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Drop’s

日常から生まれた楽曲は聴き手の想いと風景を投影する

Drops_DONUT_mainAP_3000ロックンロールから刺激を受けて音楽を始め、自らの感性を音として鳴らし、自らの想いを歌にして、唯一無二のバンドへと成長と進化を遂げたDrop's。前作から10ヶ月、彼女たちが5/25にリリースした4枚目のフルアルバム『DONUT』は、今まで以上に“中野ミホ”というパーソナリティに焦点を当てた作品だ。日常の中で生まれたメロディとリズム、そして想いと風景を、今まで以上の純度で形にした12曲。聴き手の日常に寄り添い、いつまでも残り続ける普遍的な輝きを持ったメロディと言葉は、Drop'sというバンドの新たな可能性を感じさせる。

「繰り返していく日々を、自分を信じていくしかないなって。そうやっていかないと時間がもったいないと思ったので、最後にこの曲で書いたんです。生きていくしかないなって」

●前アルバム『WINDOW』が2015年7月のリリースなので、アルバムとしては結構早めのリリースですよね。

中野:そうですね。これまでは“こういうアルバムを作ろう”と決めて作り始めたことがなかったんです。でも前作『WINDOW』をリリースした後、「次はある程度決めてやろう」という話があって。

●アルバム全体のコンセプトを?

中野:そうです。『WINDOW』が出てすぐくらいの頃に考えてみたときに、もっと私のパーソナルな部分というか、素に近いような曲をいっぱい書けたらいいなと思って。みんなにも「そういうアルバムにしたい」と話して。

●中野さんは弾き語りもやっているらしいですけど、今作はDrop'sの曲とか弾き語りの曲とか関係なく、「私が歌うんだから」というノリで作ったのかなと感じたんですよね。今までのロックンロール色が強い曲は少なくて、もっとリズムが大きいというか、テンポがゆっくりな曲も多いし、歌っている内容もすごくパーソナルというか日常的で。中野さんは純喫茶巡りが趣味とおっしゃっていましたよね? 取材やライブで東京に来たときも、空き時間があったら中野とか高円寺をふらっとしたりすると。

中野:そうです(笑)。

●そういうところで目にしたであろう風景や物が単語として歌詞の中にも散見される。なぜ「もっとパーソナル部分を出そう」と思ったんですか?

中野:『WINDOW』はバンドのみんながそれぞれやりたいことをやった感じで、私以外のメンバー…荒谷が作った曲とか、バシ(石橋)が作った曲とかが入っていて。

●そうでしたね。「最近はおびやかされている」と言ってましたよね。

中野:そうです(笑)。歌詞もその曲に付けるという形で、フィクションなものとか物語みたいなものを描いたんです。それも良かったんですけど、もうちょっと自分に近いものの方がいいなと思って。イチから全部私に任せてもらうくらいの気持ちで作ってみたいと思ったんです。

●なるほど。

中野:『WINDOW』は結構みんなに預けた部分が多くて。それでいろいろ自分的に考えたときに、もうちょっと自分に近くて、私の個人的なつぶやきみたいな方が、逆に全然知らない人が聴いたときに届くものがあるんじゃないかなと思ったタイミングがあったんです。

●ほう。なにかきっかけがあったんですね。

中野:はい。M-11「どこかへ」という曲を書いたことがきっかけだったんです。

●「どこかへ」は映画『無伴奏』の主題歌ですよね。

中野:そうです。原作が小説なんですけど、最初はかなり原作に寄せた曲を書いていたんです。でもそうではなくて「もっと中野さんの個人的な、たったひとりに向けたラブソングを書いてほしい」と監督に言っていただいて。

●「僕は中野さんが見たいんだ!」みたいなことを言われたと。

中野:本当にそんな感じで言っていただいて(笑)。そのときに初めて映画になったものを観せてもらって“なるほど”と思って。『WINDOW』の歌詞は“こういうストーリーがあって…”というのを頭の中で最初に構築してから書いていたんですけど、「どこかへ」はそういうのはなくて1行目からつぶやきみたいな感じで歌詞を書いたんです。それがすごく素の自分に近かった。そういうフッと出たものの方が伝わったりするのかなと感じたんです。

●そういうスタンスで書いたのは久しぶりなんですか?

中野:『WINDOW』のときにも何曲かあったと思うんですけど、それはたぶんフィルターを1枚通していたというか。「どこかへ」くらいリアルじゃなかったというか、“詞にする”ということを頭で考えていた部分があったと思うんです。だから久しぶりと言えばそうかもしれない。

●あと今作は、音のひとつひとつにこだわっていて、雰囲気作りというか、言葉だけではない情景描写みたいなものがいろんな曲にあって、それがすごく印象的だったんですよね。なんというか、曲で表現しようとしていることが明確に伝わってくる。

中野:今回は曲にする前から景色とか色味みたいなのがすごく…ひとりで「コレだ!」みたいなイメージが結構出来上がっている曲が多かったので、それをちゃんと音にする時間を設けることができたんです。そのイメージをみんなも何となくわかってくれて。景色みたいなものが共有できていたのは大きいと思いますね。

●中野さんの普段の生活や姿はあまり知らないですけど…きっと中野さんの中にはこういうリズムが刻まれているんだろうし、こういうメロディが流れているんだろうなっていう、そういう風に思わせるようなものがすごく多かったんですよね。

中野:「どこかへ」がきっかけだったと言いましたけど、去年アコギを買ったんです。それでポロンと家で弾いてできる曲も結構あって。音の柔らかさとか空気とかも手伝って、“自分をそのまま出してみてもいいんじゃないかな”という曲はいっぱいできましたね。

●さきほど「つぶやきみたいな感じで」とおっしゃいましたけど、M-2「CLOUD CITY」の雰囲気とかまさにそんな感じがします。独り言を言っているような雰囲気が曲にすごくマッチしている。いきなり“きのうから くしゃみがとまらないんです”で始まるし、すごく日常的な曲だと思うんですけど、歌詞がすごく自然に入ってきて。

中野:結局流行が気になる、みたいなことを歌ってるんです。純喫茶が好きだけど、新しくできたカフェも気になる、みたいな。

●世の中にとかではなく、何気ない日常の葛藤が題材になっている。

中野:そうですね。東京は特にそういう感じじゃないですか。いっぱいいろんなものができたり壊されたりで、そういうところが面白いし好きだし気になるけど…っていう。最近流行りのシティポップとかも気になるし。いろいろ思うことがあって。

●だから“建てものをこわしたって 青い空は 誰にもさわれないぜ”と言っているのか。もやっとしたものを吹き飛ばそうとしている。

中野:流行とかって、本当は中心には誰も居ないんだろうけど…とか思ったり。

●お、ドーナツだ。でも中野さんは、流行に一切左右されない音楽を貫いてきているじゃないですか。

中野:そうですね。でもそれでも気になったりしますけどね。少しずつ。

●あと、中野さんは歌詞について試行錯誤をいろいろとしてきましたよね。今作にはその集大成というか、印象的な言葉が多くて。その最たる例は“西陽のカレーライス”。M-3「十二月」に出てくる言葉ですけど、スッと情景が目の前に浮かんだんです。

中野:あ〜、やった〜。それは嬉しいです(笑)。

●説明過多ではなく、しかも特別な言葉は一切使っていないけれど、“西陽のカレーライス”というフレーズを聴いたときにリアルな景色がパッと見える。たぶん中野さんの中の感覚と言葉の距離が近いんじゃないかなと。

中野:本当にそうですね。そのままを書こうと思って。手触りっていうか、そのまま触ったような感じがいいなと思って。だから今作の歌詞について「これ何?」と訊かれたら「あのときのあれです」って全部説明できるくらいリアルかもしれないです。その中でも“西陽のカレーライス”は自分でも結構いいなと(笑)。

●いいですよね。今作は中野さんのパーソナルな部分をより出しているということでしたけど、その話を聞いて合点がいくというか、納得する部分があって。今作には3つのキーワードがありますよね。

中野:え?

●“別れ”と“旅”と“からっぽ”の3つ。そのキーワードが1曲だけじゃなくていろんなところに散りばめられている感じがしたんです。

中野:大正解です(笑)。

●“別れ”と“旅”と“からっぽ”って、どれも決してボジティブなものではないし、その状態を悲観している感じもあるんですけど、それを良しとしている側面もある。悲しさを思い切り蹴り飛ばそうとしているわけじゃなくて、少し受け入れながら次の旅に出る、みたいな。

中野:ああ〜、確かに。

●自然と心境が出ちゃったんですか?

中野:アルバムの中の曲のバランスとかも今回はあまり考えなくて。季節とかも結構…例えば3rd EP『未来』(2015年4月)のときは春に出すと決まっていて、冬に春を思い浮かべながら書いたんですけど、そういうのは今回はなしで。10月に書いていたら「10月」って言っちゃうし、12月に書いていたら「12月」って言っちゃうし。その時々で違いますけどリアルタイムに思ったことを歌詞にして、最後に書いたM-12「からっぽジャーニー」で“絶望してる ひまはないのさ”って、本当に前向きになったというか。

●ふむふむ。

中野:そりゃしんどいこともあるし。“からっぽ”っていうのは、自分が結局は人にいっぱい影響されているし、言いたいことも元々そんなにないし、“自分はからっぽなんじゃないか?”と思ったんですけど、それでもいいんじゃないかなと。毎日は繰り返しだから続けていくしかないし、そこで私はからっぽで、“この先どうしよう?”とか“私って何だろう?”と悩むこともあるけど、繰り返していく日々を、自分を信じていくしかないなって。そうやっていかないと時間がもったいないと思ったので、最後にこの曲で書いたんです。

●この曲いいですよね。くよくよしているけどすごく前向きというか。“絶望してるひまはない”と気付いたんですね。

中野:生きていくしかないなっていう。

●初めてインタビューさせていただいたのは2ndミニアルバム『LOOKING FOR』(2013年3月)のときでしたけど、音楽で表現するマインドというか、姿勢みたいなものが当時と今では全然違いますね。前は世の中につばを吐いてたけど(笑)。

中野:あはは(笑)。前は世の中とか周りに対する怒りに近いようなものを、自分の中から探して書いたりしていた部分もあったけど、別にそういうことじゃなくても、日々生活している中で“今日は甘いものを食べたいな”とか“天気がいいな”とか…そういう音楽ってすごくいいと思うし、それを聴いて“私も今そういう気持ちだったな”とか、私を全然知らない人が聴いて“これは私の歌だ”みたいな風に思ってくれる…それが毎日じゃなくてもよくて、そういう瞬間がどこかに生まれるってことが音楽でできればそれは素晴らしいなと思うんです。

●はい。

中野:でも私はそういう音楽を与える立場になれないというか、そんな余裕がないと思っていたから。でもリスナーのことを考えて歌うんじゃなくて、自分と向き合って自分のことを歌うことで、それが誰かに届くんだなということに気付けたのがすごく大きいと思います。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

 

 
 
 
 

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