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TOKYOGUM

豪快かつ繊細なサウンドと武骨な歌が、心に秘めた“青”を解き放つ

TOKYOGUM2015a写 2昨年9月に残響recordから2ndミニアルバム『Thirsty?』をリリースしてから1年、TOKYOGUMが飛躍的な進化を見せる新作を完成させた。印象的なトランペットの音色に導かれて幕を開ける今作『涙』は、新しい何かが始まるような期待感と高揚感を聴く者にもたらす。Vo./G.舘が描く歌詞は心に突き刺さるエッジの鋭さを研ぎ澄ましながら、キャッチーさを増したメロディと共に普遍性すら漂わせるようだ。豪快さと繊細さを併せ持つバンドサウンドと、誰もが心の内に秘めた“青さ”を武骨に表現する歌は、時代を超えて鳴り響くだろう。

 

「普遍的に伝わる内容になっていると思うんですよ。音的にも世代を超えるものになっていて。今の流行りとか音楽シーンの動向にも左右されない、筋の通ったアルバムだと思う」

●今作『涙』のレコーディング中にTwitterで(Ba.鈴木)ロウくんが“ヤンキー感が出ていてめっちゃくちゃいい感じ”と書いていましたが…(笑)。

ロウ:書いていましたね(笑)。

藤本:M-7「青」の後半でギターが重なっている部分をよく聴くと、パラリラパラリラと鳴っているんですよ(笑)。

●あ〜、そこのことだったんですね。

藤本:たまたまなんですけどね。あと、全体的な音のイメージも前作『Thirsty?』よりかなり豪快だし、迫力のあるダイナミックな音になっていて。優等生的な音というよりは、タガが外れた音になったなっていう。

●そこが“ヤンキー感”だと。確かに音の雰囲気は、前作とかなり変わったように感じました。

舘:今回はレコーディングの当日まで、どういう感じの音にするかというイメージがボヤッとしていたんですよ。それでエンジニアさんからの提案でBIG MUFFというエフェクターを使ってみたらすごくハマって、「この路線で良いんじゃない?」と決まったんです。ファズやディストーションの音圧の壁というか、そういうサウンドが今回持ってきた曲にはハマるなというのをレコーディング当日に発見して。それによって全体として、こういう音のアルバムになったという感じですね。

●こういうサウンドを最初から意図していたわけではない?

舘:全く意図していなかったですね。

藤本:幅の広い曲が集まっていたので、自分たちの中でも統一感みたいなものが見えていなかったんです。BIG MUFFだけじゃなくて、ギターアンプもすごく良いものを使わせてもらったり、ギターやドラムも良いものや珍しいものを使わせてもらったことで、全体の音そのものの質感はレコーディング当日になって一気に見えた感じがしますね。何となく“こういう感じ”というイメージはあったんですけど、それが楽器に助けられて明確になったという感じでした。

●楽器の果たした役割も大きかった。

ロウ:やっぱりエンジニアさんのほうが僕らよりも経験があるので、「これを使ってみなよ」みたいな感じで色々とアドバイスを下さって。

舘:普段は1本しかギターを使わないんですけど、結果的に今回は4本くらい使いましたね。

●宣伝用の資料に掲載されている舘くんのセルフライナーでは“苦しかった一年”と書かれていたので、そこを乗り越えたことも音の変化に出ているのかなと思ったんですが。

舘:その“気持ち悪さ”みたいなものをきれいに消化できたなと思えたのが、レコーディングの初日で。“こういうサウンドか!”みたいな感じで、パッと晴れたというか。

●そこで自分の中にあった“気持ち悪さ”を消化できたと。

舘:何らかの出来事があって、自分の中にモヤッとしたものがないと曲ができない。今回はそれを全部吐き出したというか。『涙』というタイトルも、“ここで涙を出し切って置いていこう”みたいな感じなんですよね。もう次のことも色々と考えているから、上手くいかなかったことは全部ここに置いていくっていう。

●タイトルにもそういう意志が表れている。曲名ではM-6「1992」もどんな意味なのか、気になったんですが。

舘:「1992」は僕の誕生日の歌なんです。この曲は元々SoundCloudとBandcamp上でのフリーダウンロードで発表していたものを今回、再録したんですよ。

藤本:ライブでは評判が一番良い曲だったんですけど、全部吐き出すという意味でこの曲も置いていかないといけないなっていう。1回ちゃんとリリースして、この曲と決別してから新しいステップに行こうと。そうしないと、この曲にずっと囚われてしまうなという感じがしたんです。今回で堂々と発表して、これを超える曲を次にまた作ろうというイメージですね。

●それくらい自分たちの中でも大きな曲だった。

藤本:そうですね。元々は今回のリード曲にしようと思っていたくらいだったんです。

●実際のリード曲はM-2「MILKY」ですが、こちらを選んだ理由とは?

舘:単純に短くてカッコ良いからっていうのと、こういうリフをやっている人は他になかなかいないだろうというところからでした。

藤本:自分たちの想定以上に、仕上がりが良かったんですよ。「こんなにカッコ良くなるんだ!」というくらいだったから。最初は「1992」がリード曲だと思っていたんですけど、音では「MILKY」の圧勝だったっていう。

●「1992」以上の曲を作るという課題も乗り越えられた。

藤本:そうですね。

舘:人によっては「1992」のほうが好きという人もいると思いますけど、「MILKY」は個人的にはかなり攻めている感じがします。

●この2曲もそうですが、今回はどの曲もリード曲になりうる作品かなと。

藤本:人ぞれぞれの好みとか、その時の心情や置かれている環境によって好きな曲が変わるんじゃないかと思います。これはバンドの性質というよりも舘個人の性格によるところが大きいと思うんですけど、納得しないと次に進めないタイプなんですよね。『涙』というタイトルの意味もそうだし、“ここに全部置いていく”という覚悟もそうだし、制作に関しても1曲1曲に満足しないと次になかなか進めないというか。今作ろうとしているものをまずはちゃんとしたものに仕上げたいんです。その結果、シングル級の曲しかできないっていう。そういう曲しか作りたくないというわけではなくて、自分たちの中ではフザけた感じで作っていたものがそういう曲になることもあって。

●1曲1曲終わらせてから、次に進んでいく。

藤本:全身全霊で1曲ずつ作っていくっていう。

舘:2曲同時に作ったりはできないんですよ。1曲を満足のいくものに仕上げるのに、1ヶ月くらいかかります。

●ちなみにM-3「ピアス」とM-4「U」はラブソングでしょうか?

舘:この2曲はラブソングですね。僕はラブソングと、気に入らないことについてしか書けないんです(笑)。

●その2つしか歌詞のテーマはないと(笑)。歌詞の世界観もすごく深まっているように感じたんですが。

舘:それはあると思いますね。より複雑な人間になっている気がします。

●それは苦しかった一年がゆえに?

舘:そうですね。より面倒くさい…心を開きづらい人間になっていると思います(笑)。

●今の心境が出ているからか、歌詞にはある種の統一感があるなと。

舘:その時の自分をそのまま書いているので、歌詞には自然と統一感が出るんですよ。やっぱり10ヶ月くらいで、人の考えていることはそんなに変わらないから。

藤本:本当にその時の舘が考えていることが素直に出ている歌詞だと思います(笑)。だから伝わりやすいんですよね。別に作っているわけじゃないから。

●確かに使っている言葉もわかりやすいですよね。

舘:言いまわしだけは考えますけど、誰にでもわかる言葉で書くようにはしています。何を言っているのかわからないような歌詞は好きじゃないというのもあって。

●M-1「カタストロフ・イン・ザ・ダーク」だけは、他と少しタッチが違うように感じたんですが。

舘:もしかしたら収録曲の中で、これが一番新しい曲だからかもしれない。そういう意味では、他の曲とちょっと違うステップに移りつつあるのかもしれないですね。

●サウンド面でも新しいことに挑戦した部分はある?

ロウ:新しいことといえば、トランペットや鉄琴を入れたりしたことかな。ギターも前作より重ねたことで、広がりが出たとは思いますね。

舘:前作では「腐海前」という曲しか、ギターを重ねていないんですよ。絶対に前作とは違うアルバムにしたいと思っていたので、次はいっぱい重ねてみようと思っていて。サウンド的には今まで取り入れたことのない楽器の使用と、ギターのダビングというのが新しいところですね。

●あと、歌い方も変わりましたよね?

舘:すごく変わりました。今回は『Thirsty?』よりも、もっと歌を立たせたアルバムにしたいなと考えていたんです。だから、前よりもメロディの動きが大きくなったのかもしれない。ポップスや歌謡曲っぽくなったというか、歌の存在感は前作よりも強くなったと思います。

●それによって伝わりやすくもなったのでは?

舘:歌詞とメロディに合致している感じがあって。歌詞がわかりやすくてもメロディがわかりにくかったら耳に入ってこなかったりもするので、そのへんのバランス感みたいなものが前作よりも鍛えられているなと思いますね。伝わりやすい歌が歌えるようになったというか。

●そこに前作からの進化が明白に見える。

舘:どんな作品を作ったとしても進化させる余地というのは常にあると思うんですけど、『Thirsty?』を聴いて自分が真っ先に「進化させられるな」と思ったのが歌だったんです。悪い言い方をすると、アレンジとか演奏の複雑さや面白さみたいなものに逃げて、歌詞や歌が後まわしになっていたというか。そこから「もっと歌を曲の軸に据えたいな」と考えるようになって作ったのが、『涙』の収録曲ですね。

●前作を省みて、その反省点を今作に活かせたと。

舘:そうですね。だから今回の作品を作って見えた課題を解決するために、新しくギターを加えます。今回のツアーからはサポートギターを入れて、4人でまわるんですよ。

●そこは今作でギターを重ねたような、音の厚みをライブでも表現するため?

舘:厚みだけならBIG MUFFでも表現できるんですけど、「音圧に頼るだけじゃ“ロック”で終わるな」というのがあって。たとえば音が大きいというだけで、“うるさい”と思っちゃう人もいるだろうから。ドカーンと大きな音でもやれるし、すごく繊細な音でもやれるような、その両方を表現できたほうが絶対にカッコ良いと思うから。幅を広げるという意味で、もう1人ギターを入れようということになりました。

●今作から、さらに幅を広げていこうとしている。

ロウ:自分たちでも本当に良いものができたなというのは感じていて。でもこれを超える作品を作っていくつもりなので、これからも楽しみにしていて欲しいですね。

藤本:歌詞の世界観的には舘の個人的な部分によっているんですけど、普遍的に伝わる内容になっていると思うんですよ。音的にも世代を超えるものになっていて。今の流行りとか音楽シーンの動向にも左右されない、筋の通ったアルバムだと思うので、若い人だけじゃなくて大人にも届くものになっているんじゃないかなと。

●世代を超えて届くような作品ができた。

藤本:今回のツアーでまわる長野は僕の地元なので、凱旋ライブみたいな気持ちが個人的にはあって。親戚とかも呼ぼうかと思っているんですけど、そういう人にもたぶん届くと思うんですよね。世代の垣根を超えられるような作品に、これから育っていってくれたら良いなと思います。

舘:僕は「究極の“普通”のバンドになろう」と思っているんですよ。奇をてらわないというか。時代に関係なく、永く愛されるバンドになりたいなと思っていて。時事性に関係のない、人の本質を切り取るようなバンドになりたい。純粋に音楽を追求する感じというか。そういうことが向いていると思うし、そういうことしかできないなともうわかったから。自分には小手先で作ったり飾ったりすることはできないので、今後も武骨にやろうかなと思っています。

Interview:IMAI

 

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