることはない?

野本:それはいっぱいありますけど、ちゃんと時間を割くようにしていますね。音を出すよりも話して…飲んで(笑)。

中北:最後は飲みすぎて寝ちゃって、起きたらもう忘れているんですよ(笑)。

●それもバンドが上手くいく秘訣でしょうね(笑)。中北くんの中に歌いたいことや表現したいことの芯がハッキリあるというのも大きいのでは?

中北:僕は言いたいことや表現したいことがたくさんあるんですよ。たとえば僕は、映像世界を歌で表現したいっていう想いがあって。そういうことを全部やりきるまでは音楽を続けようとは思うんです。

●イメージが頭の中に映像的な形である?

野本:そういうことが多いので最初はイメージを共有するために、一緒に映画を観たりもしましたね。

中北:その頃には岩井俊二監督の『スワロウテイル・バタフライ』とかを観てもらいましたね。ああいう映像世界を音で表現したいんですよ。

●幻想的なイメージ?

中北:他人によく言われるのは全部、僕の夢の話じゃないかっていうことで。僕が観ている夢を歌にして、それをみんなと一緒に奏でている感じですね。

●この5人じゃないと出せない音に今はなっている?

中北:そうだと思います。他の人には真似のできない音になっているし、…真似したいとも思わないかもしれないですけど(笑)。

MaiMai:私もそう思った(笑)。

●こうやって話しているとステージ上の姿とは別人みたいですけど、ライブではスイッチが入っている感じでしょうか?

MaiMai:気合いのスイッチは入りますよね。

中北:普段からテンションがバリ高なわけじゃないですからね。ステージはずっとメーターを振り切っている感じなんです。

●ノイズブラスバンドのライブは、非日常的な感じがします。

中北:せっかくライブに来てもらうんだから、"とんでもないものを見せないと"ということはいつも思っています。

MaiMai:だから自主企画の名前も"見世物世界"なんですよ。

●意識的にやっていることなんですね。

中北:ウチらはエンターテインメントを意識しているから。実は歌詞の内容自体は暗い歌が多いんですけど、そんな歌でゆらゆら踊れてお酒も進んだらいいなと思っていて。ウチらのライブで"楽しむところは楽しんで、また明日へ"っていう気持ちにできたらいいなとは思いながらやっていますね。人生は全部が全部楽しいわけではないし、つらいことの方が多い。そこでいかに楽しむかっていうところを突き詰めていこうと考えていて。音楽として表に出すものは最高にアガっているものにしたいですね。

●メンバー同士のぶつかり合いもそうですけど、自分の中にある色んな葛藤とも闘っている成果が作品になっているのかなと思います。

中北:それはこの5人でいることの効果ですかね。色々と化学反応が起こって、プラスの方向に行っているんだと思います。そういう苦くてドロドロとした部分からしか、何も生まれてこないと思うんですよね。初めからキレイなものは絶対にできないですもん。ドロドロに汚れた石を磨いて、宝石を作るのと一緒だと思うんですよ。

●言ってしまえば10年目とは言え、まだ誰にも見つかっていないだけの"秘密の原石"みたいなものかもしれない。

野本:その周りに付いている泥かもしれないですけどね(笑)。

中北:10年ものの泥(笑)。

●(笑)。でも泥って、色んな要素が混ざっているから粘りついてなかなか流されない。逆に砂だったら、すぐに流されていってしまうわけですからね。

中北:まさにそういう感じですね。ウチらのバンドって泥やヘドロみたいに、一度くっついたら離れないような音楽をやっているんです。

●ライブを一度観たら忘れられないと思います。

野本:やっぱりライブを観てもらいたいですね。

中北:ウチらは熱い血液が通いまくりの人力で汗水垂らして歌って踊ってというバンドなので、ライブでそれを体感して欲しい。

●それって、お祭りみたいな感覚に近いのでは?

中北:ウチらはお祭り好きなんですよ。メンバーが脱退する時に、ステージ上で御神輿を担いでワッショイとやったこともありますからね(笑)。

MaiMai:スタジオで御神輿をかつぐ練習までしました(笑)。そういう非日常感をライブでも体感して欲しいですね。もっと多くの人と出会いたいんですよ。

●初の全国流通盤なので、今回で初めて出会う人も多いでしょうからね。

中北:これまでも自分たちの足で歩ける範囲の人たちとは出会ってきたんですけど、今作を全国流通するということはその範囲以上の人に出会えるわけだから。そういう人たちが音源を聴いてライブを観に来てくれたら、すごく楽しいと思うんですよ。まずは今作の中にある非日常を感じ取ってもらって、そこで抱いてもらった期待以上のものを見せられるはずなので、ライブにもぜひ遊びに来て欲しいですね。

Interview:IMAI

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