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オトドケモノ

インディーズを極める旅、第2章。

Print2010年、千葉大生3人が結成したバンド“オトドケモノ”。インディペンデントを貫く活動スタンスで、前作『テーマソング』ではクラウドファンディングサービス“CAMPFIRE”を利用。見事に目標額を達成し、音源制作からプロモーションを自らの手で行うという、バンドシーンにおける特異点的な存在となっている。この春、バンドマンと会社員の「二足のわらじを履く」と公言し、サラリーマンになった彼ら。今回はVo./A.G. “しん”とKey./Prog. “をいけ”に今の心境を語ってもらった。

 

 

●プロフィールに「Vo.しんが高校の同級生にラブレターで告白して結成」とありますけど、これは?

しん:高校を卒業する直前に僕が作ったオリジナル曲のデモCDと「こういう曲を演るバンドを組みたい、だから一緒にやってくれ」っていう手紙を添えて、メンバーの家に送ったんです。

●なぜ手紙でアプローチしようと思ったんですか?

しん:みんなでスタジオに入ってみて「気が合うね、バンド始めようか?」みたいなスタートはままあると思うんですけど、ちゃんと正式に始めたかったというか。そういう気持ちが一番伝わるのはどういうアプローチなのかと考えて、なんとなく誘ってみるより、手紙でも出せば相手も「あ、これは本気かな?」って感じるだろうと思ったんです。毎日学校でも会っていたんですけど、あえて手紙としてポストに投函しました。

●受け手として、をいけくんはどう思いました?

をいけ:正直ビックリしました。僕は「バンドやるぜ!!」みたいな人間じゃなかったから、それをもらった時に思ったことは「なんで自分なんだろうな?」って。

しん:ずっと仲は良かったですけど、音楽で接点があったわけじゃないんですよ。をいけがピアノやギターが弾けることは知っていて、「何か一緒にできるな」って直感的に思ったんです。

●しんくんはそういう伝え方自体にこだわりを持っている?

しん:すごくこだわりを持っていると思います。

●前作『テーマソング』も宛名を書いて贈れるようなパッケージだったり、今回の『夢に敵えば/終電を待つ』もそういう仕掛けが用意してあったりして、一貫して伝え方に対するこだわりを感じるんです。

しん:ラブソングや応援歌だったり、伝えたいことっていうのはどこのアーティストもあまり変わらないと思うんですよ。それをどう伝えるかっていうのがそのバンドのオリジナリティーであると思うので。前提として何を伝えるかっていうのは大事なところなんですけど、どう伝えるかっていう部分にすごく気持ちを注いでいます。作品についても人に贈ることができるとか、とっておけるとか。その作品自体が誰かとのコミュニケーションツールになれば良いなと思っていて。CDっていう現物があるっていう強みはそこじゃないかなと思っています。

●歌詞にも一貫した伝え方というか、等身大の自分たちを全面に出している印象があります。

しん:今起こっていることをどれだけ緻密に描写できるかっていうところにこだわっているんです。例えば大学生の頃に、今しか書けない曲があると思って「エントリー」という就職活動の曲を書いたんですよね。「みんな辛いけど、がんばれ!」っていうメッセージを、どう日常の場面に落とし込んだら一番伝わるかを考えて歌詞を紡いだんです。全くその経験がなくても、描写がリアルだったことによって、そのシーンが自分のイメージの中で浮かんだり、伝わることもあると思うんですよ。そういうディテールの部分こそメッセージになりうるというか。

●今作も「より現実的に」という部分を感じました。

しん:今作はアンセムとして作ったんですけど、自分の弱い部分を叱咤激励するために書いているっていう部分もあって。学生から社会人になるっていう、環境がガラッと変わる時期に書いたので、どうしてもそういうメッセージになったんです。自分の気持ちが動いた瞬間っていう体験を曲にしました。

●心境の変化があったと。

しん:今作は僕らの中で転機になる楽曲でしたね。今回から新たな試みとして、初めに企画書っていうものを作ったんです。

●企画書?

しん:今までは僕が弾き語りで曲を持って行って、そこからみんなで作っていたんですけど。今回はまだメロディも歌詞もない時に、僕が「こんな曲を書きたい」っていうコンセプトだけを持って行ったんです。それを、をいけが音にして、そこに僕が歌詞を乗せていくっていう。伝えたいことや、曲を聴いたお客さんに「こういうことを感じてほしい」というところを企画書に落とし込んで、その上で曲を作ってみようっていう試みをしたんです。それで初めてできた2曲が入っています。

●をいけくんとしてはそれをどう感じました?

をいけ:その方が作りやすかったです。僕はじっくり家で3日くらい寝かして「大丈夫」って思った曲を出したい質なんですよ。だからコンセプトをもらって、話し合いをしつつ作る方がすごく性に合っています。

●閃きのクリエイター脳っていうよりも、磨きあげていく職人脳に近いというか。

をいけ:そうだと思います。

しん:直感では作っていないですね。めっちゃ左脳で作っていると思います。

●企画書の話や活動スタンスを聞いていると、バンドマンというより起業家と話しているような気分になりますね(笑)。

しん:実際バンドのことを小さい会社だと思っているんです。例えば支出に対して、幾ら回収できたか、月ごとの収支表をりゅうがエクセルで管理しています。

をいけ:りゅうが総務(スケジュール管理、経理)で、僕が研究開発と製造(作曲、アレンジ)。

しん:僕は企画、運営、営業(曲の構想、フロントマン、MC)みたいな(笑)。

●しっかり分業していると。でも何故あえて音楽で表現することを選んだんですか?

しん:音楽をアートというよりかは気持ちを伝えるためのコミュニケーションツール、メソッドだと思っているんです。

●伝えるための手段として最適ということ?

しん:会話やメールをしたり、ブログやSNSを書いたり、あるいはNPO活動をするとか。メッセージを伝える手段はいろいろあると思うんですけど。僕は音楽に乗せると本当に思っていることが言える気がするんです。だから、音楽はリスナーであったり、誰かと繋がるためのハブだと思っています。今まで自分が誰かに何かを伝えたいと思った時は音楽で伝えたし、結果的に一番伝わった実感があるのが音楽なんです。

Interview:馬渡司

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