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ヤーチャイカ

天から降りかかる災厄の中で足掻きながら生きる、悲しくも可笑しい人間たちの歌

yahchaik_AphotoプログレやサイケからJ-POP/J-ROCKまでを消化吸収したサウンドに、ノスタルジックな和のメロディを融合した唯一無二の音楽性でインパクトを残した1stミニアルバム『メルヒェン』から早1年。ヤーチャイカが、2ndミニアルバム『ふぁるすふろむあばゔ』を完成させた。そのタイトルからも伺えるように、聴く者の想像力を掻き立てる独自の不思議な文学的歌詞世界は健在。プログレッシヴな曲構成とダークなムードは深みを増しながらも、それによって逆に楽曲のフックと中毒性は今まで以上に増している気がする…。2ndインパクトと呼ぶにふさわしい怪作だ。

 

 

 

「文字と意味が直結しない感じが良いんですよね。想像しても、みんな本当の意味には辿り着けないというか。意味が空洞になっている感じが良いなと」

●前作の1stミニアルバム『メルヒェン』から1年ぶりの作品となりますが、制作はいつ頃から?

ニシハラ:曲作りがスタートしたのは、今年の3月頃からでしたね。ストックもほとんどなかったので春をまるまる曲作りに費やして、夏にレコーディングしたという感じです。

●曲作りに時間がかかったんですね。

ニシハラ:以前のデモ音源から収録したM-4「鈍亀」以外の7曲が揃うまでに、4ヶ月くらいかかったかな。でも基本的に、捨てた曲はないですね。

キク値:「鈍亀」は今でもライブで継続的にやっている曲なんですよ。作品の中で通して聴いてみても、上手くハマっているなという感じがしますね。

●その「鈍亀」以外は基本的に新曲ということになりますが、日常的に曲を書き貯めたりはしない?

ニシハラ:日常的に取り組んではいるんですけど、それはパーツというか。宙を埃のように舞っているものがだんだんフローリングに溜まって、毛玉になるような感じで…。毎日何かしらはイジったりしていますけど、形になるには時間がかかりますね。そうやって普段ぼんやり考えていることがパチパチと合わさっていくのは、何か作品を作ろうという時なんです。

●今作『ふぁるすふろむあばゔ』を作ろうという段階でも、何かコンセプトはあったんですか?

ニシハラ:スタートした時点ではそれを探していた感じで、1曲2曲とできていく中で「先にアルバムタイトルを決めよう」ということになったんです。その候補をいくつか考えている内に、「自分は今こういうことを考えているんだな」というのがわかってきて。

●そこで今回のタイトルが浮かんだと。『ふぁるすふろむあばゔ』って一見、意味がわからなくて不思議な感じがします。

イワタ:「次のアルバムはこのタイトルにします」とメールが送られてきて…。

キク値:最初に見た時は「怖っ!」と思いましたね(笑)。不気味な感じがします。

ニシハラ:怪文書みたいな(笑)。

●正体不明な不気味さがある。

ニシハラ:(文字を見てから意味を認識するまでに)一瞬、ズレがあるのがいいかなって。“ヤーチャイカ”というバンド名についても今まで何度も意味を訊かれてきたんですけど、文字と意味が直結しない感じが良いんですよね。想像しても、みんな本当の意味には辿り着けないというか。そうやって、意味が空洞になっている感じが良いなと。

●ひらがな表記にすることで生まれる効果ですよね。

ニシハラ:前から、ひらがなのタイトルを付けてみたかったというのもあって。あと、“ふぁるす”に2つの意味を掛けているので、ひらがなかカタカナにしたかったんです。

●“ふぁるす”に掛けた2つの意味とは?

ニシハラ:1つ目はフランス語の「farce(=滑稽さ)」という意味で、2つ目は英語の「false(=間違い)」という意味ですね。両方の意味が、僕の中ではあって。

●アルバムのコンセプトはこの言葉から導いた?

ニシハラ:そうですね。イントロとアウトロとしてM-1「F(f)FA」とM-8「ふぁるすふろむあばゔ」が入っていることで、僕の中では1つ(のコンセプトで)通じているんです。この2曲は肩の力を抜いて作ったんですけど、結果的に作品全体の顔みたいな曲になってくれたというか。個人的にこの1年は色んなことがあって、しんどい期間だったんですよ。そういう時に「色んな物事って避けられないというか、天から降ってくるようなものだな」と思って。

●それが「ふろむあばゔ(=from above)」という部分のことですね。

ニシハラ:でもしんどいことや悲しいことって他人から見ていると、どこか面白い。自分でも後から振り返ると「たいしたことなかったな」と思えるし、もがいている姿が面白かったりもするんです。「しんどいことも笑い飛ばす」ではないですけど、どこか可笑しみのあるものにできれば良いなと。今思うと、ひらがなにしたことで可愛らしさも出て、余計に深刻さは感じないですよね。

●タイトルの字面は可愛らしさもありますが、音源としては冒頭から攻撃的な曲調が印象的でした。

ニシハラ:今回はちょっと攻撃的にしていこうと思っていて。でも出来上がると(全体として)そんなに暴力的でもないし、結局どこまで行っても自分は攻撃的になれないんだなと。それが、ひらがなで『ふぁるすふろむあばゔ』と付けたことにも表れているかもしれないですね。

●攻撃性やダークさみたいなものが、今作では押し出されていますよね。

ニシハラ:その比重は大きくしたいなと思っていました。前作がかなり歌ものだったので、そうじゃない方向性で元から持っているものを伸ばすみたいな…。

キク値:元から持っていた一側面なんだと思います。昔はもっと暗い感じだったので、今聴くと逆に前作が明るかったんだなと。

●前作とは違うヤーチャイカの一側面が出た。

ニシハラ:ネガとポジという2つの側面があるだけというか。でもたぶんハードな音を目指しても結局は、“歌”に回収されちゃうんですよね。それを今回は頑張って振り切ろうと思って、色んなことを試しました。ハードな面を出すのは僕にはしんどかったりもするんですけど、今回これだけ出せたことで「やりたかったことがこんなにもできた」という気持ち良さが自分の中ではあります。

●自分の中でもハードな面を出せた実感がある。

ニシハラ:でも、もっと出せると思っていたんですよね。そうやって毎回作り終えると、「次はこうしよう」と思うんですけど。

●ということは、前作を作った時点で今回の方向性もある程度見えてはいた?

ニシハラ:それが「メロディに寄りかかり過ぎない」ということで。メロディに持っていくまでの気持ち良さについて、頭を使って考えたかったんです。そこまでのリフや構成とか間奏に妙があるからこそ、サビに来た時により良く感じられるような曲が理想だと思うんですよ。その1つのアプローチとして、今回はこうしたかったという…。それができたという気持ち良さはありますね。

●そういうところを目指すと、曲作りが大変そうな…。

キク値:個人的には前作よりも大変でした。サラッとできる曲と全然できない曲みたいなものがあって…。「F(f)FA」はすぐにできたんですけど、逆にM-3「潮騒のメロディが聴こえる」はすごく時間がかかりましたね。

ニシハラ:「潮騒のメロディが聴こえる」は、完全にピアノがメインの曲になって。

●ああいうナチュラルなピアノの音は、ヤーチャイカでは珍しい気がしました。

イワタ:“良い子”なピアノの音ですね(笑)。「ピアノで」という指示しか出ていなかったんです。

ニシハラ:イントロのピアノのイメージが最初にあって。あそこが自分の中では“潮騒のメロディ”なんですよ。

●他に制作が大変だった曲というと?

ニシハラ:M-2「散ル散ル満チル」は大変だった気がする。大変な思いをして作ったけど、晴れてPVにまでなって(笑)。「もっと大物になってくれ」と思って、時間をかけた感じです。

イワタ:フレーズを持って行っては捨てて…みたいな繰り返しでした。ギリギリまで色々と悩んで、最後に変えたりもしましたね。

●前作の制作時にはニシハラくんが曲を持ってきた時点で、キーボードソロのスペースが空けられていたりもしたそうですが。

イワタ:今回は、そういう感じの曲はあまりなかったですね。私が好きなところにキーボードを入れていく感じでした。

●あと前作では、ニシハラくんはドラムに対する注文が多かったという話が…。

ニシハラ:今回はほとんどなかったと思います。

ナカムラ:いやいやいや…!

●あ、やっぱり注文が多かったんですね?

ナカムラ:何度か、イラっと来ました(笑)。

ニシハラ:自分の中では、そんなに言ったつもりはないんですけど…。

ナカムラ:この人、怖い…。

一同:ハハハ(笑)。

●やはり制作作業は大変だったと。

キク値:作っていた頃のことを思い出すと、大変だったなと思いますね。

ナカムラ:大変だったよね。メンバーとも毎日会っているくらいの感じで(笑)。

ニシハラ:でもレコーディングはすごく集中したし、楽しくできたというか。エンジニアの方とも1年ぶりに会ったんですけど、今回でよりわかり合えた気がして。感覚がすごくハマって、集中することが楽しかったですね。

●曲作りに苦戦した中でも充実はしていた?

キク値:今までもそんな簡単にできたことがないですから(笑)。つらいけど、こんなものなんでしょうね。

ニシハラ:足が床に着かないような深いプールの中でバタバタして、何とか顔を水面に出しているようなイメージというか。頑張らないと溺れちゃいそうな状況の中でもがいていたので、前よりも深くはなったかなと。大変じゃないと、できないんだと思います。

●もがき苦しんだ結果、良い作品ができたと。

キク値:録り終わって少し経ってから聴いてみて、「良い感じになったな」と思えたというか。各々が自分のパートだけにのめり込んでいるから、制作中は客観的に聴けないんですよ。作っている時は、そのくらい近いところから曲を見ている気がしていて。そこから後ろに下がっていくのに時間がかかるんですけど、全貌が見えて1枚の作品として聴いてみると「良い作品ができたな」とやっと思えましたね。

●制作中は自分のパートに必死で、全体は見えていなかったりする。

イワタ:私も自分のことで必死になりますね。

ナカムラ:その時は「どうやったらこれが形になるのか」ということだけを考えているから。私は音源として向き合うと、ちょっと恥ずかしい感じがしちゃうんですよ。楽譜として見たいという気持ちがあるので、特に昔の作品を聴くのは恥ずかしいですね(笑)。

ニシハラ:僕はできあがってから発売されるまではよく聴くんですけど、次の制作が始まるともう一切聴かないんです。新しい曲のほうが可愛くなってしまうので(笑)。今はすごく聴いていて、良い作品だなと思っています。

●良い作品になったということは、それぞれ実感しているわけですよね?

キク値:今までにない感じの曲とかも入ったので、こういうものも作れたんだなとしみじみ思うというか(笑)。感慨みたいなものはありますね。ラストの「ふぁるすふろむあばゔ」なんかは、今までだったらこういうふうにはなっていなかっただろうなと。今やったからこういう感じになったという気がすごくしています。

●今までとは違うこともやれている。

ナカムラ:曲を作っている時点では全曲で違うことをやっていきたいなと思っているし、その時は全部違うことがやれているように見えるんです。でも完成してから聴いてみると、やっぱり1枚の作品としてのトータル感みたいなものはあるなと。“今”の時点での私っぽいなと思います。

●作品としての統一感は感じます。

ニシハラ:色んなことをやりたいと4人それぞれが思っていて本人たちとしてはバリエーションを出しているつもりなんですけど、結局はお釈迦様の手のひらの上というか。逃れられない何かがあって、それをバンドのカラーと呼んでもらえるようになるんだったら一番だなと思っています。ただ、いつまでももがき続けたほうがいいなとも思うんですけど…。

●次の曲作りのための“プール”は、どんどん深みを増していくと…。

ニシハラ:…で、いつか溺れ死ぬんです。

●いや、溺れ死んだらダメでしょ!

一同:ハハハ(笑)。

Interview:IMAI

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90年代ジャパニーズポップスの系譜を継ぐ明朗なメロディーと多様な解釈を生み得る暗喩的な詞、そしてそれらに暗鬱としたヘヴィーサウンドを纏わし描き出す独自の世界観は実に刺激的。あらゆる要素を取り込み吐き出しつつも普遍性を持たせる、日本ならではのコミカライズ的手法を手中に収めた純和製新世代ロックバンドが鳴らす右脳直撃の一枚。

山中 明(diskunion渋谷店 サイケ/プログレ担当)

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