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リーガルリリー

心の温度感に近い熱を帯びた音と言葉が 幸福なる時代の記憶を鮮やかに蘇らせる

今最も大きな期待を浴びているガールズバンドと言っても過言ではない、平均年齢19歳の3人組・リーガルリリー。昨年10月にリリースした初の全国流通盤ミニアルバム『the Post』に収録されている「リッケンバッカー」のMVが公開から数ヶ月で100万回再生を超えるなど、その劇的な注目度の上昇具合は驚くべきものだろう。そんな状況の中で制作された新作ミニアルバム『the Radio』は、彼女たちの未知なるポテンシャルを存分に知らしめるものだ。幸福な幼少期の記憶を鮮やかに蘇らせるような、心の温度感に近い熱を帯びた音と言葉は今後もさらに多くの人々の胸を震わせていくに違いない。

 

「まだ何も知らない時期だから作れるような、変で新しい音楽を作りたい」

●前作の1stミニアルバム『the Post』が初の全国流通盤だったわけですが、そこに収録していた「リッケンバッカー」のMVが公開してから数ヶ月で100万回再生を超えたりと、自分たちでも反響の大きさに驚いたんじゃないですか?

ほのか:ビックリしました。良い曲だとは感じていたんですけど、自分の中では“届く人にだけ届くような曲だろうな”と思っていたんです。でも自分たちが思っていた以上に、色んな層の人に届いていて。ライブに小学生の子が観に来てくれたりもして、老若男女の心を掴んでいたことにも驚きましたね。

ゆきやま:「良い曲を作れば、曲が勝手に歩いていく」という話を聞いたことがあって、その時は“へぇ〜”とだけ思っていたんです。でも(「リッケンバッカー」の反響を受けて)“あれって、こういうことだったんだ!”と思いましたね。本当に曲が勝手に歩いていって、全国に広まっているわけじゃないですか。色んな地域に住んでいる人がツイートしてくれたりして、“曲ってすごいな”と思いました。

●でも元々作った時点から自分たちの中では、良い曲だと感じていたんですよね?

はるか:最初に弾き語りの状態で送られてきたのを聴いて、“めっちゃ良い!”と思って。良い曲だし、自分の好みの曲でもあったから、“カッコ良いベースを弾きたい!”と思いながら電車で聴いていたんです。その後で自転車に乗っている頃にはもうサビのフレーズが歌えるようになっていて、“この曲ヤバい! めっちゃキャッチーだ”と思いましたね。1回しか聴いてないのに、歌えるのがすごいなと。

ほのか:作った瞬間から、“この曲は自信があるな”と思っていました。普段は自分が作った曲にあまり自信が持てないんですけど、この曲は自分が作ったように感じなかったから。“神様に作らされた”みたいな感覚があったんです。

●何かが降りてきたような感覚?

ほのか:そうです。昔のクラシックとかも、そうだったじゃないですか。神様が芸術家の脳みそに入り込んで、その人に指示しながら曲を作っていく感じというか。「リッケンバッカー」も、そういう感じがしたんです。自分が作ったものとは思えなかったですね。

●そういう特別な感覚があった。

ゆきやま:あと「リッケンバッカー」は、心の温度感に近かったんです。聴いている時に自分の心の温度感と、曲の温度感がすごくマッチしている感覚があって。本当に“良いな”と思った時にしかそういう感覚はないんですけど、今振り返ると“そういえば初めて聴いた時も、温かいものとか強いものを感じてたわ!”って思います。

ほのか:良い曲って、“温度”を感じるというか。冷たくても良いし、温かくても良いんですけど。よく「昔を思い出す」とか「懐かしい」とか言われるのは、そこがノスタルジックなイメージにつながっているからなのかなって。

●曲の持っている温度感が、ノスタルジックなイメージを呼び起こす感じ?

ほのか:自分なりに“どうしてなんだろう?”と考えてみたら、そういうことなのかなと。“音が熱を帯びる”って、すごいですよね。

はるか:そのくらいの年齢の人が感じている、心の温度感なのかもしれないですね。

●“そのくらいの年齢”というのは?

ほのか:私が“懐かしい”と感じるのは、幼稚園の頃なんです。まだ脳みそがあまり発達していない時期というか。その頃の記憶が、自分の中で一番好きなんですよ。みんな優しかったし、周りの大人に守られていたその時期が一番幸せだったんじゃないかなと思って。

●確かにそのくらいの時期が、親の愛情を一心に浴びる時期なのかもしれないですね。

ほのか:そこらへんを歩いていても、周りから「かわいい!」って言われて。

ゆきやま:言われたね。あれ、好きだったわ〜。

ほのか:歩いているだけで、もう芸能人みたいな気分で。その時代が一番安全だったし、安心していたから。現実味がないのに自分のことというのは覚えていて、まるで幻みたいというか。そういうものが曲に出ているのかな。

●そこが多くの人たちに受け入れられている要因かもしれない。とはいえ「リッケンバッカー」に大きな反響があったことで、次にどういうものを出すかがすごく重要にもなったわけですが。

ほのか:そこは結構悩みました。前作を出した後にみんなから色々なことを言われすぎて、自分が何を作ったら良いのかわからなくなって…。「リッケンバッカー」みたいなテンポの速い曲を求められているのかなと思って、そういう曲を作ろうとしてみたりもしたんです。でも自分が普段よく作るのはゆっくりな曲が多くて、速い曲は本当に神様からの命令がないと出てこないんですよね。最近は、そういうのも関係なく作れるようになったんですけど。

●何か変化があった?

ほのか:聴く音楽が変わってきたんです。特にWeezerを聴くようになってから、自分の音楽に対する考え方が変わりました。

●それはどういうふうに?

ほのか:衝動だけじゃない感じですね。私はNirvanaが好きでああいう衝動的な歌詞とか音に惹かれていたので、これまではそういうものにしか良さを感じられなかったんですよ。だからシューゲイザーとかグランジを中心に聴いていたんですけど、Weezerを聴くようになってからそこが変わって。ちゃんと考えながら聴かないとグッとこないような、まるで本を読むような音楽を好きになれたんです。“自分もこういう音楽を作りたいな”と思って、そこから音楽に対する考え方が変わりました。

●Twitterで“確かに歌詞とメロディーは誰でも作れる。それをかっこいい素晴らしい名曲にするのが編曲だ”とつぶやいていましたが、アレンジの大事さに気づいたというのも大きい?

ほのか:今までは“ライブで盛り上がれる曲が良い音楽なんじゃないか”とずっと思っていたんです。でも最近は1人で聴いている人に対しても、その人のいる場所でどれだけしっくりくるかが大事だなと思い始めてきて。編曲について考えるようになると、色んな発見もできたりするんですよね。あと、今までは周りを気にしすぎていたのかもしれない。最近は自分を信じることにしました。自信を持つというか。

●吹っ切れたんでしょうね。そこから作った曲も今作に入っている?

ほのか:M-1「トランジスタラジオ」がそうですね。

●MVにもなっていますが、この曲も何かが降りてきたような感覚はあったんでしょうか?

ほのか:「トランジスタラジオ」はちょっと降りてきました。あと、M-2「はしるこども」はギターのフレーズが降りてきたので、それを邪魔しないような歌をつけようと思いましたね。

●今回の作曲でも何かが降りてきた瞬間があったと。

ほのか:私が作っているんじゃなくて、本当に何かに作らされている感じがします。

ゆきやま:私も“ほのかの動力源はどこから来ているんだろう?”って思う時はある。

●メンバーもそこは不思議に感じるんですね。

ほのか:色んな人に「君はもっと本を読みなさい」と言われるんですけど、本を読んでも良い歌詞が書けるわけではないんですよ。大学に入ってからめっちゃ本を読むようになったんですけど、それまでは全然読んだことがなくて。音楽以外の芸術が乏しかったんです。音楽も正直そんなに聴いていなかったし、映画も観てこなかったのに、「リッケンバッカー」みたいな曲が書けた。“何が私のインスピレーションにつながるんだろう?”とは、自分でも思っていますね。

ゆきやま:やっぱり、神かなぁ? あと、私は外国人が話す日本語が刺さるのと、ほのかの歌詞が刺さるのって、感覚が似ているなと思っていて。

●狙っていないからこその魅力があるというか。

ゆきやま:狙えないですからね。

ほのか:語感を大事にしているというのは関係あるかもしれない。曲を作る時って、歌詞とメロディーを同時に作るんですよ。だからメロディーが歌詞を呼び起こしてくれるというか。そのメロディーが歌詞を呼んできてくれるので、私はただペンを握るだけみたいな感覚なんです。初めて曲を作った時から、そういう感覚でしたね。

●歌詞もメロディーに導かれて、降りてくるような感覚があるんですね。そのせいか、色んな解釈ができる余地や抽象性があるように思います。

ほのか:私自身もその時の環境によって、歌詞の捉え方は違うんです。あと、最初にどう思って書いたかを忘れちゃうんですよね。神が私に下した命令なので…(笑)。

●ハハハ(笑)。でもそういう自分たち独自の感性に基いて作っていることが、リーガルリリーの大きな魅力になっていると思います。

ほのか:私たちは、引き出しが未知すぎるんですよ。だから楽しいんです。そこにもし音楽作りに長けている人が入っちゃうと、枠に囚われた引き出しが多くなっちゃうじゃないですか。

ゆきやま:私たちだけでも、色んな引き出しから持ってこられるもんね。

●M-4「高速道路」の最後に1分間くらい残響音だけが鳴っている部分も、すごく良いアイデアだなと思いました。

ほのか:あれは高速道路のイメージですね。本当は「高速道路」を最後に持ってきて、あれを10分くらい流し続けようと思っていたんですけど、バカみたいなことをしなくて良かったです(笑)。

●結果として、ちゃんと意味のあるものになっていますよね。「高速道路」は東京の3店舗限定で販売して即完売したミニアルバムにも収録されていた曲ですが、今回再録した経緯とは?

ゆきやま:確かワンマン(※2017/3/31@下北沢SHELTER)でやったのが、キッカケだよね?

ほのか:周りから言われて、自分でも“良い曲だったんだ”と気づいたんですよ。その時の評判がすごく良かったので、“バンドでアレンジしてみようかな”と思って。そしたらめっちゃ良いギターが生まれたので、“これは入れよう”と思いました。

●M-6「こんにちは。」も会場限定盤CD『リカントロープ』に入っている曲ですが、こちらはどういう理由で?

ほのか:その時とは違うエンジニアの方と一緒にやったら面白いのかなという気持ちがあったのと、“高校時代に作った曲を全国流通するなら今のうちかな”と思ったからですね。あと、アルバムの色にも合っているのかなと思いました。

●アルバム全体でどういう色にするかというイメージも見えていた?

ほのか:色というか、まとまりですね。この曲を入れることで、バランスが良くなるかなと思って。

ゆきやま:今回は前作よりもアルバムとしてのまとまり感というか、イメージの統一感があって。すごく良い曲順じゃないですか? 最初は「こんにちは。」とM-5「教室のしかく」は逆だったんですけど、録り終わって聴いてみたら“これは逆だろう”となって入れ替えたんです。

はるか:「こんにちは。」が終わってから「教室のしかく」が始まるのが“めっちゃ良いね!”ってなりました。

●確かにすごく良い流れになっていますね。

ほのか:『the Post』は、制作期間が2年くらいにまたがっていたんですよ。でも今作は数ヶ月くらいの期間で作ったので、まとまりができたのかな。前半の3曲と後半の3曲はそれぞれ同じくらいの時期に書いたので、良い感じになったんだと思います。最近はまた新曲を作っていて。やっぱり新曲がないと自分たちが楽しくないから。

●たとえば“売れるものを”みたいに狙って作るのではなく、自分たちが楽しいと思えるものを作っているのが良いのかなと。

ほのか:“売れるだろう”と誰かが思っちゃった時点で、その曲は売れないと思うんですよ。逆に“これ何? 気持ち悪い…!”と思われるような、“絶対売れないでしょ”っていう曲が売れたりもするから。私たちはこれからも型にはまらずに行きたいですね。

●型にはまりたくない。

ほのか:もしメジャーに行ってプロデューサーを付けられたりすると、その人の中にある教科書に沿った曲になっちゃうのがつまらないだろうなと思っていて。やっぱり大人の人と私たちとでは脳みその発達とかが全然違うから、今はできるだけ同い年くらいの感性で音源を作りたいなと思っているんです。まだ何も知らない時期だから作れるような、変で新しい音楽を作りたいなと思っています。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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