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バンド限定オーディション“BAND ON THE RUN”

BAND ON THE RUN”開催記念 Great Hunting シニア・プロデューサー加茂 啓太郎氏 2ヶ月連続インタビュー

PHOTO_加茂さま04EMIミュージック(当時は東芝EMI)内の新人発掘プロジェクトとしてスタートし、Art-School / Base Ball Bear / フジファブリック / 氣志團 / 相対性理論 / The SALOVERS / 赤い公園など多くのバンドを発掘・育成してきたGreat Hunting。同プロジェクトはEMIミュージックがユニバーサル・ミュージックと経営統合した後も継続され、15周年を迎えた今年、ロックシーンに新たな歴史を刻む新たな才能と出会うべく、バンド限定オーディション“BAND ON THE RUN”を開催する。先月号と今月号では、Great Hunting シニア・プロデューサー加茂 啓太郎氏を迎え、Great Huntingの歴史と音楽シーンの現状、今後求められるバンド像について訊いた。

 

第2弾 ロックバンドとレコード会社の新しい在り方

「The Beatlesが始めた方法を未だにやっていて“売れるわけがないよ!”っていう。もっと柔軟にフレキシブルに考えていかなきゃいけないですよね」

●先月号では、最近の音楽シーンにはセンセーショナルな存在がいないと感じるから、“BAND ON THE RUN”では時代を書き換えて残っていくような新しい才能との出会いに期待しているという話がありましたが。

加茂:2000年前後って文脈なしにいきなり新しい才能がポンポン出てきたじゃないですか。それまでの日本のロックってビジュアル系とBOOWY以降みたいな感じだったけど、そこからいきなり出てきた。BLANKEY JET CITYがあってThee Michelle Gun Elephantがあって、くるりがあってナンバーガールがあってSUPERCARがあって、中村一義とか椎名林檎とかがあって…95~6年から2001~2002年の間って、時代を書き換えるようなバンドがたくさん出てきて。

●はい。

加茂:今はそのJ-ROCKのビッグ・バンが続いているだけだから。だからワクワクしないのかもしれないですね。

●常に求められるものは、オリジナリティがあるバンドなんでしょうか?

加茂:僕なんかは「どんなアーティストを探している?」って聞かれたら、やっぱり常に「自分の想像の範疇を越えたもの」って答えてます。氣志團もナンバーガールも「何だこれ!?」だったし。理解を越えたもの。最近はそういうものがないですよね。でもロックって本来そういうもので、THE BEATLESだってLed ZeppelinだってSex Pistolsだって、みんなものすごくびっくりしたわけじゃないですか。これはアーティストにもよく言うんですけど「びっくりするようなものがないと売れないよ」という。やっぱりびっくりしたいですよね。ワクワクしたい。

●ここ1〜2年は、大手のレコードメーカーがバンドを積極的にやらなくなってきたという印象があるんです。もちろんロックレーベルとしてずっと続けているところもありますけど、CD産業自体が衰退してきていることも大きな要因ですよね。でもライブやイベントにはたくさん人が集まるし、フェスは乱立している。そういう時代の流れの中で、レコード会社に求められるものはどういうことだとお考えですか?

加茂:レコード会社ってもう“マネーの虎”というか、「お金出してあげるよ」という立場ですよね。あと、メジャーのレコード会社は権利をきちっと守ってくれる。問題が起きた時のセーフティーネットにはなりますよね。それとスケールメリット。レコード会社を経由してタイアップの話が来るとか色々なオファーが来るとか。そういうことはあると思いますね。

●なるほど。

加茂:でも結局は人だと思いますよ。ディレクターとか、相性の合う人がいるかどうかっていう。最初はバンドなんて貧乏でお金はないけど、まず2年間はやってみて、それで音楽業界がどういう風なのかを学んで、その後どうするのか考えるっていうスタンスでいいと思います。最近インディーズでそこそこ話題になって「いや、自分たちでやりますよ」とか言ってやっているバンドも居ますけど、正直言うと大抵が失敗しているんですよね。今はもうメジャーもインディーズも関係ないじゃないですか。メジャーは当然信頼と実績でやっているから、きちんと環境を作ることができるし、権利も守れるし、投資もする。だから最初はきちんとやれるところでやった方がいいと僕は思っていて。

●要は「パートナーとしてお互いどうタッグを組むか」みたいなところが今のレコード会社とバンドの付き合い方なんでしょうか?

加茂:そうですね。いろんなことが過渡期ですよね。みんなが“どうすればいいのか?”と考えているという。レコード会社はまだCDを諦める訳にはいかないし、どうにかしなきゃない。アイドルだってそこを考えてやったからこそ、あれだけCDが売れているわけだし。そういうことを考えたら、ロックバンドの場合はCDを売る工夫がないといえばないですからね。

●それにCDを売る工夫をすること自体が“ダサい”という価値観もあるというか。

加茂:そうなんですよ。シングルを年に2枚出して、そのシングルが入ったアルバムを年に1枚出すとか、The Beatlesが発明した方法を未だにやっていて「売れるわけがないよ!」っていう。もっと柔軟にフレキシブルに考えていかなきゃいけないですよね。「CDなんてもうオマケだ!」みたいな(笑)。Tシャツを買ったらCDが付いてくるとかでもいいかもしれない。モダンヘビィが売れるのって、お客さんはTシャツと同じ感覚で買っているからだと思うんですよ。ガジェットとして、音が出るグッズとして買っているというか。

●だからこそCDの特典もアイドル並みにエネルギーを使っていますよね。去年CDショップ大賞を獲ったマキシマム ザ ホルモンもそうだと僕は感じるんです。お客さんに提供する商品(CD)に、音楽はもちろんですが、“おもしろい”と思ってもらえる付加価値をいかに付けるかという。

加茂:レコード会社の中には上手くいってるところもあるけど上手くいっていないところもあるし、レコード会社って全部が全部売れるっていうことがないから、やっぱり規模が小さいところだと何かが売れていても、それが売れなくなったら他のところに全くお金を回せなくなったりするんです。そんな中で何が正解か分からなくなっていて、「どうしたらいいのか?」みたいな命題はずっとあると思います。そのひとつの解決策が、レコード会社がマネジメントもやる、マネジメントがレコード会社もやるっていうこと。そこがシームレスになってきたのはひとつの方向性でしょうけど、一方ではまだ餅は餅屋みたいなところがあるから。

●ライブハウス事情も変わってきていると感じるんですが。

加茂:僕らはライブハウスで“GREAT HUNTING NIGHT”というイベントをやっているんですが、その目的のひとつとして、ブッキングマネージャーと仲良くなって「何かいいバンドいます?」と日常的に訊けるような関係を作ることがあって。ブッキングマネージャーの考え方で変わってきますよね。お金儲け優先みたいなところもあるし、「楽しく出来て続いていければいいや」みたいなところもある。

●ありますね。最近はアイドル系のイベントをやる機会が増えたハコも多いし。

加茂:バンドもライブハウスを選んだりしますからね。「PAの人がどうも感じ悪いんですよ」とか。生き残りは大変だと思うけど、ライブハウスって意外に潰れないっていうのはあるじゃないですか。いろんなライブハウスの人が「儲かっていますよ」とは言わないし「苦しい」って言いますけど、意外に潰れない。「また新しくできるよ」という話も聞いたりするし、東京では下北・新宿・渋谷に限ったことでしょうけど、回遊型のフェスも定着してきたし。名古屋でも大阪でも仙台でもそういうフェスが定着していたりして。そういう意味では元気なんじゃないかっていう気はしますけどね。

●なるほど。

加茂:ただひとつの弊害といいうか、昔はライブハウスに出るってけっこうハードルが高かったじゃないですか。それが今はなんか若いバンドも簡単に出ることができたりしちゃうから。あれはちょっとどうなのかなと。「あまり安売りしないでほしいな」って思う時はありますね。みんな簡単にライブハウスに出れるようになっちゃったから。

●ノルマ制の弊害というか。

加茂:これも難しい。いいアーティストを各ライブハウスで取り合うみたいな感じになってますからね。しょうがないことですけど。でもライブハウスには常に期待しています。面白いバンドを見付けて欲しいし、そこが第一歩ですからね。

●そうですね。まず人の目に触れるいちばん最初の場所がライブハウスですから。

加茂:バンドだっていちばん最初は「ライブやりたいね」ってところから始まりますからね。そこから先の「CDデビュー」だ「プロで食っていこう」だなんて、まだ全然先の話じゃないですか。まずは高校生が「ライブがやりたいからバンド組もうぜ!」っていうのが最初のモチベーションですし。

●新人のバンドが動員を増やそうと思ったら、いろんなバンドと対バンをして、新しいお客さんに見てもらう機会を増やして…単純なことですけどその積み重ねだと思うんです。バンドが動員を増やす上で大切なことってなんだと思います?

加茂:もちろんそういう積み重ねが大切だとは思いますけど、お客さんが増えないのはやっぱりそんなに面白くないからだと思いますよ(笑)。

●ハハハハ(笑)。言っちゃいましたね(笑)。

加茂:フェスでは盛り上がっているけど、ワンマンのチケットを買ってまで行こうっていう風にはならないんでしょうね。何かユーザーに伝わらない原因がありますから。でも逆に、意外にと言ってはなんですが、僕が予想していた以上に動員が伸びているバンドもいたりしますから。そういうのはチェックしますね。

●ところで“BAND ON THE RUN”は12月にライブ審査があって、それ以降の流れはどうなっているんですか?

加茂:そこで選ばれたバンドは、亀田 誠治さんと木村 豊さん、島田 大介さんで音とジャケとビジュアルを作ってもらうんです。

●デビューまでをサポートするということですか?

加茂:いや、これはあくまでも育成ですからね。3人で作るといっても1曲だけです。1曲入魂。だからデビューできるかどうかはまだ分からないんです。

●1曲だけなんですね。

加茂:まずはそれを配信でリリースする。あとはアナログとか作ってお客さんに渡すのがいいんじゃないかなと思っていて(笑)。木村さんにジャケットを作ってもらって配信1曲だけじゃ勿体無いじゃないですか。流通に乗せるのはそれはそれで大変だし。だったら会場売り用のアナログを作って売ってあげようかなと。

●ビジネスの匂いが全然しないですね(笑)。

加茂:“Great Hunting”自体は、売上のノルマはないですから。

●作品を作ることができるのは1組だけなんですか?

加茂:1組だけです。ただ、僕らが期待しているのは、優勝した以外のアーティストがどれだけいるかっていうところでもあって。アーティストに求めるのは完成度より可能性ですからね。優勝するバンドはこの3人が関わるので、ある程度の完成度がないと無理だと思うんですよ。でもいいものは持っていて、2年くらい成長していけば良くなるかな、みたいなバンドがどれだけ見つかるかっていうところもこのプロジェクトの狙いなんです。

●なるほど。

加茂:僕らのところに送られてくるデモが年間でだいたい9000〜10000件弱くらいなんです。その中で、メジャーに持っていけるのが3〜4組くらい。

●すごい倍率ですね。応募してくる人達の、ここ最近の傾向はあるんですか?

加茂:ギターロックはみんな一緒ですよね(笑)。

●ハハハハ(笑)。

加茂:ギターロックはみんな画一化されちゃっているというか。だからこそ、何か違うことをやろうとしているバンドが面白いんですよね。

●何か違うことをやろうとしている人たちは、周りと自分たちを客観的に見ることができているんでしょうね。

加茂:考えていますよね。「同じことをやってもダメだな」みたいな。音楽で食っていくためには何か違うことをやらないとっていう工夫があるというか。

●ギターロックシーンはやはり画一化されていますか。

加茂:BUMP OF CHICKENやRADWINPS、あとは9mm Parabellum Bullet…みんなそこの影響下。それでもそこそこ売れたりするんです。やっぱりBUMP OF CHICKENがひとつのJ-ROCKの新しい形を作ったからなんでしょうけど、そこを超える感じはないですよね。“BAND ON THE RUN”では、そういうところを超えてくる面白いバンドに出会えたらなと思っています。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:馬渡司

ユニバーサル・ミュージック Great Hunting本部 シニア・プロデューサー 加茂 啓太郎

 

【INFORMATION】

Great Hunting 15周年記念オーディション “BAND ON THE RUN”
Art-School、Base Ball Bear、フジファブリック、氣志團、相対性理論、The SALOVERS、赤い公園など多くのバンド発掘、育成したユニバーサル・ミュージックの新人発掘育成セクション Great Huntingが15周年を迎えたことを記念して開催されるバンド限定オーディション。最優秀バンドには、審査員による音源/映像/グラフィックの制作はもちろん、メジャー・デビューに向けてのプロジェクトが待っている。
【審査員&クリエイター】
亀田誠治(音楽プロデューサー)、木村豊(アート・ディレクター)、島田大介(映像ディレクター)
http://www.great-hunting.com/

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