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SALTY DOG

結晶化したオリジナリティはあらゆるボーダーを超える

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キャッチーなメロディとラウドロックやエレクトロを基調としたサウンド、ノルウェー人ヴォーカリスト・INGERによる唯一無二の歌。“SUMMER SONIC”への出演や“Red Bull Live on the Road 2015”の優勝などでも注目を集めるSALTY DOGが、fadeのruiをプロデューサーに迎えて1stアルバム『Unknown Horizon』を完成させた。過去3枚のEPを経て昇華させた今作は、まさに4人でしか作り得ないもの。様々な経験を積んで結晶化したそのオリジナリティは、あらゆるボーダーを超えて鳴り響く。

 

「僕らがやりたかったのは、ロックのまま究極までポップに近づけるアプローチというか。激しさを失わずに万人に突き刺さるものを目指したかった」

●結成は5年前ということですが、そもそもはノルウェー人のINGERさんが日本に留学で来て、そこで知り合ったのがきっかけなんですよね?

INGER:そうです。

TOMOYA:INGERが留学で来た大学で、僕が軽音楽部の部長をしていたんです。当時組んでいたバンドのヴォーカルが国際交流の人文学部で、留学で来たノルウェー人たちを引き連れて来たんです。そこでINGERが「ノルウェーでバンドやってた」と言うから誘って。それが最初ですね。

●ノルウェーでもバンド活動をやっていたんですか?

INGER:中学〜高校生くらいの頃に少し遊びで。

●ということは、別にバンドをやるために日本に来たわけではない?

INGER:はい。日本語を勉強しようと思って来ました。もともと音楽は好きで、日本の音楽にも興味があったんですけど、まさかバンドに誘われるとは思ってませんでした(笑)。

TOMOYA:僕も他にバンドを組んでいたので、最初はまあ遊びというか。それで2012年にKENTが加入したタイミングで「本気でやろうか」という感じになったんです。

KENT:僕は2人の大学の後輩なんです。

●なるほど。

TOMOYA:その後、2014年に全国流通のEP『Goodnight, Cruel World』をリリースすることが決まったんですけど、“CDデビューしてこれからがんばるぞ!”というときに前任のドラムがバンドのスピードについてこれなくなって、KENTの知り合いだったNEMESANを誘ったんです。リリース1ヶ月前のかなり慌ただしい時期だったんですけど。

NEMESAN:INGERと初めて会ったのはMV撮影の日でした(笑)。

●なるほど。今年の4月、ビザの関係でINGERさんが一時帰国してしばらくライブ活動を休止していましたよね、今は再び日本に戻ってきて活動を再開されましたよね?

INGER:はい。

●客観的に考えて、グローバルな世の中になったとはいえ、ノルウェーは日本の裏側じゃないですか。異国の地で腰を据えてバンド活動をするなんて、結構な決心だったと想像するんですが。

INGER:そうですね(照)。

TOMOYA:3rd EP『YGGDRASiL ANTHEM』(2015年8月)をリリースしたときに、思っていた以上にいい結果を出せたんです。2015年は“SUMMER SONIC”にも出演できたし、“Red Bull Live on the Road”でも優勝できたし。あの活動が無かったら、もしかしたら今もノルウェーにいたかもしれない。

INGER:ああ〜、そうかもしれない。

●結果の積み重ねで今があると。音楽性はもともと今のような感じだったんですか?

INGER:かなり変わりました。

●あ、そうなんですか。

TOMOYA:めちゃくちゃ変わりました。各メンバーのルーツが全然違うんですよ。今から考えると、探り探りだったんですよね。僕は結構ポップが好きなんですけど、1st EPは僕とKENTの共作で、エレクトロ・ラウドというところを重視していて、重めのサウンドで。2nd EP『Allodoxophobia』はかなりメタルな部分が多い作品で、3rdは…。

INGER:それをまとめた感じ?

TOMOYA:アニソンというか。

●アニソン?

TOMOYA:僕はFF(ファイナルファンタジー)が好きで、ああいう電子的な世界観に憧れていて、そういうのが3rdでうまく表現できたかなと。そういう経緯があった上で…前作から少し期間は空きましたけど…今回はいちばん自分たちが納得できる作品になったかなと思っています。“これが自分たちだな”っていうオリジナリティを出せたというか。そういう実感がありますね。

●そういう経緯があったんですね。

TOMOYA:SALTY DOGの個性というと、まずINGERだと思うんです。日本人では出せない声を持っているので。それを今回、プロデューサーのruiさん(fade)がうまく引き出してくれたなって。

●今回の『Unknown Horizon』ですが、いつ頃から制作を始めたんですか?

NEMESAN:7月です。

●あ、かなり最近ですね。

NEMESAN:今回制作期間がいちばん短かったんです。かなり苦労しました(笑)。

TOMOYA:しかも難産だったんですよ。

KENT:でも実際に時間はなかったけど、それまでに表現したいこととかは頭の中にあったから、何も出てこなくて難産だったというわけではなかったんです。まとめるのに苦労したという感じで。

●まとめるのに苦労したというのは、どういう部分で?

TOMOYA:さっきも言いましたけど、メンバー個々のバックボーンが全然違うので、そういう部分で。

●ちなみにみなさんどういうところがルーツなんですか?

TOMOYA:僕はさっき言ったようにアニソンとか。

NEMESAN:僕は高校のときはArch Enemyのコピーとかしていて手数の多いドラムが好きだったんですけど、今はJ-POPが好きですね。

●INGERさんは?

INGER:私はもともとパンクです。歌詞がいちばん大事だと思っていて。あとはLinkin ParkとかSlipknotみたいなハードで激しい感じが好きですね。

KENT:僕は90年代と00年代のJ-POPとヘヴィメタルですね。

●バラバラやないか!

一同:ハハハ(笑)。

●ということは、リードはどれにするか? というところで意見が分かれたり?

TOMOYA:ああ〜、いい質問ですね!

●ハハハ(笑)。

TOMOYA:今回のリード曲はM-1「Eternity」とM-2「The Fateless」でめちゃくちゃ悩んだんです。僕とKENTが「Eternity」を推して、INGERとNEMESANが「The Fateless」を推したんです。

●要するにキャッチーさを出すか、バンド感を出すか。

TOMOYA:そうなんですよ。最後の最後まで意見がまとまらなくて悩みました。でも今回の6曲は全部リード曲にしていいくらいの完成度なので、最終的にはレーベルの判断に任せたんです。

●今回の6曲はどうやって作っていったんですか?

KENT:最初にワンコーラス作るんですけど、そこでプロデューサーも含めて相談して、雰囲気やメロディの良さとかを基準に曲にしていくんです。だから作品全体というより、1曲1曲の完成度を高めていった結果、アルバムになったというか。

●そういう意味では、SALTY DOGが持っている色んな面が入った作品だということでしょうか?

KENT:まさにそうだと思います。アニソンっぽい曲もあれば、M-4「Nothing Left」とかはニューメタルっぽい雰囲気があると思うし。

TOMOYA:例えばアニソンっぽいのは「Eternity」なんですけど、そこにはでも僕たちなりのこだわりがあって。アニソンって、ロックな曲だったとしてもどうしてもポップのフィールドの音楽だと感じるんですよ。でも僕らがやりたかったのは、ロックのまま究極までポップに近づけるアプローチというか。激しさを失わずに万人に突き刺さるものを目指したかったんです。

KENT:あくまでもバンドサウンドっていう。

●そこは美学があると。

TOMOYA:そうですね。でも全曲がそうじゃなくて、さっきKENTが言ったようにバリエーションが豊かで、6曲聴いて飽きないものにしたかったんです。カブりがなくて、同じ手法がないもの。

●なるほど。INGERさんの歌詞を読んで思ったんですけど、感情が豊かというか、その1つ1つの感情も全部強めというか。

INGER:そうですね(笑)。

●ポジティブな感情も怒りも、両方激しい部分が出ていますよね?

INGER:はい。歌詞は自分の気持ちから書くので、実際にあったことがモチーフになっているんです。でも自分のことだけにはしたくないので、限定はしないというか。だから絵を描くような感じ。私はそれがいちばんいい歌詞だと思っていて、他の人が読んで“これは私のことだ”と思ってくれるようなものが理想なんです。全部の歌詞に共感するのは難しいかもしれないけど、1曲だけでもそう思ってもらえたらいいなと思ってます。

●オケができてから歌詞を書くんですか?

INGER:メロディを作ってきたTOMOYAから、例えば「この曲はポジティブなイメージ」とか「エモい感じ」とか言われて、そこからイメージして自分が経験した気持ちとか、無意識でいろんなところからインスピレーションを受けていて、そういうものを歌詞に書いていくんです。

●歌詞はSALTY DOG以前から書いていたんですか?

INGER:そうですね。まあ前にノルウェーでやっていたバンドのときはかなり子供っぽかったですけど(笑)、他には詩を書いたり、あとはマンガを描いたりしているので。

●マンガ?

INGER:ノルウェーにいたときはマンガを描いていたんです。そのときも「ポエティック」とかよく言われていて。

●もともと文字で自己表現をすることが好きなんでしょうか?

INGER:好きですね。高校のときとかも本をすごく読んでいて、言葉を使って書くのが好きです。

●なるほど。さっき言いましたけど、結構極端な感情を歌詞にされていることが多いと感じたんですが、例えばM-3「This Means War」とか…。

INGER:激しいですよね(笑)。

●怒りの気持ちが元になっていて、それをバネにして前に突き進むような心情が描かれていますが。

INGER:こういう歌詞は前から書きたいと思っていたんです。この曲のメロディが来て、TOMOYAに「この曲はダークな感じで」と言われたとき、このことを書こうと。そこに新しい要素も入れて、歌詞にしました。

●「Nothing Left」もそうですよね。

INGER:ああ〜、「Nothing Left」は哀しい感じですよね。これも実際にあったことというか…。

●INGERさんは激しい人?

INGER:怒ったり、悲しくなったり、笑ったりする人です(笑)。

TOMOYA:お腹が減っただけでキレますからね。

●え? 誰に?

NEMESAN:周りの人に。

●周りの人、悪くないやん(笑)。

TOMOYA:それだけでキレるんです。

INGER:抑えられないんです(笑)。

●それが歌い方とかにも出ているんですね(笑)。

KENT:感受性が豊かなんですよね。音楽はそれを活かすことができると思っていて。

INGER:パンクが好きな理由もそうなんですけど、激しい気持ちは曲で全部吐き出してもいいという考え方なんです。

TOMOYA:それもINGERにしかできないことですよね。そういう意味では、「Eternity」や「The Fateless」の歌詞はすごく珍しくて。こういうストレートなことは今まであまり書かなかったんです。

INGER:「Eternity」は私としては、まったく新しい気持ちが出ているんです。前からTOMOYAにこういう感じの歌詞を書いてほしいと言われていたんですけど、すごく困っていたんです。私には書けないと思っていて。

●なるほど。

INGER:私は感動的な話とかはあまりピンと来ないタイプだし、今まで書いたこともなかったから、どうやって書いたら安っぽくならなくなるかもわからなくて。でもあるとき個人的にすごく辛いことがあって、周りにいる人もそうだし、ノルウェーにいる友だちとかも、すごく応援してくれたんです。私はそれで助けられたんですけど、そのときに“こういう気持ちを書けばいいんだ”って。ずっと自分の中にあった気持ちなんですけど、それまで私自身が気づけなかったんです。すごく辛い経験があったからこそ、こういうポジティブな気持ちがわかるようになれたんだと思います。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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