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COMIN’KOBE15開催決定記念!!

COMIN'KOBE実行委員長 松原 裕 インタビュー

PHOTO_松原01阪神淡路大震災を風化させず語り継ぎ神戸からの恩返しとして被災地支援を行い、神戸の魅力を伝える事を最大のテーマして、過去10年開催されてきた関西の大規模無料音楽イベント“COMIN'KOBE”。復興と被災地支援はもちろん、神戸の活性化と音楽シーンの盛り上がりの一旦を担ってきた同イベントが、11年目を迎えた今年、存続の危機に直面しているという。会場を提供してきた神戸夙川学院大学が学生募集停止となり、2015年からはワールド記念ホールに加えて神戸国際展示場3館を全て借りることにしたというが、会場費だけでも900万円が必要とのことで、COMIN'KOBE実行委員会はクラウドファンディングでの資金集めをスタートさせた。開催まで3ヶ月を切った今月号では、COMIN'KOBE実行委員長の松原 裕氏に直撃して“COMIN’KOBE”にかける想いを訊いた。

 

 

 

「今年は阪神淡路大震災から20年目だし、神戸にとってもすごく大きな節目の年だから、今年の“COMIN'KOBE”はどんなことがあっても無料でやろうと考えているんです」

■今年11年目を迎える“COMIN’KOBE”ですが、現在クラウドファンディングで資金集めを行っていますよね。なぜクラウドファンディングで資金を集めることになったんですか?

松原:そもそもの経緯は、2014年度…去年の4月で神戸夙川学院大学が学生の募集を停止し、神戸山手大学という学校に教育資産を継承する事になってしまったんです。

■ふむふむ。

松原:それで神戸山手大学の学生の人たちも「“COMIN'KOBE”をやりたい」と言ってくれて、学校として“COMIN'KOBE”に協力していただけることになったんです。

■はい。

松原:ということは、神戸山手大学と一緒に“COMIN'KOBE”を開催するのに、他大学の土地を使うっていうのはちょっとおかしいと思いまして…。

■ああ〜、確かに。

松原:そこで「新たに場所を探そう」と。そこから神戸市中、いろんな場所を当たったんです。最初は「是非!」と言ってくださる場所がいっぱいあったんですけど、実際に4万人収容のことを細かく説明していくと、みんな「それは(キャパシティー的に)無理!」となって。

■4万人規模なんて、なかなか難しいでしょうね。

松原:神戸市も協力していただいていろんなところを探したんですけど、やっぱり見つからなくて。開催まで半年くらいになって、それでも見つからなくて。だったら会場費は有料だけど、今までも会場で使っていたワールド記念ホールの目の前にある神戸国際展示場1・2・3号館を借りたら、場所も近くてコンパクトになるし、4万人も収容できるということになって。でもそこでの問題が、神戸国際展示場の会場費になるんです。

■なるほど。

松原:神戸国際展示場にはステージも照明もないから、全部イチから作らなくちゃならないんですよ。ゴミや清掃の業者のこともあるし。そういうことで、去年までと比べたらプラス2000万円くらいは運営で必要ということになったんです。

■そういう経緯だったんですね。

松原:僕は昨年9/20に南相馬で開催された“騎馬武者ロックフェス2014”にほんの少しだけお手伝いさせてもらったんですけど、あのフェスも運営費をクラウドファンディングで集めたんです。だから同じ方法でやってみようということで、“騎馬武者ロックフェス2014”と同じ“READYFOR?”というクラウドファンディングのサイトでスタートさせたんです。今まで通りスポンサーを集めて、グッズも売って、例年通りの収支になったとしてもプラス2000万円なので、かなり絶望的だと思っていて。

■クラウドファンディングについては、今までは入場無料だったものを、少しでもお客さんに協力してもらおうという発想だと思うんです。ただ、今までチャリティーフェスという形でやってきた“COMIN'KOBE”にとっては、大きな岐路ですね。

松原:そうですね。それこそ「有料イベントにしたらいいんじゃないか」っていう声もたくさん頂いているんです。別に有料だからダメだっていうことも全然思っていないし、今まで僕も有料のイベントにいっぱい行ったことがありますし。有料/無料関係なく想いがあれば伝わるし、今まで何回も感動したことがあるし。

■はい。

松原:ただ、“COMIN'KOBE”は2005年の最初に無料で始めたので、ひとまずこのイベントが無料イベントとして求められているのかどうか、今回のクラウドファンディングで答え合わせができればいいなと。

■ああ〜。

松原:有料でいいんだったらクラウドファンディングでお金も集まらないだろうし。今回1度クラウドファンディングをやってみて、すぐに集まったんだったらこれからも無料でやって欲しいと思ってくれてるんだろうし。今、ちょっと苦戦しているということは“無料じゃなくても別に良かったのかな”と思いつつ。今年は阪神淡路大震災から20年目だし、神戸にとってもすごく大きな節目の年だから、今年の“COMIN'KOBE”はどんなことがあっても無料でやろうと考えているんです。例えクラウドファンディングで集まらなくても。

■“COMIN'KOBE”が無料フェスとして求められているかどうか確かめたかった。

松原:そうです。

■ということは逆に、やめることも選択肢にあったんですか?

松原:ありました。やめることも選択肢にあったし、イベント名を変えて別のイベントとしてやることも考えたんです。主旨を継承して“COMIN'KOBE”から生まれた新しいイベントにしてもいいなと。

■なるほど。ということは、今年は無料でやって、来年は今年の結果を見て改めて考えようと。

松原:はい。そうです。

■最近でこそクラウドファンディングは音楽シーンでもちょこちょこ見かけるようになりましたけど、実際にスタートさせてみてどうですか?

松原:日本はまだ浸透していないなと思いますね。でも海外だったら、クラウドファンディングでレコーディング費用を集めたりとか、結構やっている例は多いんですよ。更に、こういうイベントで2000万円を集めるというのも結構異例みたいで。

■もうちょっと少額なことが多いと。

松原:みたいですね。

■おさらいも含めて訊きたいんですが、第1回目を無料にしたのはそもそもどういう経緯だったんですか?

松原:まず導入部分から考えるきっかけを作ってほしくて。イベントに来る前から“え? なんで無料なん?”って思うじゃないですか。

■はい。

松原:“なんで無料なんだろう?”と思ってもらって、イベントの主旨とかに関心を持ってもらえたらいいなと。商業フェスとは違うということをわかりやすく伝えるには、やっぱり無料だと思ったんです。別にビジネスでやっているわけじゃないので無料でいいんじゃないかなって。

■素晴らしいですね。

松原:でも無料でやることがどれだけ大変かっていうのは、最初は全然わかっていなかったですけどね(笑)。

■ハハハ(笑)。

松原:でも最初にそういう想いでスタートさせたので、今年まではとりあえずやり通したいと思ったんです。

■ちなみに、想定していた額は募金で集まっているんですか?

松原:いや、集まっていないですね。理想は、運営費を超える募金額っていうところなんです。それをずっと目標にしているんですけど、思うようには集まっていないですね。

■なかなか難しいんですね。

松原:そうですね。本当に難しいんですけど、“COMIN'KOBE”には3つの柱があるんです。1つは神戸からの恩返しとして募金を集めるということなんですけど、それが思うようには集まっていなくて、ジレンマでもあって。2つめは、地震のことをもっと自発的に考えてもらったりするなど、防災に対する啓発活動的な意味合いですよね。それで3つめは、神戸の街自体に恩返ししたいと思っているので、たくさんの人に神戸に来てもらうということ。

■はい。

松原:難しいところなんですけど、やっぱりたくさんの人に来てもらいたいし、でもなるべく全員にしっかりと主旨も伝えたいですし。そこは毎年葛藤がありますね。でも、このイベントは続ける限り続けたいんですよね。

■客観的に見て、10年間も無料で続けていること自体、ものすごく大変なことだと思うんです。それでも続けているというのは、大変とかどうとか関係ない次元の、強い想いがあるからこそだと思うんですが。

松原:もちろん挫けそうになったことも何回もあるんです。でも、なんなんでしょうね(笑)。このイベントがなかったら今の自分がなかったと思うんです。それくらい僕はアホやったし、このイベントでめちゃくちゃ成長させてもらいました。

■ああ〜。

松原:このイベントがあるからこそ、“この人、めっちゃいい人やん!”って気づくことがすごくあるんです。人との繋がりをすごく深くしてもらっているというか。このイベントなしでは自分の人生を語られへんなって思っているくらいなので、やるしかないなっていう感じですね。

■ということは、今年のクラウドファンディングの結果がどうなろうとも、これからも続けると。言ってみれば、ビジネスじゃなくて活動ですよね。

松原:そうですね。活動です。このイベントと会社はまったく関係ないので。活動とか生きがいみたいなもんじゃないですかね。

■僕は阪神淡路大震災が起きたとき神戸に住んでいたんですけど、あれからもう20年も経っていて。でも“COMIN'KOBE”があることによって、ずっとあの日のことが薄れないという感覚があるんですよね。更に、2011年に東日本大震災が起きたときに思ったことなんですけど、現在の神戸という街や“COMIN'KOBE”が、東北の人の何かしらの支えになっているんじゃないかなと。

松原:だったら嬉しいんですけどね。僕はたまたま運が良かっただけだと思うんです。綺麗事じゃないですけど、神戸に生まれて神戸で仕事をさせてもらっているので、やっぱりなにか貢献というか。普段はどうしようもない奴ですけど(笑)、でもやっぱり、住んでいる街に対してなにかしたいじゃないですか。それにライブハウスの人ってそういう人が多いんですよ。

■自分が生まれ育った土地に対する愛着というか。

松原:そうそう。地場愛というか。自分の地域から出てきたアーティストは異常なほど可愛がりますからね。それに“他の街に負けたるか!”という想いを持っている人も多いと思うんです。他の業界のことは分かんないですけど、ライブハウスは特にそういう人が多い気がするんです。“街の看板は俺が背負ってるねん!”っていうくらいの気持ちをみんな持っているんですよね。僕もライブハウスをやっていきながらどんどん神戸を好きになっていきましたし。

■うんうん。

松原:阪神淡路大震災のとき、僕は中学3年生だったんですけど、なにも貢献していなかったんですよね。ゲームや曲作りばかりしていて。その後、バンドで初めて全国ツアーに行ったのが1999年頃なんですけど、そのときに行った関東のライブハウスの人やお客さんがすごく心配してくれて。震災から4年経った頃ですけど「神戸で震災が起きたときはなにもできなかったから、お前らになにかする」ってご飯を食べさせてくれたり。

■おおっ。

松原:とあるお客さんに「車中泊なんですよ」って言ったら、その人のマンションにメンバー全員泊まらせてくれたり。「神戸から来た」って言うだけでめちゃくちゃ世話になったんです。

■なるほど。

松原:僕は震災のときにゲームや曲作りばかりしていたのに、みんなに優しくしてもらって。それで神戸に帰ってきたときに“このままじゃああかんな”と思ったんです。助けてもらった恩を返さずにこのままアホみたいに生きとったらどうしようもないわと。そのときに僕も初めてバイトをしてひとり暮らしを始めたんですけど、仕事がなくなる苦労とか、家がなくなる苦労とかが身に沁みてわかって。僕は震災のとき、親に守られていたんだなって。

■うんうん。

松原:それで“なにかせな!”と思っていた2003年に、ガガガSPが長田で“弱男の夕”というフリーイベントをやったんです。前ちゃん(コザック前田)がそこで「復興完了や! これからは気持ちの復興の方が大事や! 次は俺らが神戸の街を変えていかなアカンのや!」ということを言っていて“めっちゃええこと言うな”と思って。悔しくて。先にやられた感というか。

■はい。

松原:その2年後に“COMIN'KOBE”を始めたんです。それまで神戸で開催されていた“RUSH BALL”が大阪でやることになって、神戸の大きな音楽イベントがなくなったんですよ。震災から10年後だったし、神戸のバンドが目指す場所もなくなるタイミングだったから、“今こそやらなあかんわ!”と思ってスタートさせたんです。

■2005年に“COMIN'KOBE”をスタートさせ、その6年後の2011年に東日本大震災が起きたとき、いろいろと思うことが多かったんじゃないですか?

松原:はい、めちゃくちゃ思うことがありましたね。変な話ですけど、このイベントをやっているのに“あ、そうか。地震はまだ起きるんや”って思いましたもんね。「風化させるな!」と言って僕がやっているのに、なんか…めっちゃショックでしたし。

■いつの間にか過去のものになっていたのに、そうじゃなくてリアルタイムというか現実のものということに改めて気づいたというか。

松原:そうそう。結局、やっぱりやっている僕も風化していたんですよ。すごくショックだったし衝撃でした。あと、神戸ってこういう風に見られていたんだということもわかりました。

■というと?

松原:僕は阪神淡路大震災のとき神戸にいたので、外からどう見られていたかわからなかったんです。東日本大震災が起きて、当日はニュースを観てもどういう状況かよくわからなかったんですよ。その後、だんだん情報が入ってきて。きっと阪神淡路大震災のときもそうだったんだろうし、東日本大震災が起きてみんなが“なんかせな!”と思ったのが、神戸のときもみんながそう思ってボランティアに来たり、募金してくれたんやなって。神戸のとき、みんなはこういう気持ちやったんやな。ありがたいなって。

■ああ〜。

松原:ただ、地震に負けてばかりじゃあおもしろくないっていうか、悔しいじゃないですか。人間はどうしても災害には負けてしまうけど…語弊があるかもしれないけど…地震があったからこそ生まれるものも作んなくちゃだめだと思うんです。

■はい。

松原:こういう言い方をしたら気分を悪くする人も居ると思うんですけど、“COMIN'KOBE”も地震があったからこそ生まれたイベントなんですよね。地震から10年経ってこのイベントが生まれたっていうフラッグシップの1つになればいいなと思っているんです。

■そうですよね。

松原:岩手県大槌町の“おおつちありがとうフェスティバル”とか、さっきも言った福島県南相馬市の“騎馬武者ロックフェス”もそうですけど、僕が2005年に“COMIN'KOBE”を始めたのと同じ気持ちで無料フェスを始めている方々が居て。

■はい。

松原:“COMIN'KOBE”も寄付をさせてもらったんですけど、これからはもっとリンクしていって、同じ気持ちでやっている全国のイベントがひとつになればいいなと思うんです。そういうイベントが始まって、めっちゃ嬉しかったんです。めっちゃ嬉しかった。相談があったときも嬉しかったですし。

■東北は被害の地域が広範囲過ぎるので、神戸以上に時間がかかるでしょうね。

松原:そうですね。だからこれからもがんばっていきます。

interview:Takeshi.Yamanaka
COMIN’KOBE15
2015/4/29(水・祝)神戸ポートアイランド
ワールド記念ホール、神戸国際展示場1・2・3号館
http://comingkobe.com/

 

 

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