音楽メディア・フリーマガジン

JYOCHO

碧い家で紡がれてきた記憶を描き出す音は無限に広がっていく

惜しまれつつ解散した宇宙コンビニのリーダーだった中川大二朗が新たに始動したプロジェクト、JYOCHOが2ndミニアルバム『碧い家で僕ら暮らす』を完成させた。昨年12月にリリースした1stミニアルバム『祈りでは届かない距離』を共に作ったバンドメンバーに加えて、今回はボーカルに猫田ねたこ(heliotrope)を迎えて制作。醸成されたバンド感に温かみのある歌声が重なり、テクニカルでありながらもオーガニックな空気を漂わせる稀有な作品が誕生した。リリース後はカナダツアーも決まり、精力的なライブ活動も行っていくというJYOCHOのさらなる広がりに期待せずにはいられない。

 

「もちろん人それぞれで違っていて良いんですけど、やっぱり人は絶対的な1つのものを追い求めたくなるもので。そういうものがなくても良いとは思いつつも、それを追い求める“欲”は捨てたくないなというのが今回のテーマなんです」

●まず最初にお聞きしたいところとして、JYOCHOは“バンド”という捉え方で良いのでしょうか?

大二朗:初めはソロプロジェクトだったんですけど、次第に“ライブをしっかりやっていきたいな”というビジョンが明確に出てきたんです。だから今は、“バンド”として見せていきたいという想いが強いですね。

●昨年12月にリリースした1stミニアルバム『祈りでは届かない距離』の時点では、ソロプロジェクトという意識だった?

大二朗:そうですね。1stの時は自分のやりたい音楽を一緒に表現できるプレイヤーを選ぶという方法を取っていたんです。だから楽曲は自分で全部書いて、僕の好みの音を出してくれるプレイヤーと一緒に作品を作ったという感じで。1stを作った時点では、まだソロの色が強かったと思います。

●作品ごとにその時の自分が欲しい音を出せる人を集めるというか。

大二朗:そのニュアンスがかなり強いですね。今もそれは残っています。でも今回は1stの時と同じ音で満足していたし、出したい音は合致していたので、結果的に同じメンバーでやることになりました。ただボーカルだけは、やっぱり前作とは違う作品なのでイメージをちょっと変えても良いかなと思って、別の方とやることにしたんです。

●頭の中では楽器の音だけでなく、声のイメージまで湧いている?

大二朗:それは完全に湧いています。イメージは実際に作る前から、ほとんどできていますね。

●今回参加した猫田ねたこさんに関しては、前から知っていたんですか?

大二朗:猫田さんのソロライブを、2年前くらいに京都で観たことがあって。その時の印象がすごく素敵だったので、頭の中にはずっと残っていたんですよ。それで今回2ndを作ることになった時に自分からお願いして、一緒にやることになったという感じですね。

●1stに参加していたrionosさんと、猫田さんの声の違いとは?

大二朗:rionosさんの声に関しては、明るくも暗くもないというか。だから聴き手次第で印象が変わるし、バランス型ですごく安定している感じがします。猫田さんの声はもっと直接的に刺さってくるというか、より生々しくて温かみがありますね。2人とも共通して素晴らしいなと思うところは、どちらも声のイメージが少年っぽいというか中性的なんですよね。2人とも、声が耳にスッと入ってくるところが素晴らしいなと思っています。

●どちらの声も少年っぽさが共通している。

大二朗:そこが僕の音楽で一番、重要視しているところかもしれない。そういう声を男性で出せる人には、今のところ出会ったことがないんですよ。聴き手の想像力を働かせるような、中性的な女性ボーカルがすごく良いなと思っています。

●逆にクセが強すぎる歌声だと、それにイメージが引っ張られてしまいますよね。

大二朗:そこはボーカルを選ぶ基準として、強く意識しています。やっぱり全体として曲を聴かせたいし、演奏でも素晴らしい音を出している自信はあるから。もちろん声も素晴らしいんですけど、そこのバランスは大事にしていますね。

●今作の歌を聴いた印象として、前作よりもオーガニックな雰囲気があるなと思いました。

大二朗:オーガニックで、温かみのあるところが猫田さんの良いところだと思っていて。上手い下手といった次元ではなく、スッと心に刺さってくるという直接的な良さがあるんですよね。

●今回の『碧い家で僕ら暮らす』はアートワークも含めて、全体的にオーガニックでナチュラルな印象を受けたのですが。

大二朗:まさにそういう感じです。前作までは2次元とか3次元のイメージで作ってきたところがあるんですけど、今回は“現実感を出す”ということをアートワークやトレーラーを担当してくれたisamyuさんにもお願いして。生っぽい感じというか。だからアー写も自然体だったりして、そういう現実感は意識しましたね。

●歌詞に関しても今回は、これまで大二朗くんが書いてきたものに比べると現実感が強い気がします。

大二朗:そこの変化はありますね。自分の中でも意識が変わってきたというか。単純に“現実感のある音楽をやりたい”という理由もあるし、内面の変化もあるのかなと思います。結果的には抽象的なものになっているんですけど、受け手が感情を転がしやすい内容にはなっているんじゃないかなと。

●聴き手が感情を重ねられたり、想像を広げやすい言葉になっている。

大二朗:昔は歌詞を書くにあたって、そこまで考えていなくて。とりあえず自分の中だけで完結させていたんです。でも今回は抽象的なところからもう少し広げて、もっと高い次元で聴き手のことも考えたりしているので、伝わりやすくはなったかなと思います。

●昔は自分の中だけで完結していたところから、他者にも向けた表現に変化していったのかなと。

大二朗:そうですね。他者にも向けているし、自分にも向かっていて。双方向に深まった作品にはなっていると思います。

●ライブをしたいという心境に変わってきたのも、他者に届けたいという気持ちが強くなったからでは?

大二朗:そこは意識していないですけど、自分の好きな音を出してくれる人たちと一緒にライブができたら、絶対にお客さんも喜んでくれるはずだという確信はあって。前作を出してから“ライブをして欲しい”という声をたくさん頂いていたので、その影響も大きいかなと思います。

●前作をリリースしたことによって、そういう反響も生まれたわけですよね。

大二朗:1stの時はまだ“JYOCHO”というものの実感もなくて。“過去と今をつなげられるような作品を作れたら良いかな”と思って、とりあえず出してみたのが前作だったんです。それをヒントに今後のJYOCHOを始めていこうという気持ちがあったんですよね。だから今作は2ndミニアルバムになるんですけど、自分の中ではこれが“1st”というイメージで作りました。今作が“始まり”という意識は強いですね。

●ここから“JYOCHO”が本格的なスタートを切るというか。“過去と今をつなげられるような作品”という話もありましたが、今作のタイトルにも入っている“碧い家”というのは地球のことかなと思っていて。遙か太古の昔から地球上で生命が何代にもわたって営みを繰り返していて、それが過去から今や未来へと続いているというイメージは今作全体に通じるものな気がしました。

大二朗:“碧い家”というのは、地球のことですね。昔からずっと続いているものだけれど、一瞬でなくなるかもしれないという危うさもこの世界にはあって。その中で“自分が大切にしなくちゃならないものは何なのかな?”といったことを色々と考えたりしたんです。その答えは今も出ていないから、歌詞には自分の考えや答えを極力書かないようにしていて。“疑問”をひたすら書いているというか。リスナーがそれを聴くことでもしかしたら自分の中で答えが出てくるのかもしれないし、そういうものが良いなというスタンスで歌詞は書いています。

●M-2「碧い家」には「“こたえ”に似たものしか出会えなかった」というフレーズが出てきますが、これは答えが出ていないという現状につながっている?

大二朗:今抜き出して頂いた一文が、今回のテーマに近くて。“答え”って本当にあるかどうかもわからないものだけれど、平凡な生活をしていく中でも何となく“こういうものを信じたいな”というものはあるじゃないですか。たとえば“こういう時は、今までの経験上では裏切られなかったから信じられる”とか。そういうものをしっかり自分の中で見つめて、みんなとも共有できたら面白いなと思うんですよ。もちろん人それぞれで違っていて良いんですけど、やっぱり人は絶対的な1つのものを追い求めたくなるもので。そういうものがなくても良いとは思いつつも、それを追い求める“欲”は捨てたくないなというのが今回のテーマなんです。

●答え自体は追い求めているけど、それがあってもなくても良いと。そういうことは、以前から考えていたんですか?

大二朗:そこはずっと考えていますね。でもそんなに深刻には意識していないです。基本的には“楽しく生きたい”と思っているし、“何でも良いや”というスタンスで生きているから。でも自分が楽しくて、みんなも面白く生きられるような方法を1つ持っていたらもっと楽しくなるなと考えていて。そういう想いは昔からあります。

●根本にあるものは変わらないまま、考えが深まってきているのかなと。

大二朗:歌詞で書いていることも今話したような内容に近くなってきていて、だんだん深くなってきていると思います。

●音楽的な面でも、前作に比べて変わってきている意識はある?

大二朗:1stに関しては衝動的に書いた曲が多くて、パワータイプな印象が強いと思うんですよ。演奏も詰め込んでいるし、歌もしっかり歌っていて。でも今回は良い意味でまとまっていて、聴きやすいというか。演奏面では攻めていながら、そういう印象を持たせないような歌の力がある。耳を澄ませたら色んなものが聴こえてくるんですけど、全体の印象としては優しくて温かい作品になったなと思います。

●よく聴けばテクニカルなこともやっているけれども、一聴した印象としてはすごく聴きやすいというか。だから普段からプログレやマスロックを聴かないような、より広い層のリスナーにも届くものになっているんでしょうね。

大二朗:プログレとかマスロックのテクニカルな演奏もすごく好きなんですけど、少しずつ歳をとるにつれて、“歌”って良いなと思い始めていて。だから今は“歌モノがやりたい”という気持ちが出ているのかもしれないですね。自分たちが今やっている音楽で、今のJ-POPシーンの中に食い込んでいきたいという想いは前々からあったんです。それが今回の作品には顕著に出ていると思うんですよ。今作なら自信を持って、そこに打ち出していけるんじゃないかなと思っています。

●広い世界に向けて届けたいという想いが強い。

大二朗:J-POPだけじゃなくて、もっと広いところでやっていきたいという想いもありますね。“JYOCHO”のコンセプトにもつながることなんですけど、J-POPや日本の音楽というのはすごく情緒的で特徴のあるものだと思っているんですよ。海外の人たちと音楽を通して交流することが増えた中で、日本の音楽がすごく人気だということを知って。色々と話を聴いてみると、彼らはその情緒的なところに惹かれているんじゃないかなと思ったんです。日本的なメロディの良さや音の響きに関しても自分にしか出せないものがあるなと思って“JYOCHO”という名前にしたので、海外にも向けた活動をしていきたいという気持ちはあります。

●実際に今作のリリース後にはカナダツアーも決まっていますが、今後はライブの本数も増えていくんでしょうか?

大二朗:“ライブをやっていきたい”というスタンスはありますけど、まずは今決まっているライブを全力でやって、それが終わってから考えようかなと思っています。自分の中でもその時々のブームがあるので、“作品を作りたいな”と思ったら3rdを出すかもしれなくて。今のところはまだあまり先のことは考えていないですね。

●1stからも変化があったように、その時々で柔軟に形を変えていくのがJYOCHOらしいのかなと思います。

大二朗:初めからそういうイメージを持っていて。メンバーも含めて形をどんどん変えながら活動していくかもしれないし、もしかしたらインストだけのCDを出したりもするかもしれない。特に何か1つにこだわるわけではなくて、自分の好奇心や欲求に従って作品を作ったほうが良いと思っているんですよ。ある意味、それって無駄がなくて合理的なんじゃないかなと。自分のやりたいことに無駄はないと信じているので、結成の時から今までずっとそのスタンスでやってきていますね。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

JYOCHOの作品をAmazonでチェック!!

 

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj