音楽メディア・フリーマガジン

ロックシーンの“今”と“これから”

“EMI ROCKS 2012” オープニング・アクトオーディション REVOLUTION ROCK vol.2 presents EMIミュージック 新人発掘セクション Great Hunting チーフ・プロデューサー 加茂啓太郎氏に訊く

 来年2/19にさいたまスーパーアリーナで開催される、EMI Mucic Japanに所属するアーティストたちが一堂に会するビッグイベント“EMI ROCKS 2012”。同イベントのオープニング・アクトを募集するオーディション“REVOLUTION ROCK vol.2”が11/15に発表された。

応募締切が1ヶ月後に迫った今月号では、オルタナティヴな新しい才能を発掘しつづけてきたEMIミュージックの新人発掘セクション、Great Huntingのチーフ・プロデューサー加茂啓太郎氏に、新しい才能に期待すること、そしてロックシーンの“今”と“これから”を訊いた。

Interview

「自分のイメージやレコード会社のマーケティング戦略とか、そんな小賢しいものを超えたびっくりするようなものが出てくるとワクワクするし面白い」

●加茂さんは新人発掘の現場にどのぐらいの期間いらっしゃるんですか?

加茂:Great Huntingが出来たのが98年なので、13年ぐらいですね。

●加茂さんから見た、最近のアマチュアシーンの傾向は?

加茂:女性の進出と、日本に住んでいる外国人、外国に住んでいる日本人やハーフ、あとはジェンダーが入り組んでいる様な人たちが増えたなという印象ですね。女の子だけのバンドも増えたし、女性のシンガーソングライターのシーンもすごく熱くなっていますね。

●それは時代背景や世代背景が影響しているんでしょうか?

加茂:世代背景としては両親が音楽をやっていたり、親がミュージシャンという人もいっぱいいるし。時代背景的にはプロじゃなくても楽器が弾けてバンドをやっているとかが普通になってきていることと、機材が安くなったというのもある。"けいおん!"やチャットモンチー以降、「私もやってみよう」と思う女の子たちがすごく増えたというのもあるでしょうね。

●ということは、音楽をやろうとする若者は増えているんですか?

加茂:送られてくるデモの数とかを見ていると、僕の手応えとしては増えていると思います。リアルな楽器の売り上げとかリハーサルスタジオが今どうなのかとか、その辺はちょっとわからないんですけど。

●そんな中で、どういうミュージシャンに惹かれますか?

加茂:やはり予想を超えたもの。自分ではイメージできないものに出会うとやっぱりびっくりするじゃないですか。ナンバーガールとか、ちょっと聴いたことが無い様な音楽性とすごい演奏力だった。ああいう格好をして女の子がギターを弾いているバンドも当時は居なかったし、まさかこんなバンドがいるとはとても思えなかった。氣志團もそうですよね。学ラン着てリーゼントにして、80's歌謡ロックみたいなことをやっているバンドなんて「なんだこれ?」とすごく驚いた(笑)。

●そうですね(笑)。

加茂:でも"これは間違いなく売れるな"と思いました。自分のイメージやレコード会社のマーケティング戦略とか、そんな小賢しいものを超えたびっくりするようなものが出てくるとワクワクするし面白いなと思います。

●ショッキングな存在というか。結局はジャンルとか演奏力の問題ではない次元…要するに人間的なところに終着するんでしょうか?

加茂:うん。The Beatlesが出てきたとき、みんなびっくりしたじゃないですか。Led ZeppelinやSex Pistols、NIRVANAもびっくりした。「なんだこれ?」って(笑)。それがロックの歴史を塗り替えてきたし、それ以前以降で景色が変わった。EMIの特色って、売れたというよりも時代を変えたアーティストが多いんですよ。荒井由実の以前以降ってまったく違うし、例えばBOØWYも日本のロックの歴史を変えた。ナンバーガールも影響を与えたのは大きいし、椎名林檎や宇多田ヒカルもそう。RADWIMPSとか9mm Parabellum Bulletもやっぱり何かを変えた。聴いていて「これは新しい! この手があったか!」みたいなことは思ったし、それがEMIのカラーだと思うんです。だから景色を変えることができる新しいアーティストが出てきてほしいですね。

●最近のメジャーレコード会社はロックバンドに積極的ではないところもありますし、特にロックやライブハウスのシーンに関して、各社の姿勢が両極端になってきていると感じるんです。それはCDが売れなくなったということも起因していると思うんですが、そういう中でEMIミュージックの独自性は変わっていない気がします。

加茂:現場のディレクターはやっぱりEMIカラーみたいなものが好きで入ってきているんですよね。そういう想いが強いので、やっぱりそういう精神は受け継がれていきますよね。「もっと売れる音楽をやった方がいい」と言う人ももちろんいますけど。

●EMIミュージックのロックに対する姿勢は一貫していますよね。

加茂:一貫していますね。それじゃあいけないと思うこともある反面、僕もやっぱり新卒でEMIに入って、うちのカラーが好きだからいるというのもある。「ロックが売れない」と言っても、ロックバンドは歌謡曲系やK-POPとかより少なくて済みますから。シンプルにいいものを作って、それこそメディアに気に入ってもらっていいライブをやれば、いい結果が出せるんです。

●長らく音楽業界は不況で、最近は「CDが売れない」という声を聞き飽きた感がありますけど、そういった現状をどう見ておられるんですか?

加茂:ここがボトムなんじゃないかなっていう気がしますね。想像を超える様な新しいネットサービスができればわからないですけど。YouTubeにオフィシャルで動画をアップしてそこからマネタイズするとか、新しい利益の上げ方みたいなシステムもだんだんできつつある。詳しくはわからないですけれど、レディー・ガガも実際のCD収益より、そういうWEB上のマネタイズの方が収益は大きかったりするみたいなんですよね。原盤制作も今は昔の10分の1で出来ちゃったり、ミュージックビデオも安く作れますから。だからそういう部分でのイニシャルコストはどんどん下げられるし、物販とかコンサート収入は昔より割と早い段階で黒字になるから、そういう意味では悲観はしていないです。なにより、エンターテインメントとして音楽が無くなることはないじゃないですか。

●最近のひとつの傾向として、 ほとんどのメジャーレコード会社がマネジメント機能を持つ様になってきていますよね。 マネジメントという部分に関しては、今後どうされていこうと思っていますか?

加茂:これは僕の個人的な見解ですけど、プロデューサーなりマネージャーがCDもマーチャンダイズもツアーも全部全権を握った人間がひとりいる、っていうのがフューチャースタイルじゃないかなっていう気はします。例えばイギリスのあるバンドが、アルバムを全曲フリーダウンロードにしてその代わりツアーに観客が入る様にしたんですが、それはマネージメントとレコード会社が別々だったらできないじゃないですか。

●絶対できないですね。

加茂:まだ色んな試行錯誤があるとは思いますけど、eastern youthとかゆらゆら帝国はマネージャーもいなくてメジャーと契約しているし、ZAZEN BOYSは完全に自分たちでやっている。昔は事務所が無いのにメジャーと契約するアーティストなんてあり得なかったのに、色んな常識がひっくり返ったじゃないですか。更に3年後どうなっているかはわからないですよね。

●それと、JUNGLE☆LIFEの編集を通じて感じることなんですけど、10年前と比べて音楽シーン全体がライブなどの現場に寄ってきている印象が強いんです。

加茂:僕がバンドの人たちに言うのは「売れることより続けることの方が価値があるし大変だ」ということ。そんなに売れなくても長く続けてやっていることの方が意味があるし、デビューがゴールじゃなくてヒットを出さなくちゃいけないし、それを続けていかなくちゃいけない。「やるんだったら10年20年やれることを最初から考えよう」という話をよくします。だから続けられる様にサポートするし。Base Ball Bearが今年10年目で、大ブレイクはしてないですけど常に右肩上がりで、少しずつだけど確実に上がっている。それが理想的だなって。素晴らしいと思います。

●レコード会社は"CDを売る"ということがひとつの命題じゃないですか。なので、極端に言えば「ライブ制作に関しては関係ない」という見方もあると思うんです。

加茂:僕はやっぱり"ライブはやっていかないと"って思いますよね。ライブはCDが売れたからといって、いきなり「やれ」と言われてできるものじゃないし、やっぱり5人10人の前でやるところから、ちょっとずつ増やしていかないとスキルも上がらないだろうし。こればかりは経験を積みながら自分の見せ方を考えていって、"お客さんが何を望んでいるのか?"、"それに対して自分がパフォーマンスでどう応えるか?"という風に考えなくちゃいけないですから。ライブがいちばんお客さんにとって感情移入できる場だと思うんです。ライブを観ることで、そのCDも曲もより素晴らしく聴こえるし輝いてくるわけですよ。だから感情移入をオーディエンスにしてもらう場として、ライブはやっていくべきだと思いますね。あとは、さっき言っていた"長く続けていけるバンド"って実はライブバンドなんですよね。そういう意味でもライブをやって自分のスキルを上げていかないと。

●では最後に、今回のREVOLUTION ROCK vol.2に応募してくる人たちにはどういうことを期待しますか?

加茂:物真似じゃないもの。「パンクが好きだからパンクやろうぜ」と言っても、そこは先達がいくらでもいるわけですし、新鮮さが無い。例えばラーメン屋をやろうと思ったら、誰もやったことが無いラーメン屋をやらないと流行らないわけですよ。今までと同じ、何処にでもあるラーメンを作っても誰も客は並ばない。"デビューしてやる! 売れてやる!"と思うのは"流行るラーメン屋を作ってやろう"っていうのと同じ気合いだと思うんですよね。だから新しいラーメン屋を立ち上げるぐらいの気持ちでお願いします(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka

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