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THE PINBALLS

時代は変わっても、尊き愛と感謝に満ちたロックは輝きを失わない

PINS_1509_webTHE PINBALLSが約1年ぶりとなる新作ミニアルバム『さよなら20世紀』を完成させた。初のフルアルバム『THE PINBALLS』を昨年9月にリリースして以降、ライブバンドとしての力量をさらに高めてきた彼ら。今作にも収録の「劇場支配人のテーマ」はニコニコ生放送などで配信中のアニメ『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』第3話のエンディングテーマとなるなど、その名は着実に広がりを見せている。変わりゆく時代の中で焦燥感を感じながらも揺らぐことなく、じっくりと練り上げられた楽曲たちは気高い輝きを放っているかのようだ。

 

「こっちは一生愛させるつもりでやるし、お客さんはいつでも嫌いになるくらいのつもりでいてくれたらなと。それって、本気のぶつかり合いじゃないですか。そういうのが尊いなと思うんですよ」

●前作『THE PINBALLS』リリース以降、ライブの雰囲気が変わってきたように思うんですが。

古川:そうですね。最近、ライブが楽しくなってきていて。正直、今までは「ライブバンドになりたい」と言いながらも、本当は音源を作るほうが好きだったんですよ。でも最近は「ライブのほうが良いかもな…」と思うようになってきて…本当に楽しいです。お客さんも良い人たちばかりだし、歌っていても気持ち良くて…当たり前のことなんですけど(笑)。

中屋:メンバー同士で話し合ったりはしていないんですけど、ライブに対する根本的な意識が変わってきているなという気はしていて。個人個人のそういう変化が、ステージ上で楽しめたりするところにつながっているんだろうなと思います。

●実際、ライブでの感覚も変わってきている?

中屋:前までとは違う感じがあって。今までも楽しくはできていたんですけど、その“楽しさ”が今までとは違う感じがするんです。

●“楽しさ”が今までとは違う?

中屋:演奏すること自体は元から好きで楽しいんですけど、今はちゃんと“ライブを作る”ことを意識しているというか。

●確かに最近はお客さんを巻き込んで、一緒にライブを作っている感じがします。

古川:昔から音楽雑誌とか色んなところで「ライブが大事だ」というのは見てきたけど、俺はCDを聴くほうが好きだったのでどこか嘘っぽく感じていたんですよ。でも実際にライブでお客さんが熱くなっている顔を見て、「こういうことなのか」と思えたというか。本当に「ライブって良いな」と最近は感じています。

●ライブの大事さが実感できた。

古川:そうですね。まだ怖さもあるけど、やっぱり上手くいった時の楽しさは大きいんですよ。…そういえばこの間、俺の誕生日にやったライブ(6/8@渋谷GARRET)でちょっとしたズレがあったんです。そしたらステージを降りた後に楽屋で、中屋が思いっきりイスを蹴って「フザけんな!」みたいな感じで怒って…。

●それはどういう理由で?

古川:俺や他のメンバーに対して「ふがいないぞ!」みたいな感じで。でもそれを見た時に「マジで楽しいな」と思ったんです。「良い人生だな」と。みんなでワイワイしながら誕生日ケーキを食べるのも楽しいんですけど、中屋はそんなのも関係なく、俺らがふがいないライブをしたら「お遊びじゃねぇんだ! ナメんな!」みたいな感じで怒るっていうのがすごく良いなと思ったんですよ。

●本気でバンドに向き合っているからこそというか。

古川:中屋って、ステージに対して本当に真剣だなと感じて。あれも“楽しさ“の1つだった気がします。その時は「中屋、怖い…!」ってなりましたけど、ああいうことも必要だと思うんですよ。でもそれが自分の誕生日だったので、「すごいプレゼントが来たな…」と(笑)。

●結果的に、良いプレゼントにはなったと(笑)。中屋くんも実は誕生日プレゼント的な気持ちで…。

中屋:それは全然、頭になかったです。

一同:ハハハハハ(笑)。

●そういう出来事も、ライブが変わっていくキッカケの1つになったのでは?

古川:なりましたね。すごく真剣で、熱さが伝わってきて。中屋があんな顔をしているのを初めて見たんですよ。俺と中屋は中学生くらいからずっと一緒にバンドをやってきたけど、俺がもっと良いボーカルだったらメンバーをもっと良い位置まで連れていくことができるはずじゃないですか。だから「こんな想いをさせて申し訳ないな」と思ったし、「メンバーにこういう顔をさせたらダメだな」というのも感じました。

●その事件があった頃には、今作『さよなら20世紀』の制作も進んでいたんでしょうか?

古川:曲はもうできていて、ちょうどレコーディングが始まるくらいの時でしたね。

●収録曲は前作以降に作ったもの?

古川:全部そうです。

●曲を作り始めた段階で、次の方向性は見えていた?

古川:いや、全然見えていなくて。1人でスタジオでずっと歌ったり、歌詞を書き直したり、曲のパターンを変えてみたり、1つの曲に全く別のパーツをくっつけてみたりして、ずっとこねていましたね。俺はあまり曲数を作らないので、今作に入っている7曲をずっと練習したり変えたりしているような感じでした。

●じっくり時間をかけて、曲作りをしたと。

古川:曲作りに時間はかかるんですけど、あえてそうしたいんですよ。自分の中で納得するまでは、人に聴かせたくないんです。特にM-3「20世紀のメロディ」は、1人でずっと歌っていましたね。“もっとこうしたいな”というイメージがあったので、“もうちょっと歌い込んでから聴かせようかな”という感じで。最初は全然違う曲だったんですけど、リハーサルスタジオで色んなパターンを試したりして。

●自分の中でじっくり練って、固めたものをメンバーには聴かせている。

古川:その代わりにバンドは期待に応えてくれるし、作業もすごく速くて。最後の盛り付けをメンバーにお願いするような感じなんですけど、メンバーに渡してからは本当に速いんですよ。

●曲作りは何曲か並行してやっているんですか?

古川:並行して作っています。だから元ネタみたいなものはすごくあるんですけど、それを平行して作業しながら頭の中でだんだん絞っていくというか。

●そういう中から今回の収録曲を選んだと。

古川:そうですね。出揃ったのは本当にレコーディングの直前くらいでした。先にM-6「劇場支配人のテーマ」だけは録っていて、残りの6曲を後からまとめて録った感じで。

●「劇場支配人のテーマ」はアニメ『ニンジャスレイヤー』の第3話エンディングになったわけですが、最初からそこに向けて作ったものなんですか?

古川:そのお話を頂いてから作りました。

中屋:確か今年の3月には録り終わっていましたね。

●アニメの原作を参考にしていたりもする?

古川:原作も読みましたけど、俺の曲作りは常にこねている状態なので、元ネタみたいなものはアニメとは関係なくあったんですよね。歌詞も途中で止まっていたところに、『ニンジャスレイヤー』の原作を読んだことで後半の部分が固まったという感じでしたね。

●『ニンジャスレイヤー』から得たインスピレーションが途中で加わったと。

古川:ショービジネスの話にしようとは思っていたんですよ。最初はタイトルもまだ決まっていなくて、現状の焦燥感みたいなものを書こうとしていて。今はライブとか音楽も(商業的に)厳しいという話をよく聞くじゃないですか。そういう中でも踏ん張っているもののイメージとして、ライブハウスの人たちが浮かんだんですよね。そこから『ニンジャスレイヤー』の原作を読んでみたら、殺したり殺されたりするシーンが多かったので、命にかかわるものが良いなと。

●そういうイメージを結びつけて書いた?

古川:あと、劇場の看板を見て浮かんだイメージもあって。「うらぶれた劇場で働く人たちはどうやって生活しているんだろう?」と思ったりするけど、どうにか生活できているわけで。俺たちみたいなバンドも同じで「どうやって食っているんだろう?」と思われながらも、何とかやっている。ライブハウスもお客さんが少ない日があっても、みんな踏ん張って戦っていて。そういうところでの“死んだり生きたり”が良いなと思ったんです。

●ショービジネスの中で、必死に生きている人たちの姿というか。

古川:そこで「ショーほど素敵な商売はない」という言葉が頭に浮かんで、「ショーほど素敵な死に方はないな」と思ったんです。何とか必死にやっている中で追い詰められて死んでしまうのもカッコ良いなと思えてきて、この歌詞のストーリーが決まった感じですね。

●そこに自分たち自身の姿も重ねていたりする?

古川:自分たち自身が追い詰められている状況もイメージしているし、「このままじゃ音楽はヤバい」という危機感を抱いて頑張っている人たちのこともイメージしていて。でも“ショー”って、そういうものなんじゃないのかなと思うんですよ。さっきの中屋の話もそうですけど、舞台が終わったらドカーンと爆発するようなことはあっても、ステージの上では命乞いをするような気持ちでやっているというか。お客さんを全力で楽しませて、終わったら「ああ、ヤバかった…」みたいなのが素敵だなと思うんです。

●歌詞の内容自体は、『ニンジャスレイヤー』と直結するわけではない。

古川:『ニンジャスレイヤー』そのままの世界を歌うよりは、それと同じくらいの差し迫った死生観を歌わないと絶対に勝てないと思ったんです。それくらい『ニンジャスレイヤー』の原作が面白かったから。「サツバツ!」や「ナムサン!」とか、出てくる言葉も面白いんですよ。すごくセンスが良いなと思ったんですけど、そういう言葉を使ってしまったら絶対に勝てないなと思って。「じゃあ、自分の言葉で書こう」という感じでしたね。

●どの曲も架空の物語的な感じではありつつ、その中に自分の気持ちも含まれているというか。M-5「スノウミュート」の“下手なままで良かった 血を吸われながら 陽に灼かれながら 変われないでいられたら”というのも自分自身の気持ちと重ねているのかなと。

古川:公園で練習していた時に、周りに蚊がたくさんいて。でもバンドで成功して金持ちになったとしても、今のほうが良いだろうなと思ったんですよね。「今はまだ下手くそで、蚊に血を吸われながら歌っているけど、これが尊いんだろうな」という気持ちで、この歌詞を書いたんです。最初の純粋な気持ちでやり続けるのが一番良いだろうなという想いが、その1行になりました。

●すごく上手なものや完璧なものを求めているわけではない?

中屋:自分が“良い”と思えるものが録れれば、それで良いと思うんですよね。完璧なものも好きではありますけど、別に完璧でなくても良いものは良いし、そこへのこだわりは全然ないです。

●今作も自分たちが“良い”と思えるものにはなったわけですよね。タイトルの『さよなら20世紀』は、「20世紀のメロディ」に由来するものでしょうか?

古川:「20世紀のメロディ」がリード曲で、これが今回のテーマでもありますね。実際この曲が今回で一番、心血を注いだ曲でもあるから。

●この曲はどういうことを歌っている?

古川:これはライブに来てくれている人たちのことを一番に考えて作りました。来なくなったりする人もいるんですけど、そのことを気にしないで欲しいと思うんです。気に入らなくなったら見捨ててもらっても良いし、「でも(自分たちからの)感謝の量は変わらないよ」っていうことを伝えたくて。

●一度好きになってくれた人が途中で離れてしまったとしても、感謝の気持ちは変わらない。

古川:人間って変わっていくものじゃないですか。時代も変わっていくし、終わっていくものだから。「滅びたり終わっていくものも悪くないよ」ということを言いたかったんです。“さよなら”も悪くないし、嫌われるのも悪くないし、俺たちが終わったとしても悪くない。もちろん終わるつもりはないんですけど、そういうことを言いたかった。本当に“ありがとう”っていう感じです。

●1回でもライブに来てくれたことに対する感謝は消えないというか。

古川:そのおかげで今でもやれているから。もしかしたらいつかまた戻ってくるかもしれないし、「感謝の量は変わらない」ということをすごく言いたかったんです。

●いつ戻ってきても、自分たちは活動を続けている覚悟があるからこそでしょうね。

古川:こっちは一生愛させるつもりでやるし、お客さんはいつでも嫌いになるくらいのつもりでいてくれたらなと。それって、本気のぶつかり合いじゃないですか。そういうのが尊いなと思うんですよ。

Interview:IMAI

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