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彼女 in the display

様々なジャンルが反響し合い生まれたJ-ROCKの新機軸

AP_Kanojo福岡から世界へ向け、2010年8月に始動した5人組バンド・彼女 in the display。一目見たら覚えてしまう、その奇妙な名前が体現しているように彼らが鳴らす音は強力なオリジナリティとフックを兼ね備えている。過去に会場限定で発売した3枚のEPはトータルで3千枚以上のセールスを記録し、昨年7月には満を持して1stフルベストアルバム『GOLD EXPERIENCE』をリリース。それに続く今回の新作EP『ECHOES』はエモでもメタルでもラウドでもハードコアでもスクリーモでもないJ-ROCKの新機軸として、今最もシーンに待望される音かもしれない。

進化し続けていくためには、変わらないといけない。僕らはずっと変わり続けていくけど、自分たちらしさは常にあるから

●アーティスト写真が“ジョジョ立ち”なのはなぜ?

海:僕らはアニメがすごく好きで、『ジョジョの奇妙な冒険(以下、ジョジョ)』も昔から大好きだったんですよ。最初はアー写も真面目な感じで撮っていたんですけど、何か「らしくないね」という話になって。冗談でジョジョ立ちをして撮ってみたら、カメラマンから「めちゃくちゃ良いね。これで行こう」と言われたんです。そこからはもう毎回、ジョジョ立ちじゃないと…っていうくらいで。

亮介:定着しましたね。今回のアー写を撮る時も色んなポーズを試したんですけど、最終的にはジョジョ立ちでまとまりました(笑)。

●意外と実際にやるのは大変そうですが…。

亮介:普段は使わない筋肉を使うので、大変です。3カットくらい撮ったら、もうバテバテですね(笑)。

●それでもやるところに『ジョジョ』愛が出ている。

海:やっぱり好きですね。ツアー中は漫画喫茶によく行くので、そこでよく読むんですよ。『ジョジョ』って「人間は素晴らしい」と謳っている漫画なので、読むとすごく元気が出るんです。

●メンバー全員がサブカルチャー的なものが好きなんですよね?

海:アニメ、ゲーム、漫画はみんな好きですね。元々は『モンスターハンター』が流行っていた時に、メンバーが僕の家に集まって一緒によくやっていたんです。そしたらすごくチームワークが良かったので、「バンドやろうか?」っていうのが始まりでした。

●え、『モンハン』が結成のキッカケ?

海:そのくらいのノリでしたね。たまたま全員、やっている楽器も違っていたっていう。Ba.松永以外はみんな高校が一緒で、先輩後輩なんです。

●バンドを始めるにあたって、サウンドのイメージはあったんですか?

海:「アニメのオープニングテーマっぽいのをやりたいね」と言っていました。でも最初はハードコアっぽい、ヘヴィな曲ばかりやっていたんですよ。

●ルーツになっているのは海外のハードコア?

海:メンバー全員、ルーツが違うんですよ。僕は中学校の時にヴィジュアル系がめちゃくちゃ好きで、高校に上がってからメタルにハマって。そこでメタルコアとかも聴くようになってから、初めてP.T.P(Pay money To my Pain)を知ったんです。「日本にもこんなバンドがいるんだ!」と思って、すごくハマりましたね。

亮介:僕はバンドを始めてからラウド系のバンドも聴くようになりましたね。ウチの父親はハードロックが好きで自分も子どもの頃からそういう音楽には触れていたので、ラウド系の音にもスッと入れたのかな。

●ラウド系は共通して聴いているんですね。

海:そうですね。そこから次第にキャッチーなメロディのものが好きになっていって。元々、「Aメロ・Bメロはすごく重たいけど、サビになるとパッと開けるような美メロの曲が良いね」という話はしていたんですよ。あと、僕は中学校の時にRADWIMPSがすごく好きで、彼らのスコアを見た時に「RADWIMPSは“RADWIMPS”というジャンルを作る」みたいなことが書いてあったんです。それがすごくカッコ良いなと思って、自分もそういうことがやりたいと思いましたね。

●自分たち独自の音を作るというか。

海:曲も「Aメロ〜Bメロ〜サビ」の繰り返しじゃなくて、「Aメロ〜Bメロ〜サビ〜Cメロ〜Dメロ」みたいな感じで作ったりして。だから1曲の中で、1回しか出てこないメロディとかもあったりするんですよ。

●歌も節回しがすごく独特な感じがします。

海:そこはもう亮介のセンスですね。

亮介:バックの音を流れ始めたら、勝手に頭の中でメロディが流れ出てくるような感覚なんです。セッションみたいな感じで音に合わせて歌って、その中でみんなが「良い」と言ってくれるものと自分が良いなと思うものを紡ぎ合わせて作っていく感じですね。特に最初から「こうしよう」みたいなものはないんですよ。色んな音楽を聴くようにはしているんですけど、歌に関しては特にルーツみたいなものはないと思います。

●自然と今のスタイルになったと。

海:僕の中では“超・現代っぽい尾崎豊”みたいな感じがしますけどね。もし尾崎豊が今生きていたら、こんな歌詞を書くんじゃないかなっていう。

●尾崎豊も好きなんですか?

亮介:すごく好きで、よく聴いていました。

海:メンバーはみんな、昔のJ-POPがすごく好きで。

●80年代後半〜90年代前半頃のJ-POPですよね。

亮介:あの頃のメロディや歌詞はグッときますね。

海:まるで全部がサビくらいの感じで、すごくパンチがあるんですよ。

●そういうところからの影響も楽曲に出ている?

亮介:でも曲はセクションごとにイメージが違うので、「ここはちょっと年代古めのメロディだけど、ここは今風のメロディで」という感じだったりもしますね。

●1つの時代やジャンルには縛られないと。曲作りは全員のセッションから?

海:誰か1人がリフやメロディを持ってきたりというのはありますけど、基本的には全員で作っていますね。

亮介:誰かが持ってきたものをキッカケに、そこから広げていく感じです。

●色んなメンバーのアイデアが入り混じって、曲ができていく。

海:曲作りにはすごくこだわっていて。最初にあった1つのセクションをまるまる消したり、2曲を合体させて1曲にしたりとか、かなりの無茶をしています(笑)。でもそこで良い具合に化学反応が起こっているんじゃないかな。あと、たとえばAメロは「白い家に朝日が降り注いでいる感じで」とか、Bメロは「燃えさかる火の中でやろうぜ」みたいなことをよく言うんですよ。僕が「それじゃねぇよ! おまえは丘の上に立って弾け!」とか言うと、G.吉田が「丘の上、キタ!」となったり…。2人にしかわからない会話をしながらやっています(笑)。

●ハハハ(笑)。情景やイメージで伝えている。

海:そういう感じです。何のテーマもないよりは「このアニメの第〜話を作ろう」とか、そういうほうがやりやすいから。

亮介:そっちのほうがイメージをみんなでシェアできるので、音がまとまる気がして。

●それって、アニメや漫画という趣味を共有しているからこそできることですよね?

海:それはそうですね。曲作りに入る前はアニメを観る期間を設けて、みんなで観たりもしていて。今回はわりとそうやって作るパターンが多かったかな。色んなアニメのイメージを混ぜているので、1曲ごとでどれか1つの作品を特定するのは難しいんですけど…。

●ちなみにM-3「MAGI」は、『マギ』をイメージしていたりする…?

海:これは『マギ』からです(笑)。

●そのままじゃないですか!

一同:ハハハ(笑)。

海:この曲は歌詞もメロディもない状態で原曲を聴いた時に、「これ『マギ』っぽいね」という話になって。それでバックの音を『マギ』っぽくしていったら、亮介が書いてきた歌詞は、旅がテーマだったんですよ。ツアーに出ていた時に感じたことを亮介は書いていたので、それもまた『マギ』っぽかったんですよね。

●この曲の“人は彷徨う事でしか生きれない愚か者さ”という歌詞はアニメのセリフっぽいと思いました。

亮介:自分自身が思っていることではあるんですけど、確かにそういう感じもしますね(笑)。無意識にアニメとか漫画の影響が出ちゃっているんだと思います。

●M-4「Black Hawk Down act.3」は同名の映画からイメージして作ったんでしょうか?

海:僕はあの映画がすごく好きで…、でも歌詞は映画の内容と全然関係ないんですけどね(笑)。

亮介:僕はその映画を観てもいないです(笑)。だから、歌詞はあんまりリンクしていないですね。

●歌詞の内容というよりも、曲のイメージというか。

海:そうですね。楽曲の構成として“黒から白”へ移行するようなものを作ろうという話になった時に、ちょうど吉田と僕はその映画を観ていたので「こういう感じで行こうぜ」となったんだと思います。

●この曲は英詞の割合が多いですよね?

海:これだけは初期に作った曲なんですよ。ラウド系がすごく好きだった頃に作ったからでしょうね。

亮介:初期はほとんど英詞だったんです。でも英語が下手だったので、「日本語のほうが良いんじゃない?」という結論に達して(笑)。それで日本語詞に切り替えました。そっちのほうが自分としても歌いやすかったし、ライブでもフロアへの伝わり方が良かったから。今ではすっかり日本語詞がメインですね。

●歌詞にはメッセージ性も感じられます。

海:歌詞には、亮介がその時に思っていることがすごく出ているんですよ。

亮介:だからリリースするタイミングによって、(歌詞の内容は)今後も変わっていくと思います。ずっと同じことを思っているわけじゃないから。普段から言葉を書き貯めたりもしていて、その中からリンクするものを色々とつなぎ合わせたりもしますね。

●“すれ違う人は皆敵に見えた”(M-2「ECHOES」)時も実際にあったりする?

亮介:誰でも生まれてから死ぬまでに“自分”という1人のプレイヤーしか操作できないわけじゃないですか。それなのに、僕は周りの人のことがすごく気になった時期があって。そのことばかり考えすぎて、すごく沈んじゃったんですよ…。その時は町を歩いていても、みんなが敵に見えちゃった瞬間があったんです。そういうものをずっと書き貯めていますね。

●これが今回のタイトル曲ですが。

海:“綺麗な空が羨ましかった”という歌詞のメロディを聴いた時に、「この曲はヤバいぞ」と僕は思いましたね。この曲はサクッとできました。

亮介:全員がハマったら、一瞬でできるんですよ。

●だからこそリード曲にもなったと。

海:最初に作った時から、これがリード曲だなと思っていましたね。メロディと歌詞が圧倒的だったから。僕は1枚の作品を作る上では、リード曲から作らないと成り立たないと思っているんです。

●とはいえ、M-1「Determination」もリード曲になっていてもおかしくない気がします。

海:そうなんですよ。この曲もすごく自信があるので、悩みましたね。リズムはむちゃくちゃなんですけど…(笑)。ベースもピアノもボーカルも全部リズムの取り方が違うので「大丈夫かな?」と思ったけど、それを何とか成り立たせていくのが僕らのスタイルというか。

●それでも曲としてはちゃんと形をなしている。

海:それがすごく良いんだろうなと思いますね。メンバーそれぞれの個性をそのまま曲にガッと入れちゃう感じなんです。

●だからこそ、他に似ているものがない音になっているんでしょうね。

亮介:僕らは対バンのジャンルも全然定まっていないんです。ロックもあればラウドもあるし、ハードコアもあったりして。

海:最初はバンド名や見た目のイメージで、ラウド系のバンドとよくブッキングされていたんですよ。別に嫌なわけじゃないけど、そこにずっといたくはなくて。あえて「歌モノのイベントに入れて下さい」と言ったりして、自分たちから発信することで対バンも変えていきました。だから一番影響を受けている僕らのルーツといえば、対バンなんですよ。そこからの影響をリアルタイムで一番受けていますね。

●今も影響を受け続けているというのは、プロフィールにある“変わり続けてきたからこそ変わらずに生きてきた”という言葉にも通じますよね。

海:ニール・ヤングの言葉なんですけど、それが僕らの信念ですね。昔に比べると僕らの楽曲は全然違ったりするので、それによって離れていく人もいるんですよ。でも進化し続けていくためには、変わらないといけない。だから誰かに「変わったね」と言われても、それは「おまえが止まっているだけだ」って思うんです。僕らはずっと変わり続けていくけど、自分たちらしさは常にあるから。

亮介:そういうものでありたいなと思っています。

Interview:IMAI

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