音楽メディア・フリーマガジン

山中さわお

3rd Album『破壊的イノベーション』SPECIAL INTERVIEW 禁じ手すら解放して生み出された“破壊的”名作が革新への扉を開く

AP_sawao_s山中さわおにとって、3枚目となるソロアルバムが完成した。1月に発表した1stシングル『Answer』でも明らかだったが、これまでのソロでは全編英語詞だったところから今回は日本語詞がメインに。また、楽曲的にもギタリストとしてのアイデアと遊び心に溢れていた過去2作のソロアルバムとは異なり、the pillows(以下、ピロウズ)でやっていてもおかしくない楽曲が居並ぶ。それはまるでピロウズのニューアルバムを聴いているかのような感覚に陥ってしまう、普遍的な魅力を備えた“王道”とも言える楽曲たち。20年を超えるアーティスト歴の中でも珍しいくらいに好調だったという創作活動を経て生み出された作品が、この『破壊的イノベーション』なのだ。ピロウズの活動再開を前に今、山中さわおが何を考えているのか? 今回のインタビューでは今作ができるまでの流れから、タイトルに込めた真意にまで迫った。

 

「“今までにやっていない方法で、ピロウズを良くする”っていうものが今回のアルバムだということですね。ピロウズと寸分違わない曲をソロでやるっていうことが、僕にとって“禁じ手を破った”ということなんです」

すごく濃密な曲が短期間に誕生した

●去年の1〜2月頃には今作『破壊的イノベーション』の収録曲はほとんどできていたそうですが、10曲全てが完成していたんでしょうか?

山中:M-7「Irritations」は、少し後でできた気がしますね。でも他は、ほぼ全曲できていました。ソングライターとして多作なほうだという自覚はあるんですけど、そんな自分にとってもすごく曲ができる時期で…。曲だけなら、わりとよくできるんですよ。でも今回は歌詞までちゃんと載った状態で、自分を納得させるクオリティのものがすごく短期間にできたなという感じだったんです。

●2012年の序盤だけで、今作の曲をほぼ全て作ってしまったわけですね。

山中:僕の場合、アルバムを発表する時点では(収録している)曲たちの誕生日に開きがあることが多くて。1〜2年の開きは当たり前で、1曲くらいは7〜8年前の曲が入っていたりもする。そういう作り方をずっとしてきたので、1〜2ヶ月の間にまとめて作った曲ばかり(を収録したアルバム)というのは僕の長い歴史の中でも珍しいかなと。ピロウズの前作『トライアル』(2012年1月)も、わりとそれに近いものだったんですよ。『トライアル』と今回の『破壊的イノベーション』はすごく短期間にギュッと集中して作った作品という点で、この23年間の活動の中では珍しいほうですね。

●今作で一番最初にできたのは、去年の元旦に作ったというM-2「Answer」でしょうか?

山中:そうですね。これよりも前にできた曲はないです。そこから“シングルでも行けるな”っていうものが、何曲もできていきました。

●「Answer」ができてから、曲作りの勢いが一気に加速していった?

山中:実際はその次の曲ができるまでに、ちょっと間が空いたと思います。だけど、そこからは1日に1曲は歌詞までセットになって生まれてくるような感じで、テンポ良く作っていましたね。今作に収録していないだけで何曲かはいつかピロウズでシングルとして出せるようなものもできていたので、すごく濃密な曲が短期間に誕生したという自覚があって。それに興奮して“また明日も作れるんじゃないか”って思えるような…強気な感じがありました。

●良い曲ができたことで、また次の曲を作りたくなるというサイクルが生まれていたんですね。

山中:こんなに短期間で曲ができたのは、『RUNNERS HIGH』と『HAPPY BIVOUAC』という2枚のアルバム(共に1999年発売)に入る曲がどんどんできてきた1998年以来かな。久しぶりの感覚だと思います。

●前回のインタビューで“アルバムには名脇役がいて主役がいるものだ”というようなことも話されていましたが、今作は曲ごとにそういう役割を考えながら作っていったんでしょうか?

山中:いや、今作を作っている時は“主役ばかり作ろう”という気持ちだったと思います。ここ数年は自分の心を楽にさせるためというか、プレッシャーがありすぎてスタートを切らないのが一番良くないと思っていたので、“名曲は2〜3曲で、あとはそれを引き立てる名脇役でいいじゃないか”っていうマインドコントロールを自分自身にしていて。その上で曲作りをスタートすると結果的に主役が5〜6曲できて、名脇役と言っている曲もライブでは主役になるような感じでできていたんです。

●あえて肩の力を抜くことで、結果的に主役級の名曲を数多く生み出せていた。

山中:でも今回は元旦から「Answer」を作ったくらい、良い意味で力が入っていたというか。力は入っているんだけど、それをプレッシャーに感じるんじゃなくて自分を奮い立たせるプラスの方向にできたというのは、ここ数年では久々の感覚じゃないかな。「すごいのを作ってやるぞ」という鼻息の荒さがあって、それが良い結果につながったという感じでした。

●全体のバランスを考えて作ったりはしなかった?

山中:名脇役じゃなくて“主役をどんどん作ろう”という気持ちで力がすごく入っていたので、バランスはあんまり考えていなかったですね。曲順を考える段階になって、流れを良くするために必要だったのが「Irritations」だったのかな。

●インストのM-8「Planetarium in your eyes」も、バランスを考えて作った曲かなと思ったんですが。

山中:この曲もちょっと後にできたと思います。過去2作の『DISCHARGE』(1stアルバム)と『退屈な男』(2ndアルバム)にもインストが入っていたので、そこはシリーズみたいな感じで入れたかったんですよ。その2枚は元々、歌よりも“ギタリストとして楽しもう”というアルバムだったんです。(これまでのソロ作品は)ギタリストとしてのアイデアに没頭して作ってきたものなので、そこは単純に残したかったのかな。

●ソロならではの要素は残しつつ、過去2作との連続性を意識したと。

山中:そうですね。あとは、ジャケットにどれも黒枠があるっていうことくらいかな(笑)。

●今作のジャケットでさわおさんの顔にダーツがたくさん刺さっているのには、どんなイメージが…?

山中:最悪なジャケットですよね(笑)。元々は僕が持っていたアイデアからなんですけど、そのイメージでは本人の写真じゃなかったんですよ。たとえば外国人の女性モデルの顔にダーツが刺さっているようなジャケットで、曲はコミカルなラブソングとかだったら面白いかなと思っていて。でも今回は『破壊的イノベーション』というタイトルだし、びっしりとダーツが刺さっていて顔は見えないけど、カーディガンとTシャツを見れば“これは絶対に山中さわおだな”とわかるようなものをソロアルバムのジャケットにしたらちょっと面白いんじゃないかなと。まあ、ブラックジョークみたいな感じですね(笑)。“インパクトあるでしょ?”っていう。

●そもそも『破壊的イノベーション』というタイトル自体に、インパクトがあります。

山中:この言葉自体は僕が考えついたものじゃなくて、テクノロジー業界やマネージメントの世界でよく使われる言葉らしいんです。対比する言葉として“持続的イノベーション”という言葉があるんですけど、そちらはより良いものを提供して勝利しようとする方法で。逆に“破壊的イノベーション”とは既存の市場を破壊するようなインパクトを持った、既存のアイデアとは違うもので勝利しようとする方法なんですよ。

●元々はビジネス用語なんですね。

山中:持続的イノベーションの“より良いものを提供する”という方法は積み上げすぎると、ユーザーが求めている以上のものになっちゃうんです。ここでの“ユーザー”というのは、僕らにとってはリスナーということになるんですけど。足し算的に色んな機能を付け加えて積み上げる形で色んな会社が勝負を仕掛けていくと、最終的に「それはもういらないよ」みたいになっちゃう。そういう状況になってきた時、全く違う方向のものを出すのが破壊的イノベーションで。たとえばテクノロジーの世界でデジタル的な機能をどんどん足していった後に、今さらながらのアナログな方法を押し出したものが大ヒットするみたいな感じというか。

●そんな言葉を今作のタイトルにした理由とは?

山中:ピロウズというものを23年間積み上げてきたけど、メンバー内でも色々と飽和状態になってきたのでいったん活動休止をしようということになったんです。もちろん復活はするわけだから、そこにカンフル剤となるものが欲しかったというか。ファンに対しても、自分自身を含むピロウズという集団に対しても、カンフル剤を打たなきゃダメだと。そういう意味で『破壊的イノベーション』というタイトルは非常にしっくりくるなっていう。“今までにやっていない方法で、ピロウズを良くする”っていうものが今回のアルバムだということですね。

●音楽的に今までやっていないことをやるというわけではない?

山中:ピロウズと寸分違わない曲をソロでやるっていうことが、僕にとって“禁じ手を破った”ということなんです。音楽的な方法でやるなら、もっとオルタナティブな方向に行ってしまうと思うんですよ。既存の市場をぶち壊すインパクトのある音楽というものが、オルタナだったので。ものすごくマニアックなオルタナに行ったほうが、言葉の意味としてはそっち(破壊的イノベーション)に近くて。でも音楽的な内容で、破壊的イノベーションというものを表現したいわけではないというか。どちらかといえば今までのソロアルバムはそういうものだったけど、それはピロウズにとってカンフル剤にはならないから。

●ピロウズでやるような曲をあえてソロでやることに意味があった。

山中:ピロウズのシングルにもなるような曲をソロでやってしまうことが、ものすごいカンフル剤になるという考え方というか。だから、曲は素直に良い曲を作ろうと思って作っただけなんですよ。でもそこがこれまでのソロアルバムとは違っていたし、本来ピロウズでやるべき曲をソロでやっちゃうということが自分にとってもピロウズにとっても重要だったのかな。

●それにソロでこれだけクオリティの高いものを作ったからには、活動再開後のピロウズではもっとすごいものを作らなくてはいけないという意識も生まれるわけですよね。

山中:それはあります。自分自身に対してもそうだし、メンバーに対しても「そういう気持ちでピロウズをやってくれ」っていう。

●ピロウズとは違うメンバーと一緒にレコーディングするということも、刺激になったのでは?

山中:そこはあんまりないかな。感覚としてはもちろんピロウズとは違うんですけど、既にTHE PREDATORSもやっていたりするから。過去2作のソロアルバムではもっと色んなミュージシャンとやってきたし、曲ごとに違うメンバーと一緒にやるという経験もしてきていて。実際、ここ最近のピロウズでは僕のソロ作品っぽい作り方をしてしまっていたので、そこに何か特別なインパクトがあったわけではないですね。

●過去2作とは違って、今作でメンバーを固定した理由は何だったんですか?

山中:ツアーをやる予定だったからですね。全国ツアーをやる前提だったので、固定メンバーじゃないと非常に不便なところがあって。

●ソロとして、バンド編成でツアーをやるのは初めてなんですよね。

山中:そうです。今までは一切、ライブをやっていないですからね。

●ツアーをやるという前提が、曲作りにも多少の影響を与えたりはしたんでしょうか?

山中:過去2作は明らかにピロウズとは違うサイドワークをしようという意識があったけど、今回はピロウズの曲を作る時と全く変わらない気持ちでやったんです。ピロウズではいつもツアーをやっているから、意識しなくても当然ライブでやれる曲になるというか。どちらかというと過去2作の曲はライブではやれないことをあえて意識して作っていたので、ギターのアイデアも自分のボーカルスタイルもライブでは再現しづらいものを楽しんでいる感じだったんです。そういう意味で、今作とは大きく違いますね。

●いつもどおりピロウズの曲を作る気持ちでやったことで、結果的にライブでもやれる曲になった。

山中:何も考えないでやると、こうなるっていう感じかな。無意識で作ると、普通にライブでやれるものになっちゃうんですよ。

●実際にライブのセットリストが今作の曲順通りM-1「RED BAT」で始まってM-10「Buzzy Roars」で終わったとしても、すごく自然な気がします。

山中:僕はいつもそういう気分でアルバムを作ってはいるんですよ。だからといって、その曲順のままでライブをやったら次の曲が何なのか(お客さんに)わかっちゃうし、新作の曲を全部やり終えてから古い曲をやるっていうのもサボっていると思われるかなと(笑)。だからライブでは新旧の曲を混ぜてやっていますけど、本来は良い曲順にアルバムは収録してあるのでライブでもそうしたいなと思いますよ。でもワンマンって普通は20曲くらいやるものだから、このアルバムの10曲だけで終わったら怒られるかなって(笑)。

●(笑)。今回のツアーでは、過去2作のソロアルバムからもやるんですか?

山中:やるしかないですよね…。曲によってはキーが低すぎて、どうしてもライブでは再現できなかったりもして。厳密に言えばできるんだけどテンションが低すぎてこっちも達成感がないし、お客さんにとってもお互いに楽しくない感じというか(笑)。

●もうツアーへの準備も始まっているわけですよね。

山中:そうですね。今作の曲に“これなら相性良く混ぜられるだろう”っていうものを選んでいるんですけど、非常に選曲が難しくて。今はまだ“どうしようかな?”っていうところで、ちょっと悩み中です。

●ピロウズの曲はやらない?

山中:ピロウズの曲はやらないです! もしやるとしてもバンド形式じゃなくて、弾き語りとかでしょうね。ピロウズの曲を今回のタイミングでこのプロジェクトでやっても、良いことは1つもないと思います(笑)。誰も望んでいないだろうし、全てが本物よりもいまいちの状態になってしまうと思うので…。弾き語りとかで少し混ぜたりするのは、別物としてありかもしれないですけどね。

●そこはピロウズが復活した時のお楽しみというか。再始動した時にどうなっているか、自分でも楽しみな部分があるのでは?

山中:シンイチロウ(Dr.佐藤)とG.真鍋くんがどう活躍してくれるかに期待しているところはあります。今回の作品で(ソロで)初めて日本語で歌ってツアーもまわっちゃうということに対して、2人が無意識なわけがないので。そこで2人がある種の“なめんなよ”感を出してくれるといいですね。

●“俺らがいてのピロウズだろ?”というか。

山中:そういうものを出してくれたら、もう最高ですね。

●今作を作ったことで、自分の中でも次への弾みがついたところもある?

山中:というよりも単純に、“気に入ったアルバムができたな”という感じです。そこも含めて、ピロウズのニューアルバムができた感覚と何も変わらないと思います。“良いアルバムができたな。ツアーも頑張ろう”と毎年思っていることを今も思っているという感じですね。

●本当にいつもどおりの感覚というか。

山中:でも今回のツアーに関しては、もちろん不安もあって。ピロウズのお客さんが来てくれるにしても、当たり前のことだけどピロウズと同じように受け入れられるわけではないと思うので。ピロウズだったら“この曲はこれくらい盛り上がるだろうな”っていう想定がいつもあるんですよ。そういう感じには当然ならないだろうし、そこをどう楽しむか/楽ませるかっていうところに不安はあるかな。でもアルバムを作った感覚は、ピロウズと本当に何も変わらないです。“気に入ったものができて、うれしいな”っていうだけですね(笑)。

Interview:IMAI

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj