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KEMURI

結成20周年からその先へ。夢を信じて前へと進む彼らの前には果てなき道が続いている

PH_KEMURI_main日本のスカパンクシーンの先駆者、KEMURIが結成20周年を迎えた。2012年9月の“AIR JAM 2012”にて復活を果たして以来、よりアグレッシヴな活動を展開してきた彼ら。オリジナルアルバム2枚とカヴァーアルバム1枚を発表してきたのに続けて、今年6月にはオールタイム・ベストアルバム『SKA BRAVO』、さらに今月には通算11枚目のニューアルバム『F』をリリースする。4月に敢行した17年ぶりのUSツアーの前にコロラド州フォート・コリンズにある“Blasting Room Studios”にて、ベスト盤用の新録曲と合わせてレコーディングされたという今作。必殺のスカパンクチューンからアコースティック曲までヴァラエティ豊かな楽曲は、バンドが今いかに良い状態にあるかを物語っているかのようだ。20周年を迎えた今の心境から、ベストアルバム〜ニューアルバムの制作にまつわるエピソード、さらには今後についてもメンバー5人が語るスペシャル・ロング・インタビュー。

 

●2013年に復活以降は毎年アルバムを発表されてきているわけですが、このペースの速さはバンドとしての状態の良さを物語っているのかなと。

伊藤:そうだと思います。バンドにとって、新曲を作るというのが一番大変なことなんですよ。それをこの3年間ずっとやれてきたというのは、バンドの状態が良いということなんじゃないかな。それぞれにお互いのことを理解しつつ、音楽を奏でられているというところに尽きると思いますね。

コバヤシ:再結成して以降は、解散した時の教訓みたいなものがみんなの中にDNAとして入っていると思うんですよ。思ったことを言わずに我慢しても、何も良いことがなかったという経験があって。今は感じたことをどんどん口に出したとしても、その根底には“KEMURIをより良くしたい”という想いがあることをみんなが自然に感じ取れているんだと思います。やっぱり、このメンバーでずっと死ぬまでやっていくんだという覚悟で再結成したと思うから。

●再結成した時は、このメンバーでずっと続けていくという覚悟があったんですね。

津田:もちろん再結成するからには、“続けていく”という覚悟がみんなにあって動き始めているわけだから。特にT(田中)が再結成後にまた入ってきたことで、昔の1stアルバム(『Little Playmate』)を出した頃の雰囲気に戻れて。またイチからみんなで新たに始めるという意気込みもあって、“続けないと意味がないよな”というのは常に思っています。

●オリジナルメンバーの田中さんが、再結成後に復帰したことも大きかった。

田中:再結成するということ自体もみんな考えていなかったかもしれないけど、僕がKEMURIに戻るなんていうのは自分自身も全く考えていなかったことで。こういう形になったのも何かの縁だと思うので、そこは大切にしようと思っていますね。

●それぞれに想いを持って、活動に取り組んでいる。

平谷:もちろん“やるからにはしっかりやろう”という気持ちは、みんなにあって。でも状態が良いからリリースがたくさんできているのか、リリースやツアーをたくさんしているから状態が良いのかはちょっとわからないというか…、両方とも正しいような気がしますね。それこそレコーディングの時は24時間みんな同じ建物の中で音楽と向き合っていたり、去年から今年の3月にかけて長いツアーもあったりして、そこでの経験はかなり大きいんじゃないかと思います。

伊藤:結局はバンドとして良い音楽を作るためにみんなKEMURIにいるわけだから、そこに尽きると思うんですよね。そうするためには何をすれば良いかというのをみんなが、もっと考えるようになったんだと思います。(活動を続けることについて)1人1人の想いはあるだろうけど、やっぱり1枚1枚のアルバムをみんなでとことん話し合って作っていくという、その先に長い時間があったというのがこの20年なわけだから。一番やりたいのは音楽だから、みんな未だにここにいるわけですよ。

●音楽に対する想いが変わらないから、新しい曲もどんどん生まれてくるんでしょうね。

津田:新たな環境で他のメンバーもいっぱい曲を持ってきてくれるし、その人たちなりにKEMURIを思って作った曲が増えてきているから。“僕と誰かが何曲かずつ”という昔みたいな感じじゃなくて、みんなが同じくらいの曲を持ち寄っていて。それをああだこうだ言いながらやってみて、最終的に良いものを選りすぐるという感じですね。

●メンバーみんなが曲を持ち寄るようになった。

平谷:“みんな頑張っているし、俺も頑張ろう”っていう感じですね。

伊藤:他の人も曲を作るっていうところで、“自分がやらなきゃいけない!”という半ば強迫観念的なものはもうないと思う。色んなことがバランス良く進んでいるんじゃないかと思いますね。

●バンドの雰囲気もどんどん良くなっていっている。

伊藤:そこは復活以降、年々ですね。やっぱり復活第一弾の『ALL FOR THIS!』というアルバムを作った時は今みたいな雰囲気じゃなかったし、今みたいな進み方じゃなかった。復活してから今回の『F』まで4回渡米して5枚アルバムを作っているんですけど、毎回ちょっとずつ変化しての今があるわけだから。

●今作『F』とベストアルバム『SKA BRAVO』は今年4月からUSツアーに出た際に、まとめて録ったんですよね。短期間に集中して録った感じでしょうか?

平谷:集中しました(笑)。レコーディングにかけたのが19日間で、残りがツアーでしたね。

●今回は最初からそういうペースで作ろうと考えていたんですか?

コバヤシ:最初はもうちょっと余裕のあるスケジュールだったんですけど、滑り込みで「あれも録ろう。これも録ろう」という感じで最終的に19日間で21曲録ることになっちゃって。

●直前で曲数が増えたと。

コバヤシ:それが決定したのがレコーディングに渡米する直前で、現地のスタッフにそのことを伝えたらざわめきだしちゃって(笑)。「自分たちだけでミーティングするから、ちょっと外に出て行ってくれないか」と言われて、そのミーティング後に細かいスケジュールが出てきたんです。最初は“そのスケジュール通りに進められるのかな?”と思っていたけど、実際はそれよりもちょっと巻くくらいで仕上がったんですよ。みんなすごいパワーだなと思って、ちょっとビックリしました。

●滑り込みで曲が追加になったのは、新作のほう?

津田:新作のほうですね。最終的に「こういう形で録ろう」と決まったのが渡米する数日前だったんですけど、「良いアレンジになったからぜひ録ろう」ということになって最終的に2曲くらい増えたんです。

●ベストアルバムのほうは、録る曲は決まっていたんでしょうか?

津田:決まっていましたね。

●ベストアルバムの収録曲を選んだ基準とは?

津田:ここ最近のライブで頻繁にやっている曲を集めたベスト盤という感じですね。

平谷:ライブでよくやっている曲を、今のライブのメンバーで録ったという意味もあって。

●初期の曲を録る時は当時を思い出したりもする?

田中:思い出しますよ。「New Generation」なんて初期のデモテープでも録っているし、1stアルバムでも自分が録っていて。今回また20年ぶりにレコーディングして、すごく不思議な感じでしたね。

●ちょっと巻き気味で終わったという話もありましたが、レコーディング自体はスムーズだった?

コバヤシ:ドラムが1日分巻いてくれたというのが大きくて。

平谷:頑張りました! 4日で全曲叩く予定だったんですけど、3日で終わらせて自転車に乗りに行きました(笑)。

津田:みんなスムーズでしたね。ホーン隊も普段はすごく時間がかかるんですけど、今回は1日3曲とかのペースでバッチリ終わっていって。ギターは元々早いし、ベースもスムーズに進んで。ボーカルもスムーズだったと思いますね。

伊藤:本当に予定どおり、1日2曲ずつくらい淡々と録っていった感じかな。いつもどおりでした。

●新作の収録曲に関しては、渡米前に全て完成していたんでしょうか?

コバヤシ:全部は完成していなかったですね。ホーンのアレンジや歌詞は現地に入ってから完成させたところもあったと思います。

津田:細かく言うと、ギターもベースも完全に決まってはいなかったんです。あとはアレンジをガラッと変えたものもあったりしたので、ほぼ向こうでの作業でした。それぞれに自分の曲に関してはイメージがあったと思うんですけど、そういうのはありつつ現場で色んな意見が出て変わったりもして。そこはみんなでアイデアを出し合っていった感じでしたね。

●19日間でベストアルバムを録りながら、新作の制作もして…というのはかなり大変だったのでは?

平谷:でもベストアルバムを録っている間って、何も考えなくて済むじゃないですか。どれも勝手知ったる曲なわけで。レコーディングしている時間だけは取られるけど、自分の番じゃない時は新作のほうを頑張るという感じでしたね。そのタイムラグはみんなにとって大事だったと思います。

●作品を作っていく上でのイメージは何かあった?

伊藤:やっぱり20年目の今年に出すアルバムだから、バンドのメンバー全員が作曲という形で参加できるようなものが良いんじゃないかとは思っていました。みんなで作ったんだというところが、一番大きかった。あとは、それをどうやってKEMURIの音楽にしていくかというのがあって。メンバーそれぞれの書いた曲がどうやってKEMURIの音楽になっていくのかというのは、“これから”という部分も半分くらいはあると思うから。レコーディングして、これからライブでやっていく中での伸びしろは残しつつ、やっていったという感じですね。

●先ほどもお話がありましたが、今回はメンバー全員がバランス良く作曲しているのが特徴ですよね。

津田:今までにない感じですね。『ALL FOR THIS!』の時は(津田・田中の)2人だけだったところから、だんだん庄至(平谷)くんの曲も増えていって。

平谷:今回は多めですね。これまでに自分が書いてきた曲の歴史みたいなのがある中で、どういうものが良いのかと考えたりして。最終的に、良い形になったので良かったです。

●曲を作る上で、何か意識したことはありますか?

伊藤:やっぱり新鮮でカッコ良いもの、自分たちがまず感動できるものというところじゃないですかね。曲は曲でそれ以上でも以下でもないし、言葉は言葉でそれ以上でも以下でもない。それぞれのメンバーが書いた曲と伊藤ふみおの歌詞が合わさって、またそれをみんなで考えて演奏していく中で、そこに深みをつけていくということだと思うから。やっぱり根本にあるのは1曲1曲に120%の力が入っていて、それが伝わってくるようなもの。今の2015年の自分たちの姿がその中にバッチリ入っているようなものということじゃないかな。

●新しい曲ができた時には、いつも自分たちでも新鮮さを感じられている。

津田:みんなが新しい曲を持ってくるし、色々とチャレンジもしているから。他人が聴いたら「一緒じゃん」と思うかもしれないけど、個人個人に自分のカラーはありつつ、新しいものを持ってきているんですよね。僕に関しては今まで大半の曲を書いてきたというのもあって、過去のKEMURIというものも押さえつつ、新鮮なものをということを考えています。

●それぞれ新しいことにチャレンジするという意識があるんですね。

田中:曲を作る時はやっぱり今までにない構成や展開のものになるよう気をつけていたりもするし、そういう面ではチャレンジしています。

平谷:僕は“隙間”を探しているというか。「こういうのはどう?」っていうものが見つかったら、それを持ってきてみようかなと思っていますね。

●M-13「PAIN」はアコースティックですが、これはどういう発想から?

田中:これは元々バンドアレンジで僕が作ってきた曲で。ふみおさんから「アコースティックのアレンジを作ってみない?」というアイデアが出て、やってみたら良い感じになったんです。

伊藤:「案外、良いね!」っていう(笑)。個人的な嗜好なんですけど、あんまりこねすぎない感じが良いというか。「PAIN」はバンドアレンジもすごく良いんですけど、このタイミングで録音して世に出すんだったらこの形のほうがより面白かったということですね。

●バンドとしての表現の幅も広がるというか。

田中:『RAMPANT』の時もそうだったけど、だんだん曲のバリエーションも増えてきていると思うから。今回もこの曲が入ることで、新しいバリエーションの可能性が開けたのかなと。アルバムタイトルの『F』は、僕にとっては“Freedom”でもあって…。

●タイトルの『F』には、色んな意味が込められているのかなと。たとえば新鮮という意味では、“Fresh”だったり…。

伊藤:柔軟という意味では“Flexible”も当てはまりますよね。

●実際はどういうイメージで付けたんですか?

伊藤:KEMURIのトランペッターだった森村亮介(故人)が作った曲に「song for my “F”」という曲があって。作った当時、本人に“F”の意味を訊いたら「“Friends”とか“Family”の“F”です」と。だから元々の意味としては、“Friends”や“Family”なんですよ。今回は森村亮介へのオマージュも込めて、「song for my “F”」から“F”をもらったんです。

平谷:今年が森村亮介の13回忌でもあるんですよ。その一区切りというところもあって、「song for my “F”」の“F”を頂いてきて。

●元々はそういうところから来ていたんですね。

伊藤:20周年というところで色んなことに区切りをつけて、これから先に進んでいくというところに亮介の13回忌が重なったんですよね。20年間やってきた中で離れていた時期もあったけれど、またこうやってみんなで楽しく音楽をやっている。今の時代に“さあ、これから先の20年〜30年に何を大切にして進んでいくんだ?”という気持ちを“Friends”とか“Family”の“F”に足していって。より多くの意味をプラスアルファされたものが、この『F』なんです。

●歌詞に関しても、これから先へという想いとリンクしている部分もあるんでしょうか?

伊藤:全部どこかに関連性はあると思いますけど、“20周年だからこういうことを歌いたい”というところから始まったものはあんまりないかな。それよりも今の自分の状況とかを素直に言葉にしていった感じですね。

●2015年の今の自分を切り取ったものだから、心境も表れているというか。

伊藤:そうですね。やっぱり言っていることというのは、“PMA(Positive Mental Attitude)”なんですよ。“良くなると信じて進むしかないでしょ。前を向いて、夢を持って行こうよ”っていうことなんです。それは1stアルバムから、ずっと変わらない。

●根本にあるものはずっと変わらないと。

伊藤:そこがある上で、作る時に何かをモチーフにするわけですよ。だから言葉のモチーフ自体は何でも良いと言えば、何でも良いんです。たとえばM-5「RAG」ではボロ雑巾がモチーフになって、M-2「WIND MILL」では風車だったというだけで。モチーフとして、何が今の自分たちにそぐうんだろうっていうのを考えますね。

●歌いたいモチーフみたいなものは20年経ってもなくならない?

伊藤:なくならないですね。1stアルバムにも「Live Up To Ya Rights」という曲で、“自分の権利に対してそぐうように生きろ”みたいな歌詞があって。ものの見方っていうのは、今とあんまり変わっていない。嫌なものは相変わらず同じようなものが嫌だし、大切にしたいものは同じように大切にしたいものとしてあって。

●自分の軸にあるものだから、変わらないんでしょうね。

伊藤:メンバーもみんなそうだと思う。楽曲やサウンド面ですごく大事にしているものというのは、あんまり変わっていないと思うんですよ。自分たちはやっぱりスカパンクバンドだから。今の時代の面白いことは取り入れつつも、「歌さえあればサウンドは何でもいいや」っていうバンドじゃない。

●スカパンクバンドであるということも変わらない。

伊藤:そういうものを作るということが、このメンバーでやっていることの1つの大切な意味だと思うから。

●スカパンクのレジェンド的存在であるREEL BIG FISH、LESS THAN JAKE、SKANKIN’ PICKLEとのツアーが9月に予定されていますが、これこそ20周年ならではなのかなと。

伊藤:“ならでは”ですね。

平谷:これこそ20周年です。

津田:その3バンドは憧れでもあり、目標にもしていた人たちだから。KEMURIを始める前から、そういうバンドの音源をすごくたくさん聴いたし、コピーもしていて。あの頃は「こういう音楽でKEMURIもどんどん人気が出たら良いな」とか考えて、すごく憧れていたんです。そういう人たちと一緒にツアーができるというのは、僕としては夢のような話ですね。

コバヤシ:僕は元々LESS THAN JAKEやSKANKIN’ PICKLEを知らなかったんですけど、活動していく中で「こういうパイオニアがいてこそのKEMURIなんだ」ということを感じてきたんです。そういう人たちとこの20周年の節目にやれるのはすごく嬉しいですね。“自分たちの夢を追いかけている”というところに賛同してくれる人が増えたら良いなと思います。

●今振り返ってみて、活動を始めた当初に夢描いていた場所に到達できたという感覚はありますか?

伊藤:そのポイントはもう超えていて、“次は何が起こるんだろう? これからどうなっていくんだろう?”という時期のほうが随分長かったですね。でも最近、個人的にはまた“ここに行きたい”とか“これをやりたい”というのがポツポツと具体的になってきたかな。特に今回のレコーディングを終えてアメリカツアーをやってから、それがすごく具体的になってきて“さあ、やるぞ!”っていう感じはあります。

●当初描いていた地点は既に超えられていると。

伊藤:20年前にまだ“KEMURI”という名前がない頃、スタジオに入って曲を作りながら「こんなことをやれたら良いね」と言っていたことはもう全部やったんじゃないかな。その最たるものが、未だにやっているっていうことだと思うけど(笑)。それがやっぱり一番すごいことだと思います。

Interview:IMAI

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