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lynch.

欠落をかかげ、終わらない未来へ鋼の翼で羽ばたいていく

昨年末に起きたBa.明徳の脱退を受けてライブ活動を自粛していたlynch.が、4/18に新木場STUDIO COASTで開催した“THE JUDGEMENT DAY”にて復活を遂げた。そして復活後第1弾リリースとなる新作『SINNERS-EP』にはJ、人時、T$UYO$HI(The BONEZ / P.T.P)、YOSHIHIRO YASUI(OUTRAGE)、YUKKE(MUCC)という5人のベーシストがゲスト参加。様々な想いを背負いながら、バンドの危機的状況もチャンスに変えるという覚悟と野心に満ちた1枚を作り上げた。lynch.はここからまた新たな一歩を踏み出していく。

 

「なかったことにはしたくないし、とにかく隠したくないんですよ。“そこも背負った上でやっていきます”という意思表示を示したかった」

●4/18に新木場STUDIO COASTで開催した“THE JUDGEMENT DAY”で昨年末からのライブ活動自粛から復活したわけですが、自分たちとしてはどんな想いでしたか?

葉月:色んな想いはあったんですが、とにかく注目がすごく集まっていたので“失敗はできないな”と思っていました。あと、あれだけの人数が盛り上がっているのをステージの上から見た時に、“lynch.は非現実的な現実を創り出せるバンドなんだな”というのを改めて感じて。“なくしちゃいけないな”って思いましたね。

●お客さんの反応を見て、改めて自分たちのバンドの大きさを感じたというか。

葉月:ファンのためにも、止めちゃいけないものなんだなと。また活動を始められて良かったと思います。

玲央:僕も“やっとバンドとしての活動を再開できたな”という喜びが一番大きかったですね。

●悠介さんと晁直さんはどうでしたか?

悠介:“お客さんに救われたな”と思う部分もありますね。悲しさや怒りも含めて色んな感情があっただろうから、それをあそこで1度リセットさせなきゃいけないなと考えていて。フラットな気持ちになってもらって、“また1からスタートしていくんだよ”っていう僕らの気持ちを伝えなきゃいけないと思っていたんです。最終的には、それができたんじゃないかな。

晁直:復活ライブということもあって、お客さんもいっぱい来てくれたのが嬉しかったです。その後のlynch.を左右するライブになるとも思っていたので、大げさに言えばスタッフやファンも含めた色んな人たちの人生を背負っているような気持ちになって。ライブ1本の大事さを改めて痛感した日でした。

●葉月さんはMCでAK(※明徳)さんの脱退について「5人で完全体のlynch.が、4人で何とかやっている」と話していましたが。

葉月:4人になって「これが今のlynch.です」と言うのも、何か違うなと思って。だって実際、5人の時のほうが良かったですから。そこは虚勢を張っても仕方がない。すごく微妙な表現ではありますが、今は5人のものを4人で守っている状態なんです。それが今後どう変わっていくのはわからないですけどね。

●だからこそ今回の『SINNERS-EP』も含め、複数のサポートベーシストを入れるという選択をしたわけですよね?

葉月:複数人にしてサポートをコロコロ入れ替えることによって、ファンの人が抱く“AKがいなくなった”というショックを紛らわせて、楽しい方向に持っていきたいという想いがあって。

玲央:正式なベーシストがいるバンドだったら、こんなことはできないわけですから。今のこの状態だからこそ、できることだと思うんですよ。つまづきそうな物事にぶつかった時に“どうやってみんなが面白いと思えるようなものに変えていくか?”というのが、生きていく上で一番重要なことだと考えているんです。今回は皆さんの協力の下でベースがいない現状だからこそ作れる、すごい作品になったなと思っています。

●今作に参加した5人はどんな経緯で決まったんですか?

葉月:Jさんには、個人的に長文のメールで誘わせて頂いて。人時さんは、今回の件があった時に「何かあったら手伝うよ」とおっしゃって頂きました。T$UYO$HIさんは以前、僕がPay money To my Pain(以下P.T.P)のアルバムに参加させて頂いたことがあったので、今回はお願いしますと。(YOSHIHIRO)YASUIさんは、SADSのDr.GOさんに紹介して頂きました。YUKKEさんは、悠介くんの指名ですね。

悠介:仲良くさせてもらっていたのもあるし、楽曲的にもYUKKEさんのベースが合うだろうなと思ってお誘いしました。

●それぞれの曲について、この人が合うだろうというイメージがあった?

葉月:そういう曲もありますね。M-2「TRIGGER feat. J」は“Jさんにベースを弾いてもらうとしたら、こういうビート感やテンポにしよう”と思って作りました。

●ベースのフレーズはどちらが考えたんでしょうか?

葉月:最初に打ち込みでルート弾きしたものはお渡ししたんですけど、「全部変えて下さい」と言って。どの曲もベースのフレーズは、皆さんにお任せした感じです。フィーチャリングだからあくまでもその人の良さを出すために、こちらからのオーダーは特に出していないですね。

●曲調的にM-3「BLACK OUT DESTROY feat. 人時」とM-5「DIES IRAE feat. YOSHIHIRO YASUI」はライブで盛り上がりそうな感じですが、これもそれぞれにイメージがあった?

葉月:「BLACK OUT DESTROY」は何も考えず、素直にできた曲ですね。「DIES IRAE」は僕の中では“どヴィジュアルチューン”という感じです。昔のヴィジュアル系のバンドには、必ず1曲はこういう曲調のものがあって。これが始まると(オーディエンスが暴れるので)柵が折れる…みたいな曲にしたいなと思って作りました。

●「DIES IRAE」はYASUIさんならではのプレイかなと。

葉月:ヘヴィメタルですよね。“これしかないだろうな”というのはありました。

●M-4「KALEIDO feat. T$UYO$HI」もT$UYO$HIさんのプレイがハマるだろうと想像していたんですか?

葉月:P.T.Pのイメージからすると「BLACK OUT DESTROY」のほうが近いと思うんですけど、それだとあまり面白くないというか。P.T.Pはきれいな曲も多いし、僕はそういう曲でのT$UYO$HIさんのベースが好きなんです。だからあえてこの曲で参加してもらったんですけど、本人にも「何で俺なの?」って訊かれましたね(笑)。

●本人にも疑問だったと(笑)。「KALEIDO」の歌詞は別れを思わせる内容ですが、これは何について歌っているんでしょうか?

葉月:これは今年の2月に友だちが急逝したことを受けて書いた曲ですね。よく行くバーのマスターだったんですけど、彼のお葬式に参列した時にあまり沈痛な空気ではなくて。わりと明るい感じで「どうせ霊になってもその辺で酔いつぶれて倒れているんだろ?」みたいに、みんなで話していた雰囲気が良いなと思ったんです。死は悲しいことだけれど、“誰かが死んだくらいでは何も変わらない”ということは言いたかったし、“僕たちは止まらずに生きていくから、悪いけどもう忘れるよ”とも言いたかった。

●後半の“ちょっと寂しいでしょ?”という歌詞がすごく響きました。

葉月:“忘れないよ”とは言っても、忙しく生きていたらやっぱり忘れますからね。もちろん思い出すこともありますけど、あえてそこにフォーカスしてみました。死について“そんなに美化しないよ”というか。

●M-6「SORROW feat. YUKKE」もタイトルどおり、悲しみを歌っている?

葉月:「SORROW」は、AKの気持ちになって書いたんです。“悲しい思いをさせてしまったね〜(中略)〜信じて欲しい いつの日か 再び”の部分だけは僕らからファンに対する気持ちなんですけど、他はAKの気持ちを想像して書きました。

●AKさんの気持ちを書いた歌詞だったんですね。

葉月:やっぱりAKのファンがかわいそうなので、僕の想像ですけど“こうだと思うよ”っていうことを言ってあげられたら良いなと思いつつ書きました。最終的には“大丈夫だと思うよ”っていう感じですね。

●だから最後も“変わらないもの 心に灯して 歩いていける”と歌っている。

葉月:そうだと良いなと思います。頑張って欲しいです。

●曲自体は悠介さんによるものですが、今作に向けて作ったんですか?

悠介:原曲は2年前くらいからあって、“この曲はいつか使わないともったいないな”と思っていたんです。今回こういうことがあったので、タイミング的にも合うんじゃないかなと思って出しました。今までは仮タイトルのままで提出していたんですけど、今回はタイトルも付けて“こういう感じの曲です”ってわかりやすく伝えましたね。

●「SORROW」というタイトルは曲調から?

悠介:これを作っていた時は、自分自身がネガティブ寄りな気持ちでもあったから…。曲調的にも哀愁感が漂っていると思うので、一番ベストだと思うタイトルを付けました。

●その曲調に呼ばれて、こういう歌詞になった?

葉月:「悲しみ」っていうタイトルでただ“悲しいよ…”みたいな歌詞にしても仕方がないので、最初は情景が浮かぶような歌詞にしようと思っていたんです。でもそれだけでも味気なかったので、AKの気持ちになって書いてみようと思い付いて。その両方を組み合わせた感じですね。

●「BLACK OUT DESTROY」の“鋼の翼で 欠落をかかげ”という部分も、メンバー脱退のことを指しているのかと思ったんですが。

葉月:そうです。自分たちでも「不完全です」って、ずっと言っていますからね。その部分と「TRIGGER」「SORROW」は事件のことに関して歌っていて、他の曲は基本的には関係ないです。

●『SINNERS(=罪人)』というタイトルもそうですが、事件があったことやメンバー脱退についての想いを全く隠していないというか。

葉月:なかったことにはしたくないし、とにかく隠したくないんですよ。事件を受けて、“そこも背負った上でやっていきます”という意思表示を示したかった。“悲しむファンもいるかな…”と思いつつ、“もうこれ以上のことはないな”と思って付けましたね。

●強い決意があるからこそ、このタイトルを付けられた。

葉月:このことを背負えていないと、「TRIGGER」の歌詞も嘘っぽくなってしまうから。ファンの人には、前向きに捉えて欲しいんですよね。こういうことを言うと怒る人もいるかもしれないんですけど、大ピンチって逆にチャンスなんですよ。“それをチャンスにしないでどうするんだ?”っていう気持ちなので、ただ反省して終わるっていうのはちょっと違うと思っているんです。

●バンドの危機にもなりかねない事態を、前向きな方向に転じようとしている。

悠介:“LAST INDIES TOUR『THE JUDGEMENT DAYS』”(2010年)の時に葉月くんが喉を壊して離脱した時も、何とかなったんですよね。その時は“みんなで何とかしよう”っていうところで、結束力も固まって。そういう経験もあって僕らは強くなれたと思うし、自分たちだけではできないことでもあるのでスタッフやファンも含めて“みんなで切り抜けていこう”っていう想いが強いんです。

●今作のリリースとツアーに関しても、色んな人たちの協力を得ながら前に進んでいくわけですよね。

悠介:“周りに恵まれているんだな”と、何かがある度に感じています。今回もタダでは転ばないし、そういう意味で強いバンドだなと思いますね。

●ツアーも何人かのサポートメンバーと共にまわるわけですが、そこでの化学反応もあるのかなと。

晁直:実際にライブをしてみて、“人によって、こんなに違うんだ!”っていう衝撃は感じましたね。中には色んなところでサポートをしている人もいるから、そういう人が弾くlynch.のベースが“こんな感じになるんだ!”と思ったりもして。1ドラマーとして、楽しんでいます。

玲央:曲の解釈が各サポートメンバーで違ったりもして、そこで発見することもありますね。特に人時さんなんかはすごく実績のある大先輩なので、色々とご指導頂いたりもして。ツアーではただ一緒にやるだけじゃなくて、色んなところで自分たちの成長につながるものをどんどん学んでいけたらなと思っています。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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