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FOXPILL CULT

アングラ界の新星が辿り着いた『邪宗門』

FOXPILL CULT_アー写ゴス/ニューウェーブの伝説的バンドPhaidia、Madame Edwardaの復活時にギタリストを努め、アンダーグラウンド(以下アングラ)界の新星として注目を集める西邑卓哲。彼を中心に結成されたバンドFOXPILL CULTが遂に全国流通盤 『邪宗門』をリリースする。2011年にPueruとMasaru Mochizukiを迎え、本格的に3人編成として始動。独自のインディペンデントなスタイルを貫き、アングラを居場所としながらも、突き抜けたポップな楽曲をかき鳴らす。サウンドだけでは語り切れない、唯一無二の魅力を発揮するFOXPILL CULTの新作は、彼らの“基礎”とも呼べる揺るぎない作品に仕上がった。

 

●今作のタイトル『邪宗門』ですが、これは天井桟敷(※1)の作品名から取っているんですか?

西邑:もちろん寺山修司さんの作品にも物凄く影響を受けていて、意識もしています。あとは“邪宗門”っていう言葉自体が自分の中で1つのキーワードなんですよ。それはカルト(宗教)の話で、洗脳とか、その辺りがテーマになっているんです。

●作詞/作曲は西邑さんがご担当されているそうですが、音楽的にはいろんなジャンルが混ざっていて、1つにくくれない印象があります。元々の音楽のルーツはどこにあるんでしょう?

西邑:実は僕のルーツはヒップホップやブラック・ミュージックなんです。

●え!? そうなんですか?

西邑:誰も気付いてくれないんですけどね(笑)。一番最初に買ったCDはサイプレス・ヒルの『Black Sunday』で。そこからマーヴィン・ゲイやウィリー・ハッチとか、ソウルを聴いていたんです。

●今作の中ではM-8「ファンキースペースリインカネーション」はブラック・ミュージックのエッセンスを感じますね。

西邑:この曲で初めて自分のルーツを出したんですよね。僕はニューウェーブからも影響を受けていて、元々そのシーンでずっとギターを弾いていたんですけど、あの音楽も元々ブラック・ミュージックをやろうとしているところがあるんですよ。僕らも完全にブラック・ミュージックをやるんじゃなくて、日本人の得意なリズムや自分の持って生まれた声を活かしつつ試行錯誤の上でやっていて。だから、僕らにファンクの要素が入っても良いと思っているんです。

●最後の曲、M-15「邪宗門」で作品を聴き終えて、1曲目から聴き直すと聴き応えが変わる印象がありました。そういう意味で「邪宗門」が入り口になっているような感覚があったんです。

西邑:その感じはすごく意識していますね。良い映画って、最後に悲しい気持ちになったりしても、もう1回観ることでまた違った味わいで観ることができるじゃないですか。最後に「邪宗門」の余韻が残って、M-1「鎖国した一寸法師」に戻って聴き直した時に、巻き替える感じというか。

●輪廻感…みたいな?

西邑:そう、それをテーマとしてずっと持っていますね。

Pueru:「ファンキースペースリインカネーション」とか、正に名前通りで。

西邑:これは“ファンキー”って言いたかっただけなんだけどね(笑)。

●ははは(笑)。じゃあ連続するというか、作品を“円”みたいに捉えているところがある?

Pueru:西邑の書く歌詞は昔からそういうところがありますね。

●歌詞に関しては作品を通して、同じワードが入っていたりしますよね。

西邑:ここ2年間で作られた歌詞は、全曲に同じ言葉が入っていますね。これは完全に僕の実生活の部分を書いているんです。普段は人に対して自分のことをあまり言わないんですけど、その分アルバムに全部を込めるっていうところがあって。だから『邪宗門』を出したことによって浄化された部分もあるだろうと思うし、同じ時期に作った曲に同じ歌詞が何回も出てくるっていうのは自然なことなんですよ。

●歌詞は独特な日本語表現が多い印象ですね。

西邑:元々は英語の曲が好きなんです。でも、自分が体験したことをアルバムにしようと思った時に、どうしても日本語が増えてきたんですよね。そういう時期に、Mochizukiに出会って。そこで話が合って、メンバーに誘ったんです。

Mochizuki:俺は基本的に日本人が英語で歌うのはあまり好きじゃないんですよ。だからバンドに加入する時に「英語の歌詞はイヤです」って言ったんですよね。それもあって、俺が加入して初めて出すアルバムは日本語になったんです。

西邑:自然と(日本語詞が)増える状況だったんですけど、彼が入ることで楽曲のほとんどが日本語になっていったんですよね。もちろんPueruの影響もあるんですけど。

Pueru:…ちょっと鼻かんでいいですか?

●どうぞどうぞ。メンバーが変わっていく中で、音楽性も変わっていったんですか?

Pueru:ブオー…ブオー。

西邑:メンバーの中でそういう話はよくしますね。影響を受ける部分はあります。

Pueru:ブオー…ブオー。

西邑:でも、やっぱり嫌いなことはできないので。

Pueru:ブフッ…。

西邑:そんなに(鼻水って)収納できるの?

一同:ははは(笑)。

Pueru:いやぁ辛かった。はい、すみません。

●サウンド的に日本を意識されているのかなと思ったんですけど。

西邑:そうですね。日本がルーツとしてあるっていうことを隠さないで、自然にやった方が良いって思うところがあって。このメンバーになったことも含めて、何も意識せずに作った結果、非常に日本的なものができました。

●バンドとしての新しいベーシックができたというか。

西邑:今作がバンドとしての初作品と言ってもいいですね。「このメンバーでFOXPILL CULTを作った」っていう意識がすごくあります。

Pueru:ようやくバンドメンバーとして入り込めたっていう気がしますね。前までは自分がどうしていいか分からなかった(笑)。

Mochizuki:俺らは仲が良いので、3人でいるのが自然なんですよ。俺とPueruは曲作りには直接関わっていないんですけど、その空気感はアルバムに出ているんじゃないかな。今のメンバーがいなかったら作らなかった曲もあると思います。

西邑:実際、曲作りに影響していますね。次回作に向けて、そういう曲ができているんですよ。だから『邪宗門』がこのバンドの“基礎”になったっていう感じですね。

●次回はどんな作品になりそうですか?

西邑:この作品を作ったことでバンドにとって、ひとつ自信になったと思うんです。今は僕らの中のレゲエの要素やメタルの要素はあえて封印しているんですけど、次回はそういうところも違和感なく自然に混ぜられるんじゃないかな。次はもっと音楽に寄ったところで、成長したものが作れると思っています。

Interview:馬渡司

※1天井桟敷:かつて日本に存在したアングラ劇団。寺山修司主宰、演劇実験室を標榜した演劇グループ。

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