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SHIT HAPPENING

いずれ劣らぬ4篇のキラーチューンが一瞬で胸を撃ち抜く

AP_SHIT今年7月にミニアルバム『Ironic』をリリースしたばかりのSHIT HAPPENINGが、わずか3ヶ月にして早くも新作EPを完成させた。グッドモーニングアメリカ企画コンピ『あっ、良い音楽ここにあります。その四』にも収録された表題曲を筆頭に、4曲どれもがキラーチューンと呼べる威力を持った今作。Vo./G.小野﨑による独自の感性でセレクトされた言葉が矢継ぎ早に繰り出される歌詞は、切れ味をさらに増している。緩急自在のサウンドに乗って、時に語りかけるように、時に扇動するように1曲の中でめまぐるしくその表情を変える歌が一瞬で胸を撃ち抜いていく。

 

 

「もっと色んな情報を詰め込もうと思えばできたんですけど、情報が少ないゆえに想像するというか。人それぞれで“透明人間とは何か?”っていう答えに違いが出ると思うんですよね」

●今年7月にミニアルバム『Ironic』をリリースしてからわずか3ヶ月で新作EPのリリースというのは、すごく早いペースですよね…。

小野﨑:『Ironic』の制作時は他にも何曲か作っていて、結果的に入らなかったものがあったんですよ。M-3「透明人間」もその時点であったんですけど、『Ironic』には入れない方が良いんじゃないかと思って。あと、いつもは作品を1枚作ると空っぽになっちゃうところを、今回はすぐに次の作品に向けた準備をしようということで、完成後も曲作りを少しずつしていたんですよね。

●次作に備えてはいたと。「透明人間」を『Ironic』に入れなかった理由というのは?

小野﨑:以前はテーマやコンセプトを中心にして曲作りをしていた時期があったんですけど、『Ironic』にはそういう曲が入っていないんです。1曲1曲のパンチを重視して、ライブで楽しくできそうな曲を集めた作品だったからというのはありますね。今回のシングルについても、その延長線上みたいなイメージはあって。

●「透明人間」もすごくパンチのある楽曲ですからね。

小野﨑:だから次にEPを出すということになった時に、まず「透明人間」が中心にあって。それに負けないような曲を作ろうというところで、『Ironic』のイメージを引っ張りつつ新たに曲を作っていったという感じですね。

●サウンドの方向性的にも『Ironic』の流れにある?

小野﨑:そうですね。とにかく制作期間が短すぎたので、考え方や作り方は変えずにやるしかないと。

●M-1「Ripple」の“制限時間が迫り来る 瞬きさえ惜しいこの現状”というのも、そういう心境を表しているのかなと(笑)。

小野﨑:本当に時間がなくて(笑)。プリプロやレコーディングの日程も決まっていたし、限られた時間の中で曲を完成させないとスケジュールがどんどん押していってしまうので「本当にヤバいな…」と。しかも、そんな大事なプリプロの時期に風邪をひいちゃったんですよ。

●それは大変ですね…。

小野﨑:プリプロ用に2日間用意していて、その1日目の最初の2時間くらいは普通にやっていたんです。でもだんだん節々が痛くなってきて、最後のほうにはメンバーに「ちょっとごめん…」と言って横になっていて。家に帰ってからすごい高熱が出ちゃったんですけど、ここまでギリギリの状況に追い込まれたら逆にそこでしか生まれないものがあるんじゃないかと思ったんですよ。

●逆境を利用して、何かを生み出そうとした。

小野﨑:本当にギターをストロークするだけでも、節々がすごく痛くて。でも「今だからこそ出るメロディや歌詞があるはずだ」と思って作ったのが、「Ripple」なんですよね。

●結果的にパンチのあるものが作れたわけですね。

小野﨑:今回の作品に関しては、サビでドカンと弾けるものやイントロからガッツリ掴むものだったり、とにかくカッコ良いものが作りたかったんです。プリプロの時も曲自体はあったんですけど、上手くまとまらなくて。メンバーの反応もいまいちで「このままじゃマズいな…」っていう中で体調も崩して、イライラしていたっていう…。

●そういう状況で出た魂の叫びが、サビの“GET ME OUT”なわけですね(笑)。ライブでお客さんがシンガロングしている光景が浮かぶフレーズかなと。

小野﨑:あの状況で自分の中に湧き上がった、言葉にできないような感情が“GET ME OUT”に出たっていうか。『Ironic』の前にリリースしたミニアルバム『GO WITH ME』(2013年10月)の中に、「BUSTER」という曲があって。裏打ちを取り入れてみた曲なんですけど、それをライブでやったらすごく感触が良かったんです。お客さんとキャッチボールしているような感覚があって、そういう曲をもっと増やしたいと思ったんですよね。

●お客さんと一緒に盛り上がれるような曲というか。

小野﨑:発信する側がもっと上手くライブの一体感を作り出して、その時間を濃密に過ごせるキッカケになるようなものを生み出せたらいいなと思って。そしたら僕らの武器も増えると思うから。今はそんなイメージがあるから、こういう曲がどんどん増えているのかなと。

●確かに、今回はどれもライブで盛り上がれる感じがします。

小野﨑:ライブという形にした時に、すごく良い時間を過ごせるような武器になったと思いますね。「透明人間」はもうライブでやっていて、すごくみんなが楽しそうにしているんですよ。僕らもそれを見て楽しくなってテンションも上がるし、より良いライブにできるような気がするので、相乗効果でもっと良くしていけたらいいなと思っています。

●「透明人間」の歌詞は物語的な世界観があって、今作の中ではちょっと異色な感じもするんですが。

小野﨑:ストーリー的な歌詞を書くのは好きなんですけど、なかなかこうやって発表できるキッカケがなかったんです。今回はたまたま陽の目を見たというか。ストーリーを軸にして作った曲がミュージックビデオにまでなったのは初めてですね。

●聴いていると、歌詞の世界観にすごく引き込まれる曲というか。

小野﨑:やっぱりストーリーものって、みんなワクワクするじゃないですか。ファンタジーの中に引き込んでいけたらなと思っています。この曲って、基本的にサビでは同じことしか言っていないんですよ。もっと色んな情報を詰め込もうと思えばできたんですけど、情報が少ないゆえに想像するというか。人それぞれで“透明人間とは何か?”っていう答えに違いが出ると思うんですよね。だから、これはこれで良かったなと。

●色んな解釈を生み出せる歌詞になっている。

小野﨑:聴き方によってマイナスなイメージもプラスなイメージもできるから、不思議な曲だなと思いますね。いつもは出来上がった時の「やった!!」っていう高揚感が一番強いんですけど、この曲はレコーディングが終わって何回も何回も聴いている内に「あ、なるほどな」っていう発見があって。自分でも違う角度から「透明人間」っていう曲を見られるようになってきたのがすごく面白いんですよ。

●今までにはないタイプの曲になった。M-2「Link」も切ない哀愁系のメロディがすごく良いなと。

小野﨑:こういうのは僕、得意なんです(笑)。「Link」はDr./Cho.梅田(貴之)が元々、着メロとかで作った原型があって。「あとは任せるから」と言われて、作っていったんですよ。最初から曲名だけはあったんですけど。

●曲名が先に決まっていたんですね。

小野﨑:梅田が「Link」っていう名前が良いって言い出して。僕は落語も好きなので、名前があって、話の立ち上がりがあって、最後に落とすっていう流れを考えるのは好きなんですよ。「さあ、どうやって話を立ち上げて、落とすかな」みたいな感じでしたね(笑)。

●大喜利のお題をもらったようなものというか(笑)。

小野﨑:謎かけみたいな(笑)。「Link」っていう名前から「どういう感じかな?」っていうのを考えながら何回もオケを聴いて、歌詞とメロディを付けました。前のベースは、大学院に進学するために脱退したんですよ。「それぞれ別の道で頑張っているけど、今もどこかで“Link”しているよね」っていう曲を書きたかったんです。

●脱退したメンバーのことを歌っていたんですね。

小野﨑:そういうことを曲にして残しておくのも、バンドとしての僕らのストーリーとしてアリだなと思って。すごく良いものができたと思います。

●この曲の“辿り着くかも不確かな終着点を”という歌詞と、M-4「Apes」の“終わりくらい自分で描くから”という歌詞には通じるものを感じたんですが。

小野﨑:確かにそうですね。でもそれは単純に曲作りの期間が近すぎて、似ちゃっただけだと思います(笑)。「Apes」に関しては、ちょっと遊びながら作ったような曲なんですよ。

●遊び心を取り入れている感じでしょうか?

小野﨑:僕自身は本来、最初から最後まで通して聴けるような内容のしっかりした歌詞が好きなんですよ。でも色んな曲を聴いていると、逆に内容がすごく散漫になっている歌詞も悪くないなと思うようになって。たとえばこの曲の“その床に寝そべったアイスクリーム”の部分なんかも、普通はアイスクリームが床に寝そべったりはしないので「あれっ?」って思うじゃないですか。ニルヴァーナで有名なカット・アップ(自身の日記の内容の一部を切り取ってバラバラに繋ぎ合わせる技法)みたいなこともやってみたいなと。

●文脈の流れを無視した予測不能な言葉が急に出てくる感じというか。

小野﨑:僕は『バタフライ・エフェクト』(2004年/アメリカ)っていう映画が大好きなんですけど、過去と未来を行ったり来たりするようなストーリーなんですよ。“映画でいつか見たような 過去の情景修正する感じ?”という歌詞は、そういうところから来ていて。「自分の未来がもし決まっていて、そこに向かって進んでいるだけだとしたらすごく悲しい話だな」とか考えながら、色々と歌詞を変えていったんです。そうやって悩んでいたりもするけど、「結局は人間なんて、元を辿ったら猿みたいなもんだろ?」っていうところから「Apes」というタイトルにしたんですよね。

●そういうことだったんですね。

小野﨑:曲としてはきれいに着地していないんですけど、その完璧じゃない感じがすごく人間味があって良いなと思うんです。「自分らしいな」と思えるし、そういう不完全な部分を楽しめた曲ですね。

●ちなみに「Ripple」のタイトルは、どういう意味で付けたんですか?

小野﨑:これはさっき話したプリプロ中に体調を崩している状況下でも、「今やろう」と思ったその“一滴”というか。何もやらなかったら“0”のままだし、何かやれば“1”になるっていう意味ですね。“たかが一滴が世界を変える”っていうところに、「変わったらいいな」とか「変えてやる」っていう気持ちを込めて曲にしました。

●今作はどの曲もフックが強いので、「自分たちの一曲がその一滴になって、世界を変えてやる」みたいな意味もあるのかなと思ったんですが。

小野﨑:そこまで考えていたわけではないですけど、その解釈はいただいておきます(笑)。そういうキッカケになって欲しいですね。

●前作から3ヶ月という短いスパンでのリリースとなったわけですが、この勢いのまま早くも次のアルバムが控えている…というわけではないですよね?

小野﨑:今はもう出しきって、空っぽです(笑)。これはこれとしていったん完結させつつ、ここからまた始まっていくようなものにはしたいですね。

●今後のビジョンは見えている?

小野﨑:今はスタッフも含めた1つのチームとして進んでいきたいので「僕らはこういうことをやりたい!」じゃなくて、色んな意見を聞いて勉強したいんです。そこでまた視野が広がるというか。もっと色んな人に聴いてもらうためには必要な条件が増えていくけど、それをどんどん積み重ねられているから今はどんどん良い状況に近付いていけているんじゃないかな。レーベル移籍してから最初に『GO WITH ME』を出して、そこで色んなことを考えて『Ironic』を出して。今回『透明人間 e.p.』を出して、その次はどういうふうになるのかっていうのを楽しみにしてもらいたいですね。

Interview:IMAI
Assistant:馬渡司

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