音楽メディア・フリーマガジン

ヤーチャイカ

ノスタルジックなメロディとサイケなオルガンが誘うヤーチャイカの不思議な世界

60年代チックでサイケな匂いのするオルガンに、独自の言語感覚で描かれる奇妙な世界観を持った歌詞。…と書くとマニアックな印象を抱いてしまいそうだが、ヤーチャイカの音楽は不思議なくらいにキャッチーで開けている。それはどこか歌謡曲を思わせる耳馴染みの良いメロディに加えて、1つのジャンルに囚われないメンバーの考え方がそうさせているのかもしれない。まだ無名な頃から“FUJI ROCK FESTIVAL'11 ROOKIE A GO-GO”に抜擢されるなど、密かな話題を呼んできた彼らがKOGA RECORDSから遂にデビューミニアルバムをリリース! その魅力的な音楽の源泉に迫るべく、メンバーを直撃した(Dr.ナカムラヨシミは欠席)。

「お金もたいして稼いでいないですし真面目に生きていないので、生活感があるものはちょっと書けないんです。生活を生きていないので…」

●さっき取材の待ち合わせ場所で、見知らぬ男性にイワタさんがナンパされているのを偶然見かけたんですが…(笑)。

イワタ:同い年の人だったので、ちょっと親近感が湧きました…楽しかったです(笑)。

ニシハラ:ええ〜、ヤだなぁ。フケツ〜!

一同:(笑)。

●(笑)。そんなイワタさんが弾く鍵盤のサイケな音色が、ヤーチャイカの大きな特徴になっていますよね。

ニシハラ:でもこういう音をやりたくて鍵盤を入れたというよりは、鍵盤が入ったことによって色んな方向性が徐々に見えていったという感じですね。

イワタ:私もサイケっぽいものを弾こうと思っているわけではないんです。

●自然とこういう音色になっている?

イワタ:自然に出てくるわけじゃなくて、すごく考えた上で出てきたフレーズなんですよね。今までにない音やフレーズにしないといけないということを考えに考えて出てきた感じというか…。

●他のバンドがやっていないことをやるということ?

イワタ:というよりは、“自分たちが今までやっていないことは何か?”を考える感じですね。自分たちの曲を作る時は周りをシャットアウトしちゃっているので、他のバンドのことは意識していなくて。“今までにないことをどうやったらできるかな?”と考えている内に、こうなったんです。

●音からはサイケやプログレの匂いも漂いますが、そういうものを聴いてきたわけではない?

イワタ:私はプログレが好きで聴いていましたけど、つい鍵盤の音ばかりに耳がいっちゃうんですよ(笑)。

ニシハラ:僕も聴いてはいましたけど、それに青春を全部捧げているような人に比べたら全然ですね。

キク値:ニシハラは結構、詳しいほうだと思うけどね。僕自身はプログレとかサイケはあんまり聴いていなくて、周りに「こういうのもあるよ」と聴かされて知った感じで。本当に節操のない感じで色んな音楽を聴いていたので、今思えばそれが良かったのかもしれない。

●1つのジャンルを追求する感じではなかったと。

ニシハラ:僕はあんまり凝り性じゃないんですよね。そういう分野ですごい人はいくらでもいるし、僕らは逆に耳を大きく広げておくことが大事なんじゃないかなって。“何が今の自分たちにフィットするのか?”っていうことは常に考えるようにしています。

●何かを目指すというよりも、自分たちに合うものを上手に取り入れていくというか。

キク値:特に目標は設定していないし、その時々のマイブームみたいなものもメンバー個々で違っていて。それが合わさって、こうなったというか…。

ニシハラ:足掻いた結果ですね。

●(笑)。今の形になるまでは時間がかかった?

ニシハラ:今でも形になっていないですからね(笑)。だから、何のバンドかわからないんです。

イワタ:本当にそうだよ(笑)。

●自分たちがどんなジャンルになるかも考えない?

キク値:全然考えないですね。

ニシハラ:こうやってインタビューで訊かれることも増えてきたので、最近は逆にもう考えないようにしていて。

●自分たちでジャンルを決めてしまうことで型にはまって、つまらなくなってしまう恐れもありますからね。

ニシハラ:その時々の気分で変われるような自由さがないと、バンドは窮屈じゃないかなって思うんです。1つのジャンルをやっているバンドとかはすごくカッコ良く見えるんですけど、自分にはそこまでの胆力がない(笑)。

●ハハハ(笑)。あまり1つのことを追求しすぎるとバンド内も殺伐として、楽しくなくなるわけで…。

ニシハラ:いや、今も全然楽しくないですよ!

キク値:殺伐まではいかないにせよ、曲を作っている時は1時間くらいずっと無言だったりします。

●無言なんだ(笑)。

ニシハラ:本当に言葉を一言も発さずにずっと同じフレーズを弾いていたりします。

キク値:他に良いフレーズが出るまで、Bメロをずっと弾いていたりとか…。

イワタ:苦痛だよね(笑)。

●誰かが率先して引っ張っていくわけではない?

キク値:基本的にはニシハラが曲を作るモードの時に、他のみんなが乗っかる感じですね。

●ニシハラくんが作った原曲をみんなでアレンジしていく感じ?

キク値:ある程度まで形になった曲をニシハラが弾き語りで聴かせてくれて、そこに僕らがどんどんフレーズを乗っけていく感じです。

ニシハラ:僕らの場合、そこから構成を変えられるようなことはなくて。たとえば僕がAメロから最後の大サビまで作った状態で持っていくと、それが1つの箱みたいなものになって。その中に各々がベースやキーボード、ドラムをどんどん入れていくようなイメージです。

●自分の頭の中にあるイメージを再現しようとするのではなく、アレンジは各パートに任せている?

ニシハラ:自分の中でイメージがあって全てのパートを打ち込みで入れていくような人もいるんでしょうけど、それだとバンドでやる意義にも関わってくるから。僕が思い付くドラムなんて、本職のドラマーが考えるものよりも当然ショボいに決まっているわけで。キーボードもベースも同じで、各パートのプロに鳴らしてほしいんです。それが僕の考えていたものを遥かに超えていった時に、曲になるというか。だから、何も言わないです。

●メンバーには特に何も注文しない。

イワタ:本当に何も言われない時とかは、「これでいいのかな?って」不安になりますけどね(笑)。

キク値:でも「こう弾け」とか言われたら言われたで、腹が立つ(笑)。

●一応、何か言われることもある?

キク値:ベースはほとんど言われないですね。キーボードとドラムがよく言われているんじゃない?

イワタ:私もそんなに言われないよ。ドラムに対してが一番多いんじゃないかな。

●どういう注文をするんですか?

ニシハラ:具体的に「こうしろ」とは言わないですけど、「違う!」「それも違う!」とかずっと言っています。バッサバサ切っていきますね(笑)。

●ドラムにだけ注文が多いのはなぜ?

ニシハラ:メロディを作った時点でリズムをそこまで考えているわけじゃないんですけど、違うリズムが乗ることでメロディもまた違って聴こえると思うんですよ。それを試したいというか、自分では思いつかないことを教えてほしいという感じですね。

●自分の想像を超えてほしいし、原曲をより良くしてくれるアレンジを求めている。

ニシハラ:そうですね…他力本願な感じです(笑)。

●逆にベースやキーボードにあまり何も言わないのは、想像を超えたものが出てきているから?

イワタ:キーボードについては、何も想像していないと思いますけどね(笑)。

ニシハラ:「ここはキーボードがカッコ良くしてくれるだろう」という感じで、スペースを空けておきます(笑)。

キク値:そういう振り方が最近は多いよね。

●もはや丸投げ…。

イワタ:何も言わないんですけどスペースの空きがあって、「もしかして、ここソロなの?」みたいな(笑)。

●でもそういうやり方だと、曲作りには時間がかかりそうですね…。

キク値:常に難産です。

イワタ:今回もギリギリでした(笑)。

●今作『メルヒェン』の収録曲はどれも新たに作った?

ニシハラ:せっかくだから、今まで出していない曲を入れようというのは最初から決めていましたね。6曲入りいうことも決めていたので、そこに向けて作っていきました。M-1「鏡よ、鏡」とM-2「ジャンボリー」を最初のほうに作ってから、“こういう感じでいくんだ”というものが何となく決まったような気がします。

●どの曲も難産だったんですか?

キク値:どれも苦労した思い出があります…。でも最後のほうに作ったM-4「しゅるるるるっ」やM-6「かなりや」は、一気にガッと作った感じですね。

ニシハラ:差し迫っていた時期だったからね(笑)。

●〆切に追われていたことで、いつもより早くできたと。以前からライブでやっていた曲とかもない?

ニシハラ:M-5「グランドフィナーレ」は前からライブでやっていたんですけど、今まで音源に収録するタイミングがなくて。3〜4曲くらいの音源だと、雰囲気的にハマらないんですよね。ただ今回の6曲というのは普段ライブハウスでやる場合の持ち時間にすごく近いので、流れを考えやすかったんです。ここにハマるだろうというのが見えたので、やっと入れられました。なので今作はライブの流れに近いものにはなっていますね。

キク値:これをそのままセットリストにしてもやれちゃうよね(笑)。

●作品全体としての流れで、ヤーチャイカの世界観を表現しているというか。この不思議な世界観を形成しているのは、ニシハラくんの歌詞によるところも大きいのかなと。

ニシハラ:僕はコンプレックスがあって、生活や日常のことについてはあまり歌えないんです。「今日こんなことがあった」とか「雨が降っている」とか「誰かが好きだ」とかはいまいち自分の言葉として出てこなくて、素直に歌えるのが逆にこういう形なんですよね。

●コンプレックスがあるというのは?

ニシハラ:お金もたいして稼いでいないですし真面目に生きていないので、生活感があるものはちょっと書けないんです。生活を生きていないので…。

●いわゆる一般的な社会生活を送っていないことに、負い目を感じていると(笑)。

ニシハラ:毎日、お酒を呑んでいるだけなので(笑)。歌詞もお酒を呑んでいる時の発言だと思ってもらえれば…。

●酔っぱらっている時に歌詞を書いている?

ニシハラ:いや、そんなことはないです! 朝8時に起きて、『とくダネ!』をちょっと見てから歌詞を書いたりしています(笑)。

●何のアピールですか(笑)。アルバムタイトルの『メルヒェン』に込めた意味とは?

ニシハラ:「文学的だね」と人からはよく言われるんですが、僕は“文学”とは何なのかがわからなくて。本を読むのは好きなんですけど、何か方法論が語れるわけでもない。だから「文学的だね」と言ってもらえることに、すごく恥ずかしさがあったんですよ。自分たちがやっている音楽に自信を持っていないと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、聴いてくれている人と自分たちが考えていることとの間にズレがありすぎて何を言われているのかわからなかったというか。でも今回は恥ずかしくて逃げていたところも全部引き受けようと思って、それをすごくシンプルに一語に詰め込もうと考えた時に浮かんだのが『メルヒェン』だったんです。

●自分たちの音楽を一言で表現した言葉なんですね。

ニシハラ:「こういう音楽をやって、こういう言葉を書いているんだ」っていう宣言は今回、正式にリリースさせてもらえる機会にしておいたほうがいいかなと。

●それだけ自信を持って出せる作品になったということでは?

ニシハラ:もちろん出すからには、良いものができたと思います。ただ『メルヒェン』でこういうことをやったから、次にまだやっていないところが見えてきたというか。「これをできたんだから、次はこういうこともできるじゃん」というふうに考えるようにはしています。

●今作を出したことで次の可能性も見えた。

ニシハラ:そうじゃないとダメだなっていう感じですね。自分としては今回の作品を「まだまだ、こんなんじゃ全然足りないよ」と言うこともできるし、「これが最高傑作です」と言うこともできるんです。でも聴いてくれる人たちにはそういうことは関係ないし、これはこれとして聴いてほしいんですけど、僕らの中では毎回「次もあるよ」って感じられるものを作っていきたいんですよね。

Interview:IMAI

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