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鈴木実貴子ズ

鋭くも普遍的な言葉と歌は、あるべき場所にあることを願う

2012年の結成以来、アコギボーカルとドラムによる2ピース編成ならではの言葉を重視した楽曲を武器にライブを重ねてきた、鈴木実貴子ズが初の全国流通盤となるミニアルバム『名前が悪い』をリリースした。“ライブハウスがキャバクラに変わった時”というフレーズが鮮烈なインパクトを残すM-3「アホはくりかえす」を筆頭に、これまでライブハウスで研ぎ澄ませてきた鋭い言語感覚と初期衝動が存分に詰め込まれた今作。あるべき場所にあることを希求する純真さから放たれる言葉と歌は、表面的な攻撃性を超えた大いなる普遍性すら感じさせるものだ。名前が悪いとは思うかもしれないが、まずはこの存在に気付いて欲しいと切に願う。

 

「100人の内の1人に響くこともすごく素敵だと思うんですけど、今は“1人よりは5人に伝わる歌のほうが良いな”と思えているところが2人に共通して変わってきたところですね」

●元々は鈴木さんがソロの弾き語りで活動されていたんですよね。YouTube上で昔のライブ動画を拝見したんですが、今作『名前が悪い』とは歌い方が随分違う気がしました。

鈴木:初期は、今よりもっとドロドロした歌い方でしたね。暗くて湿った感じの歌を歌っていました。

ズ:ソロでやっていた頃は、もっとガナっている感じの歌い方で。でも僕は元々その感情を剥き出しにしている感じが好きで、“一緒にやりたいな”と思ったんです。

●ズさんは、元々の歌い方が好きだったと。

ズ:一緒にやり始めてわかったのは、彼女は自己承認欲求がめちゃくちゃ強いということで。でも最初は特定の人だけに向けられていたものが、次第に不特定多数の人に認められたいという方向に変わっていくのを感じたんです。「だったら、ここはこうしようよ」という話をしてきたのが、今の歌い方につながったんだと思いますね。

鈴木:昔のガナる感じの歌い方だと、結局は自分のノドを壊すだけだから。でも“それが良い”と思っていたんですよ。その掠れた声が自分の持っているモヤモヤを表していて、“これだけ辛いんだよ”というものが伝わると思っていたんです。でも今は吐き出すんじゃなくて、“気持ち良く楽しく歌いたい”という気持ちになったのでそこは変わりましたね。

●鈴木さんの中で、心境が変わったんでしょうか?

ズ:本人の気持ち自体はそんなに変わっていないと思いますけど、色んな人たちと(対バンで)ご一緒させてもらう中で、そういう気持ちを音楽的に昇華することの大切さを2人で話し合うようになって。

鈴木:前は自分の中で消化できたら、それで良かったというか。でもその当時のライブってあまり正しい形ではなくて、誰かに聴かせるためにはやっていなかったんです。その後で自分の中で“チケット代をもらっているんだ”という意識が芽生えてきてから、変わり始めましたね。

●お金を払って観に来ているお客さんのことを意識するようになったこともキッカケなんですね。

鈴木:ステージからの光景を見ているうちに、じわじわと“このままではダメだ”という気持ちが湧いてきたんです。同じところをずっと、ぐるぐるまわっているだけだという感じがしたんですよね。上にも下にも行っていないから、自分でその光景を変えたいと思うようになったんだと思います。

●もっと多くの人に聴いてもらいたい気持ちが出てきた?

ズ:ソロでガナっていた時に響いたのは、その時ちょうど僕が落ち込んでいたからだと思うんですよ。そういう歌が100人の内の1人に響くこともすごく素敵だと思うんですけど、今は“1人よりは5人に伝わる歌のほうが良いな”と思えているところが2人に共通して変わってきたところですね。

●より広がる可能性を持った表現に変えようと意識したんですね。

ズ:感情的な歌を聴いて救われる人も1人はいるのかもしれないけど、音楽としてもっと気持ち良く表現できるようになったら、その1人を切り捨てずに5人に増やすことができるかもしれないと考えられるようになったというか。今はそういうふうにしていきたいという気持ちが強くなっていますね。

●歌詞も、日常生活を送っている人が共感できるものになっている気がします。

鈴木:そこは意識していないけど、そう言ってもらえると嬉しいですね。“そうなれたら良いな”と思っているんですけど、なぜかいつも自分のことばかりになっちゃうから。私は人の気持ちがわからないので、色んなところで怒られるんですよ。だから逆にこれからはもうちょっと人の気持ちがわかるようになった鈴木実貴子として、曲を作っていきたいと思っています。

●“人の気持ちがわからない”という自覚があるんですね。

鈴木:ズにもよく「人の気持ちがわからない」って言われます。

ズ:最初は“人の気持ちがわからない人なんだな”と思っていましたね。でも彼女の歌を聴いていると、“人の気持ちがわからない”というのとはまたちょっと違うのかなと思って。単純に自分が思っていることを伝えるのが下手な人なんだと思います。昔は同じ気持ちでももっと刺々しく攻撃的に“自分の身近な人にさえ納得してもらえば良い”という感覚でやっていたものを、今は素直に出せるようになったんじゃないかな。

●あえて刺々しい表現をしなくなった。

ズ:今でも時々すごいことを言われますけど、“そんなに悪い人間じゃないな”ということがやっとわかってきました。

鈴木:良かった(笑)。

●ハハハ(笑)。ちゃんと2人でやっている意味はあると。

ズ:最初に思っていたのとは違う形ですけど、僕としては良い意味で“2人での音楽”になってきたなというのは感じていますね。

●そこは共に時間を重ねて、お互いに理解し合えるようになったところもあるんじゃないですか。M-2「なくしたもん」でも“年を重ねて 増えてしまった 嫌いなこと 許せないこと 殺したい人 しゃべりたくない人”と最初は否定的なことを並べつつ、その後には“年を重ねて 増えてしまった 許したいこと 分かりたいこと 認めたいこと 信じたいこと”とポジティブな方向に昇華している感じがして。

ズ:「なくしたもん」は今作で一番古くて、それこそ“変わり始めたな”という時期に作った曲なんですよね。結成して1年後くらいに作った曲なんですけど、それまではソロの頃の延長に近い感じだったんです。

●鈴木さんが変わり始めた時期にできた曲なんですね。他の曲は最近作ったものなんですか?

ズ:そうですね。他はどれも、ここ1年以内に作った曲です。

●とはいえ、M-3「アホはくりかえす」は言葉にすごく棘があるように思いますが…。

鈴木:その曲は、棘しかないです。ここで毒素を出した上で、他の曲があるという感じだから。

●“アホが繰り返すのは やり飽きたコール&レスポンスさ”とか“金がかかったアイドルごっこさ”といった具体的な言葉が出てきますが、これは単純に批判しているわけではないですよね?

鈴木:ただ目の前で起こっていることを歌にしただけで、それが良いか悪いかは言っていなくて。ただ“ここ(※ライブハウス)はそういう場所になっていますよ。別に私に危害はないからそれでも良いし、関係ないですけど”みたいな気持ちを歌っているだけなんです。“はいはい”みたいな気持ちが私はすごく強いんですけど、そういう感じが特に出ている歌ですね。

●“ライブハウスがキャバクラに変わった時”というのは、どういう意味で歌っているんでしょうか?

鈴木:(ライブハウスは)音楽を求めに来るはずの場所なのに、お客さんはそれを全然求めていなくて、物販が一番盛り上がっているという光景に対して歌っています。そこで払っているお金は音楽のためじゃなくて、その人と喋りたいから払っているお金なんだという感覚が自分の中で“違う”と思ったので、その出来事を書きました。

●後半で“何が悪いとかの話じゃあなくて あるべき場所にあることが どんなに素晴らしいことなのか”と歌っていますが、本来“あるべき場所”や“あるべき姿”ではないことへの苛立ちのような気持ちはある?

鈴木:どうなんだろう…?

ズ:自分の周りにも尊敬できる人がいるんですけど、意外と本当にすごくて尊敬されるべき人ほど認められていない現状があって。その逆も絶対にあるなと思っちゃうんですよね。そういう意味で“一番自然な形にどうにかならないものかな?”というもどかしさが(鈴木の中に)あるんじゃないかなと。だから何かをディスっていたり、逆に愛を込めているとかでもなくて、“何で?”とか“もっとシンプルにこうじゃない?”ということを歌っているんだと思います。

●この曲の“男は腐っても 男で 女はぎりぎりでも 女さ 犬は死ぬまで 犬で 人は死んでからもずっと 人さ”というフレーズがすごく印象的でした。

鈴木:これは自分でも、めっちゃ気に入っていて。犬は死ぬまで犬なんだけど、死んだら魂が浄化されて“犬”じゃなくなるかもしれない。でも人は死んでからも生きている人が死んだ人を“人”として想うから、死んでからも人でいなくちゃいけないという呪縛に囚われているんですよね。

●そこは人にしかわかりえない感覚というか。“女はぎりぎりでも 女さ”というフレーズがジャケット写真とつながったんですが、これはホームレスの女性がブルーシートをかぶっているイメージでしょうか?

鈴木:すごい! 100点です! ありがとうございます!!

●ハハハ(笑)。やっぱりそういうイメージがあったんですね。

鈴木:ちょうどCDを作るタイミングで、そういうイメージが脳内に浮かんでいて。この曲ができた後に、ジャケットを作ったんですよね。あと、音楽をやっていくことには本当に保証がないから、“音楽をやる=ブルーシートに包まれる覚悟でやらないと”っていう気持ちも込めています。

●M-1「かえりかた」やM-4「チャイム」に出てきますが、“気付く/気付けない”という言葉もキーワードなのかなと。

鈴木:“気付く”は、普段からよく言いますね。

ズ:それこそ“売れたい”とか“ライブに来てよ”という気持ちも、どちらかと言うと“気付いて下さい”や“気付いて欲しい”という言葉で表現するほうが多いんです。(鈴木は)ある意味、潔癖なんだと思います。“人として自然な形はこうだ”というピュアな部分があるから、ちょっとしたものに対しても敏感なのかなと思っていて。“気付いて欲しい”というのも、“当たり前のことに気付いて欲しい”という気持ちがすごく強いから色んなことに対して言うんですよね。

●日常でも“あるべき場所”や“あるべき姿”にないものが気になってしまう。

ズ:“疑問は感じるけど、みんながそうならしょうがないじゃん”みたいな妙な諦めもあって。でもその“諦めている状態に気付いて!”という気持ちはあるのかなと思います。

鈴木:全部、その感覚に気付いて欲しいというだけですね。“こうなって欲しい”とか“こうしていこうぜ”じゃなくて、“自分の心の細かい部分に気付いていこうよ”という気持ちが強いんです。

●“こうしようよ!”と呼びかけているわけではなくて、自分の歌を聴いてくれた人に自発的に気付いて欲しいというか。

鈴木:だから、ハッピーな曲がないんでしょうね。“いこうぜ!”という気持ちがないから、ハッピーな曲にはならないんです。

●確かに、どの曲もコール&レスポンスは起きそうにないですよね(笑)。

鈴木:起きないです。もし実際にされたら演奏を止めて、「聴いて下さい!」って言うかもしれない(笑)。

●ハハハ(笑)。今回初めて全国流通するというのも、その“聴いて欲しい“という気持ちの現れですよね。

鈴木:今回、全国流通にしたのは“可能性”を作りたかったからなんです。

ズ:今までは自主制作でCD-Rを何百枚かずつ売ってきたんですけど、“全国流通をやってみたら、どういうふうになるんだろう?”というのを一度知りたくて。それも気持ちの変化から来ている感じですね。

●その広げようとする作品に『名前が悪い』という自虐的なタイトルを付けた理由とは…?

鈴木:今は自分たちを客観的に見られるようになったからこそ、“鈴木実貴子ズ”というバンド名の悪さに気付いて。

●“バンド名の悪さ”って言い切っちゃった(笑)。

鈴木:本当に心から名前が悪いなと思っています。“でも中身は良いので、聴いて下さい”っていうことですね。

ズ:『名前が悪い』というタイトルをつけたのは、逆に“名前以外はそんなに悪くないでしょ? どうですか?”というニュアンスもあって。

●何よりも今は“聴いて欲しい”という想いが強い。

ズ:みんながどう思っているのかを知りたくなったんです。

鈴木:別に認められなくても、叩かれても良いんです。たくさんの人に気付いてもらうための全国流通なので、叩いても褒めても無視しても良いけど、気付いて欲しいですね。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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