音楽メディア・フリーマガジン

Large House Satisfaction

輝くか破滅するか? 自信と覚悟に満ちた刃が新境地を切り開く

PH_LHSこれまで以上にメロディと歌の魅力を解放した前作のミニアルバム『Sweet Doxy』で、新たな可能性を感じさせたLarge House Satisfaction。その次に彼らが打ち出す新作は、さらなる広がりの可能性を見せつけるものとなった。今回のミニアルバム『SHINE OR BUST』では山森大輔(ROCK'A'TRENCH / SKA SKA CLUB)をプロデューサーに迎え、本来の重厚感のあるソリッドなサウンドの中にも、楽曲を煌めかせる様々なアレンジや工夫が仕掛けられている。とりわけリード曲の「Crazy Crazy」ではストレートな歌詞とメロディを抜群のバランス感覚で、この3人にしか鳴らせない独自のポップネスへと昇華することに成功した。“輝くか破滅するか”というタイトルが示すとおり、確たる自信と覚悟に満ちた作品だ。

 

「この曲ができた時に、久しぶりに「来たな!」という感覚があったんですよ。この曲でイケなかったら、もう“BUST”するしかないなと」(「Crazy Crazy」について)

●今回の新作『SHINE OR BUST』は、メロディと歌を重視していた前作『Sweet Doxy』の延長線上にあるものなのかなと感じたんですが。

要司:延長線上の作品と捉えてもらって、問題ないですね。『HIGH VOLTEX』(アルバム/2012年)以降、おそらく全てのアルバムが延長線上にあると思っていて。塗っているものが変わっているだけで、根本は変わらずに続けているというか。

●『Sweet Doxy』を作れたことで、自信がついた部分もあるのでは?

要司:もちろんそれもありますね。でも1回振り切ってやってみたものを世に出した結果として、自分たちが思っていたほどは取っ掛かりにならなかったなという感覚もあって。もちろん良い曲だとは思いつつも、もっと振り切らないとダメだなという気持ちになったんです。

賢司:自分たちとしてはポップにしたつもりだったけど、それがみんなの“ポップ”ではないんだなということを実感しましたね。

●だから今回はよりポップに振り切ろうとした?

秀作:自分たちの中での“ポップ”というよりは、純粋にポップな曲を作って、それを俺らがやることでお客さんにもっと歩み寄れるのかなと思ったんです。

要司:そういうものを思いっきり取り入れてみたという感じですね。俺たちもロックだけ聴いてきたわけじゃないから。小中学生の頃からJ-POPを聴いてきたし、やっぱり3人とも歌があってメロディのしっかりしている音楽が好きなんですよ。だから実際にやってみた時も「これをやって大丈夫なのか…?」みたいな気持ちはなかったし、パッと出てきた時に「良い曲じゃん」と素直に思えた。

●純粋に良い曲だと感じられたと。

要司:そうですね。正直、今までの曲とは一線を画すくらいの違いがM-2「Crazy Crazy」にはあると思うので、これまでの作品を聴いてくれてきた人たちの前に出すのはちょっと恐怖感があって。ただ、この曲自体が今までのお客さんたちというよりは、新しい人たちに向けてのものだから。せっかく振り切ったんだし、そこはあまり気にしないようにというか。

●作った当初は、まだ不安があったんですね。

秀作:俺はむしろ「こっちのほうが良いのかな」と思いましたね。

要司:「こっちのほうが良い」という転がし方をしていったというか。改めて今回の作品を1枚通して聴いた時に、(「Crazy Crazy」について)「これは他の曲と全然違うな…!」と思ってドキドキしたんですよ。他の曲は絶対にみんな「カッコ良い」と言ってくれるだろうけど、この曲は(反応が)わからないなと。でも(収録した)6曲を聴いてみて、やっぱり「Crazy Crazy」が一番良いなと思うんですよね。「リード曲はこれ以外にありえないな」という気持ちに自分でもなるから、間違いないんだなと思います。

●この曲を作ったのはいつ頃だったんですか?

賢司:(今回の制作期間の)最後のほうだと思います。前作のリリース後に曲を大量に作って、(レーベルに)提出するタイミングがあって。

要司:仮の歌詞まで書いたものを30曲くらい作ったんですよ。

●候補は30曲も作ったんですね。

賢司:最終的には40曲くらいあったと思う。

●その中には、他にも「Crazy Crazy」と同じような方向に振り切ったものもあった?

賢司:他にもあったんですけど、この曲が本当にダントツで良かった。できた瞬間、俺ら3人は「これだね!」となって。

要司:「次のアルバムをどうしようか?」となった時に『Sweet Doxy』の流れを汲みつつ、もっとキラキラしたものを作ろうと意識していたんです。候補曲を作っている時も最初はシンプルな感じだったんですけど、途中から凝り始めちゃって。かなり凝った曲も作ったんですけど、そういうものは1つも採用されなかったですね(笑)。やっぱり「Crazy Crazy」みたいにパッと出てきて、「これは良いでしょ!」となったものしか採用されなかったなと。

●瞬発力のある曲というか。

賢司:作るのに時間がかかった曲は1つも入っていないんじゃないかな。

要司:でもよく考えてみたら、俺たちの音源に収録されている曲は毎回そういうものだけかもしれない。その場ですぐに出てきたメロディとかは、最後まであまり変えないですね。

●今作の収録曲は全て、前作以降にそうやって作られたものなんですか?

要司:前回も20曲くらい作った中から6曲を選んでいて、実はM-5「ヴィヴィアン」は前作の時点で候補にあったんですよ。あと、M-6「やがて空に星と月」も案自体はすごく昔からあって。その当時は全然上手くまとまらなくて、お蔵入りしていたんです。でも今回たくさん曲を作っていく中で、「これもやっちゃおうよ」という感じで作ってみました。

●この曲もストレートに振り切った感じがします。

要司:振り切りました。曲調は全然違うんですけど、「Crazy Crazy」と似ているところがあって。歌詞の面で「ここまで俺は書けるんだ」と思えるところが似ているんですよね。

●歌詞も前作くらいからストレートな表現が増えてきましたよね。

要司:昔(の歌詞)は何を言っているのかわからなかったから(笑)。

賢司:俺は毎回、歌詞のコンセプトを聞いてはいたんですけど、それでもわからなかった(笑)。

●メンバーでもわからない(笑)。

要司:そういう作り方もアリだなとは思っていたんですけど、今回は曲だけじゃなく歌詞に対してもすごく詰めたんですよ。それは今回プロデューサーとして入ってもらった山森さん(※山森大輔…ROCK'A'TRENCH / SKA SKA CLUB)のやり方でもあって。歌詞について、ここまで詰められたのは初めてでしたね。「ここの歌詞って、どういう意味なの?」と訊かれて、「いや〜、…響きですかね」みたいな(笑)。

●ハハハ(笑)。

要司:そこで山森さんからは「そっか。でも意味もあったほうが良いよね。響きを大事にした上で、他に何か言葉があると思うよ」ということを言ってもらって、「ちょっと考えてみます」と。ほとんどの曲は何回も歌詞を書き直しました。そういうのがあって…成長しちゃったのかな。

●成長しちゃったんだ(笑)。山森さんとの作業はどうでしたか?

要司:音作りの時のセンスも俺たちとすごく近かったから、そういう面ではナチュラルにやれたのかなという気がします。

賢司:「こういうふうにしたほうが良いと思うけど、実際のフレーズは自分で考えてね」という感じでしたね。たとえば「ここのベースはもっと動いたほうが良いと思うんだけど」と言われたら、どういうふうに動くかを俺が自分で考えるっていう。「これはどうですかね?」みたいな感じで相談はしながらだったんですけど、久しぶりに学校に通っているような気分でした(笑)。

●先生と生徒というか。

要司:勉強を教えてもらっているような感覚はあったかもしれない。たとえば「ここはこういうコード進行にすると、スッキリした感じになるよ」と教えてもらって、「そうやれば良いんだ!」みたいな。良い曲を作るのに方程式とかはないと思うけど、ある程度のセオリーはあるわけだから。俺たちが知らなかったものを教えてもらって、それを今までの初期衝動や荒々しい部分とブレンドしてみたら面白くなったという。でも結局は「俺たちになっちゃったね」と(笑)。

●最終的には自分たちらしいものになったと。山森さんならではの要素も加わっていたりする?

秀作:M-4「Child Play」のアウトロにリズムのオブリガートが入るんですけど、それがスカっぽい感じになっていて。あれは山森さんが「こうしたら良いんじゃないか」と言ってくれたものなんですよ。自分の中にはなかったドラムなので、最初はちょっと難しかったですけどね。

●そういうところでプレイの幅も広げられている。

秀作:そうですね。山森さんは知識量がハンパじゃなかったです。

賢司:俺らが「こういうふうにしたい」と言ったら、そうするための方法を教えてくれるんですよ。

要司:そうやって新しく身体に入ったものを作品全体に散りばめられたかなと。だからキラキラしている感じは、前回よりも上がっていると思います。

●タイトル曲のM-3「SHINE OR BUST」でも“きらめきながら”という歌詞が出てきますが、キラキラしている感じというのも今作のテーマだったのかなと。

要司:全体的にブリリアントな感じにしようとは思っていました。この曲は一番バカな曲というか。俺たちは1枚のアルバムに1曲は必ず、バカな曲が入っているんですよね。でも実はここまで軽い歌詞って、今までになかったなと思っていて。

賢司:パーティーみたいな(笑)。

●パーティー感のある歌詞になっている。

要司:ここまでハードロック調で、突き抜けて明るい曲というのはなかったかな。今までのハードロック調の曲は、重くて暗いものが多かったんですよ。この曲みたいにパーッと明るくて、頭がパカーンと開くようなものはなかったなと思って。

●明るい方向に振り切った曲というか。

賢司:その上にAC/DCみたいな歌詞が乗るっていう。

要司:「細かいことは気にしないで、騒ごう。己を解き放て!」みたいな歌詞で、無責任な感じですね(笑)。

●これがタイトル曲になっているわけですが、リード曲は「Crazy Crazy」なんですよね…?

要司:「セオリーどおりに行くなら『Crazy Crazy』がタイトルだよね」という話はしていたんですけど…、今回の6曲は本当に真面目に作ったというのがあって。歌詞に関しても勢いだけじゃなくて、すごくブラッシュアップを重ねて作ったものなので、全然フザけていないんですよ。そこでちょっとはフザけたいなというところがあって、まず「SHINE OR BUST」の曲名を決める時に「これはAC/DCみたいな曲だから、AC/DCのタイトルをパクろう」となったんです(笑)。

●そういうフザけ方をしようと(笑)。

要司:去年、AC/DCが『Rock Or Bust』というアルバムを出したんですけど、その“ロックするか破滅するか”っていう和訳を見た瞬間に「この人たちはやっぱり最高だな」と思ったんですよ。その響きがハマりそうだなと思って。「輝いている感じが良いよね」という話はしていたので、“Rock”の部分を“SHINE”に変えて「SHINE OR BUST」にしたんです。そういう遊び心を出せたので、「じゃあ、アルバムタイトルもこれにしちゃおうよ」と。

●タイトルで遊び心を出したわけですね。

要司:ある意味フザけて付けた部分はあるんですけど、偶然にも“輝くか滅びるか”という意味は俺たちが思っていることだなと。

●遊び心もそうだし、刺々しい毒の部分だったりロックバンドとしての芯は、楽曲がどんなにポップになってもなくならない。

要司:でも実は前作って、刺々しい曲がなかったんですよ。俺の中には、一般社会に対する苛立ちみたいなものがあって。そういうものを歌って何かを変えようとは思わないけど、ただ単に「ムカつくんだよな」ということを言いたいというか(笑)。それが『HIGH VOLTEX』の時にはあったんですけど、前作にはなかった。そうやって考えると、今作はこれまでの全部の作品がバランス良く合わさってできたものなんだなと思いますね。

●まさに全ての作品が延長線上にあると。

要司:そうなんですよ。ここまでトガッた歌詞を書いたのは、久しぶりなんですけどね。

賢司:あと『Sweet Doxy』はポップなものを意図した上で良いアルバムができたと思ったんですけど、結果としてライブでの使い勝手が難しい曲が多くなってしまって。だから今回はポップだけど、ライブでもそのまま全曲使えるものを作りたいなと思っていたんです。たとえば「やがて空に星と月」も3人の音だけで成立するものの上にプラスアルファの音が乗っているというか。ストリングスがなくても成立するものにはしているから、ライブでも全然やれるんですよ。まだツアーは始まっていないんですけど、今回の曲はどれもイケそうだなという感覚があります。

●ツアーで盛り上がるのは間違いないですね。

要司:今までのライブでもお客さんとの距離感がだんだん近くなって一体感も生まれてきているし、せっかくみんなで歌える曲というものができたから。今回のツアーで曲をさらに磨いて、ファイナルのO-WESTでは一番最高の形で出したいですね。

●「Crazy Crazy」をライブでやった時の反応も楽しみなのでは?

要司:ツアーをやっていく中で自分の気持ち的にも変わっていくと思うし、そこは楽しみですね。この曲ができた時に、久しぶりに「来たな!」という感覚があったんですよ。この曲でイケなかったら、もう“BUST”するしかないなと。

賢司:俺らを“BUST”させないで下さい! (笑)。

一同:ハハハハハ(笑)。

Interview:IMAI

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj