音楽メディア・フリーマガジン

上野啓示(カミナリグモ)×金廣真悟(グッドモーニングアメリカ)

JUNGLE☆LIFE presents ヴォーカリスト対談:内包する痛みと憂いを鳴らす2人

エヴァーグリーンな感情を歌と音で丁寧に紡ぐカミナリグモの上野啓示。痛みを含んだ音楽を力強く鳴らすグッドモーニングアメリカの金廣真吾。アルバム『MY DROWSY COCKPIT』のリリースを11/14に控えているカミナリグモ、そしてシングル『餞の詩』をリリースしたばかりのグッドモーニングアメリカ。そんな両バンドのシンガーソングライターを招いたスペシャルな対談。内包する痛みと憂いを鳴らす2人の表現の核にじっくりと迫った。

「似たような出来事に接したときに“そういう考え方があるんだ”とか“そういう表現があるんだ”っていうところで興味深かったし、自分ができるかどうかわからないけど参考にしたい」

「すごく新鮮でした。そういう考え方でやっている人にあまり会ったことがないなって。考え方もそうだし、表現方法も変わってるのかもしれないなと思います」

●2人はほぼ接点がないということですが、この2人からは共通する匂いを感じるんですよね。

上野:ほう。

●金廣くんは常々「痛みのない音楽は作りたくない」と言っていて。一方で、上野さんの場合は直接的に“痛み”みたいなものは表現していないのかもしれないですけど、音楽全体に“憂い”を帯びている印象があるんです。

金廣:うんうん。

●表現の仕方や程度は違えど、2人とも内包する痛みと憂いを音楽に変換しているのかなと。事前にそれぞれの作品を聴いていただきましたが、お互いの音を聴いた印象はどうでしたか?

金廣:今年の夏に大阪のラジオ局でご挨拶したことがありましたよね。

上野:うん。

金廣:そのときにいただいたシングル『王様のミサイル』をまず聴かせていただき、今日の対談にあたって『MY DROWSY COCKPIT』を聴かせていただいたんですけど、俺はUKあがりなのでカミナリグモの音の作りがすごく好きだなと思いました。カミナリグモは間違いなく喜劇をやっているなと思って、それはうちらも同じなんですけど、すげぇ大人だなと。対してうちらの音楽は子供の音楽というか、“陽”の部分が強いというか。

上野:ああ〜。

金廣:だから、カミナリグモみたいな雰囲気は好きだしルーツも近いんだけど、こういう曲を作ってバンドに持って行ったら「今はまだできないよね」と言われると思う。よくあるんですよ、作ってきちゃって「ちょっと今のバンドの雰囲気とは違うな」と言われることが。

上野:グッドモーニングアメリカは、率直に“売れそうだな”と思いました(笑)。さっき金廣くんが言った“陽”の部分…パッと聴いてまずそっちに耳がいくんですけど、歌詞の所々に“痛み”というか、ただハッピーなだけじゃない部分が垣間見れて。最初に音楽を聴いた印象と歌詞の印象が対照的なので、ちょっと珍しいなと思いました。僕らの場合は暗いというか“あ、これから悲しい歌が始まるんだ”とすぐに感じる音楽だと思うんですよ。

金廣:ああ〜。

上野:そういう意味で、グッドモーニングアメリカのように音楽と歌詞から対照的な印象を持つバンドは、他にはあまり居ないなと思いました。メンバーのキャラクターもあると思うんですけど。

●上野さんは“憂い”や“痛み”みたいなものを表現しているという自覚というか意識はあるんですか?

上野:自覚というか、たぶんそれはバンドの成り立ちとか、メンバーの編成とかキャラクターに起因するところがあると思うんです。カミナリグモという名前では10年やってきたんですけど、最初のバンドは1年でドラムとベースが居なくなって、それから1人で5年くらい弾き語りでやりつつも同じ曲をやっていて、今は正式メンバーは2人だけど固定のメンバー4人で音楽をできるようになったので、どうしても楽曲からすべてが始まるというか。作品色が強くなってしまう傾向があって。

金廣:なるほど。

上野:僕の性格だったり人との関わり方や世界の見え方、対峙の仕方がまず曲になって、それをメンバーが拡げてくれるっていうのがバンドの成り立ちなんですよ。だから同世代のメンバーと初期衝動で集まって続いているバンドとは違ってくるのかなって。

金廣:音楽寄りになるということ?

上野:音楽寄りというか、もっと言うと作品寄りというか。僕は色々とメンバーが変わってきたからというのがあるからなんですけど、メンバーが変わったらまたイチからやらなくちゃいけないし、1人でなんとかしなきゃいけない時代も長かったので。本来はすごい憧れがあるんですよ。10代の頃からずっと同じメンバーで音楽をやっていくっていうことに。自分がそうなれてないから憧れているという部分もあるんでしょうけど。

金廣:俺とは完全に逆ですね(笑)。俺は、今はライブに対して書いているんですよ。やっぱり自分の心だったり考えを音楽をツールとして表現しようとするときに、バンドの方向が同じだったらいいんですけど、今は“どれだけライブで楽しませるか?”ということも同時に考えちゃうんですよ。

上野:ああ〜。

金廣:そうすると、自分から出てきたものの完成形が違ってきちゃったりして。なので、自分から出たものをひとつのいい音楽…それは自分の心や考えに近い形で…にしようとしたのは、10代や20代前半の頃は追求していましたけど、最近はバンドとしての考えが第一になっちゃうというか。

上野:そうなんだ。

金廣:“おもしろくしよう”という考えはあるんだけど、その音楽やメロディを“もっと良くしよう”みたいな方向の作業はあまりないので、上野さんのような音楽の作り方に対する憧れはあります。だからメロディは置いといて、アレンジとコードに沿った歌詞にしちゃうとすげぇ軽くなっちゃうと感じるので、アーティストとして自分の中でバランスを取るために歌詞で反発させないといけないんですよ(笑)。自分が作った音楽と闘ってるという。だからさっき上野さんに言っていただいたように、サウンドと歌詞が対照的になるんです。

上野:なるほど。

金廣:ひとつのやり方として自分の中で納得できたのが、岡本太郎が「色と色をぶつけ合って爆発させるんだ」と言っていたらしくて、それを知ったときに“じゃあこれもアリなんだ”と思えたんです。自分としては、それしか方法がなかったんです(笑)。

上野:おもしろいですね。

金廣:おもしろくなっちゃいましたね。昔はもっと不器用で尖ってたと思うんですけど、今はちょっと俯瞰できるようになりました。“それもアリだな”というのがどんどん拡がってきたので。

上野:グッドモーニングアメリカは1回目に聴いたときの率直な印象が強くて、自分の曲は自分で作っているからもう客観視できていないんですけど、“果たして自分はどうなんだろう?”と思っちゃったというか。

●金廣くんが作曲について、さっき「バンドとしての考えが第一になる」と言っていましたが、それはポピュラリティに対する姿勢だと思うんですよね。

金廣:そうかもしれないですね。

●そういう意味で、カミナリグモが8月にリリースされたシングル曲「王様のミサイル」はちょっと新鮮な印象があって。この曲もパーソナルな想いが音楽になっているんでしょうけど、メッセージ性というか、ポピュラリティに向けたベクトルが他の楽曲よりも強いじゃないですか。

上野:そうですね。でも「王様のミサイル」を作ったのは9年前なんですよ。

金廣:あ、そうなんですね。

上野:当時の僕は、たぶん今よりももうちょっとポピュラリティがあったんだと思います(笑)。
一同:(笑)。

●ポピュラリティは少なくなってきているんですか?

上野:そうかもしれないです。音楽に対してどんどん純粋でなくなるというか、本当の初期衝動で音楽を初めて、ギターを鳴らして「すげぇ!」と感動して、夢中になってコードを覚えて、誰かの曲をコピーして…あの夢中な感じっていうのは今はもうないし、すごく大好きな曲を見つけて何度も繰り返し聴いて歌う、みたいなリスナー的な感覚はどんどん鈍くなってきているんです。

金廣:うんうん。

上野:そういう意味ではポピュラリティみたいな感覚はどんどん薄れていくのかなっていうのは、今10年目にして思いますね。これからどうなるかはわかんないですけど。

金廣:そうなんですね。俺はもともとポピュラリティがない人間なんですよ。このバンドの前にfor better, for worseというメロディックのバンドをやっていて、そのときは何も考えずに音楽を作ってある程度認められていたから「自分大好き!」と思っていたんです。だから、当時の自分が今の俺を見たら「クソだな」と言うと思うんです。

上野:ああ〜。

金廣:そういう面で、音楽に対して誠実にいれているのかな? っていうのは正直すげぇ悩みます。自分がこのバンドで音楽を長くやり続けるためにこの手段を選んだのは間違いないんですけど、でも「果たして自分が本当に好きだったことをやれているのか?」と自問したら「うーん」という感じだし。でもみんながそうやれているとは限らないと思うし、それは悪いことではないとも思いますし。きっと俺は一生悩み続けるんだろうなと(笑)。

上野:へぇ〜。

金廣:こないだ山中湖のスタジオにこもって1人で1週間くらいひたすら曲を作らせてもらったことがあったんですけど、マニアックになりすぎちゃいそうになるのをがんばって軌道修正して(笑)。それでもやっぱり後半にできた曲とかは、メンバーに聴かせたら「これわかりにくい」って(笑)。

●種類と毛色とソングライターとしての生い立ちは違いますけど、深い部分で似通ったところがある2人なのかもしれない。
2人:そうですね(笑)。

●ところで2人は、自分が考える理想のフロントマン像というのはあるんですか?

上野:ミュージシャンは、作ったCDが商品であると同時に自分自身も商品であるわけじゃないですか。それが例えばタレントになると自分が商品となり、小説家は作品が商品でその人自身が出ていって商品になる必要はなくて。

金廣:うんうん。

上野:ミュージシャンの場合は、本来はどちらも兼ね備えていなければいけないと思うんですけど、僕は作ることが好きでそれがたまたま音楽だったという感覚なので、自分自身が商品になることに対してのモチベーションがあまりないんです。

金廣:ああ〜。

上野:音楽の場合は、作った後にそれをリアルタイムで表現しないといけない、人も魅力的じゃないといけないけど、自分が商品になって自分を売り込むことにあまり興味を持たずに音楽を始めてしまったんです。だから自分がこの世界で生き残るためには、ソングライティングや音源で圧倒的に評価されるしかないんだなって。それが、理解している自分の能力というか。自分でも変わってると思います(笑)。

金廣:そうなんですね(笑)。

●ライブに対するモチベーションはどうなんですか?

上野:僕は、営業は苦手だけどサービス業は好きなんです。

金廣:おおっ、なるほど(笑)。

上野:だから自分のことを望んでくれている人に最高のものを届けたいという想いは全然あります。

●…変わってますね。

金廣:俺はどっちなんだろう? 営業タイプなのか、サービス業なのか…少なくとも俺はサービス業ではないかな。さっき上野さんが「自分自身が商品になる」とおっしゃっていましたけど、俺はそこを今はやるべきじゃないかなと思っていて。まあ田中(たなしん)が居るということも大きいんですけど、だからといって自分にスター性があるとも思っていないし。

●金廣くんはライブに対してどういうモチベーションなんですか?

金廣:ライブをやるのは好きなんです。それに俺らの人間性を観に来てくれるのはすごく嬉しいことで。でも、すごく時代錯誤なことを言ってるのかもしれないけど、本音では演奏会を観に来て欲しいなと。今やっていることとは全然違うから、すげぇ矛盾している話なんですけど(笑)。

上野:ああ〜。

金廣:それは「自分自身が商品になる」という点で考えたら今の時代では絶対に違うっていうのもわかっているんですけど、本来どうあるべきか? と考えたら、やっぱり違うんじゃないかなって。

●この2人すごいな!

金廣:本来、音楽ってそういうもんじゃないなって。「本来」じゃなくて「最初は」が適切かな(笑)。ライブは俺だけMCせずにやっているんですけど。

上野:らしいね。でもいいよね、前に出る人がメンバーに居ると本当にいいなって思う。

金廣:助かりますよ(笑)。

上野:うちの場合、ghomaちゃんがいじられキャラで、ハマれば役に立つって言ったら悪いけど(笑)。

金廣:アハハハハハ(笑)。

上野:助かる部分はあるんですよ。でも決して能動的に前に出ていくタイプではないので、ライブもそうだし、僕が色んなことを進行させていかないと始まらないのでそれはやるんですけど、特にライブやプロモーションとかは1人キャラが立つ人が居れば助かるなって。自分は「前に出たい!」というタイプではないので。

●要するに、2人はこの取材は嫌なのか(笑)。

金廣:インタビューは好きですよ(笑)。

上野:そう。これが生放送とかで、盛り上げないといけなくて、不特定多数の人に向けられたものだったちょっと…というね。

金廣:生放送とか苦手ですね〜(笑)。

上野:でもそれは仕方がない…というとまた語弊があるけど…やるべきことだと思うからやっていますけど、もしそういうキャラの人がメンバーに入ったとしたら“なんて助かるんだろう”とは思う。

金廣:アハハハ(笑)。

●ところで2人は、創作に関して音楽以外のものから刺激を受けたりもするんですか?

上野:映画とかはよく観ます。やっぱり僕は歌詞も含めた全体の世界観というものがこのバンドの核となるものだと思っているので、そこに対しての栄養源というか、刺激を受ける機会を意識的に作ったりします。正直、曲はできるけど最近は歌詞がなかなか難しくなってきていて。

金廣:そうなんですね。

上野:自分が使いたい言葉とか言いたいことっていうのは、今回の『MY DROWSY COCKPIT』も入れると、インディーズから数えてアルバムを4枚出してるんですよ。結構言ってきたなという感じはあって。だから他のエンターテインメントに触れることで、自分が今まで持っていなかった感覚だったり、想像力の源になると思うんですよね。歌詞の主人公がどういう場所に居て何をする、っていうことに対して、自分の中に色々と蓄積しておきたいという意味合いが強いですね。

●特定の映画とか監督というのはあるんですか?

上野:いや、もうランダムです。最近はちょっと危機感を感じていて、僕はあまり外からの刺激を受けない人だったので“それは良くないな”と思って、それこそ映画は月額で借り放題の契約をして、意識的にやり始めました。そもそも他の音楽を聴くのもそうですけど、エンターテインメントというものに対して心の余裕があまりなかったんですよね。“自分は他のことを楽しんでいる場合じゃなくてもっと音楽をやらないと”っていうのがずっとあって。

金廣:ああ〜。

上野:でも“音楽をやるために”と思ったら自分の中での理由付けができて、意識的に映画を観ています。実際に観ると楽しいものは楽しいし、刺激になるものも多いんですが。

●金廣くんはそういうものはあるんですか?

金廣:いや、今はないですね。本当にここ最近のことなんですけど、“ちょっと吸収もストップ”という感じです。

上野:その感じわかる。そういうときもある。

●あっ、わかるんだ。

上野:吸収しなくても特に問題ないっていうか。自分が今まで経験したこととか聴いてきたもので成立しているので、特に必要性がないっていうか。

金廣:たぶん今はそんな感じです。知らない間にコップに水が貯まっていて、それが今は溢れている状態なんですよ。だから欲しくないなっていう感じ。それが溢れない状態になったときに考えるんじゃないですかね。

上野:うんうん。

●最後に、今まで話してきての相手に対する印象を教えてください。

金廣:変わった人だなぁと思います。

●アハハハハハハ(笑)。

金廣:でもすごく共感できることも多いし、おもしろい人ですね。さっきライブに対する考え方とか、「営業は苦手だけどサービス業は好き」っていう考え方だとか、すごく新鮮でした。そういう考え方でやっている人にあまり会ったことがないなって。考え方もそうだし、表現方法も変わってるのかもしれないなと思います。…すみません「変わってる」とか言っちゃって。

上野:いや、「変わってる」と言われるのは嫌じゃなくて(笑)。

金廣:アハハ(笑)。それもわかります(笑)。

上野:金廣くんも変わっているというかおもしろいなっていう印象があります。自分とは違う方法論だったり感じ方をしていて、似たような出来事に接したときに“そういう考え方があるんだ”とか“そういう表現があるんだ”っていうところで興味深かったし、自分ができるかどうかわからないけど参考にしたいなって。スタート地点がまったく違う人だったら、まったく別の人間として接していたかもしれないけど、そういうところが今日は色々とあって。シンガーソングライターらしい個性的な人だなと思いました。

●タイプがちょっと違うけど、もしかしたら2人とも感情をあまり表に出さないんでしょうか。今日の話を聞いていても感じたんですが、金廣くんは自分の感情が大きく動いたとき、それを意識的に自分で処理しているような気がするんです。

金廣:ああ〜、はいはい。

●対して上野さんは、話すときもストレートに感情を出さないというか。

上野:ああ〜、そうですね。特に音楽ということになると自分の中ではすごく特殊っていうか。例えば好きな野球についてだったらもっと感情的だし、考えて言葉を発したりはしないんですよ。でも音楽やバンドは、どっぷり浸かりすぎて麻痺してしまっているから、曲を作った後に“自分はこういうことを言いたかったんだ”という解釈をするんです。麻痺しちゃってるんですよね。だから今日みたいに音楽のことを話すときも、感情論ではできないというか。自分でもよくわからないんですよ、なんで音楽をやってるんだろう? なんで曲を作っているんだろう?

金廣:それ、俺も最近すごく思います。

●やっぱりこの2人すごい!

上野:音楽は楽しい? おもしろい? っていう疑問。それに対して答えは二択じゃないっていうか。

金廣:うんうん。

上野:綺麗に分けられない部分があって、自分の中で考えれば考えるほど自分の嫌な面にぶつかったりするわけで。だから音楽のことを話したりするときも、得てして感情を出せないというか、こういう感じになってしまうんです。だからメンバーにおもしろい人が居ればちょうどいいですよね(笑)。

金廣:アハハハハ(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka

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