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黒猫チェルシー

こんなにも自由奔放なロックンロールがあっただろうか? バンドの可能性を無限大にまで拡げるカラフルな名盤完成!

2011年5月、1stフルアルバム『NUDE+』で自らをむき出しにし、パワフルかつエモーショナルなロックで我々を魅了した黒猫チェルシー。その後、『アナグラ』と『猫Pack2』という2作品を経て、大きく成長した彼らが待望の2ndフルアルバム『HARENTIC ZOO』を完成させた。バンド史上もっともカラフルかつバラエティに富み、メンバーの個性が濃縮還元果汁の如くギュッと凝縮された今作は、黒猫チェルシーというバンドの可能性を無限大にまで拡げる名盤。一皮も二皮も剥けた4人の音と想いの結晶は、聴く者の心と感情を自然に巻き込んでいく不思議なエネルギーに満ちている。そんな彼らの目覚しい成長の秘密を暴くべく、メンバー全員に話を訊いた。

 

 

INTERVIEW #1
「ネガティブとかポジティブとか関係なく、暗いも明るいも関係なく…聴いてワクワクするところが欲しかった」

●8/1の東京・鶯谷キネマ倶楽部(“黒猫チェルシーホテル 鶯の間” w/ The Birthday)、そして9/16の渋谷CLUB QUATTRO(秋の大感謝祭 ツアー2012)のライブを観させていただいているんですが、黒猫チェルシーのライブが最近すごく変わってきたという印象があるんです。簡単に言うと、自然な感じ。

澤:最近は新曲をたくさんやっていて、観る人が曲を知らない時期にたくさんライブをやっていて。“秋の大感謝祭 ツアー2012”とかはツアーを通してすごく練習しましたし、ライブのどこに新曲を組み込んだらいいかとかを考えたんです。だからツアーをやっていくうちに曲が身体に馴染んでいく感じがあったんですよ。ライブ全体の中での新曲の位置も含めて馴染んでいく感覚というか。

●ということは、新曲が自分たちのライブを変えたということ?

渡辺:それはあると思いますね。新曲がっていうか、今回の2ndアルバムのレコーディングを経て変わってきた部分。

●どう変わってきたんですか?

渡辺:例えば、今回は結構“歌を聴かせる”ということをひとつの軸として曲作りに向かっていったんです。そういう中で、自分たちの中で今いちばんホットなものというか、それぞれが“今俺はこれがやりたいんや”というものを集結させた、みたいな。集めして、混ぜあわせた感じのアルバムなんですよ。そういう作業を制作でやることによって、他のメンバーの最新型の気分を知れたし。

●なるほど。

渡辺:それを個々のやりたいことを、バンドに取り込んで、バンドとしての形にできた実感があって。だから今回のアルバムは本当に過程が重要やったと思うんですけど、長い時間をかけて作っていたので、その中で今のみんなの気分を確認しながらできた。そういうのがライブでも出せたんかなと。

●その話を聞いてふと思ったんですけど、最近の黒猫チェルシーのライブは4人それぞれの個性というものが、以前と比べてよりハッキリ見えるようになったのかなと。

渡辺:ああ〜。

●4人が好き勝手に個性を出したらグチャグチャになると思うんですけど、“黒猫チェルシー”というひとつの括りの中でのそれぞれの立ち位置みたいなものがより浮き彫りになっている気がする。

澤:それぞれの役割の確認みたいな作業は、レコーディングでもありましたし、ライブはライブで回数を重ねていくと、やっぱり自分たちのライブ映像を後から観たりしたときに色々と思うこともありますからね。

岡本:今回のレコーディングで今まで以上にキッチリやったこと…それこそドラムをしっかり叩くとか…がすごく自分の自信にもなっていて。だからライブでも、ちょっとしたトラブルだと動揺しなくなったんです。

●あ、なるほど。

岡本:今まではキッチリ考えて、決めたことをがんばってやる! みたいな感じだったんですけど、最近はいい意味で力が抜けて、ライブ中でもおもしろいものを見つけたらそっちに行ってみたりとか。そういうことができるようになってきた気はします。今作のレコーディングを経たのと、ライブを重ねてきたからそうなってきたのかな。

宮田:今回のアルバムで、テクニック的な部分だけでもかなり変わったという実感はありますね。

●さっきおっしゃっていましたけど、今作はかなり長い期間制作していたんですか?

澤:そうですね。去年の7月くらいから2ndアルバムに対して向けての曲作りを始めたんです。だからレコーディングの期間も含めると1年間くらい。間に『猫Pack2』(2012年3月)のリリースがありましたけど、並行して今作の制作もずっとやっていて。

渡辺:今作を作っていく中で、演奏としてシンプルでストレートなものを『猫Pack2』として出そうということになったんです。最終的には『猫Pack2』にはないカラフルさが出たというか。バラエティというよりも、もっと色鮮やかなイメージなんですよね。

●そうそう。今までの黒猫チェルシーのイメージはモノクロだったんですよ。でも今回はフルカラーになりましたよね(笑)。

一同:ハハハ(笑)。

渡辺:そういう感じ(笑)。

澤:自分らとしては曲の毛色は違いますけど、インディーズの頃からポップのつもりやったんですよ。でも今とはジャケットのイメージとかも違うし、どっちかと言うと暗い印象をみんな持ってたんちゃうかな。自分らとしては全然明るかったんですけどね(笑)。メロディとか表現の仕方に関して、今までの経験値が活きてきているというか。そういうことがわかってきた感じはあります。気持ちとしては今までと同じなんですけど。

●今作のカラフルさの要因の1つは、今までにない開けたメロディだと思うんです。そこが今までといちばん変わったところなのかなと。

4人:うんうん。

澤:やっぱりそこは考えて考えて。スタジオで合わせて作ることは今までもありましたけど、一斉にガーン! とやるんじゃなくて、例えばMacで…。

●そういえば澤くんは今作の制作期間中にMacを買ったんですよね?

澤:そうです、Mac買ったんです。Mac上でメロディを付けて、聴いてみてその場で修正していったりする作業とかも初めてだったので、そこは今まででいちばん考えたっていうか、時間をかけました。

●作品全体のイメージはあったんですか?

澤:ハッキリとしたイメージとかはわかってなかったですけど、M-7「東京」という曲が最初にあって、それも1つのきっかけになりました。今まではアップテンポな曲が多くて、ああいうメロウな曲はあまりなかったですけど、『猫Pack2』の推し曲にして。最初はフォークギターで作った「東京」をバンドで演奏することによって、自分らの意識も“別にラブソングがあってもええな”という風になったというか、自信にもなりましたね。だから曲作りに対する視界が拡がったという感じがありました。

●いい曲を作るためには、何をしてもええんやという。

渡辺:うんうん。

澤:それでいい曲が揃ったアルバムを作りたいと思ったんですね。“パンチがなくなるかもしれない”という不安もありましたけど、でも別にそれはアレンジとかでどんどん変化していくものやし。そういうことを作りながら実感した制作でした。

●だって今作はパンチだらけですもん(笑)。

渡辺:澤が言ったような意識で僕も歌詞を書いていたんですけど、“いい曲を揃える”という中で“どうパンチを効かせるか?”というテーマが自分の中にもあって。それに加えて“どう遊ぶか?”も。“いい曲を揃える”といっても、いい曲を聴きたいだけなわけでもなくて。そこにどれだけ黒猫チェルシーとしての遊び心を入れるか。“黒猫チェルシーはこういうツボがある”ということを、僕は歌詞を書く中でずっと意識していたんです。

●なるほど。

渡辺:やっぱりこっちは伝えたいこととか曲のテーマとかこだわりとかがあるんですけど、聴いたときに“楽しい”と思えるところ…それはネガティブとかポジティブとか関係なく、暗いも明るいも関係なく…聴いてワクワクするところが欲しかったというか。だからいい曲が揃っている中に、ワクワク感とかドキドキ感を入れたかった。

澤:色んな細工も入れているんですけど、それは全部ドカーン! というものに対する効果なんですよね。例えばM-1「アナアキ・イン・ザ・スクール」は、サビでアコースティックギターを入れているんですけど、それによって迫力が出ていると思うんです。本来は優しい音のはずなのに、それを入れることによって迫力も出てるし拡がりも出ている。そういうことが今作の制作ではたくさんあって。ピアノもそうですし、オルガンもそう。歌詞についても、既発曲のM-5「アナグラ」も「東京」も含めて1本筋が通っているから、色んなものが聴こえてくるけど、アルバムとしてどの曲も印象に残るっていうのは自分で聴いていても思いますね。

INTERVIEW #2
「サビってやっぱりいちばん難しいんですよね。でもそこを今回、考えて考えて、色んな音を試して作った」

●今作は前作からの地続きということもよくわかるんです。サウンド面はすごくカラフルで、聴けば反射的に身体が動くようなサウンドですけど、歌詞については「アナグラ」や「東京」に共通するような、ブルーな気分というかネガティブな視点からの曲が多くて。

渡辺:強さと弱さの両極があるものにしたくて。それはシングル『アナグラ』(2011年11月)より前、アルバム『NUDE+』(2011年6月)の頃から意識していたことなんですけど、どっちもあるというか、明るいし暗いものを作りたかった。

●はいはい。

渡辺:歌だけで曲をどうこうしたくはなかったんです。曲の中に言葉があるというか、そこには確かな感情の爆発があって。そういうことをすごくやりたかったし、自分がロックを好きな理由もそこなのかなと。僕は「泣いちゃダメなんだよ」みたいな説教臭さがある歌は嫌いなんですよね。僕が人間っぽさを感じるのは「こうなりたいけどなれない」とか「心の中には確かなものがあるはずだけど、それが何かはわからない」みたいな歌。その方が僕はすごく人間を感じるし、リスナーとしても聴きたいんです。だから自分が作る音楽もそうでありたいと思うようになって。

●なるほど。

渡辺:好きなものは黒猫チェルシーを組む前からずーっと変わってないんですけど、でもそれを実践しようとし始めたのは『NUDE+』以降なんです。インディーズでやっていた頃は、自分がその渦中に居て「わかんない」ということしか言えなかったんですよ。モヤモヤしていたりもがいている感じをずっと表現したかったんですけど、「もがいているんですよ」ということしか言えなくて。でもそれを今回のアルバムでは歌にできたと思います。

●それは歌だけじゃなくて音楽全体に関係しているような気がするんです。というのも、今作は全曲サウンドやメロディが突き抜けているじゃないですか。それは大知くんが言っていたモヤモヤを払拭させたいというベクトルになっているのかなと。それがさっき言った「今回のアルバムはパンチだらけ」という感想に繋がるんです。推し曲のタイトルなんてM-2「恋はPEACH PUNK」ですからね。もうパンチしかない(笑)。

渡辺:そうなんですよ(笑)。だからこんな真面目なことをいくら話しても、「恋はPEACH PUNK」という時点でもうこのインタビューは読まなくていいという(笑)。

●ハハハハハ(笑)。

渡辺:真面目なことを言いたいんじゃなくて、やっぱり楽しんでもらいたいですよね。

●音楽ってそういうものですからね。

渡辺:だからすごく意識したのが…「恋はPEACH PUNK」とかそうなんですけど…もう理由がよくわからないんだけど踊っちゃうみたいな。自然とウキウキするような感じが元々の曲にムードとしてあるから、歌詞もそういう感じを思っていたんですけど、ただ明るいだけなのは嫌だったんです。だからちょっと心にブルーがあるっていうか、すごく楽しそうだけど“近づきたいけど近づけない”みたいな。何も上手いこと言ってないけど心が爆発しているというか。そういう感覚が僕らは好きなんだっていうことが伝わったら、後はもう好き放題に聴いてもらっていいかな。

●「恋はPEACH PUNK」なんて「この曲はああでこうで…」と説明する以前に、聴いたら「もうええわ」ってなりますよね(笑)。

渡辺:「もうええわ」って思ってもらいたいです。僕がそう思いたいけど思えない人間なので(笑)。

●それと、今作は4人がチームに別れて作曲を行ったということですが。

澤:そうですね。2人ずつに別れてというか。やったりしましたね。

●入れ替わり立ち代りのリーグ戦で?

宮田:リーグ戦とまではいかないですけど(笑)。

渡辺:あ、でもちょっとそういうゲーム感覚的なところはありました。2人ずつに別れて「◯◯時までに1曲作ろう」みたいな感じで、“相手の2人などんなの作ってくるんやろう?”ってドキドキしながら、こっちはこっちでおもしろがりながら作ってみて、時間が来たら作った曲を聴かせ合うっていう。

●ふむふむ。

渡辺:そういうちょっとゲームっぽい感じ。だから楽しくやりました。

●なぜそういうチーム制にしたんですか?

澤:色んなやり方を試したいし、色んな可能性を見つけたかったし、新鮮な気持ちでやりたいということもあって。だから4人が同じ建物内には居ましたけど、それぞれが別れて作業をしていたこともありましたし。

渡辺:軽い感じだったんですよ。「この2人でやったらおもろ効率が良さそうや」みたいな。だからチーム制だけじゃなくて、色んなことにチャレンジしました。「1回やってみよ」っていう。

●そういうことを試みようとしたのは、今までに無いもの、新しいものを作りたいという意識が強かったから?

澤:そうですね。そのときにある曲みたいだけじゃなくて、まだ出ていないものを色んな方法で絞り出していくっていうか。

●例えば「アナアキ・イン・ザ・スクール」は澤くんとがっちゃんのチームで作曲をしたとのことですが、この曲はサビメロの突き抜け具合が新しくて。メロディが開いてますよね。

澤:この曲のサビのメロディは今回でいちばん悩んだかもしれないですね。

宮田:さっき澤が言っていたことにも関係しますけど、この曲のサビのアコギとか、シンバル1つにしてもベースのオクターブ1つにしても、全部をサビのメロディが活きるように配置した、みたいなところもあります。それは今回、一貫して全部の曲でやっていて。音源で聴いたときに、それが大きく影響していると思います。…まあライブで聴いたときはわかんないですけど(笑)。

●それあかんやん(笑)。

一同:ハハハハ(笑)。

●「アナアキ・イン・ザ・スクール」はサビのメロディで悩んだということですが、色んなパターンのメロディがあったということ?

澤:そうです。慌ただしくてもあれやし、単に伸び伸びしているだけでもあれやし。サビってやっぱりいちばん難しいんですよね。でもそこを今回、考えて考えて、色んな音を試して作ったので、全部サビがいいなと思いますね。満足度が高い。

●うん、どの曲もサビが際立ってますよね。その中でも最もポップと言えるのが「恋はPEACH PUNK」だと思うんです。この曲はさっきも言いましたけど、有無を言わさないほどのエネルギーがあって。この曲はがっちゃん作曲とのことですが、なぜこういう曲ができたんですか?

宮田:この曲は、タイトルとか歌詞がかなりイメージを表していると思うんですよね。最初にタイトルを決めたわけではないんですけど、このタイトルに決まって歌詞が付いたことによってよりその方向に振り切れた感じがあります。

●確かに突き抜けたタイトルだし、歌詞ですね(笑)。

宮田:もともとはちょっと古いディスコチューンみたいな感じで、僕のイメージもそんな感じだったんですよ。六本木みたいな。

●六本木? マハラジャ?

宮田:首都高とオープンカーと観覧車っていうか、AORみたいな。

●ああ、そういう感じ(笑)。

宮田:マティーニとか。

●なんか古いな(笑)。

宮田:それを具現化してみたら思ったよりもおもしろい曲ができて、それを更におもしろくする歌詞とタイトルができたので、相乗効果で違和感のあるいい曲になったなと。

●そういうところに抵抗はなかったんですか? それよりも、いい曲を作りたいとか新しいものを作りたいという意識の方が強かった?

澤:そうですね。突き抜けていれば突き抜けているほどいいと思いますから。中途半端にやるんじゃないくて。

●うんうん。

渡辺:今まではがっちゃんが作ってきた曲を聴いて、前で言うと「Hey ライダー」(アルバム『NUDE+』収録)とか…あ、「Hey ライダー」もがっちゃんは「六本木みたいな」と言っていたんですけど…。

●六本木どんなイメージやねん!

宮田:ハハハハハハ(笑)。

渡辺:「Hey ライダー」は僕、六本木に1人で行って歌詞を書いたんです。

一同:(爆笑)。

渡辺:がっちゃんが言う六本木とはどういうものなんかな? と思って、誤解がないように確かめに行ったんですけど。バー行って書いたんです。

●ロケハンしたんですね。

渡辺:それで今回もがっちゃんは「恋はPEACH PUNK」について、「六本木の盛り上がっている感じ」とか「ディスコっぽい感じ」というのは言っていて、そのイメージを踏襲しつつ、僕は僕で曲とは別に歌詞をいっぱい書いていたんです。そこで「恋はPEACH PUNK」の曲オケが上がってきて、“この曲にはこの歌詞が合うんちゃうか?”と思ってつけていったんです。そしたらさっきがっちゃんが言っていた相乗効果というか、予期せぬ突き抜け感が出たんですよね。「こういうイメージで歌詞を作ってくれ」と言われた枠の中で考えるよりも、僕がいいと思って歌詞だけ書いていたものとがっちゃんの六本木が合わさったときに化学反応が起きたんやと思います。

●なるほど。

渡辺:だから最初のイメージからはかなりピョーン! ってイメージがジャンプした曲になったと思います。

●うんうん。

渡辺:僕はどんな雰囲気の曲になるかわからへんけど、「恋はPEACH PUNK」みたいな歌詞は書いていて。使うかどうかもわからんけどストックとしてあった中で“この曲だったらおもろく聴こえるんちゃうか”って。今回のアルバムはそういう化学反応がいっぱい起こりました。それは「アナアキ・イン・ザ・スクール」もそうで、僕が歌詞を書いていたものがあって、澤が「曲ができた」と持ってきたものに乗せたんです。

●そうだったんですね。単純に曲が歌詞を呼んだというわけではないと。

渡辺:もちろん曲に呼ばれて選んだんですけどね。でもその方が、デタラメではなくてより自分の言葉に近い感じで歌詞が書けるんです。

●なるほどね。

渡辺:だから発見も多かったし、どんどん拡がっていく感覚がありましたね。

INTERVIEW #3
「ドキュメントというわけじゃないけど、言いたかったけど言えなかったこととかが形にできたというか、にじみ出ている」

●資料によると、M-11「ノーマン・ノークライ」は歌詞が先にあったとのことですが。

渡辺:僕と啓ちゃん(岡本)とがっちゃんの3人でスタジオに入ったことがあったんですけど、僕が歌詞を見せて、2人が「こういう歌詞だったらこれが合うんちゃうか」っていう感じでトラックに乗せたんです。

●歌詞とは別にトラックがあったんですか?

岡本:歌詞を見せてもらって「この歌詞にはこのトラックをこれくらいのテンポ感にしてやろうか」って言うてたよね。

宮田:僕と啓ちゃん2人で作ったネタが大量にあったんですよ。ネタというか、リズムだけのものとか、「これは何のための音源なんやろ?」みたいなものが。(笑)で、渡辺が持ってきた歌詞に合わせたんです。ほぼヒップホップみたいな感じでリズムと歌だけの曲を作って。それで3曲くらい作ったよな?

渡辺:うん。M-8「ZANPANジャングル」もそうやった。

●あ、「ZANPANジャングル」もそうなんですか。これも振り切れている曲ですよね。

渡辺:「ZANPANジャングル」はがっちゃんと啓ちゃんが作った「これおもろいやろ」っていうリズムに、僕が掛け声だけどんどん入れていったんですよ。ジャングル感で。

●この曲は六本木感じゃなくてジャングル感なのか。

渡辺:だからヒップホップっぽかったよね。

宮田:最初の入り口として、僕と啓ちゃん2人のリズムで遊んでいるところに、竜ちゃん(澤)がかっこいいギターのソロやリフを考えて、渡辺は刺さる歌詞を作るっていうところを全部ごっちゃにしようっていう。

●全員が120%を出して作ろうと。

宮田:取っかかりはそういう感じでスタートして、結果こういう曲になりました。

●この曲もそうですけど、今作のビートはバラエティに富んでいますよね。そのビートはおそらくメンバーそれぞれが好きだったりルーツとして持っていたものでしょうけど、自分たちの表現として上手く昇華できている感じがあって。

渡辺:2人(宮田と岡本)は特にそういう感じがあったと思います。リズムに関しては、今まで隠していたのかもしれないけどやりたくて仕方がなかったものを出したんだと思います。

宮田:うん、それもあるし、曲や歌詞がリズムを呼んだというところもありますね。それに、一般の人はまずそういう聴き方をしないじゃないですか。

●そういう聴き方をしないというと?

宮田:「ここの付点休符ヤバい!」とか思わないですよね。

渡辺:付点休符って(笑)。

宮田:普通の人はメロディとか歌詞にまず興味がいくわけで。でも僕らみたいなリズムパートにしかできないようなことなのかなと思いますし、そこをやりたいなと思ったんです。

岡本:音楽の楽しみ方として僕はそういう聴き方をするんですよ。「ここのゴーストノートはヤバいな!」とか、そういうところを自分たちの音楽でやらへん理由はないので、今回は思いっ切りやろうと。

●それに今作はギターもすごく耳に残るんですよね。M-9「雲の列車」とかは特にそうで、イントロのギターを聴いただけでブワッと曲の中に引き込まれる。

渡辺:ギターだけで「もういいやん」みたいな感じになりますよね。

●サビのメロディの強さに通じるキャッチーさがあると思うんですが、ギターリフはどうやって作るんですか?

澤:うーん、メロディと同じような感覚ですかね。「雲の列車」のギターは、曲を作っている段階から“祭りっぽいけど哀愁感が漂っていて”というイメージがあって、メロディと同時に出てきたんです。

●「雲の列車」はめっちゃいい曲ですよね。

渡辺&澤:いいっすよね(笑)。

●なんというか、聴いたときに感じるものの量がすごく多いんです。

宮田:僕はこの曲が好きで、アルバムの中でもいちばんよく聴いているんですよ。それで思ったのが、この曲は水とかお茶とかに近いんじゃないかなと。

●水とかお茶?

宮田:コーラとかコーヒーとかじゃない感じ。自分の感情をヒュッと透明にして入り込みやすい曲というか。例えば夜にお酒飲んで盛り上がっているときは「恋はPEACH PUNK」とか聴きたいですけど、普段の日常ではなかなか「恋はPEACH PUNK」の気持ちになれないじゃないですか(笑)。そういうことなんかなと。

●確かにその感覚はわかる。水とかお茶っぽい。

渡辺:わかりやすい例えやな(笑)。

●あと、最後のM-12「平成ストレンジャー」には、黒猫チェルシーの意志がすごく込められていますよね。こういうことを歌っている曲が最後に入っているのがいいなと。メロディもいいし、何よりバンドとしてのメッセージを感じる。

渡辺:歌っていていちばん気持ちいい歌かもしれないです。演奏の隙間が気持ちよくて、歌っていて楽しい。あと、言葉も気持ちいい。口当たりがいいというか。

●口当たりがいいって(笑)。

渡辺:カラオケで歌ってみたらわかると思いますので歌ってみてください(笑)。口当たりがいいんです。言葉が口から出ていった感じが気持ちいいんです。唇が気持ちいい。

●唇が気持ちいいのか。

渡辺:あと、僕が居て、周りが居て、思っていることを歌っているというか。いちばん僕が伝えたいとか残したいと思っていることを、ユーモラスにできた曲なのかなと思います。一見、僕の歌じゃないように聴こえるっていうか、自分でしか書けない歌詞だけどファンタジー感があるというか。やっぱりドキュメント過ぎたら聴いたときにちょっと醒めるじゃないですか。めっちゃドキュメントというわけじゃないけど、言いたかったけど言えなかったこととかが形にできたというか、にじみ出ているというか。

●『NUDE+』はまさに裸になってさらけ出して、人間味や感情が浮き彫りになった作品でしたけど、「平成ストレンジャー」がそこを継いでいるんですよね。黒猫チェルシーが見えるし、カラフルなアルバムの最後に入ることによって、次に繋がっていく感じもする。

渡辺:そうですね。この曲が最後にあることによって、また次にバーン! と開いていくっていうか。

●今作ができたことによってバンドの可能性を今まで以上に感じるんですよね。

渡辺:自分らがやっていてドキドキワクワクするものができたし、今後もそういう予感がしています。今後も常にそのときの全員の120%で作るだろうなって。

interview:Takeshi.Yamanaka

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