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カミナリグモ

2人が紡ぐ物語は果てなき地図に新たな航路を描き続ける

カミナリグモ_A写大2年4ヶ月ぶりのオリジナル作品を完成させた、カミナリグモ。2013年にはセルフカバーアルバム、2014年には敬愛するthe pillowsの25周年記念トリビュートアルバムへの参加を挟みつつ、純粋な新作としては満を持してのリリースとなる。以前はサポートメンバーを加えたバンド編成で活動していた彼らだが、ここ2年でメンバー2人のみによるワンマンツアーやホールワンマンを敢行。最大の魅力である楽曲の世界観を際立たせるべく、新たなスタイルを模索してきた。その中で磨きあげた2人体制での活動へ本格移行しての2015年、会心作と呼べる新作を手に上野啓示とghomaが紡ぐ物語は未知なる新章へと突入していく。

 

「ブランクペーパーに地図を描くということは決まっているけど、どういう地図が描かれるかは決まっていなくて。その向こうに何があるのかはわからないけど、すごくワクワクしているような感覚があるんです」

●今回のリリースはオリジナル作品で言うと『MY DROWSY COCKPIT』(2012年/アルバム)以来となりますが、その間の2013年にはセルフカバーアルバム『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』をリリースしているんですよね。

上野:元々はサポートメンバー2人を加えてのバンド編成で活動を続けてきたんですけど、『MY DROWSY COCKPIT』のツアーが終わった後にメンバー2人だけでツアーをまわろうという計画が持ち上がったんです。そのツアーをまわるにあたって、今までバンドでやってきた曲を2人でのアコースティックアレンジに変えた音源が必要だなと思って作ったのがそのセルフカバーアルバムですね。

●2015年からはメンバー2人体制での活動へ本格的に移行したわけですが、今後は2人だけでやっていこうというのはその時点から考えていたんですか?

上野:その時点ではあくまでもバンド編成での活動がメインにある上で、2人だけでもライブができる形にしようという感じでした。でもそのツアーが1つのキッカケにはなって。ただアコースティックになって音数が減っただけのようなものにはしたくなかったし、やるからには色々とこだわってやりたいというところで試行錯誤しながらまわったツアーだったんです。そういう中でツアーに来てくれた人たちの反応も良くて、自分たち的にも手応えがあったんですよね。

●ツアーで得た手応えが大きかったんですね。

上野:あと、これから活動を続けていく中での未来をイメージした時に、どうしてもメンバー2人だけで完結していく必要があるなというのは強く感じていて。一番大きいのは、気持ち的な部分での足並みを揃えることだったんですよね。

●気持ち的な部分で足並みを揃えるというのは?

上野:このバンドに人生をかけるというか、やっぱり“メンバーである”というのはそういうところに出ると思うんですよ。そこが決断やフットワークの速さにもつながってくると思うから。そういう中で2人でツアーをしてみたら、最初はバンド活動がある上での“サブ”としての活動のつもりだったものがそういう意味ではなくなっていったんです。2人だけでも、今までバンドでやって来たような形で活動できるんじゃないかという手応えがあったんですよね。

●2人だけでやることに不安はなかった?

ghoma:バンド編成から2人だけでやる形に変わるということで、最初は“どうすればいいんだろう?”というのはあって。そこで色々と悩んだ結果、トラック操作を足元でやりながら演奏するっていう“原点”になるスタイルを見つけた時に「いけるんじゃないかな」と思いました。まずセルフカバーアルバムでは実験的に色々とやってみたりして、そこからツアーをまわったことで「いけるな」という確信に変わったんです。

●ツアーの中で、2人編成でのライブのやり方を見つけられた。

ghoma:2人だけでライブを見せる上で、パフォーマンスというのは(ステージ上の)人が表現するっていうだけじゃないなと思って。ステージオブジェクトとか色んなものも含めた上で世界観を表現するっていうところが自分たちの魅力にもつながるんじゃないかなっていうふうに、すごくポジティブに考えられるようになってきたのもそこからでしたね。

上野:それで2013年の末に大掛かりな可動式のステージセットを導入して、それを僕が足元で操作するようなライブをやり始めたんです。バンド編成でやっていた頃からスケールダウンした形じゃなくて、逆に2人じゃないとできないようなことをやっているような形に持っていきたいなという想いがあったんですよね。

●2人編成だからこそできるライブの形を模索していたんですね。

ghoma:そういうことをやっていくうちに自分たちのやりたいことがだんだんクリアになってきたので、今はこの方向でやっていけるなというのをすごく感じています。バンド編成でやっていた頃は楽器や人といった面で、あえて制限をかけていたところもあったんです。でもそういうところも2人でやれば取っ払えて、色んな可能性も含めた全てをツールとして使っていける。

●2人になったことで逆に制限がなくなって、自由になった部分もある?

上野:バンド編成でやることでの制限というのは悪いことではなくて、だからカッコ良い/面白いという部分ももちろんあると思うんです。ただ、2人で本格的に活動を始めてから自由度が高くなったということが今のところ良い方向に機能している気はするから。やっぱり一番の根底にあるのは楽曲の世界観だと思うので、そこは自由度があるほうが広がりやすいのかなと。どっちも好きなんですけどね。

ghoma:別にバンドが好きじゃなくなったとかいうわけじゃなくて、そこにこだわる必要がないというだけで。音楽として必要であれば、バンドサウンドもツールの1つとして使うわけだから。

●表現する上での選択肢が増えたわけですよね。

ghoma:前までは選択肢が1つの中でやるっていうこだわりがあったんですけど、今はそれ(※バンド)も選択肢の1つになったというか。あと、僕自身も以前はキーボーディストだったのが、2人になってからはサウンドクリエイターという感じになって。別に鍵盤じゃなくても音を出すもの全てを使って、音楽や歌詞を表現すればいいんだなっていう。

上野:自分のソングライティングやghomaちゃんのキーボードのフレーズとかが変わったわけではないんですよね。音圧やグルーヴ感というところでは変化があったかもしれないですけど、根本にあるものは変わっていないと思うから。どうしても当初はバンドでやっていた曲を2人用にアレンジし直すような形になってしまっていたので、そうではなくて2人でやっている音楽の形が正解だという見え方にしていかないといけないなっていう想いがあって。そこから2人でのオリジナル曲を作っていったんですけど、そのうちの何曲かは今回の『続きのブランクペーパー』に収録されています。

●2人でやる前提で新たにオリジナル曲を作っていったと。M-1「サバイバルナイフ」は以前からライブでもやっていましたよね。

上野:バンド編成でやっていた中での代表曲や人気曲もあるんですけど、そこに頼るんじゃなくて。これから2人編成でやっていく中で、また新しい自分たちのテーマソングを作っていかないといけないなと思ったから。そういうつもりで新しい曲を作ったり、アレンジしたりしていきましたね。

●「サバイバルナイフ」とM-6「ブランクペーパー」が今作の軸になるものなのかなと。

上野:「サバイバルナイフ」をリード曲にしようというのがまず決まって、だとしたらもう1曲の軸になるのは「ブランクペーパー」かなと。その2曲は漠然と1曲目と最後というイメージがあったので、その間に入る曲を選んだり書き足していったという感じです。

●今作の楽曲を聴いた時に、どこか吹っ切れたような印象を受けたんですが。

上野:吹っ切れたかそうじゃないかと訊かれたら、吹っ切れたんでしょうね。

●それは何かキッカケが…?

上野:メンバー2人だけでやっていくんだという決意と、そこで自分たちが作り出したものに対する自信が大きいですね。なおかつ今は自分の得意なことをしているという感覚があるから。サポートメンバーを入れてバンド編成で活動していた時は、どうしても他人と比べてしまっていたというか。色んなバンドがいる中で、自分たちはロックバンドとして「劣っているな」みたいに感じることが多かったんです。

●そんな意識があったんですね…。

上野:でも今はそこじゃないというか。そこで勝負する必要はないし、逆に言うと自分たちが今やろうとしていることのフィールドでは勝負できるという手応えがすごくあるから。自分たちの楽曲や世界観という部分では、自信を持っているんですよね。

●他のバンドとの比較という意味では、the pillowsの25周年を記念したトリビュートアルバム『ROCK AND SYMPATHY』に参加したのは良い機会だったんじゃないですか?

上野:あのトリビュートはまだ今後の方向性について微妙な段階で、お話を頂いたというのもあって。収録曲に関してもバンド編成で録音するか、2人編成で録音するかで迷いがあったんです。そこで(the pillowsの山中)さわおさんにも相談してみたら「2人がいいんじゃないか」という話になって、2人でやってみたカバーがすごく良かったんですよね。自分たち的にも今作と同じように手応えがあったし、聴いてくれた人からの反応もすごく良かったので、そこで2人でもやりたいことを表現できるんじゃないかと思ったところはありました。

●トリビュート盤に「開かない扉の前で」で参加した後のツアー名が“BEYOND THE LOCKED DOOR! (開かない扉の向こうへ)TOUR”だったというのも、そこで1つ突き抜けられたことの表れなのかなと。

上野:まさにそうですね。今は本当に扉の向こうに来たような感覚があって。色んな意味で良い機会を与えてもらったなと思います。次のツアーにつながっていったというところもそうだし、音楽的な可能性を再確認できたというのもあったから。これからこの形で活動を続けていく中で行き詰まることもあるかもしれないんですけど、今の時点ではすごく可能性を感じているというか。サウンド面でもまだまだやりたいことがあるんです。世の中にはまだこの6曲しか出ていないけど、まだ“2人だからこういうこともできる”というのがあるんですよね。

●ジャケットもすごく視界が開けているイメージがするというか。

上野:まさにそういうことだと思いますね。前作の『MY DROWSY COCKPIT』のジャケットはコックピットの中に1人取り残されて(物語が)終わってしまうというような作品だったので、そこから無事に地球に生還したような感じですね。宇宙から戻ってきて、今度はまだ見ぬ海へ向けて船で航海を始めるみたいなイメージがあって。それが今回のアートワークや楽曲には出ているのかなと。

●「ブランクペーパー」という言葉からは“白紙だからこそ、どこへでも行けるんだ”というポジティブな気持ちを感じます。

上野:そうですね。ブランクペーパーに地図を描くということは決まっているけど、どういう地図が描かれるかは決まっていなくて。その向こうに何があるのかはわからないけど、すごくワクワクしているような感覚があるんです。

●そのワクワク感が今はすごく大きいのかなと。

上野:最近はあまりなかったんですよね。もちろんデビューした当初はあったと思うんですけど、その時とちょっと似たような気持ちというか。最初にインディーズで『春のうた』(1stシングル/2008年)というシングルを出した時や、さわおさんのプロデュースでメジャー1stシングル『ローカル線』を出した時の感覚に近いですね。

●これからまた始まる感覚がある。

上野:これから自分たちのやろうとしていることが(リスナーに)どう受け入れられるのかなというところに期待はしていて。だから改めて“デビュー作品”のつもりというか、当時の気持ちを思い出すんです。もちろんこれまでの活動の中でも認知してくれている人はいると思うんですけど、自分たちとしては2人だけで完結する音楽というのは初めてだから。それが“どう評価されるんだろう?”というところで、ワクワクしている気持ちが新鮮ですね。

Interview:IMAI

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