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小林太郎

これまでの進化を全て注ぎ込んだ第一期・集大成的傑作が次なる道を照らしだす

PH_TAROAPHOTO-MAIN小林太郎が2013年1月の前作『tremolo』以来のフルアルバムとなる、新作『URBANO』(ウルバーノ)を完成させた。メジャーデビュー作となった前作以降にも1枚のシングルと2枚のEPを発表してきたが、今作はその中で培ってきたものを全て昇華した作品となっている。2nd EP『IGNITE』で見せたダイナミックなロックサウンドに、3rd EP『DOWNBEAT』で取り入れたダンスミュージックの要素も加え、さらに初期の名曲「美沙子ちゃん」に匹敵するバラードも収録。これまでの活動に一区切りを付ける集大成にして、次なる進化も予感させる渾身の1枚だ。

 

「色んな挑戦や経験をしてきた“小林太郎”というアーティストに1つの区切りを付けたかった」

●フルアルバムとしては『tremolo』(2013年1月)以来となりますが、今作『URBANO』の構想はいつ頃からあったんでしょうか?

小林:「次はフルアルバムを出そう」という話になったのは前作の『DOWNBEAT』(2015年2月)を作る前あたりだったから、1年前くらいになるのかな。『tremolo』を作り終えた頃には、まだ何も次が見えていなかったんですよ。そこからシングル(『鼓動』)を出したり、HARLEY-DAVIDSONのタイアップ(※「IGNITE」)が決まったりとかして、その場その場で作っていった感じはありましたね。

●次にやりたいことが具体的には見えていなかった?

小林:何もなかったですね。でも自分を広げるという意味で、やったことのないものにはチャレンジしたかったかな。『IGNITE』(2014年2月)と、その1年後に出した『DOWNBEAT』という2枚のEPは真逆の作品になっていて。『IGNITE』はクラシカルなハードロックだったんですけど、『DOWNBEAT』では逆に今っぽいような音を色々と取り入れてみたりしたんです。

●『DOWNBEAT』では、ダンスミュージックを取り入れることに挑戦したんですよね。

小林:いきあたりばったりかもしれないけど、その場その場でやりたいことをぶつけてみようかなと。やったことのないものだったから、色んな人に助けてもらいながら『DOWNBEAT』を作って。これまでも同じような姿勢で色んなものに取り組んできたからこそ、今回のアルバム『URBANO』はその全ての要素が入っているものにしたいとは思っていました。

●これまでに取り組んできたことの集大成にもなっている。

小林:「その時点でのベストを出し切りたい」っていう意味では、前回の『tremolo』とテーマは同じなんですよね。でも今回唯一違ったところは、全曲これまでにあったデモで構成したんですよ。新しく作ったものが1つもないっていう。

●これまでのストックにあったデモを軸に制作したと。

小林:これまで色んな作品を出してきたんですけど、その時々の方向性やテーマに沿わないということで「じゃあ、次にしよう」という感じで収録されなかった曲があるんです。そういうデモの中でも、特に「これはすごく良い」というものがあって。良い意味での心残りというか、そういう「いつかやりたい」と思っていたものを今回ここで全部やってやろうと思っていましたね。

●気に入ってはいるけど、作品の色に合わないという理由で今まで外れていた曲を今回はまとめて収録したわけですね。

小林:毎回テーマを設けて色んな実験をしてきたので、そうなるのは当たり前なんですけどね。今回はアルバム全体の方向性というよりもまず、今までやれなかった曲が主人公になるアルバムにしたいなと。「この曲はちょっと色が合わないからやめておこう」という考え方はナシにして、どちらかといえば「この曲をやりたいからアルバムを作りたい」という感じでした。

●かなり古い曲も入っているんでしょうか?

小林:5〜6年前の曲もあったりしますね。色んな時期の曲が入っているので、そういう意味で「取り留めがないかもな」とは思っていたんですよ。でも色んな時期の曲を今の自分がブラッシュアップすることで、バリエーションを含みながらもちゃんと一貫性がどこかにあれば良いなとは考えていました。

●色んな時期の曲が入っている。

小林:だから今の自分が作る楽曲に近いようなものもあれば、作った時期が昔になればなるほどそこからは遠のいていくというか。でも、昔ながらの良さというのもあると思うんです。それも作りながら色んな時期の自分に触れているような感覚で楽しかったですね。

●過去の自分を思い出しながらの作業でもあった。

小林:そういうことをしながらこれまで色んなアルバムを出したり、色んな挑戦や経験をしてきた“小林太郎”というアーティストに1つの区切りを付けたかったんです。自分がどういうふうなアーティストになったのかをここで認識したかったし、それを形にして発信できれば良いなと。それによってこれまでの6年間に区切りがつけられて、また次の段階に進める時なんじゃないかなとは何となく思っていました。

●そう思うようになったキッカケとは?

小林:そもそも“小林太郎”としての始まりが、「やったことのないものをやってみよう」というところだったんですよ。バンドしかやったことのなかった俺に対して「ソロをやってみたらどう?」と言ってもらえて。もちろんやったことがないので不安もあったんですけど、たぶんその経験は良いものになる気がするからやってみようと思った。それ以降も全部そういう感じで、ソロ活動の中で作る楽曲に関しても今までやったことのないものを1つ1つやっていく作業だったなと。それって“勉強する”ような感覚に近くて、自分のやりたいことの手段を学ぶという感覚があったので、そこにどこかで区切りは付けたかったんです。

●“勉強”の期間に区切りを付けたかったと。

小林:大学にいる気分というか。恵まれた環境で色んなものを勉強できているんですけど、いつかはそこを卒業しなくちゃいけない。それはたぶん今なんじゃないかなというのは1年前くらいから思っていましたね。

●それは『DOWNBEAT』の制作時期あたり?

小林:そうですね。『DOWNBEAT』は“最後の勉強”というか。自分が一番やってみたかったダンスミュージックを取り入れるにはどうしたら良いのかというのに取り組んで、1つ見えた作品だったんです。それができたことでもう次のアルバムには、その時期に作っていた曲を含む6年間全部の「発表はしていないけど、いつかやりたい」というデモをぶつけようとは思っていました。

●候補曲はどのくらいあったんですか?

小林:20曲くらいある中から特にやりたいものや形になりそうなもの、世界観が見えているものを選んでいきました。デモ自体は200〜300曲くらいあるんですけど、その中から20曲くらいに絞っている時点でもうあんまり悩んでいないというか。選曲はそんなに苦労しなかったですね。

●そこから選ぶ基準になったものとは?

小林:自分の中である程度イメージができている曲と、あとは面白そうな曲かな。広がりそうな曲というか。デモを作った時点ではまだどうなるかわからなかったものの続きを、今作ってみたという感じはありました。

●たとえば、どの曲がそうやって作ったもの?

小林:M-9「時雨」はそうですね。この曲はAメロしかできていなかったんですけど、そのAメロの歌詞とメロディが大好きだったんですよ。この曲を今までやらなかったのは、当時はそれ以上ふくらませる自信がなかったからなんでしょうね。そこのタイミングが合ったからこそ、今できたのかなと思います。

●一部しかなかったものを、今改めて取り組むことでふくらませることができた。

小林:M-8「SCARS」もイントロしかなかったんですよ。当時はどんなAメロやサビを付ければ良いのかわからなかった。でも『DOWNBEAT』を作ってから良い意味で軽い気持ちで、考えすぎずに歌詞を書くことができるようになったので、今回はものすごく作りやすかったですね。

●歌詞でいうと「NIBBLE」の“感情なんて要らないね”というフレーズが印象的でしたが、これはどういう想いで歌っているんでしょうか?

小林:自分にとってロックで激しい曲の歌詞には、そこまでナイーブなところを必要としていないというか。つっぱねるような感じで、感情を捨てるようなものを自分は望んでいるのかなと思っているんです。“細かいことを考えて悩むということがまず必要ないんじゃないか”という気持ちからでしたね。そういう気持ちに近い音の突き抜け感もあったので、アルバムの1曲目にもちょうど良いなと思いました。

●逆にMVにもなっているM-4「花音」はバラードなわけですが、これはいつ頃作ったんですか?

小林:ちょうど『tremolo』を出した後なので、3年前くらいですね。それまでもバラードは作ってきたんですけど、リード曲になるようなものは昔の「美紗子ちゃん」(1stアルバム『Orkonpood』収録/2010年)くらいで。本当にストレートでリード曲になり得るようなバラードを作ってみようということで、当時やってみたんですよ。その時点でほぼ今の形ができあがっていたんですけど、『IGNITE』にもその次の『DOWNBEAT』にもテーマ的に沿わなかったので、「その次だな」とはずっと思っていましたね。

●最初からリード曲を想定して作りながらも、作品との兼ね合いで発表が先延ばしになっていたと。

小林:「いつかやろう」という曲がいっぱいあった中でも、特に「花音」は今回やれて良かったなと。リード曲にもできたので、すごく嬉しいですね。

●バイオリンを入れるというイメージもあった?

小林:ありましたね。M-11「鎖」にも生のチェロを入れてもらっているんですけど、それもミュージシャンとして良い経験になったなと思います。昔だったら“小林太郎”というソロ名義とはいえ、バンド感だったりアナログ感やライブ感にこだわっていたところもあったんです。でも今は曲主体というか、「俺が誰であっても曲が一番良い形になれば良い」と思えているので、幅広く色んな音を入れることができたのかなと。

●逆にソロアーティストだからこその自由度の高さもあるんじゃないですか?

小林:その自由度みたいなものを、今は一番活かせているんじゃないかと思いますね。だから今作にも今までで一番、幅を持たせられたんじゃないかな。

●アルバムタイトルの『URBANO』は、どういうイメージで?

小林:“都会的な”という意味のイタリア語なんですけど、自分には地元の浜松で培った土台がまずあるんですよね。そこで聴いてきた音楽を元に発信するという土台が、半分あって。さらに上京してきてから音楽で勉強したことや生活面の環境も変わったことで、洗練されたところや吸収できたところもある。どちらか一方だけじゃなくて、その両方が今までの作品を形作ってきているので、都会に出てきてからの半分と地元で培った半分が合わさってできているものという意味で、今回のアルバムは『URBANO』というタイトルにしました。

●地元で培ってきた土台に、都会に出てきてからの経験を合わせて今の自分ができている。

小林:これまでの6年間を総括したようなところもあって。“小林太郎”というアーティストがソロになって6年経って、「お前は洗練されたぞ」と。でも洗練されただけであって、自分というものが変わったわけでもないので、「こういうアーティストになったんだな」という区切り目としてのアルバムという感じですね。

●ここで区切りをつけたことで、新たに見えてきている部分もある?

小林:具体的にどんなものを次に作りたいかはまだわからないんですけど、音楽の聴き方や作り方という部分でもきっと変わるだろうなと。今はまず色んなものを吸収したいなと思っているんです。新しい曲を作ったりする前に、“自分を作り直す”という感じですかね。まだ音楽の大学を卒業しただけなので、ここからまた色々と考えていきたいなと思っています。

Interview:IMAI

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