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国吉亜耶子and西川真吾Duo

ピアノと歌とドラムというシンプルな音を絵筆にし、 聴く者の心に未だ見たことのない神聖な景色を描き出す“Duo”

AP_andduo“国吉亜耶子and西川真吾Duo”という名前は、ライブハウスによく行く人ならどこかで見かけたことがあるのではないだろうか? そのくらい頻繁に、かつ様々なイベントにこのDuoは出演しているのだ。ギターロックなど普通のバンドスタイルはもちろんのこと、カオティックハードコアに至るまで多岐にわたる対バンの数々。そして、それこそが2人の生み出す音がジャンルを問わず、多種多様な人々の心を打っていることの証明でもある。2ヶ月連続のスペシャル・インタビュー第2弾となる今回は、4月にリリースした通算5枚目のフルアルバム『RECORD』の制作秘話に迫った。

 

 

●ここまで活動を重ねてくる中で、お2人の関係性に変化はあったんでしょうか?

西川:国吉は前のバンドをやっていた頃に比べて、丸くなったよね。

国吉:そうかな…? 基本的な考え方とかは、その頃からあんまり変わっていないと思うんですけどね。やっぱり2人になったからというのはあるのかな。ここにもう1人いたら、また違うんだと思います。

●今でもケンカしたりするんですか?

西川:それはずっとありますね。スタジオで音を出す時は、いつもぶつかってしまいます。

国吉:すごい大ゲンカになります。たった一音だけについて「遅い!」とか(笑)。

西川:「そこはそのフレーズより、こっちのほうが良いんじゃない?」とか言って、大モメしますね。

●2人になってからは西川さんも、自分の考えを国吉さんにぶつけるようになったわけですね。

国吉:(前バンドの頃との)一番の違いは、私がそれに対して聞く耳を持てるようになったということですね。バンドの頃は完全にワンマンだったので。そう考えると私はバンドマンになりたかったんだけど、なれなかったということなのかな。みんなで頑張りたいんだけど、自分の思い通りにならないと気が済まない感じだった。

●前はメンバーが何か言っても、聞かなかった?

国吉:だから、みんな何も言えなくなっていたんだなということに気付いたんですよ。「ああしたいこうしたい」と言ったところで通らないんだったら、何も言わないでおこうっていう。そうさせていたのが自分だったということに、後で気付きました。

西川:ようやく大人になったんじゃない(笑)。

●そういう気付きが歌詞にも反映されているのでは?

国吉:どうかな…?

西川:内容に関してはあんまり変わっていないですね。ずっと同じことを言い続けているような気がします。

国吉:1つのことしか言っていないと思います(笑)。

●その“1つのこと”とは?

国吉:“1つのこと”が言葉にできないんです。でもどの曲を聴いても1つのことしか言っていないなと、いつも思います(笑)。

●ハハハ(笑)。今作『RECORD』にもM-8「お別れのうた」が入っていますが、別れをテーマにした歌詞が多い気はします。

国吉:そうですね。特に前作は1枚の中で、いっぱい人が死んでいると思います(笑)。

●あ、そういう永遠の“別れ”なんですか?

国吉:身内の死がキッカケになっている曲が一番多いです。上京したことでなかなか会えなくなってしまった友だちだったり、生きている人との別れを書いた曲もありますけど、そういう永遠の別れから思ったことが歌になっているものが多いんですよ。前作では「こんなに大きくなりました」や「折鶴」、「真珠道(まだまみち)」もそうですね。

●前作はセルフタイトルでもあり、自主盤3枚からの楽曲も再録されていたりと、ある意味でそこまでの集大成的な作品だったのかなと思うのですが。

西川:そういう部分もありますね。それまでの3枚は自主制作盤だったので、色んな意味でいっぱいいっぱいだったんです。だけど前作までには少し期間があったので多少は余裕があったというのもありますし、レーベル移籍第一弾ということで気合も入っていました。

国吉:3枚の自主盤でそれぞれ録った曲も、ライブでやっていく内に成長していったんです。なので前作はリアルタイムに近い、自分たちの今一番できることだったのかなと思いますね。

●自主盤からの再録曲もさらにアップデートした形でやれたと。

国吉:そこまでの3枚についても、その都度その都度でできることはやりきったという思いはあるんです。でもやっぱり全部2人だけでやっていたので、その時はそうするしかなかったという部分もあって。(前作では)2人以外の人も関わっていたというのが、大きかったですね。単純にプロのベーシストの方にベースを弾いてもらうことが新鮮だったし、そういう楽しさもありました。

●前作ではそうやって2人以外の音も取り入れたわけですが、今回の『RECORD』ではさらに色んな音が加わった感じがします。

西川:意識的にそうしたわけではないんですけど、アレンジやレコーディングをしている内に自然とそうなった感じですね。「こんな音を入れたらカッコ良いかもね」という感じで取り入れていった結果というか。

●M-3「落書き日和」は冒頭からノイジーなギターが入っていますが、元々こういうことをやりたいというイメージはあったんですか?

国吉:私は元々ギターの音が好きなんですけど、絶対に入れたいとかそういうことではなくて。プロデューサーの林有三さんが持ってきてくれた音を聴いて「良いな」と思ったので、「じゃあ、それで」という感じでしたね。

●元々、国吉さんの頭の中で鳴っていた音を具現化しているのかなとも思ったんですが。

国吉:そういうところもありますけど、今回は「こういうのどう?」と出して頂いたアイデアに対して「良いな」と思ったからやってみようという感じでしたね。そういうふうに自分の頭の中では鳴っていない音も良いと思えば取り入れるし、全てが自分の頭の中で鳴っている音というわけではないんです。

西川:曲を作っている時に、国吉が「ここではギターの音が鳴っているんだよね」とか言うことは多いんですよ。作っている段階では2人だけの音で成り立つようにアレンジを考えるんですけど、そこにたとえばギターの音が入っても良いし、頭の中で鳴っている音以外にも良いと思ったものは受け入れていく。だから今回はわりと、やりたかったことに近いですね。

●Duo名義でやっているけど、2人以外の音を入れたくないわけではない。

国吉:そこには全然こだわりがないですね。逆にそういうの(2人だけの音)はいつでもできると思うので。2人だけの音が良いというよりも、聴いた時に良ければそれで良いっていう感じです。ライブは2人だけでやっているのに、音源には色んな音が入っているということに対して賛否両論あるとは思いますけど。

西川:周りから言われることに対しては、わりとどうでもいいと思っていて。僕らが良いと思ったので、こういう形になったというだけですね。

●先ほどおっしゃられたように、やりたいことができたという実感はある?

国吉:色んな制限がある中でも、やりたいことをやらせてもらった感覚はありますね。やっぱりそれは2人だけじゃできなかったこと、というところが一番大きいかな。

西川:前作以上に第三者的な人がいっぱい入ってレコーディングをしたので、それがすごく楽しかったんです。勉強にもなったし、レベルの高いところで色んな話ができたので、それはすごく良かったですね。

●今回の収録曲はどれも新曲なんですか?

国吉:作った時期は色々なんですけど、音源にするのはどれも初めてです。前からあったけど、ライブでやったことがない曲もありますね。何か1つでも引っかかるところがある状態では、絶対に人前でやらないんですよ。M-7「探偵風車」に関しては2小節だけどうしても気に入らない部分があって、そこの良い形をずっと探していた感じで。今回レコーディングするとなってから、〆切までに自分を追い込んだら見つかりました(笑)。

●曲自体も形が固まってからレコーディングしたというわけではない?

西川:ドラムもピアノもレコーディング当日に考えた部分があって、レコーディングしながらアレンジしていった感じなんです。当日スタジオでやってみて「こっちのほうが良いじゃん。じゃあ、こっちにしよう」みたいなのが結構ありましたね。だから新鮮な気持ちで、毎回レコーディングできていたというのもあって。

国吉:そういうのも良かった気がします。曲を録りながら、新しいアレンジ案が来た時に「どうしよう?」と考えて、その間に録りも重ねて…という感じでした。色んな作業を同時進行でやっていたんですよ。瞬時にジャッジをしないといけない感じだったので、直感的に「良い」と思ったものを信じるというか。そういう感じで色んなことが進んでいったので、“気付いたら録り終わっていた”というのが正直な感想ですね。明日と今日のこと以外は考えられない毎日だった気がします。

●それだけ作業に集中していたと。そういった日々の“記録”という意味で今作を『RECORD』というタイトルにしたのでは?

西川:(小声で)そうかもね。

国吉:良い意見だと思います。…そういうことにしておきます(笑)。

●ハハハ(笑)。ではどういう意味で付けたんですか?

国吉:M-1「レコード」を作った時にちょうど夏のオリンピックが開催中で、そこで“ワールド・レコード(世界記録)”という言葉をよく聞いていて。その言葉について考えてみた時に、“今”っていうものが1人1人にとっては日々の“ワールド・レコード”みたいなものだなと思ったんですよ。そこから“今が史上最高記録なんだ”という思いで「レコード」という曲を作って、この曲は絶対に今作にも入れると決めていたんです。オリンピックの“WORLD RECORD”というイメージが強かったので、アルバムタイトルは英語表記にして、ジャケットの文字も電光掲示板っぽくしてもらいました。

●そういうイメージがあったんですね。今作が自分たちの最高記録だという意味合いもあるのでは?

西川:そうですね。その時点ではこれ以上のことはできなかったから。今はレコーディングした時よりも、もちろん成長していますけど。

国吉:もうちょっと上手になったよね(笑)。

●それは今作の曲をライブでやった時にきっとわかりますよね。

西川:楽しみにしておいて下さい。ライブでどうするかはまだ全然考えていないですけど(笑)。今作では色々な音が入っているわけなので、それに対して2人だけでどこまでできるのかっていうことに集中してやろうと思っていますね。「ライブのほうが良かった」と言われるくらいの気合でやっていきます。

Interview:IMAI

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