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歌うアホウドリ

比類なき熱量を放つ言葉と音で紡がれる物語が五感に衝撃をもたらす

アーティスト写真言葉と音を泥臭く真摯に紡ぐ4人組バンド、歌うアホウドリが自主レーベルを立ち上げて初の全国流通盤となる1stフルアルバム『無我夢中』をリリースする。2011年にSatoshi(Vo./G.)とHidehito(Dr.)の2人を中心に結成された彼らだが、メンバーのほぼ全員にアメリカへの渡航経験があるという。その経験ゆえに日本語ひいては言葉そのものに深いこだわりを持ち、喜怒哀楽を徹底的に表現する楽曲の制作と演奏を志してきた。ラップとポエトリー・リーディングに歌と叫び。そこにロック、ジャズ、ヒップホップなど様々なジャンルを昇華した独自のサウンドを重ねることで生まれた今作は、比類なき熱量を放っている。

 

「“誰かに届ける”というところまで考えると、“何に向けて詩を書くのが適切な行為なのかな?”と考えるようになって。それに対して自分が出した結論としては“中学生の時の自分に響くようなもの”ということだったんです」

●元々はSatoshiさんとHidehitoさんを中心に結成されたということですが、お2人は共にアメリカへの留学経験があるんですよね。

Hidehito:でもアメリカにいた時に知り合ったわけではないんですよ。偶然にも隣町に住んでいたのに、お互いのことは知らなくて。日本に帰ってきてから入学した大学で出会ったんです。

Satoshi:大学で同じクラスになったんですけど、自己紹介の時にHidehitoが「俺はドラムが超上手いから」みたいなことを言っていて…。

Hidehito:そんなことは言っていない(笑)。でもドラムをやっているということは言いましたね。

Satoshi:“トガッているヤツがいるな”と思ったのでバンドに誘ってみて、そこから始まりました。

●そこでまず2人が揃ったと。

Hidehito:最初はもう1人ベーシストがいて、3ピースだったんです。その後で何度かメンバーチェンジがあったんですけど、ある時にSatoshiが別の大学に編入すると言い出して。

Satoshi:その編入先の大学で、何もすることがなくて悲しい人生を送っていたのがMitsuyoshiだったんですよ(笑)。でもギターを弾いているのを見たら上手かったので、連れてきました。

●この4人になったのはいつ頃なんですか?

Juri:私が正式加入したのが、去年の8月ですね。

Hidehito:Juriとはメンバー募集サイトで出会って。最初はサポートで入ってもらっていたんですけど、その1年後に正式メンバーになりました。

●メンバー同士で、何か通じるものはあったんでしょうか?

Hidehito:僕とSatoshiは経歴も近くて、音楽の趣味もお互いに雑食なんですけど近いところはあって、考え方も近いんです。でもMitsuyoshiは最初に出会った頃、本当にメタルしか聴いていなくて…。

Mitsuyoshi:“ピロピロ丸”っていうあだ名でした(笑)。

●今の音から、メタルの要素はあまり感じられないですよね…?

Satoshi:一切ないですね。

Hidehito:初期はギターを弾きまくっていましたけどね。それでライブハウスの人からも「新しく加入した君って必要?」みたいなことを、面と向かって言われたりもして(笑)。でもバックグラウンドが違いすぎて、持ってくるフレーズが逆に面白かったんですよ。それをどうにか活かそうとやっていたら、こういう形になったという感じですね。

●Juriさんはまた違うルーツを持っている?

Juri:私はJ-POPから入って、だんだん邦楽や洋楽のロックも聴くようになっていったんです。あと、大学3〜4年の時にはジャズをやっていて。当時習っていた先生に「ベーシストは空気を読めるようにならないとダメ」と教わったので、出身の横須賀や横浜近辺のジャズバーに行って、黒人の方と一緒に演奏させてもらったりしていました。失敗すると英語で何か言われるんですけど、全然わからないんですよ。でもその内容を何となく空気で感じ取る…ということをやっていましたね。

●ある意味、アメリカへ留学する以上にすごい行動力ですね…。

Satoshi:だから、ここにすんなりといられるんだと思います。でもこの4人になってからも、最初はまだ適当な感じでやっていたんですよ。普通にロック系の曲もありつつ色んなタイプの曲をやっていたら、周りから「何がやりたいんだ?」と怒られたりして。自分の中では「何でもできるっていうことが真のミクスチャーじゃん」みたいなことを思っていたんですけど、本気でロックをやっている人に対して中途半端なロックをやっても勝てないし、真剣にヒップホップをやっている人にも中途半端なラップじゃ勝てない。そう思った時に“この4人でしかできないものは何なのか?”というところを追求し始めたんです。今回のアルバムはその集大成ですね。

●基本的にはラップというか、ポエトリー・リーディングが基調になっていますよね。

Satoshi:不可思議/wonderboyやGOMESSといったLOW HIGH WHO? PRODUCTIONから出ているようなポエトリー・リーディングの、言葉のチョイスの仕方とかが好きで。“日本語のラップってどういうものだろう?”と考えた時に、ここに自分の生きる道を感じたというところですね。

●Satoshiさんの書く詩も、このバンドの大きな特徴になっていると思います。

Satoshi:詩を書いている時は自分に対してすごく向き合っているので、“何のためにこれを書いているのかな?”と思えてくるんですよ。たとえば自分の悩みを解決するためとかじゃなく、“誰かに届ける”というところまで考えると、“何に向けて詩を書くのが適切な行為なのかな?”と考えるようになって。それに対して自分が出した結論としては“中学生の時の自分に響くようなもの”ということだったんです。

●というのは?

Satoshi:昔の自分が“今のこの気持ちを歌ってくれているヤツはいないのかな?”と思って、CD屋で色々と探していた時の感覚に近いというか。そういう時の自分に届くようなものが書けたら良いなと思って、最近は書いています。

Mitsuyoshi:やっぱりメンバーから見ても詩はすごいと思うんですよ。僕は精神的にちょっと弱くて、何かキツいことを言われるとすぐに傷付いてしまうところがあって。そういう時に家でSatoshiさんの詩を聴いていると、その中に優しい部分も入っていたりするので気持ちが安らぐんです。

●メンバーもSatoshiさんの詩に救われている。

Hidehito:でも僕らは基本的にセッションみたいな形で曲を先に作っちゃうので、詩に関しては完全に後付けなんですよ。だから実際に録音する当日まで、歌詞についてはわからなかったりもして。今はこういう形(※今回のアルバム)になっていますけど、ライブでは全然違うことを歌っていたりもするんです。フリースタイルの時のほうが多くて、演奏もその場その場のテンションで変えちゃったりしています。

Satoshi:うろ覚えの状態でライブをすると、歌詞が飛んだりするじゃないですか。それが嫌で、“だったらもう覚えなくて良いや”って思う時があるんですよ。その時のライブの感覚で歌ってみたら、“このテーマに対して自分から即興でどんな言葉が出てくるかな?”っていうところに興味があって。一時期は、詩を書かずにライブをやっていましたね。

●即興でラップしていたと。

Satoshi:そうやっていると、家でどれだけ頭を捻っても出てこないような言葉が出てきたりするんです。でもそれが自分の思っているその曲の中核をなす言葉だったりして、そこから歌詞を作ったものもこのアルバムの中には何曲か入っていますね。

●ライブの中で受けたインスピレーションを歌詞にしていたりもする。

Satoshi:あと、このメンバーが出した音の上でフリースタイルでラップしているわけなので、この4人の音の気持ちも汲んでやれているのかなって思うところはちょっとありますね。そういう意味で言うと、勝手に俺がメンバーに共感して作っている部分はあると思うんです。

Mitsuyoshi:僕が考えたリフやフレーズから曲になっているものもあって。自分がリフを作った段階では深い意味はないんですけど、それを聴いたSatoshiさんが「こういうことを感じるね」みたいな言葉をくれた時はすごく嬉しいですね。

●演奏も詩も、ライブで練り上げてきたという感じなのかなと。

Satoshi:それがメインだと思いますね。たとえば対バンがカッコ良くて悔しいなと思った時に、“ウチのバンドのあの曲をもっとこうしたら良いんじゃないか?”というアイデアが出てきたりするから。そういうところでもどんどん影響を受けては、ビルドアップしていくという繰り返しで生まれた曲たちを今回は集めてみたという感じですね。

●先ほど“集大成”という話もありましたが、作り終えた今はどういう感覚でしょうか?

Juri:私はこのバンドに入るまで、ヒップホップを聴いたことがなくて。元々はロックバンドをずっとやっていたんですけど、今回ようやくラップに対して自分の中での折り合いがついたなという感覚があるんです。特にM-10「泡沫」は自分の中でロックとラップの折り合いが一番ついている感じがしていて、ラップを始めてからの集大成としてまとまったなという気持ちがありますね。

Hidehito:やっと“名刺”ができたなという感じですね。でもこのスタイルは残しつつ、常に進化していきたいと思っていて。たとえばバックの音を、次回は全然違う感じにしてやろうかと考えたりもしているんです。面白いことを常にやっていきたいし、色んなことをやっているバンドなので、何をやっても変じゃないと思うんですよ。だから、やれるだけのことはやってやろうと思っています。

●名刺という意味では、“歌うアホウドリ”というバンド名そのものもすごくインパクトがありますよね。

Satoshi:バンド名は、僕の一存で決めました。実はアメリカにいた時にやっていた音楽に、このバンドの音がちょっと近付いてきているんですよ。当時はポエトリー・リーディングに、オーケストラみたいな音も打ち込みで入れた壮大なトラックでやっていて。その時に物語をたくさん作っていたんですけど、自分が小学生の時に足が悪かったというのもあって、足の悪い鳥の物語に自分を重ねようかなと思ったんです。

●それがアホウドリだったと。

Satoshi:アホウドリは鳥類の中で翼が一番大きいんですけど、大きすぎるがゆえに助走を付けないと飛べない唯一の鳥だと言われているんです。その助走を映像で見てみると、本当にバタバタ走る感じでダサいんですよね。でも羽が大きいので、飛んだら世界で一番美しく長い時間を飛ぶ鳥と言われていて。“バンドをやる”ということは周りの人から見ると「アホみたいなことをやっているな」って言われるかもしれないけど、実際に飛んだら一番長く美しく飛んでやろうっていう意気込みでこの名前を付けました。

●そういう意味があったんですね。

Hidehito:それについては、本当に一番最初から言っていましたね。あえて英語にしないというのも、2人ともアメリカに行っていたからこそで。バンド名って英語が多いんですけど、日本語の名前のほうがインパクトが強いし、記憶に残ると思うんですよ。

Satoshi:英語にすると“Singing Albatross”なので“さぞかしカッコ良い音楽をやっているんだろうな”と思われるんでしょうけど、日本語にすることで“アホウドリって何やねん?”ってなるかなという部分もあって。コミックバンドだとよく思われています(笑)。

●確かにバンド名と音源の印象が全然違う(笑)。

Hidehito:対バンの人からも「コミックバンドだと思っていたら全然違って、ビビった」とよく言われますね。

Satoshi:この名前にして、本当に良かったなと思っています。

●ちなみに、リリース後のライブでは今回の音源通りに演奏するんでしょうか?

Hidehito:まだ作ったばかりなので、今のところは今作に沿っていますね。でも1年後はわからないです(笑)。

Satoshi:1年後には感情が変わっていると思うので、そしたらまたちょっと違うものになっているかもしれないですね。

Interview:IMAI

 

 
 
 
 

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