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真空ホロウ

いっそやみさえうけいれて。そのさきにあるひかりのほうへ


真空ホロウが2年ぶりの新作となる、待望のニューアルバム『いっそやみさえうけいれて』をリリースする。2015年にメンバーの脱退が突如発表された後も、Vo./G.松本明人のソロプロジェクトとして活動を続けてきた。女性メンバーを中心としたサポートメンバーを加えてライブを続ける中で、今年3月にはBa./Cho.高原未奈が正式加入。新生・真空ホロウとして第一歩を踏み出したのが、今回のアルバムと言えるだろう。また今作では、伊東歌詞太郎やコヤマヒデカズ(CIVILIAN)、松永天馬(アーバンギャルド)にUCARY & THE VALENTINEといった独創的な感性のアーティストとのコラボレーションも実現。メンバーが2人だけという現体制を活かした、自由度の高いスタンスで表現の幅を広げることにも成功している。“やみ(闇/病み)”をテーマにしながらも自分たちなりの“ポップ”を体現するような傑作を生み出した2人に、ここに至るまでの話をじっくり訊いた。

SPECIAL INTERVIEW:真空ホロウ #1

「今回の『いっそやみさえうけいれて』というCDを通して、僕なりの“ポップ”を伝えたかったんです」

●流通盤としては1stフルアルバム『真空ホロウ』(2015年4月)以来の新作を今回リリースするわけですが、前作発売後にメンバー2人が脱退したんですよね。そこで1人になった時も、真空ホロウを続けるという意志は明確だったんでしょうか?

松本:そもそも一番最初に真空ホロウを始めた時が、1人だったんです。そこからメンバーを集めてバンドとしての活動を始めたというだけなので、誰かが抜けたとしても“真空ホロウ”であることには変わりないんですよ。

●ある意味、原点に戻ってきたというか。

松本:まさにそうです。

●メンバーが辞めた原因は何だったんですか?

松本:メンバーの脱退理由として色んなバンドが“方向性の違いで”ってよく言いますけど、本当にあるんだなと思いました。僕は音楽的にもっと歌やメロディを大事にした方向にいきたいとずっと思っていて、2年前のアルバムもそういう方向で作ったんです。でも他のメンバー2人はもっと難しいことをやりたかったみたいで、それとは正反対の方向を向いてしまっていて。

●やりたい音楽の方向性が真逆になってしまっていた。

松本:その後もしばらく話し合った結果、2人とは別々の道を行くという話になったんですけど、自分は1人になってもやろうと思っていて。だからといって、“松本明人”のソロ名義になるっていう考えにはならなかったんです。“真空ホロウ”を捨てる意味がないと思ったから。

●“真空ホロウ”として、明人くんがやりたいことは一貫しているわけですよね。

松本:そうです。だから、色々とストレートになりましたね。スタッフも含めて、みんなが同じ方向を向くキッカケにもなったし、わかりやすくなったかなと思います。

●脱退後は主に女性メンバーをサポートに迎えて活動していたわけですが、そこにも何か意図はあったんでしょうか?

松本:単純に僕が、女の子と一緒にバンドをやりたかったというのがあって。振り返ってみると小学生の頃から僕は男子よりも女子のほうが仲も良かったので、一度“女の子と一緒にやってみよう”と思ったんです。それが上手くいったっていう。

●元々、女子のほうが合うという実感はあったと。

松本:僕はかわいいものが好きだったりもするし、女子トークもできるんですよ(笑)。だから、話が合うんです。

高原:しかも、料理もするんですよ(笑)。明人くんは男性だけど女子寄りなところがあって、逆に私は女性だけど男っぽい性格なのでちょうど良いのかもしれないです。

●高原さんとの相性も良かったんでしょうね。

松本:初めてスタジオへ一緒に入った時に歌っていて、すごく気持ち良かったんですよ。歌に寄り添ってくれている感じがして。それが(加入の)決め手でした。

高原:私は絶対に、歌あってこそのベースだと思っているから。曲を聴いた上で“これが一番良い”と思うベースを弾いたつもりだったので、それがハマったんでしょうね。真空ホロウの曲もすぐ覚えちゃうくらい好きでよく聴いていたし、音を一緒に鳴らした時のハマり具合は最初から良かったです。でもサポートから正式メンバーになるっていうことは1つの壁を超えなくてはいけないので、そこは時間をかけて考えた上で決断に至りました。

●その壁を超えられるだけのものがあったということですよね?

高原:ちゃんとお互いの音楽に対する姿勢を見た上で、“一緒にやっていけるな”って思えるくらいの信頼が芽生えたところからですね。

松本:これまでは“バンドに対して、どう思っているか?”みたいな話をあまりメンバーとしてこなかった時期があったんです。でも1年間サポートをやってもらっている中で、(高原は)メッチャ色んなことを言ってくれたんですよ。“バンドをやっている”っていう感覚にもなれて嬉しかったし、本気なんだなと思って。

●ちゃんとバンドのことを、メンバー同然のレベルで考えてくれていることが伝わってきた。

高原:真空ホロウのサポートをやり始めた時から“いずれ正式メンバーになることを前提に”という話もあったので、こっちも全力で向き合っていかないと決断できないなと。肩書きはサポートだけど言いたいことは言うし、“このバンドをどうやって売り出していくか”みたいなところまで含めて、ちゃんと意見を言えるようにならないと自分自身も決められないだろうなと思っていました。

●そんな高原さんを正式メンバーに加えて初の新作をリリースするわけですが、今作『いっそやみさえうけいれて』から真空ホロウが本格再始動するという意味合いもあるのかなと。

松本:まさにそうです。だから、収録曲もそういったものになっていて。今回は新曲ばかりなんですよ。今まではそこまでにある曲の中から選んだりもしていたんですけど、今回はこの1枚のために作った曲ばかり集めました。前からあった曲も、歌詞をこの1枚のために書き換えたりしています。あと、M-1「いっそやみさえうけいれて(イントロダクション)」が僕のソロで、M-9「いっそやみさえうけいれて(アウトロダクション)」がベースソロなんですけど、実はその2曲がつながっていたりもするんですよね。

●この2人での真空ホロウを象徴するようなものにもなっている。そこにゲストを加えてのコラボ楽曲も収録するというのは、どういう発想からだったんですか?

松本:バンドって普通はメンバーが3人だったら、その3人で音を鳴らすものじゃないですか。でもそういう固定観念に囚われるんじゃなくて、ギターボーカルとベースコーラスという今の編成にはもっと自由度があるんじゃないかと思ったんです。

●必ずしもメンバー2人の音だけで成立させる必要はないというか。

松本:そこから“コラボも面白んじゃない?”という話になって。あと、僕が歌詞に悩んでいた時期があって、その時に“自分じゃない人が僕に歌わせたい歌詞を書いてもらおう”と思ったんです。そうすることで自分が書きたいこともより明確になっていくんじゃないかというところで、色んな要素を入れてみました。

●打ち込みっぽいサウンドもあったりして、今作は“バンド”というものに囚われない自由さがあるなと思ったんです。

松本:そうですね。“バンド”っていう感じではない音こそが、僕が今提示したいものだったんですよ。もちろん“バンド”っていう感じの曲も入っているんですけど、今回の『いっそやみさえうけいれて』というCDを通して、僕なりの“ポップ”を伝えたかったんです。

●明人くんが考える“ポップ”を表現した作品になっている。

高原:私もただの“ポップ”じゃないところが好きで、そこが明人くんと通じているんだと思いま
すね。

松本:別に“僕らのポップを作ろうぜ”みたいな感じではないんですけど、たまたまそこが一致したんですよね。本当にわかり合える点が多くて。聴いてきた音楽も近いから、“ここでこう来るよね?”っていう感覚が高原さんとは合うんです。

●いちいち話をしなくても、意図を汲み取れることが大きいんでしょうね。

松本:話すことは大事だけど、別に話さなくても同じことを思っているんだろうなっていう安心感はあります。あとはグルーヴだったり、お互いにパッと出したものが一緒っていうことがよくあって。

高原:そこが整ってきたので、正式メンバーになることを決断したんですよね。それまでは話さないとわからなかったんですけど、“明人くんの見ているものはこういうものなんだな”というのがわかるようになったから正式メンバーになれたのかもしれない。

SPECIAL INTERVIEW:真空ホロウ #2

「歌詞太郎くんがいなかったら絶対にできていない曲なんですよ。この曲に限らず、今回のアルバムは高原未奈という人間がいなかったらできていないし、コヤマくんやUCARYさんや天馬くんがいなくてもできなかったんです」

●コラボ楽曲に参加した人たちは、どういう基準で選んだんでしょうか?

松本:“他人に歌詞を書いてもらうなら(松永)天馬くんだな”って、まず最初に思い浮かんで。アーバンギャルドのクリスマスライブを観に行った時に、アイデアが浮かんだんですよ。そこから天馬くんと「こういうふうにやりたいんです」と話し合ったんですけど、“最近どうなの?”っていうところから始まって人格レベルまで訊かれて、カウンセリングみたいな感じでしたね。今回は男性目線の曲があまり入っていない中で、このM-3「ハートの噛み痕(feat. UCARY & THE VALENTINE)」に関しては天馬くんが「自分くらいの年代の男性を想定した言葉遣いを入れた」と言っていました。

●明人くんとはまた違う、独特な言葉のセレクトが面白かったです。

松本:本人が「ここだけは曲げられない」と言っていたところがあって。歌う時は“グッバイ”って発音している箇所なんですけど、歌詞の表記は絶対に“グッド・バイ”にして欲しいと言われたんです。太宰治みたいな、純文学的な要素を絶対に崩したくないと言っていましたね。

●この曲にフィーチャリングでUCARY & THE VALENTINEさんを招いた理由とは?

松本:バンドとして女性メンバーが入ったということを前面に打ち出したかったのと、天馬くんに歌詞を書いてもらうなら混声にしたかったというのがあって。そこで“誰と一緒に歌いたいかな?”と考えた時に思いついたのが、UCARYさんだったんです。

●元々、知り合いだったんですか?

松本:知り合いではなかったんですけど、ずっと注目していた人で。僕はAndy Warholが好きなんですけど、彼がプロデュースしたことでスポットライトが当たったのがThe Velvet Undergroundじゃないですか。Nicoっていうモデルを入れて作った有名なアルバム(1stアルバム『The Velvet Underground and Nico』/1967年)があって、自分もそういうことがしたかったんです。

●Nicoのイメージも重ねて、UCARYさんに参加してもらったんですね。

松本:人に紹介してもらって実際に会ってみたら、予想どおり良い意味での変わり者でしたね(笑)。彼女も作品を作っている人なのでせっかく一緒にやるんだったら、もっとその要素を入れたいなと思って。だから、この曲の英詞部分はUCARYさんに書いてもらったんです。

●英語で話している感じのところですよね?

松本:「歌ではなくて、喋って欲しい」っていうお願いをして。英語の喋り方に特徴がある人だなと思っていたので、それを活かすためにそうしてもらいました。あと、ちょっとハスキーなんですけど、チェストからファルセットに行く時にすごく特徴的な声になるんですよ。たとえば“ピンクのネクタイ”のところがそうで、そこをぜひ聴いてもらいたくてミックスでは“ネ”の部分だけちょっと上げています(笑)。

●ライブの時は高原さんが代わりに歌うんでしょうか?

松本:そうです。だから、ライブの時もPAさんに“ネ”だけ上げてもらおうと思っていて(笑)。

●そこも再現すると(笑)。コラボ曲でいうと、M-4「#フィルター越しに見る世界 (with コヤマヒデカズ from CIVILIAN)」はどういう経緯で?

松本:僕ら2人の声が似ているというのは元々、ファンの方からもよく言われていたんですよ。だから“一緒にやったらどうなるんだろう?”とは思っていて。あとはコヤマくんと話していた時に、“ものの考え方が似ているな”と気付いたんです。だから同じ方向性の下で一緒に曲が書けたら面白いだろうなと思って、今回はお願いしてみました。

●これは歌詞を2人で共作しているわけですが、どういう方向性で書いていったんですか?

松本:最初に僕が持っていった段階では、まだテーマを決める前だったんです。お互いが“何について一番コンプレックスやトラウマを抱いているんだろう?”と考えた時に、“人間関係”や“友だちの定義”っていうものが浮かんで。でもそれをテーマに僕が作っていった曲や歌詞に対して、コヤマくんが返してくれた言葉たちが“恋愛”にも受け取れる内容だったんですよ。そこにお互いのフィルターから生まれるケミストリーを感じて、すごく面白いなと思って。

●異なるフィルターを持った2人が一緒に作ることで生まれる化学反応を感じられた。

松本:だったら、もっと恋愛に寄せてみようと思って。そのあたりでこの曲のテーマも決まったので、そこにもっと集中して書いてみようという話になったんです。コヤマくんの言葉が僕を導いてくれましたね。

●最初の段階では“友だちの定義”について書いていた歌詞を、恋愛に寄せていったんですね。

松本:“きっとコヤマくんと僕は、こういう想いで友だちと接しているんだろうな”ということを考えながら書きました。“友だち”について2人で話したことがあって、コヤマくんは男らしいんだけど、内面では相手との間にまずフィルターを張ってしまうところがあるそうなんです。逆に僕は女々しくてずっと迷っているんだけど、最初に全部吐き出してから向こうのフィルターを見つつ、こっちもシャッターを徐々に閉めていくというところがあって。

●いきなり壁を張るタイプと、最初に全部見せてから徐々に壁を張っていくタイプという違いがある。

松本:そういう違いがあったので、まずは恋愛に落とし込むことでそこをもっと擦り合わせていったというか。“フィルター”、“ガラス越し”、“写真”、“アルバム”みたいなイメージはどちらも共通して持っていたんですけど、要はSNSのことなんですよね。SNS上でしか本当の気持ちが伝えられないことを歌っています。

●そういうことを歌っていたんですね。今回のコラボ曲で一番意外だったのが、伊東歌詞太郎さんの作詞作曲によるM-7「さかみち」だったんです。歌詞太郎さんらしい爽やかさも感じさせつつ、明人くんが歌うことで真空ホロウらしい曲になっているなと。

松本:そこは編曲を僕に任せてくれたのも大きかったですね。譜割りとかに関してはもらったままなんですけど、音の種類だったりイントロやギターリフは全部任せてもらったんです。あとは歌い方も曲げられなかったので、結果的に“真空ホロウ”に落とし込めたとは思います。

●歌詞もすごく真っ直ぐな言葉で書かれていますが、それを楽曲として真空ホロウの世界観に落
とし込めている。

松本:“ミュージシャンも一般企業で働いている人も、実は同じ悩みを抱いていたりもするんですよ”っていうところを僕に歌って欲しいと思って書いてくれたらしくて。だから歌詞太郎くんの中では、暗いほうなんだと思います。でもメロディがポップだから、すごく良いバランスになっていますね。

●確かにすごくポップだと思いました。

松本:Dメロが特にすごくて、“よくこんなメロディを思いついたな”っていう感じでした。このアルバムの中で一番、編曲に時間をかけたのがこれなんですよ。今作で唯一、僕が曲を書いていないというのもあって、“これだったら歌詞太郎くんが歌えば良いじゃん”っていうものにはしたくなかったんです。ちゃんと真空ホロウの曲にしたかったから。

●こういうタイプの曲は、今までの真空ホロウにはなかったですよね?

松本:メジャーコードの曲を僕らに作ってくれたということも大きいですね。だから新しい息吹は入っているし、歌詞太郎くんがいなかったら絶対にできていない曲なんですよ。それって、すごいことで。この曲に限らず、今回のアルバムは高原未奈という人間がいなかったらできていないし、コヤマくんやUCARYさんや天馬くんがいなくてもできなかったんです。

SPECIAL INTERVIEW:真空ホロウ #3

「作っていく過程で、明人くんがやりたいことや出したい音をより理解することができて。このタイミングでアルバムを出せて、本当に良かったなと思います」

●先ほどSNSの話にもありましたが、今回の収録曲は誰しもが心の中に抱えている闇の部分を歌っているものが多いように思います。

松本:みんな隠しがちなんですけど、実はそこを受け入れることによって明るくなれるんじゃないかっていうことを歌っています。みんなの中にも闇はあるだろうし、それをタイトルに掲げました。

●『いっそやみさえうけいれて』というタイトルだけ聞くと、どれだけ暗いアルバムなんだろうと想像してしまいますけどね(笑)。

松本:実は明るいんです。“素直になりなさい。きっとみんな受け入れてくれるから”っていうことですね。

●M-2「レオン症候群」は、そういう一見ヒネくれてしまっている人の感じが特に出ているというか。

松本:みんな1人じゃないんです。でも1人なんですよ。だからマジョリティっていうものが生まれるし、マジョリティがなければ、きっとマイノリティも生まれない。なのにマイノリティになりたい人のほうが多くて。それは自分への承認欲求だとか、このアルバムにもよく出てくるSNSが象徴しているものなんだろうなと思います。そういう承認欲求を素直に歌っている曲ですね。

●今回の歌詞はSNS関連の要素が多いですよね。

松本:今回は“SNSにはびこる闇”をテーマに書いたんです。実際に自分もSNSをやっているし、Twitterとかも見ちゃうし、そもそも承認欲求がなければ人前で大声で歌ったりもしないですからね。

●確かに(笑)。

松本:SNSって、色々な使い方があると思うんですよ。この前テレビで観たんですけど、Instagramをやっている人が1人でレストランとかに行って、リア充を装うために2人前頼んだりするっていう。あとは別にサラダとか食べたくないのに、撮影する時の彩りがきれいだから頼むっていう“やみこさん”を紹介した特集を見て、そういう人が今は多いんだなと知ったんです。それを観て、“このアルバムを作った意味があったな”と思って安心しました。

●意味があったというのは?

松本:こういうテーマで“やみこさん”に向けて書いてみたけど、“実はそういう人たちがマイノリティだったらどうしよう?”と思っていたんです。でもテレビで特集されるくらいだから、世の中には相当はびこっているんだろうなと。

●はびこってはいないと思いますけどね(笑)。

高原:テレビで取り上げられていたのはちょっといきすぎた人かもしれないですけど、その軽いバージョンの人たちは他にもたくさんいるような気がします。

●そこまでひどくなくても、重なる部分は誰しもあるというか。

松本:M-5「カラクロ迷路」の歌詞はAメロとBメロでFacebookとTwitterを対比しつつ、サビではそれを俯瞰して見ているという3つの視点から構成されていて。Facebookではリア充ぶっているけど、Twitterでは心の闇を吐き出していて、その両面とも“バカじゃねぇの?”って思っているのがサビの部分なんです。“でも全部、自分なんですけどね”っていうことを歌っています。

●明人くん自身にもそういう3つの面がある?

松本:あります。出したくもないし、出さないけど。人前に出る仕事をしているからTwitterとかInstagramをやっているのかもしれないですけど、もし人前に出る仕事じゃなかったらと考えるとちょっと怖いですよね。

●もしかしたら深く考えずに、SNSで闇を吐き出してしまっていたかもしれない。

松本:だから容易に想像できて書けちゃうんだろうし、怖いですね。

●ただ、今はそれをちゃんと曲や歌詞という形に昇華して出せているわけですよね。

松本:そう考えると、昔から変わっていなくて。昔は怒りとか劣等感を吐き出すように歌っていたんです。当時は吐き出し口が“歌”だったということなんですけど、今も単にオブラートの使い方が上手くなっただけで根本は変わっていないのかもしれない。表現をする上で、色んなフィルターをかけられるようになったのかもしれないですね。

●それは音楽を続けてきたことで得られた進化とも言えるのでは?

松本:そうですね。音楽をやってきたことで変われたんでしょうね、きっと。決してエゴじゃなくなったというか。今は、人と(一緒に)音楽をやっているんです。

●そういう自覚を持てている。

松本:そう考えたらソロ(プロジェクト)になったというのは、必要なことだったのかもしれない。1人じゃないっていう自覚を強く持てたキッカケとして、ソロになったというのは間違いじゃなかった。そして今、バンドができている。だから、今の真空ホロウは強いです。

●一度、1人になるという経験をしたことで、バンドとして強くなれた。

松本:そうですね。だから今はすごく前向きです。

●その先の“これからのテーマ”を歌っているのが、M-8「ラビットホール」なんですよね?

松本:そうですね。抽象的な表現が一番多い曲なんですけど、人の心って言葉では言い表せないようなことも多くて。それをこの曲ではおとぎ話や天気とか、そういうもののせいにしてしまっているんです。日々の色んなことも、闇さえも受け入れて、また日常に戻っていく“スイッチ”みたいな曲にしてもらえたらなと思って歌いました。

●イントロダクションでこのアルバムの世界に入っていって、最後のアウトロダクションで日常に戻ってくる時にはもっと強い自分になっているというか。

高原:そういう意味でのイントロとアウトロになっています。明人くんのイントロはマイナーコードなんですけど、私のほうは同じキーでメジャーコードを使っているんですよ。日常に帰っていくんだけど、そこにはちゃんと光があるっていうふうに感じてもらいたくて作りました。

松本:今の真空ホロウとして“これぞ!”っていうものが欲しかったんですけど、ちゃんと出して
くれましたね。

●今の真空ホロウを体現するようなアルバムになっている。

松本:そうですね。

高原:「正式メンバーになります」と言った直後に今作を作り始めたので、そうは言ったものの最初はまだ100%わかっているわけではないような気がしていたんです。でも作っていく過程で、明人くんがやりたいことや出したい音をより理解することができて。このタイミングでアルバムを出せて、本当に良かったなと思います。

●今回の制作を通じて理解がより深まったわけで、今後どうなっていくのかも楽しみですね。

松本:今回は新体制で、僕らならではの“ポップ”が表現できたと思っていて。焦らずに、でも早めに次の展開を示すことができたらなと思います。

高原:この1枚を作って、“こういうのが形になるんだ”っていうのもわかったんです。他にもやり
たいことができてきたので、今後が楽しみですね。

●ツアータイトルの“いっそみなさえうけいれて”は、新メンバーの高原(未奈)さんをファンのみんなにも受け入れてもらおうという意図がある?

松本:そういう気持ちもすごく入っています。あと、“みんなが自分の闇を受け入れてください”っていう意味も込めていますね。

●“未奈”と“皆”をかけた、言葉遊び的な感じなんですね。

松本:“そのくらいラフに自分の闇を受け入れてみなよ”っていうことですね。ツアーが始まる前日に新潟で前夜祭をやるんですけど、そのタイトルが“いっそこめさえうけいれて”なんですよ。新潟といえばお米だからっていう理由だけなんですけど…そんなラフなタイトルをつけられるくらい、今の自分たちたちは前向きなんです(笑)。

●変に肩肘張っていないというか。

松本:そうですね。昔は、僕がここまでインタビューで喋ることもなかったから。

●実は、さっきから“こんなに喋る人だっけ?”と思っていました(笑)。

松本:それはここまでの2年間があったからかもしれないですね。1人でアコースティックのツアーを2回まわる中でMCもリハビリをして、“自分”という殻を破って外に出てこられたんです。良くも悪くも責任が自分1人にかかるようになったので、そこでも強くなれたのかなと。だからこそ今回は、“人を入れる”っていうこともできたんだろうなと思います。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

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