音楽メディア・フリーマガジン

摩天楼オペラ

すべての苦しみと痛みを過去のものにして 彼らは栄光に満たされた未来を掴み取る

PH_matenro_JL185メトロポリスが持つ“モダン・エッジ”なドライさと、美しく絡み合うクラシカルでシンフォニックな旋律を融合させたロックバンド・摩天楼オペラが、結成5年を経て2ndアルバム『喝采と激情のグロリア』を完成させた。彼らは自らの足で一歩一歩進んできた想いを解き放ち、自らの意志と衝動と想いを手に、唯一無二の音楽を作り上げた。壮大なサウンドスケープ、暴れ狂う激しい衝動、そして生々しい人間の生命力を描いた今作。アルバムに込めた想いと今作に至るまでの心境の変化、そして4/24から始まるツアーについてVo.苑にじっくりと訊いた。

INTERVIEW #1
「ライブ会場のあの高まりとか熱気とか、そういったものがすごく生命力に溢れているなって思ったんです。それをなんとか曲にしたいなと」

●3/6にリリースされた2ndアルバム『喝采と激情のグロリア』ですが、昨年10月にリリースしたシングル『GLORIA』の時点で、今作の“喝采と激情のグロリア”というテーマを決めたらしいですね。

苑:半年間という長いスパンで「合唱をやっていこう」ということを考えたとき、何かテーマを掲げた方がおもしろいし、ストーリー性も出てくるし、リスナーとか色んな人を巻き込んでいきたいと思って、まず“喝采と激情のグロリア”というテーマを決めたんです。

●今作にはアルバムタイトルと同じく「喝采と激情のグロリア」という曲も収録されていますが、アルバムタイトルでも曲名でもなく、まずテーマとして“喝采と激情のグロリア”が出てきたんですね。

苑:そうですね。言葉が最初でした。

●いつもそういう作り方をしているんですか?

苑:いや、今回が初めてですね。

●合唱というだけではなくて、コンセプトを最初に組み立てていこうと。

苑:説得力のあるものにしたかったんです。それぞれ単発でシングル、シングル、アルバムという感じで出すのではなく、三部作で“喝采と激情のグロリア”になるんだよっていうストーリーにしたかったんです。

●なるほど。おそらく“喝采と激情のグロリア”というテーマと合唱という手法に関係してくると思うんですけど、今作のライナーノーツに苑さんが「僕たちが行き着いたのは、音楽から生まれる人間の生命力」と書いておられるように、今作は生命力が溢れている。個人的には、その“音楽が持つ生命力”は、ライブを主戦場にしているバンドからよく感じるという実感がありまして。

苑:そうですね。でも僕は、もともと“音楽が生命力を持っている”という明確な自覚があったわけではないんです。

●明確に自覚していたわけではなかったんですか。

苑:はい。ただ、昔から“音楽には力がある”とはずっと思っていたし、感じてはいたんです。僕も音楽に助けられたし、それでバンドをやり始めたし。でも、今を生きている人間の力みたいなものをダイレクトに感じたのは、やっぱりライブだったんです。僕たちが剥き出しにしてどんどん発散していくというか、そういった内面のものを音楽で出していく中で、オーディエンスがそれに呼応するように発散して、どんどん返ってくるんですよね。

●はい。

苑:そこで、ライブ会場のあの高まりとか熱気とか、そういったものがすごく生命力に溢れているなって思ったんです。それをなんとか曲にしたいなと。

●摩天楼オペラは結成6年目になりますが、そういった音楽の生命力を自覚したのはいつ頃の話ですか?

苑:うーん…シングル『Helios』(2011年7月)を出した頃だから…3.11以降からだんだん感じ始めて、前作のアルバム『Justice』(2012年3月)のツアー中にはっきりと“今度は生命力の溢れた作品を作りたい”という確信を得ました。

●きっかけは3.11だったと。

苑:今から思えばそうかもしれないですね。

●それは個人的にもすごく思うところがあるんです。ライブハウスってすごく特殊な場所だと思うんですが、3.11以降、世の中に溢れている情報や今まで当たり前だと思っていたことに対する信頼性がなくなってしまった状況になっていたじゃないですか。でもライブハウスに行くと、全員が純粋になっていたんです。そこに1つの真実があるような気がして。

苑:そうなんですよ。やっぱり“生”のダイレクト感がすごいですよね。ステージの上に居てもそれはすごく感じたことで。僕たちのライブは前から、お客さんがすごく声を出したり歌ったりすることもあったんですけど、同じ会場、同じ時間、同じときに同じ歌をみんなが歌うって改めてすごいことだなと思って。

●はいはい。

苑:そういう“生”のぶつかり合いが音楽ならできると思ったんです。だから最初に言ったように、今回のタイミングで「合唱をやっていこう」というアイディアを出したんです。今までのライブでもそういうことはあったけど、今度はちゃんと意識して曲としてやっていこうと。

●それは今までのお客さんとの積み重ねがあったからこその到達点というか、たくさんの時間と場所を共有してきたからこそできることですよね。

苑:そうなんです。いちおう楽曲上では合唱を入れているんですけど、やっぱりライブ会場で更に大きな合唱をオーディエンスと一緒に歌ったときに初めて今作の曲たちが完成すると思っているんです。

INTERVIEW#2
「昔は“ボロが出ないように”とか気にしていた部分もあったんです。でもそういうのってつまんないですよね」

●摩天楼オペラは基本的にメンバー全員でセッションをしながら曲を作っていくと以前のインタビューでおっしゃってしましたが、“喝采と激情のグロリア”というテーマをまず決めた上での曲の作り方や歌詞の書き方というのは、今までの曲作りと違ったんですか?

苑:うーん、どうだろう。僕は昔からリスナーとしても、合唱が入っている音楽が好きだったんですよ。ヘヴィメタルだったりとか。だから合唱が合うメロディっていうのはなんとなくイメージがあったんです。どんな曲でも合唱が合うということはないと思うんですよね。

●確かに。

苑:おそらく合唱が合うメロディというのは、シンプルで、メロディの幅が長いというか、歌詞が細かくないというか。極端に言えば「みんなのうた」みたいな。

●譜割りもあまり複雑ではなく。

苑:はい。そういうイメージはなんとなくわかっていたので、「こういう曲をやるんだよ」ってメンバーに提示したとき、すぐにみんなも納得してくれたんです。「確かにこれは合唱の曲だね」って。

●ということは、テーマがはっきりとしていた分、曲作りはやりやすかった?

苑:やりやすかったですね。まず、合唱ありきのメロディラインとコード進行を僕から提示したんです。そこでキーボードの彩雨とかは「あ、なるほど。これは合唱だね。じゃあ僕が邪魔をしちゃいけないから、いつもとは違うアプローチでキーボードを入れるね」みたいな感じで、メンバー個々が納得してくれた上で曲作りが進んでいったんです。今作の中で最初に作ったのはM-2「GLORIA」だったんですけど、そのときに「摩天楼オペラで合唱をやるのはこういう感じなんだ」って、僕たち自身が認識できたんです。

●身体でわかったというか。

苑:はい。“こういうことなんだ”っていうのがまずそこで筋が1本通ったので、そこからメンバー個々が「じゃあ俺はこういう合唱の曲を持ってきたよ」みたいな感じで、M-4「悪魔の翼」だったりM-8「SWORD」だったり、色んなパターンの合唱の曲を持ってきてくれたんです。

●イメージを掴んだ後は早かったと。

苑:そうですね。

●ちなみに歌詞のテーマなんですが、収録曲に共通する印象として、“生きていくこと”が大前提になっている気がしたんです。今をどう生きていて、これからどう生きたいか。

苑:確かにそうだと思います。今を生きている僕が感じている生き方だったりを歌詞にしていて。今回の色んな曲で、不器用は不器用なりにストレートに歌詞を書いたんですよ。このアルバムは3/6にリリースしたので最近は反応を頂いたりもしているんですけど、「私もそう思います」とか「そういう解釈の仕方があるんですね」とか「この歌詞を読んで考え方が変わって、明日からまたがんばれます」みたいなことを言われたり。

●それは嬉しいですね。

苑:すごく嬉しいです。そういう反応があるから、僕が生きていく中で感じた楽しいことや辛いことをストレートに書いてよかったなと思ってます。

●かなりさらけ出していますよね。歌詞はお酒を飲みながら書くんでしたっけ?

苑:基本的にそうです(笑)。ベロベロになるまでは飲まないですけど、普段まとっている殻みたいなものを全部取っ払ってから書くようにしています。

●それは意識的にそうしているんですか?

苑:そうですね。たぶん、お酒を飲まずに書いたらどこかかっこつけた歌詞になると思うんです。それを、お酒を飲むことによって殻を取っ払ったら、奥底からどんどん出てくるんです。“本当はいつもこういうことを思ってたんだ”って自分でも思うようなことがだんだん出てくるんです。要するに僕の中の芯の部分が出てくるので、より一層ストレートな気持ちをぶつけることができるというか。最近の歌詞はそうやって書いてますね。

●「どこかかっこつけた歌詞になる」とおっしゃいましたけど、それは歌詞に限らず、人間誰しもあることだと思うんです。無意識的に“人に良く見られたい”と思ったり、ちょっと話を盛ってみたり、そもそもオシャレな服を着るとかもそういうことだし。

苑:はいはい。ありますよね(笑)。

●そういうものは無意識的にあるじゃないですか。でも歌詞を書くときはそういう無意識下の意識も取り払いたい?

苑:取り払いたいですね。本当の自分をさらけ出すのがロックだなって最近感じるようになってきたんです。自分の虚像を作って、キャラクターを作って音楽をやるというよりも、自分自身の音楽をそのまま作りたい。それが逆にかっこいいなと思うようになったんです。

●最近そう思うようになったんですか?

苑:そうですね。インディーズの頃はやっぱり“摩天楼オペラの苑”っていうことを、周りからどう見えるかを考えて、作り込んでいたわけではないですけど、自分自身意識していた部分があったんです。だから人前では絶対にスッピンを見せないとか、サングラスは絶対に持ち歩いていたし。

●アーティスト像を守るという。

苑:歌詞の面でも、綺麗な曲には綺麗な言葉遣いの方が合うでしょうし。そういう風に、勝手に自分でどんどん“摩天楼オペラの苑”っていう像を作っていたんでしょうね。でも今はそれが逆にかっこわるいなと思うようになって。

●そういう変化があったんですね。

苑:化粧は全然していていいんです。こういう音楽をスッピンで演奏するっていうのはまた違うと思うし。でもそういうことではなくて、1人の人間として音楽を作って、1人の人間として勝負したいなって。裸の自分でいきたいなと思ったんです。

●それはさっきのライブの話に通じますよね。ライブについて「“生”のダイレクト感がすごい」とおっしゃっていましたが、ライブハウスに来るお客さんたちって普段の生活では絶対にしないような表情で音楽を一生懸命楽しむじゃないですか。

苑:そうですよね。

●ぐしゃぐしゃに顔を歪ませて楽しんでいて、そういう表情はすごく美しいというか、感動してしまうくらいのものだと思うんです。みんなが全力で自分を出しているから、周りにどう見られようが考えていないというか。

苑:そうなんですよね。非日常でやっているその姿が実は本当の姿なんですよね。

●そういった人たちと対峙するとき、虚像や作ったキャラクターではなかなか人の気持ちを揺さぶることはできないと思うんです。だから苑さんがおっしゃったように、音楽にどんどん裸の自分をさらけ出すようになったんじゃないんでしょうか。

苑:まさにその通りですね。傾向としてはどんどん剥き出しになっていて。特にライブでは本当に変わりました。今は「こう動きたいからこう動く」「こう叫びたいからこう叫ぶ」っていう、本当に素直な自分でライブができるようになったんです。その場そのときに思ったまま、自由にライブができている。

●5年前と比べたら全然違う?

苑:全然違いますね。昔はフォーメーションがあったんです。この曲のこの部分ではギターとベースの位置を入れ替えて、ヴォーカルは後ろに下がる、みたいな。それを全部頭に入れてステージで演じるというか。結構そういうステージングが多かったんです。

●そうだったんですね。

苑:でも今はそれがまったくないです。ステージ上が自由です(笑)。

●それはすごくいいことですね。

苑:いいことだと思います。“演じる”みたいなステージングを経験したからこそ、自由にやっている中でもキチンと見せることができていると思うんです。今のステージングについてメンバー5人で話したりもするんですよ。「楽しいよね」って。みんなライブを楽しんでいるんですよね。

●苑さんだけじゃなくて、メンバー全員が自分を出すことができていると。

苑:そうですね。昔よりは全然出していますね。

●先ほどの話に関係するかもしれないんですが、M-7「Merry Drinker」に“ないものねだって 周りに頼って 人の目なんて気にしない/そんな起用に僕はできてないから”という歌詞があるじゃないですか。苑さんは、自分の弱い部分や感情を表に出すことが苦手なんでしょうか?

苑:アハハ(笑)。苦手かもしれないですね。近い人間以外にはやっぱり出し辛いというか。そういう部分は昔とあまり変わってないかな〜。

●でも音楽には出していますよね。

苑:そうです。だって音楽は僕の深層心理ですから。

●ハハハ(笑)。

苑:僕としては、お酒を飲んで殻を取っ払っているから歌詞に深層心理が出ているんですけど、うちのお客さんってその歌詞をダイレクトに読んでいるじゃないですか。例えばお客さんと話す機会があったりしたとき、僕のことを僕よりもわかっていてびっくりするんですよね。

●ああ〜。

苑:「みんなそんなに俺のこと知ってるんだ!」って。「苑さんはこういう恋愛してきているんですよね?」「うん。そうだけど何で知ってるの?」みたいな。

●ハハハ(笑)。

苑:「きっと嫉妬深いでしょ?」「うん、そうだよ」って(笑)。

●そこまで読まれていると。

苑:読まれてますよ。びっくりです(笑)。でも自分をさらけ出すことによって1人の人間として強くなったなという実感があるので、今はそれで良かったなと思っていて。昔は“ボロが出ないように”とか気にしていた部分もあったんです。でもそういうのってつまんないですよね。

INTERVIEW#3
「“摩天楼オペラ”というホームがちゃんとあるので。だから1人1人が迷うことなく、自分らしく自分の道を進んで行けている」

●苑さんが歌詞にすることというのは、もちろん自分の内面から出てくるものだと思うんですけど、何がきっかけになることが多いんですか?

苑:歌詞はオケを聴いてその世界に入り込んで書くんですけど、やっぱりそういうときに日々感じていたことが出てくるんですよね。どこで感じているかというと…例えば人と話していて、その人の仕事の話だったり。「こういうことがあって今困ってるんだよね〜」とか「明日行きたくねぇな〜」とか。そういうのって僕以外の人生じゃないですか。そういう話を聞いて、一旦僕の中に入れてしまうんです。それで“僕だったらそのときにどう思うかな?”とか“僕もそれは共感できるな”とか、そういう素直な気持ちをそのまま歌詞に書いていくみたいな感覚なんです。だから人と話すことはすごく僕の中では大切なことというか。

●歌詞を書く作業は、自己との対峙だけではないんですね。

苑:そうですね。特にそういうことをメモったりするわけでもなく、そうやって話したことなんてほとんど覚えていないんですよ。でもそれを思い起こさせるのがお酒という(笑)。

●そういうことか。

苑:だから歌詞で苦労することはほとんどないんです。今思っていることを素直に書いているだけ。歌詞には困らないですね。

●今までも困ったことはない?

苑:ないですね。例えば昔と同じ書き方をしていたら歌詞に困ったり、枯渇することがあるかもしれないですけど、成長とともに書き方も変わってきているので、これからも歌詞の書き方が変わっていくと思うんです。その時その時の歌詞が出てくるだろうし、それで困ることはこれからもないと思います。

●歌詞を書くとき、聴き手を意識することはあるんですか?

苑:するときもありますね。例えば“僕はこの曲でリスナーを元気づけたり助けてあげたいんだ”と思ったときは、“どういう言葉を投げかけてあげたら聴いている人の気持ちが安らぐかな?”とか、“聴いている人の背中を押してあげることができるかな?”と考えたりすることはあります。でも僕らの曲は全部がメッセージソングではないので、もちろん曲によります。リスナーのことを考えるときと、僕だけの世界観のとき、その両方がありますね。

●例えばM-6「CAMEL」という曲は、リスナーを意識しているというか、ライブを強く意識した歌詞だと思うんです。今作の中でもそういったベクトルがいちばん強い曲じゃないかなと感じたんですが。

苑:まさにその通りですね。「CAMEL」はライブを想定して、ライブ会場を思い浮かべながら書いた歌詞なんです。「ライブで日常の嫌なことを全部さらけ出して、声を出して両手を揚げてみんなで叫ぼうぜ!」みたいな。

●そういう曲が欲しかった?

苑:欲しかったんですね。今の摩天楼オペラは、壮大な世界観の楽曲と結構泥臭いロックの部分が共存しているんですよね。そのバランスが今はすごくいい感じだと思っていて。だからロックな部分を曲でもしっかりと表現したいんですよね。

●うんうん。

苑:「CAMEL」を書いたときは、みんなで何も考えずに叫んでいるライブ会場のことを思い浮かべていたんですけど、そういう吐き出し方って青春時代とか反抗期にも通じるところがあると思うんですよね。

●青春時代や反抗期。

苑:あの頃に感じたわだかまりだったり、大人に対する不信感だったり。「何もかもこの世界が嫌だ!」みたいな、ああいうときの想いを吐き出していきたいなと思ったんですよね。

●だから歌詞に“変わらない衝動 変われないフラストレーション”とあるんですね。

苑:そうなんですよ。今も昔も変わらずに吐き出していこうよって。そういうメッセージを込めたんです。

●人生が100%幸せな人ってほとんど居ない思うんですよ。むしろ不満だったり、良くない気持ちの方が多い人が大半だと思うんですけど、そういうものを燃やしたいというか。

苑:うちのライブに来たからには、そういうところを全部燃やしてゼロにして帰ってほしいですもんね。僕がそういった曲を歌っているということは、僕もそういう経験があるということじゃないですか。だからオーディエンスと分かり合えて一緒にさらけ出していける曲なんです。

●なるほど。

苑:誰にでもあることでしょうけど、僕もやっぱり若い頃はモヤモヤしていたんですよ。そこで僕なりに発散はしていたんですけど、昔は発散できたのに今は発散できない人が多いのかな? とも感じていて。

●ああ〜。

苑:例えば反抗期だったら親に当たったり、学校の先生に当たったり、ちょっと悪いことをしてみたりとか、そういう風に発散できていたのかもしれないじゃないですか。でも社会人になってガチガチに固められている方とかは、ライブに来てもらってこういう曲で発散してもらえたらいいなと思ったんです。

●社会人になれば、むしろ発散できる場所がない人の方が多いような気がしますね。

苑:僕もそうなんですけど、そういう風に大人になっていくとリミッターが外れにくいんですよ。だからそこを外してあげる曲があればいいなと。

●「CAMEL」は歌い方もそういうテンションですよね。この曲だけではなくて、今作は苑さんの歌から感情や生々しさを感じることも多かったんですが。

苑:確かに今作は感情を剥き出して歌った曲もありました。「CAMEL」もそうですし、特に「Merry Drinker」とかそうですよね。「Merry Drinker」に関してはとにかくずーっとテンション高くやさぐれた感じで、“なにクソ!”っていう想いを叫んでいる感じで歌いました。

●摩天楼オペラというバンドのイメージとして、壮大な世界観だったり、作り込んだ楽曲という印象が強かったんです。もちろん今作もそういう印象はあるんですが、苑さんの歌い方から湿度とか体温みたいなものを感じるので、全体的にすごく人間っぽいアルバムだと思って。

苑:生々しいですよね(笑)。

●そう、生々しい。先ほど「壮大な世界観と結構泥臭いロックの部分が共存していて、今はそのバランスがすごくいい」とおっしゃっていましたけど、そのバランスは今作を聴けばすごく伝わってくる。

苑:それはいいことだと思っているんです。ちゃんと壮大なことができた上で、ちゃんとロックができているっていう感触があるので、今のバランスがすごくいいなと僕たちは思っています。

●それは、摩天楼オペラが理想とする“ロック観”なんでしょうか?

苑:そうですね。単純なロックというよりも、世界観を持ちつつ単純なロックもやる。そういうバランスが好きなんです。

●昨年10月にリリースしたシングル『GLORIA』のインタビューで「本当にしっかりと“摩天楼オペラじゃないと出せない音だね”という自信というか自覚したのは1年前くらいで、なぜ“摩天楼オペラ”というバンド名を付けたのか? というところまで掘り下げて考えた」とおっしゃっていましたが、そのタイミングでバンドの個性というか、摩天楼オペラというバンドがしっかりと固まったんでしょうね。

苑:固まりましたね。バンドのことを深く掘り下げて考えたのは前作のアルバム『Justice』の頃だったんですけど、あのときにメンバー間の結束も強まりましたし、僕たちがどういう音楽をやりたいのかというのも、ちゃんと5人が固まった感じがあったんです。

●それは「本当の自分をさらけ出したい」と思った時期となんとなく符号しますね。

苑:あ、確かにそうですね。5人が固まったからこそ、“恥ずかしさ”とか“恐れ”もなく、今まで以上に自分自身を出せるようになったのかもしれないです。

●なるほど。

苑:“摩天楼オペラ”というホームがちゃんとあるので。だから1人1人が迷うことなく、自分らしく自分の道を進んで行けているのかもしれないです。

INTERVIEW#4
「自分の歩んできた人生とか、今考えていること、今感じていることを、ちゃんと大事にしたいです。それを曲げずに発信していきたい」

●話を聞いていて思ったんですけど、摩天楼オペラをやってきた中で、苑さんは人間的に変わったんでしょうね。バンドと共に成長したというか。

苑:そういう実感はありますね。摩天楼オペラ以前も、僕はずっとリーダーとしてバンドをやってきたんです。作詞/作曲もやって。だから結構ワンマンバンドになりがちだったんですよ。

●あ、そうだったんですか。

苑:そうなんですよ。結構ワンマンな感じで。でもワンマンバンドだと良くないというか、バンドがおもしろくないんです。で、摩天楼オペラを作ったのは僕なんですけど、今度は今までみたいにならないように、5人が5人ちゃんと立つバンドにしたいと思ったんです。

●ふむふむ。

苑:最初の頃は僕が引っ張りましたけど、途中からはなるべくみんなの意見を聞くようにして。そういうことを経たので、今は何も気にせず全力でできているんですよね。

●ああ〜、なるほど。

苑:ちゃんと4人がどんどん言ってくるようになってきたので、逆に僕も我慢せず思ったことは全部言えるようになって。

●いい意味でのぶつかり合いや意見交換を重ねた上で今の摩天楼オペラがあると。

苑:そうですね。以前は曲も歌詞も作り、アレンジも全部僕が決めてメンバーに伝えていたし、他のメンバーの衣装も全部僕がデザインを書いていたんです。

●そこまでやってたんですか。

苑:ホームページも僕がデザインや内容を決めたり、CDのジャケットも全部僕のアイディアで。

●そこまで?

苑:はい(笑)。摩天楼オペラの初期まではそうだったんです。

●そこまでやっていた人が、よく任せることができるようになりましたね。

苑:でも任せることがバンドだなと思うんですよ。人の才能を信頼できるようになったというか。僕が持っていないものを、例えばメンバーのAnziくんが持っていたとしたら、そこは100%信頼して任せるようになったんです。

●1人の人間としてはものすごい変化ですね。

苑:そうですね。そこでの試行錯誤はもちろんありましたけど、もう今のメンバーだったらちゃんと任せることができるなと思ったので、作曲したときにキーボードやギターのフレーズを指定したりすることはほとんどなくなったんです。

●だから今のような曲の作り方…コード進行とメロディラインを持ってきてバンドでセッションしながら作るというやり方ができるんですね。

苑:そうですね。やっとそういう作り方ができるメンバーが揃ってくれたんです。

●そういうことだったんですね。摩天楼オペラというバンドを通して自身の価値観が色々と変わってきた中で、現時点で苑さんが生きていく上で大切にしていることは何なんでしょうか?

苑:うーん…自分ですかね。

●自分?

苑:自分の歩んできた人生とか、今考えていること、今感じていることを、ちゃんと大事にしたいです。それを曲げずに発信していきたい。きっとそうすることによって、僕自身強く生きることができると思うし、聴いている人も強く生きることができると思うんですよ。例えば僕が何かで悩んで、その悩みを克服したことを歌詞にしたら、聴いてくれた人は僕と同じように克服してくれると思うんです。そういう説得力は、やっぱりストレートで飾らない言葉じゃないと出ない気がするんです。

●だから今考えていることや感じていることをちゃんと大事にしたいと。

苑:僕が飾り始めたり、自分の心に負けるような生き方をし始めると、きっといい音楽には繋がらないだろうし、お客さんの心を救えるような音楽は作れないと思うんです。だからまずは僕が曲がらない自分を保つことが、今はいちばん大事かな。自分を曲げないことによってこれからも摩天楼オペラは続いていきますし、僕たちを信じてくれた人がついてきてくれると思うんです。だから大前提として、僕が曲がっちゃいけないなと。

●最後に4/24から始まるツアーについて訊きたいんですが、ツアーの準備はしているんですか?

苑:今ちょうどツアーに向けての準備をしているんです。CDと違うライブバージョンでやろうと思っている楽曲もあったり、セットリストを色んなパターンで作って試したりして。

●今作は合唱が入っている曲が多いですが、お客さんと一緒に歌うっていうのが楽しみですね。

苑:楽しみですね。そういうことを目標に作った作品でもあるので。

●ちなみに合唱の部分はメンバーもみんなで歌うんですか?

苑:いや、うちのメンバーはみんな声が可愛いんですよ(笑)。Anziくんは凛々しいんですけど、他の3人は結構声が高いんですよね(笑)。だからどっしりした合唱というよりは、小学校の合唱コンクールみたいになっちゃうので「お客さん助けてよ」と。「一緒に歌おうぜ」って。

●ハハハ(笑)。どんなツアーにしたいと思っていますか?

苑:全会場で合唱を溢れさせるっていう目標が大前提としてあるんですけど、来てくれた人が嫌なことを全部発散して、摩天楼オペラの音楽を身体全体で感じて、最後みんなが笑顔で幸せになって帰ってくれるようなツアーにしたいです。

●今日の話からすると、それはきっと今作の曲たちに込めた想いそのものなんでしょうね。

苑:そうですね。ライブのどの一瞬でもいいので、ずーっと覚えていてくれるようなライブにしたいです。

Interview:Takeshi.Yamanaka

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