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それでも世界が続くなら

伝えることを諦めない。誠意と意地を抱く彼らは決して燃え尽きない

それでも世界が続くならが、初の両A面シングル『消える世界のイヴ/アダムの林檎』をリリースした。表題の2曲は、ある少女の外側と内側の出来事を描いた連曲となっているという今作。来る7/26には初のコンセプトアルバム『消える世界と十日間』のリリースも控えている彼らだが、そこに連なる過程を垣間見せる本シングルの発売を機にVo./G.篠塚将行にじっくりと話を訊いた。5月に開催した過去アルバム全作追想ワンマン3DAYS“故人的な撤退 2012-2017”のことも含め、今の篠塚が考えている深層に迫るインタビュー。

 

「“もう無理だ”と思ったら辞めると思うんですけど、“こんなもんじゃねぇだろ?”とずっと思っているし、“これが人生最高”なんてまだ到底思えない。僕にとって音楽は“最後の砦”みたいなものだと思いますね」

●今作『消える世界のイヴ/アダムの林檎』リリース前の5月に、過去アルバム全作追想ワンマン3DAYS“故人的な撤退 2012-2017”を行ったのはどんな理由からだったんでしょうか?

篠塚:何となく“故人的な撤退 2012-2017”は、今やっておいたほうが良いんじゃないかなと思って。リリースの話がある前から、それをやろうと自分たちで思っていたんです。“昔作った曲を今、ちゃんと演奏したらどうなるんだろう?”という興味はあったんですけど、やる機会がなかったんですよね。何故なのかなと思って考えてみたら、これまで正式にリリースした数だけでも100曲近くあるんですよ。だから今回は日程ごとに作品を分けて“このアルバムの曲しかやらない”と縛っちゃうことで、逆に自分たちも自由になれたというか。“歌っても良いなら、歌うよ”みたいな感じでしたね。

●たとえばリリースツアーだと最新作の曲を必ず演奏しないといけないわけで、そういう縛りから解き放たれたと。過去の曲を再演したいという想いは、元からあったんですね?

篠塚:結成した当初に作った音源は、章悟(Ba.琢磨)の楽器歴がまだ3ヶ月くらいの時にレコーディングしたので、アレンジも何もあったものじゃなかったんですよ。“何となく弾けている”みたいな状態でレコーディングして、自分たちでは完成したのかもわからないままだったから。今その時の曲をやり直すことで、“続き”をやっている感じがするというか。“こういうことがしたかったんだな”と思ったし、初日のリハーサルをやった時も“今できあがったな”と感じたんです。

●実際にやってみて、気付いたこともあった?

篠塚:“あの時こんなふうに考えていたけど、本当はこうだったのかな”みたいなこともあれば、“あの時はこうだったけど、今の俺ならこう思うな”ということもあって。でもそういうこと以上に、“あまり変わっていなかった”という感覚のほうが大きいですね。“今考えていることとあまり変わらないな”と確認できたことが大きかったです。

●芯にあるものは変わらないということを自分で確認できたというか。

篠塚:僕らは実験的なタイプだと思うんですよね。アルバムを出すごとにまだやっていなかったことに挑戦し続けて、常に変わろうとしているバンドだと思うんです。それをやり続けてきたはずなのに芯のところは変わっていなかったというのは安心もしたし、不安にもなりました。“もうちょっと頑張ろうかな”と思ったりもして。

●作品ごとに新しい挑戦をしているという意味でいうと、今回の両A面シングルのタイトル曲であるM-1「消える世界のイヴ」とM-2「アダムの林檎」が連曲になっているのもその1つでしょうか?

篠塚:連曲は、高校生くらいの時から作りたかったんですよ。だから今回のシングルでは、わりと挑戦できたなと思っています。“挑戦”というよりは、“削ぎ落とした”みたいな感じかもしれない。

●それは音について? それとも言葉?

篠塚:音というよりは、言葉のほうですね。細かく説明すれば描写できるし、想像しなくてもそこに情報が書いてあればイメージできるんですよ。たとえば机があって、窓があって、そこから光が差し込んでいて、夕暮れで…と説明すれば、どんどんイメージが湧くじゃないですか。そういう説明が多過ぎるなと思うことがあって。自分はライブハウスの現場にいる人間なので、“いくらカッコ良くても、伝わらなければ意味がない”と思っているんです。だからずっと削ぎ落としてきたつもりなんですけど、同時に説明も過多になっていくんですよね。

●というのは?

篠塚:“これだけ言っても伝わらないんだったら、もっと説明しなきゃいけない”となるというか。そうすると、単純に言葉数を増やすような方向に行きそうになったりもするんですよ。実際、今の音楽は言葉数が多くて情報がたくさんあるから伝わりやすいものが多くて。もちろんそういう中から生まれてくるものもあると思うんですけど、逆に僕は説明をなくしてみたかったんです。

●それによって、聴く側の想像の余地は増えるわけですよね。

篠塚:聴き手の想像力や自分たちが音で補完する部分も含めて、気持ちは一緒だけど情報量は減らしていくほうがもっと音楽の本質に近づくような気がしたんですよね。それをやってみようかなと思って作っていった、その“過程”が今回のシングルなんです。

●今作は、まだ1つの過程だと。

篠塚:商業ベースで言えば、聴きたくない人にも聴かせるようなことを考えるべきだと思うんですよね。真剣に聴く気がない人がサラッと聴いた時にも強制的にイメージさせたり、簡単な言葉をリフレインすることで強制的に覚えさせるような方法論ってあるじゃないですか。でも僕は、リスナーが一生懸命に向き合ってくれることを前提に作ってみたかったんです。説明過多になる理由って、聴き手に対して“どうせわからないでしょ?”っていう想いが前提にあるからで。

●要は、聴き手のことを信頼していない。

篠塚:そうなんですよ。自分はバンドをやっていますけど、ずっとリスナーでもあって。ずっと好きで音楽を聴いている延長線上に“自分でやる”ということもあって、そこはセットになっているんです。聴いている側として考えた時に、“こんなに説明しないとわからないと思っている俺って失礼じゃない?”と思ったんですよね。伝わることも大事だけど、それ以上にもっと根っこの部分を大事にしたいから。

●根っこの部分とは?

篠塚:僕たちのバンドを聴くような人って、基本的には僕と同じような人だと思うんですよ。自分に近いところがあるから聴いてくれていると思うので、“そういう人たちに敬意を払えなくて何が音楽なのかな?”という気がしてきたんですよね。だから、怖いけど挑戦してみようかなと思って。(聴き手に対して)一番、失礼にならないものを作りたかったんです。

●ある程度、聴き手に委ねるような音楽というか。

篠塚:その結果、もしかしたら音楽的には全然面白くないものになっているかもしれないし、逆にものすごく面白くなっているかもしれなくて。そこを決めるのは僕じゃないので、わからないですけどね。ただ少なくとも2017年に出たCDの中で一番、誠実なCDだと思います。聴き手に一番、敬意を払っている音楽にしたかったんです。

●そこを最重要視していた。

篠塚:あの時イジメられていた僕みたいなヤツが僕の曲を聴いて、今の自分みたいになってくれたら嬉しいなという気持ちがあるんです。それくらいで十分だから、これ以上説明過多にしなくても良いかなと思って。だから「消える世界のイヴ」はできるだけ説明はなくして、音楽的になるようにしました。この曲は僕の中でも限界まで削ぎ落とした曲ですね。言いたいことは、歌詞に書いてあるとおりです。

●その歌詞に書いてあることを、さらに増幅してくれるのが音楽なんだと思います。

篠塚:それはすごくわかります。僕が音楽をやる理由は、中学や高校の時の僕が変われるような曲を作りたいからで。僕のしたいことって、“あの時の自分がこの曲を聴いていたら変われただろうな”と思える曲を作って、残しておくということなんですよ。それくらいしか自分にはできないし、“僕に似ているヤツがいたら良いな”と思っています。

●自分に似た人に届けたい。

篠塚:自分はずっと助けてもらえる環境にいなかったヤツが辿り着くところに行きたいんですよね。本当に今も周りの方に助けてもらってばかりなんですけど、バンド活動というのは自分で最後まで登ってみたい“山”なんです。ただ聴かせるだけじゃなくて、ちゃんと届けて伝えるということを僕はずっとやってきたつもりなんですよ。そうやって続けてきたことを信じたい。“どうやったら伝わるんだ?”とか“人間と人間ってどうやったらわかり合えるんだろう?”とか考え続けていたことを無駄にしたくないから。

●だからこそ、バンドもずっと続けてきているわけですよね。

篠塚:最初は好きでやりたいからバンドを始めたんですけど、やっていくと“好きだから”だけではなくなるんですよね。楽しいだけじゃないし、続けていると悔しいこともあるんですけど、“悔しいからやっている”っていうところもあると思うんです。やっぱり“意地”だと思いますね。“音楽はこんなもんじゃねぇだろ?”っていう意地ですよ。

●その意地があるから、こうやって作品を出し続けられているのかなと。

篠塚:このシングルが“集大成”だとか“最高傑作”だとか適当な言葉を並べたらそれっぽくなるのかもしれないですけど、常に意地なんです。どれだけCDを出しても、どれだけ曲を作ってもやっぱり、そこですね。“どうやったら伝わるんだろう?”とか“どうやったらもっとすごい音楽ができるんだろう?”とか、そういう問いかけを繰り返してきていて。“もう無理だ”と思ったら辞めると思うんですけど、“こんなもんじゃねぇだろ?”とずっと思っているし、“これが人生最高”なんてまだ到底思えない。僕にとって音楽は“最後の砦”みたいなものだと思いますね。

●音楽が支えになって、進んで行けている?

篠塚:いや、むしろ“崖”ですね。僕の人生において、音楽以外はまともにやったことがないですから。“音楽をやるために生まれてきた”とまでは言わないですけど、簡単に引き返せるところにはもういないわけで。だから、今は“まだ途中だな”と思うんですよね。よく“燃え尽きてすぐ辞めそうなバンド”って言われてきたんですけど、たぶん逆なんですよ。器用で賢い人のほうがすぐに完成して辞められると思います。

●そういう人は最初からゴールが見えていたりもしますからね。

篠塚:ゴールがわからないまま、ただ“音楽はこんなもんじゃねぇ!”と自分に対して思っていて。僕の人生で“一番良い”と思って今回のシングルを出しましたけど、同時に“こんなもんじゃない”とも思っているんです。

●満足はしていないけれど、現時点で一番良いものを作れた感覚はある。

篠塚:今作と同時にアルバムも作っているんですけど、次のアルバムが一番好きですね。自分の書いた曲って手紙とか日記みたいなものなので、今までは好きだと思ったことがなかったんですよ。

●でも次のアルバムはそう思えているんですね。

篠塚:狙ったわけじゃないんですけど、“音楽”になったなと思って。すごく遅いとは思うんですけど、とても“音楽”っぽいんですよね。

●自分の目指す“音楽”に近づけている?

篠塚:2011年に同時多発テロが起こった時、アメリカ国内で戦争への支持率がすごく高まったことがあって。その時にオノ・ヨーコが新聞の朝刊1面を買い取って、“Imagine all the people living life in peace”というジョン・レノンの「Imagine」の1節を載せたんです。そしたら、その翌日に戦争支持率が一気に下がったらしくて。みんなが“ダメだ! イメージしようよ”と思ったんでしょうね。僕がずっとやりたかった音楽って、そういうことなのかなと思うんですよ。たった1行で、サビの数十秒だけで人生が変わってしまうような音楽が作りたくて。そういうところに行きたいなと思っています。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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