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STUDIO CHAPTER H[aus]

STUDIO CHAPTER H[aus] エンジニア樫村治延氏インタビュー

来年20周年を迎える茨城県日立市のレコーディングスタジオ・STUDIO CHAPTER H[aus]。同スタジオは、機材はもちろんのこと、壁の素材や建物の設計、電源周りまでにこだわり抜いた、エンジニア樫村氏のノウハウが詰まったスタジオであり、その“音”を求めて県外はもちろんのこと海外からも多くのミュージシャンやクリエイターが集っている。樫村氏のこだわりとはどのようなものなのか? STUDIO CHAPTER H[aus]はどのようなポリシーで運営されているのか? JUNGLE☆LIFE web連載『CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延のセルフRECはプロRECを越えられるか?』で毎月執筆する彼に、その真髄を訊いた。

 

「誰でも使えるレコスタっていうのは平均的なものなんです。だからフランチャイズみたいな感じがして好きじゃないんですよね。
例えるならビストロの厨房に、勝手に別の店のシェフが入ってきて料理をするようなもの」

●樫村さんは、どれくらいのペースでレコーディングに入っているんですか?

樫村:レコーディングは年間平均300曲くらい入っていますね。デモとか配信だけとか、バンドが解散して活動が止まってしまうこともあるじゃないですか。それを入れたら500曲近くになります。

●それはすごいですね。

樫村:10年くらい前に比べるとだいぶ楽ですよ。その時は月間400時間くらいレコーディングやっていたから。2007年は最高で135日ぶっ続けでレコーディングやっていました。それからリーマンショックがきて、震災があったじゃないですか。それでほどほどに減っていった感じです。

●web連載(CHAPTER H[aus]エンジニア樫村治延のセルフRECはプロRECを越えられるか?)では、レアな機材を紹介されているじゃないですか。ああいう機材は、使ってみないとわからないところもあると思うんですが。

樫村:基本的には所有機材しか出していないんです。僕はいちばん売れているものは好きじゃないんですよ。メジャーどころとか定番的なものとか。なぜかヴィンテージで価値だけ上がっているものっていうものは嫌いじゃないんだけど、ひねくれ者なので、人が知らないところばかりを探っていくというところで機材に入っていったんです。そうすると、メーカーの宣伝が上手くなくて、機材としてはいいんだけど、値段設定も微妙で、高くもなく安くもなくみたいなものがあって。アマチュアなのかプロが使うのかどっちつかずみたいな。そういうセカンドランクの機材はいいものが多いんです。そして、それらをモディファイして使うことが多いです。ファーストランクの機材もかなり改造しています。

●性能はいいけれど、知名度はそんなにない。

樫村:プロから見ると“安くて大丈夫かな?”という感じで、アマチュアから見ると“良さそうだけど高いな”となるので、セカンドランクってあまり売れないんですよ。でもスタジオとしてはそこがいちばん買いやすいというものもあるし、あとはレビューとかが載っているYouTubeを観て。“このマイクでこれだったら、ウチで使っているこれと一緒だな”という読みで買うと、99%くらい外れないです。

●今までの蓄積があるからこそ、機材のことがわかるんですね。

樫村:あとはコレクター的な要素が強いです。レコードと一緒で。仕事が終わって、ネットでチェックしています。あまり見ちゃうと欲しいものが次々出てきて、制御ができなくなっちゃうから、とりあえず3日に1回くらいにしています(笑)。

●CHAPTER H[aus]は機材だけではなく、建物の設計や電圧などにも全てこだわって作ったということですが。

樫村:あとは音空間ですよね。壁の素材とか間取りとか。だから機材は二番手なんです。いちばんはそこの空間があって、ちゃんとしたフラットな音が出て、電源の配線があって。誰でもフラットに判断できるモニタースピーカーがあるというのが前提ですね。だから機材よりもまずハードウェアなんですよ。

●まずはハードウェアが大切。

樫村:そこがいちばん重要だと思っているので。音の反響とか。反響自体は遮音板とかである程度はコントロールできるんですけど、電源とかを1回作っちゃうと、作り直すのはすごく大変じゃないですか。それに、ブレーカーにしても何にしても寿命はあるので、使っているとだんだん音が変わってくるとか、そういう部分に注意したり。

●19年間やってきて、理想の環境にたどり着くまでどれくらいかかりました?

樫村:まだたどり着いていないですよ。

●現在も追求中ですか。

樫村:ミュージシャンもそうですけど、なかなか「これで100%です」とは言えないです。今後は、もうちょっと今より1回りくらい大きいハコがあれば最高だなという感じですね。今も狭くはないんですけど、スカバンドとかが入ってくると手狭になったりするので。“もうちょっと広かったら良いかな”という感じですね。

●樫村さんは、仕事以外で音楽を聴くこともあるんですか?

樫村:聴きまくっていますよ。ヨーロッパの最先端の音楽とか大好きなので、常にチェックしています。

●そういうところと比べて日本の音楽シーンはどうですか?

樫村:アンダーグラウンドの人たちは面白いことをやっているんだけど、メジャーのほうがお金かけられる分、メロディとか曲の作り方が違うのか、音色とリズムは似ているけど、“何かちょっと違うな”という感じですね。

●それはメジャーやインディーズを問わず?

樫村:そういう分け方も考えないようにしていますね。直感的に“かっこいいか、かっこよくないか”で聴いています。

●感覚的に。

樫村:まずはそこじゃないですか。

●楽しむものですもんね。

樫村:そこがなくなっちゃったらおしまいですよ。

●さっきおっしゃっていましたが、メロディのつけ方が違うんですか?

樫村:色々ですけどね。コードのつけ方とか曲の展開とか。ヨーロッパの音楽は4つ打ちになっていても、転調の使い方が上手いんですよ。だから曲が短くても、ボリュームがあるように感じるんです。曲の巧みな編集力とかセンスを感じますね。僕は特にフランスの音楽に影響を受けているので、確信犯的な曲作りというか。フランスのミュージシャンはそういうものが自然と出てくるのかなと思うんですけど。

●転調の使い方が上手い?

樫村:ポップスに転調を巧みに使うと、確信犯的な曲が作りやすいんじゃないかと思っているんです。そこを聴き手にわざと“らしさ”を感じさせず、さりげなく如何に玄人的にやるかというのがキーポイントですね。それが曲が短くても名曲になる秘訣の1つだと思っていて。

●なるほど。今まで蓄積してこられた経験値とかノウハウとか、機材の知識もそうですけど、樫村さんの頭の中に財産があると思うんですけど、それを残していこうという考えはあるんですか?

樫村:もちろん何かの形で残ればいいなと思っていますけど。機材とか色んなものがだんだんハードウェアがソフトウェアにシフトしていっているじゃないですか。でも僕の考えで言うと、ハードウェアとソフトウェアをバランスよく使わないと、いいものはできないと思っているタイプなんですよね。

●ソフト的なものとCHAPTER H[aus]のハードシステムの2つが合わさらないと、いいものができない。

樫村:だから僕はごく一部のエンジニア以外は、乗り込みを一切断っているんです。

●バンドが連れてきたエンジニアと一緒に仕事をするのはNGと。

樫村:アイドルやらない。乗り込みもやらない…。

●よくやっていけていますね(笑)。

樫村:有り得ないですよね(笑)。知り合いで気心が知れているエンジニアは多くて5人くらいなんですけど、それ以外はNG。ウチのシステムがマニアックなんですよ。僕の考えとしては、誰でも使えるレコスタっていうのは平均的なものなんです。だからフランチャイズみたいな感じがして好きじゃないんですよね。例えるならビストロの厨房に、勝手に別の店のシェフが入ってきて料理をするようなものじゃないですか。“それってどうなのかな?”と昔から思っていたんです。やっぱりそこの店のシェフの味があってお客さんがくるという感じだと思うんですよね。

●CHAPTER H[aus]は、どういうバンドやミュージシャンにオススメのスタジオだと思いますか?

樫村:特にあるわけではないんですけど、意識が高くて幅広く音楽を聴いているようなバンドさんがいちばん向いているのかもしれないですね。

●いい音を作りたい。

樫村:邦楽しか聴いていない人って、正直中身が薄いと感じるので。洋楽も聴いていて、深みのあるところから楽曲制作を始めてレコーディングというのが、いちばんあるべき姿だと思うんですよね。色んな音楽を聴いている人もいると思うんですけど、日本だとそれが少数派な気がします。

●だんだんそうなってきていますよね。

樫村:先進国の中で日本は偏っていると思うんですよ。だから世界的に売れるバンドがなかなか出てこないんだと思います。もっとグローバルな感じの見方をしたほうがいいんじゃないかと思いますけどね。

●マーケットが日本で完結しちゃっているんですかね。

樫村:それもあるし、レコード会社も2000年くらいまでは“国内で売れればいいや”みたいな感じでやっていて、それが通用しなくなったという感じなんじゃないですかね。洋楽好きな人は最初から感覚がグローバルだから、放っておいても視野は広くなるんですよ。あとは日本に住んでいる外人と仲良くなって、一緒にライブに行くとか。別に洋楽至上主義というわけではないんだけど、世界的に売れていて歴史的に名前が連なっているのは、欧米系にほとんど偏っていますよね。

●そうですね。

樫村:だからそこのいいところをもっと深いところまで聴いて、自分たちなりの音楽を作っていったほうが、今後はよりいいものになるんじゃないかなと思います。

●ネットが普及してグローバルになっていますもんね。

樫村:昔と違って今は便利ですからね。

●今は安く海外にもいけるし。

樫村:全然ケタ違いですよね。

●ところで、CHAPTER H[aus]にアシスタントはいらっしゃるんですか?

樫村:アシスタントはいないです。

●えっ?

樫村:だってアシスタントがいても意味がないじゃないですか。今はワンマンオペレーターが普通だし、昔みたいにアナログのマルチテープを回すとか、ブースがでかくて行ったり来たりするとかもないので。本当に大きいスタジオだったらアシスタントがいないと話にならないですけど、ウチのキャパだったら必要ないですね。

●弟子を育てるとか。

樫村:ウチが特殊なんですよね。結局“自分のようなタイプじゃない人間が果たして県外から来るのか?”と思っちゃうので。

●CHAPTER H[aus]=樫村さんという感じがすごくあります。

樫村:そうなっちゃっていますね。とりあえず1人で間に合っているので。

●どなたかスタッフがいらっしゃるんだと思っていました。

樫村:そこは潔く。潔すぎかもしれないですね(笑)。

●色んなものを絶ちすぎじゃないですか?

樫村:でも「そういう精神がパンクっぽくていいですね」と寄ってくるバンドマンもいますよ。

●無駄なところにお金と労力を使っていないというか。

樫村:その代わりに機材はバンバン買っちゃいます。

●機材にはお金を惜しまない。

樫村:仕事終わりにネットでなんとなくチェックしていると、欲しくなって買ってしまうという…。

●ストレス解消になっている(笑)。

樫村:そうそう。ストレス解消に機材買ったりCD買ったりしています。

●でも結果それがノウハウに繋がっているわけですもんね。

樫村:自分の中で仕事と趣味の境目が全くないです。

●そういえば最近レコーディングされたNIKIIEさんですが、ご出身が近いんですよね?

樫村:同じ茨城で。今年繋がったんです。

●それでこの間のミニアルバム(『TRANSFER』)をレコーディングされたんですか。

樫村:そうです。もちろん存在は知っていたけど、お互いに繋がりはなかったんです。でも間に入ってくれた人が「洋楽に得意なエンジニア」とか「悪い意味で音楽業界に染まっていないエンジニア」みたいな、そういう紹介をしてくれて(笑)。

●それで白羽の矢が立った(笑)。

樫村:そうです。

●洋楽が持つテイストを求めている人にとって絶好のスタジオだと。

樫村:そうですね。海外レコーディングのキャラクターをほしがっている人には来てほしいなと思います。

●それはジャンル問わずですか?

樫村:アイドルはやらないですけどね(笑)。

●ハハハ(笑)。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:室井健吾


●JUNGLE☆LIFE web連載
CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の
セルフRECはプロRECを越えられるか?
http://www.jungle.ne.jp/serial_author/chapter-haus/

 

 

 

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