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THE PINBALLS

回り続ける惑星の中で全身全霊で放つ気高く美しきロックンロール

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THE PINBALLSが、約1年1か月ぶりの新作5thミニアルバム『PLANET GO ROUND』を完成させた。アニメ『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』第3話のエンディングテーマとして話題となった「劇場支配人のテーマ」を含む前作の4thミニアルバム『さよなら20世紀』リリース以降も、精力的なライブ活動を通じてバンド力をさらに高めてきた彼ら。独特な言語センスと強烈なフックを持つメロディに磨きをかけた全7曲は、いずれもリード曲に匹敵するキラーチューンだ。ポジティブな姿勢を保ち、全身全霊で放つサウンドは聴く者の胸を震わせ続ける。

 

●前作『さよなら20世紀』を出した時のインタビューでは“ライブがどんどん楽しくなってきている”という話をしていましたが、そこからバンドの状態はさらに良くなってきているんでしょうか?

古川:すごく良いと思います。メンバー同士の仲も良くなっている気がしますね。ただ、この間は中屋と石ちゃん(※石原)がケンカしていましたけど。

●それは何が原因で?

古川:ライブ前のリハーサルで石ちゃんが打ち合わせどおりにやらなかったことについて、中屋が「何でやらないんだよ!?」って言ったんです。そしたらいつもは黙って聞いているだけの石ちゃんが、初めて「何だよ、俺だってやってるから!」って言い返して。「もういいよ!」と言って、そのままスタスタ階段を昇っていっちゃったんです。

●初めて言い返したと。それは石原くん自身、何か思うところがあったから?

石原:いや、単純に“何だよ、その言い方?”と思って。言われていること自体には納得しているので、後から考えたら“くだらないことだったな”と思うんですけど(笑)。

古川:でも俺はそこに石ちゃんの成長を感じたんですよね。ちゃんと本気になっているからだなと思って。その日のライブで俺はその話をして、「そういうのってメチャメチャ良いと思う…」って本番中に泣いたんです(笑)。

●古川くんが泣いちゃったんだ(笑)。

古川:それって、本当に仲良くなってきているからだなと思ったんです。ライブが終わった後はいつもどおり何もなかったようにみんなで反省して話し合ったし、そこで何も言わずにやっているよりも全然良いなと思って。すごく小さな話かもしれないけど、そういうことでバンドの結束もだんだん固まっている気がするんですよね。

●活動が長くなっても“言わなくてもわかるだろう”という感じにはならずに、ちゃんとお互いに思ったことを言い合えている。

古川:そんな感じがしています。

森下:確かに長く続いている中で、最近はよくコミュニケーションを取るようになったかなと。今までは知っているつもりでやってきたけど、結局はお互いに何を思っているのかもよくわかっていなかったんです。だったら1回、きっちり話そうかという感じになって。

●そこで改めて話し合った?

森下:今回の作品を録る前に、音楽云々というよりも人間的なところも含めてガッツリと4人で話し合って。そこで「4人とも知った仲なんだから何に気を遣うでもなく一度開き直って、各々が思いっきりやりたいようにやってもこの4人なら成立するんじゃない?」という話をしたんです。それ以降は中屋と石原の小競り合いみたいなものはありましたけど、個々が抱えるストレスは減ったかなと。そこが前作以降で、バンドとして変わったところだと思います。

●それまでは意思の疎通が上手くいっていなかった部分もある?

森下:実際その中屋と石原の言い合いも含めて、自分以外の3人の間で起こる色んなケースを外から見ていると俺には“そういうところでやり合っているんだな”というのがわかるんですけど、当事者同士は食い違っていて(笑)。だからいったん収まってから、双方に「あいつはこういうことを言っていたんだよ。そこは理解してあげよう?」っていう感じで俺が説明したりしています。

●通訳みたいな(笑)。

古川:俺は昔から、悩むとモリ(※森下)に電話するんです。モリは俺の話を「うんうん」って聞いてくれて「それは◯◯(※メンバー)にこう言ったほうが良いんじゃない?」みたいなアドバイスをしてくれるんですよ。モリがいないと、俺はヤバいですね。

森下:そういう電話が深夜にかかってくるんですよ。俺はもう寝ていたところだから、途中で疲れてきて「もうやめてくれ…頼むから」と言いたくなるくらいです(笑)。

古川:でもよく電話を切らないよね(笑)。

●最近でもそういうことはあるんですか?

古川:この1年くらいはなくなりましたね。だいぶ強くなった気がします。今はすごく健康な感じがしていますね。

●それが今回の『PLANET GO ROUND』の制作にも良い方向に作用したんでしょうね。今作は1曲1曲が強くて、どれがリード曲になってもおかしくないなと。

森下:実際にリード曲の候補を出し合った時にも全曲が挙がってきて、“どうしよう?”っていう感じでした。

古川:最終的に今回のリード曲はM-5「毒蛇のロックンロール」になったんですけど、俺はM-3「欠ける月ワンダーランド」にしたかったんです。

●古川くんは「欠ける月ワンダーランド」が一番気に入っていた?

古川:“俺、こんな曲が作れるんだ!”みたいな感じで、嬉しかったんですよ。自分でも“どうやって作ったんだっけ?”って思うくらいで、もう1回やっても作れなさそうな気がしていて。中屋は最後まで、この曲が「まだ理解できていない」と言っていましたね。

●それはどういう意味で?

古川:「まだ理解できていない」というのは、“理解しようとしていない”とか“手に負えない”っていう意味じゃなくて、「まだ完成形が俺の頭の中にない」ということを中屋はしきりに言っていて。でも逆に俺はそういうものだから作ったら面白いことになるだろうなと思っていました。“中屋にもまだ完成像は見えていないんだ。だったら面白そうだな”っていう。

中屋:この4人でやっているイメージがなかなかできなかった、というだけの話なんですけどね。

●でも最終的には良いものになったと。

石原:非常に良いと思います。俺は全く違和感もなかったですね。

●ちなみに「欠ける月ワンダーランド」というのは造語ですよね?

古川:今まで作った中で自分でも特に好きな曲名が「way of 春風」(『THE PINBALLS』収録)なんですよ。作っている時から、“これは絶対に今まで誰も使ったことがないタイトルだろう”と思っていて。「欠ける月ワンダーランド」も同じ感覚で、俺はこういうタイトルが本当にカッコ良いと思っているんです。今まで聴いたことがない言葉だし、自分の好きなものを世に出せて本当に幸せだなと思います。

●M-2「くたばれ専制君主」もそうですけど、すごく古川くんらしい言葉のセンスというか。

中屋:古川らしいなと思いましたね。タイトルの付け方にしても、あまり見慣れない字面のものが多くて。そういうところが、うちのバンドの良いところだとは思っています。

●この曲は歌詞も独特で、最初に“1000+1000+1000=100000000”とか数字の羅列を見た時は読み方すらわからなかったです。これは何のことを歌っているんですか?

古川:「くたばれ専制君主」は、ハイパーインフレをイメージしたんですよ。国家が紙幣を刷り過ぎちゃって、お金の価値がなくなっちゃう状態のことで。すごく分厚い札束なんだけど、価値はほとんどないみたいなイメージを浮かべていました。数字の部分に関しては、“普通の足し算が通じない”ということを言いたかったんです。

●そういうことなんですね。“腕が百本あって”や“千本のつの”という部分は、どういうイメージで?

古川:新しい王様は、こういうのが良いなと思って(笑)。ある国にすごい暗君というか専制君主がいて、それに取って代わる新しい王様はどういうのが良いかなと考えたんですよ。そこで革命家がまた次の専制君主になるよりは、そういう化け物みたいなわけのわからないものに政権を交代させて、(自分たちは)ただ踊りたいねっていう話ですね。

●空想上の王様をイメージしているんですね。「毒蛇のロックンロール」の“おまえのゼンシンゼンレイが蛇”っていうフレーズもすごく耳に残ったんですが、これはどういう意味なんでしょうか?

古川:俺の友だちの後輩で金属工芸をやっている芸術家がいて、彼に対する応援コメントを寄せた時に“お前の体中が蛇”っていうふうに書いたんですよ。その人はすごく鋭い感じなので“体中が蛇”って書いたんですけど、自分で書いていながらメッチャ良い表現だなと思って(笑)。“これを曲にしよう”と思った時に、“ゼンシンゼンレイが蛇”っていうのが浮かんだんです。

●具体的にはどういうイメージなんですか?

古川:蛇って(見た目が)1本じゃないですか。1本で“口”みたいだし、全身で動くから“足”でもあるし、口で掴むから“手”でもあって。そういう姿がロックっぽいなと思ったんです。俺らがやっていることもたぶんそういうことで、“それしかできない”んですよ。でもそれがカッコ良かったりもする、っていうことを言いたかった。

中屋:器用に色んなことをやったところで、美しく見えないと思うから。それだったらやらないほうが良いと思うんですよね。

●だから“なんて美しい生き物”と歌っているんですね。バンドと重ねているという意味では、M-4「朝焼けの亡霊」の“だから行けない 今は行けないよ この胸を震わす 唄があるんだ”という歌詞も自分たちの心境を歌っているのかなと。

古川:この曲は、本当にこの1年の自分たちの気持ちを歌っていますね。今までどおり悩んだりもするけど、今はもう“やる! 俺は降りない”っていう答えが出ているんですよ。それを歌にして、ライブに来てくれている人たちにもちゃんと伝えたくて。ライブ中に俺はよく泣くので、みんなに“悩んでいるのかな?”って心配されるんですよね(笑)。でもそれはただエモくなっているだけで、“俺は辞めないから大丈夫だよ”っていう。

●決意表明の曲なんですね。M-6「道化師のバラード」も自分たちの想いを重ねているように感じます。

古川:これも自分の気持ちを歌っていますね。聴いてくれている人たちもたぶん自分と同じように悩みやすい人が多いと思うので、そういう人たちに向けて“もう無理かもって思うことがあっても、きっと大丈夫だよ”っていうことを言いたくて。自分自身にそう言って、励ましているところもあります。

●M-1「イーブルスター」やM-7「あなたが眠る惑星」は曲名に“星”に関する言葉が入っていますが、アルバムタイトルの『PLANET GO ROUND』にもつながっている?

古川:今回はどの曲も“星”とか“循環”に関するものにしようと思っていたんです。「イーブルスター」はUFOの話で、「くたばれ専制君主」は“木馬は回る”と歌っていたりしつつ“政権交代”や“革命”をイメージしていて。「欠ける月ワンダーランド」は月の満ち欠けについて歌っていて、「朝焼けの亡霊」は“生と死”みたいな。

●生と死の輪廻的なことですね。

古川:「毒蛇のロックンロール」は蛇が自分の尾を噛んで環になっているイメージ(※ウロボロス)で、「道化師のバラード」は水の循環をテーマにしていて。あと、地球って“水の惑星”と言われたりもするじゃないですか。

●そこが“惑星”というテーマにもつながっている。

古川:最後の「あなたが眠る惑星」はそのままの意味で、惑星の循環みたいなイメージがあって。そういうぐるぐる回っている感じで、全部の曲を統一しようかなと思っていました。

●『PLANET GO ROUND』には、どんな想いを込めているんでしょうか?

古川:月も巡るし星も巡るように、“ダメだと思っていても絶対にもう一周するから生きてみよう”というか、そういうポジティブなことを聴いてくれている人たちに向けて言いたくて。俺もそうやって、自分自身を励ましているから。ここまで歳を重ねてくる中で色んな欲とかを見てきましたけど、“意外と何も持っていなくても俺たちは最高だな”って思えているんですよ。ライブに来てくれる人たちがいるし、大丈夫だなと。

●自分たちの現状に対して、すごくポジティブな姿勢になれている。

古川:俺らみたいなのでも意外と幸せだから、みんなも大丈夫だよっていうことを言いたかったんです。もし好きな人ができたら、その人が住んでいるこの星が大事だという気持ちになるじゃないですか。愛する人が1人でもできれば地球全体が愛しくなるし、太陽系も愛しくなるし、ずっと回っていて欲しいと思う。絶対に幸せになるから、もう1周してみようよっていうことを伝えたいんですよね。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

 

 
 
 
 

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