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いかんせん花おこし

瑞々しい歌と深みのある音が美しくも奇妙な世界を現出させる

PHOTO:石川文子

サイケデリックロックバンド・他力本願寺のギタリストでもある長濱礼香(G./Vo.)が風間晴賀(Dr./Cho.)と共に2012年に結成した、いかんせん花おこし。大阪の老舗レーベル・ギューンカセット傘下に立ち上げた自主レーベル“daub”より、彼女たちが約3年ぶりの2ndアルバム『湖のほとり』をリリースした。メンバーチェンジも経て、目指すイメージをより具現化することに成功したという今作。山本精一(想い出波止場/羅針盤/ROVOほか)による不思議なジャケットイラストが想起させるとおり、ポップでありながらもどこかストレンジな音の世界を生み出している。

 

「別にバンド名と音楽が同じではないから、今は“もういいか”っていう感じですね。自分が出せるものを出しているだけやから。“サイケ”って言われることもそうなんですけど、もうみんなが言ってくれるジャンルで良いんじゃないかなって」

●2014年の1stアルバム『地中の空』以来3年ぶりのリリースとなりますが、その間にメンバーチェンジもあったんですよね?

長濱:メンバーが脱退したのもあって、1年くらい活動休止していたんです。そこから2016年に難波BEARSで復活ライブをやって、また動き始めました。

風間:新たに小池くんが入ってくれたので、復活することができて。小池くんは元々“かま哲ちゃん”というバンドでギターを弾いていたところを、私が誘ったんですよ。

●この人なら合うだろうという感覚があった?

風間:いかんせん花おこしが活動休止している間に、私もかま哲ちゃんにドラムで参加したことがあって。その時に小池くんのギターを聴いたら、すごく良かったんですよ。人の歌や音色を汲み取るようなギターだったので、(長濱)礼香ちゃんの楽曲とも合うだろうなと思って、入ってくれるように頼み込みました(笑)。

●頼み込んだんですね(笑)。

風間:めっちゃしつこかったと思います(笑)。

小池:かま哲ちゃんで一緒になった時にいかんせん花おこしの1stアルバムをもらって、それをずっと聴いていたんです。礼香ちゃんの曲がすごく良いなとは思っていましたね。

●それで加入することに決めたと。メンバーは、礼香さんのイメージを汲み取れることが大事?

風間:すごく上手いプレイヤーだったとしても、礼香ちゃんの“こうしたい”というものを汲み取って、それを音として表現できるスキルがあるかどうかが一番大事ですね。音楽性と人間性のグルーヴが彼女と合わないと絶対に無理だと思います。

●曲は礼香さんが作っているんでしょうか?

長濱:私が作った曲をスタジオに持って行って、“ドラムはこういうリズムが良い”と指定したり、“ギターをここで入れて欲しい”という感じでメンバーに伝えます。あとは基本的にメンバーに任せていますね。

●そこからメンバーは礼香さんのイメージを汲み取って、アレンジを考えていく。

小池:元になる曲を何回も聴いて、“こんな感じかな?”という感じで作っていきます。

●礼香さんから見て、ちゃんとイメージを汲み取ってくれている感じがある?

長濱:ありますね。何も言わなくても、大体のことはやってきてくれるから。ちょっとしたニュアンスの訂正くらいはありますけど、基本的には自分がパッと言ったことに対して、それ以上のことがちゃんと返ってくるのですごくやりやすいです。

●想像以上のものになって返ってくると。

長濱:基本的に私は、人に“ああやれ、こうやれ”と言いたくないというか。バンドを名乗っている以上、メンバーみんなで作っていけるのが一番良いから。自分のイメージと違っていても、“それ、めっちゃ良いやん!”ってなる時もあるんですよ。そうやって作っていったほうが絶対に面白いという気持ちはあります。

●そういう面でも新たに小池さんが加わったことで、バンドとして良い状態になったわけですね。

長濱:そうですね。私もギターで他のバンドに参加したりしているんですけど、歌ものってすごく難しいと思うんですよ。ギターを入れすぎてもダメやし、ギターの音だけが飛び抜けていてもダメで。そういう意味では(小池のギターは)すごくやりやすいし、歌いやすいリフやフレーズを持ってきてくれますね。

●1stの時よりも、バンドが固まってきている感じでしょうか?

長濱:そこはかなり固まっていると思います。単純に演奏力が上がっているというのもあって。あと、私は元々ギターしか弾いていなくて、ちゃんと歌を歌い始めたのは1stの少し前くらいからなんですよ。そこも関係しているかなと思います。

●自分自身の歌も進化している?

長濱:そうですね。だいぶ変わったと思います。1stは歌にするのかギターにするのか、どっちつかずな自分がいて。歌も歌いたいけど上手いこと歌えないし、でも演奏もめっちゃカッコ良くしたいというのもあったんですよね。最終的に1stは演奏重視の方向に行っていて、まだ試行錯誤していた感じです。

●今回の2ndアルバム『湖のほとり』では、より歌を重視するようになった?

長濱:2ndはメインボーカルのバックにコーラスもたくさん入れたりして、もっと“歌”として聴いてもらえるようにしています。歌と演奏がちゃんと合わさることを重視しつつ、なおかつ演奏面でも耳につくようなフレーズを入れてみたりしましたね。

●歌を軸に置きつつ、演奏面にもこだわっているんですね。

長濱:歌がメインではあるんですけど、ギターや各楽器の演奏も重視していきたい気持ちがあって。私は基本的に曲を先に作って、歌詞を後から乗せることが多いんです。“曲をどれだけ、この歌で活かせるか?”ということを考えていたりもしますね。

●歌だけに偏っているわけではない。

長濱:あんまり“歌もの”に偏ると、“じゃあ、いわゆる普通のギターやドラムで良いやん”ということになってしまうから。このメンバーだからできることがやれたら、それが一番良いなと思っています。

●実際、“いわゆる普通のギターやドラム”ではない音になっていますよね。サイケデリックな音のムードは意識的に出している部分もあるんでしょうか?

長濱:そこは意識していないです。でも私はGrateful DeadやQuicksilver Messenger Serviceみたいな60〜70年代のサイケバンドが好きなので、たぶんそういうものが出ているのかなと思います。最近はトラディショナル・フォークもよく聴いていて。トラディショナル・フォークって、ちょっとプログレみたいな曲もあるじゃないですか。ああいう雰囲気をどうにか日本語で出せないかなと思ってやっているだけで、サイケにしようとは意識していないですね。

●好きなバンドの影響が自然と出ている。

長濱:音のイメージはあるんですけど、ギターも基本的には自分が弾きたいように弾いている感じで。フォークロックみたいになっているのは、Neil Youngとかがすごく好きなのでそういうところが出ているだけというか。

●そういう音楽を聴き始めたのは、いつ頃から?

長濱:中学校の時は普通にJ-POPも聴いていましたし、JUNGLE☆LIFEに出ているようなバンドのライブを観に行ったりもしていたんですよ。でも途中で“ウッドストック”や“フィルモア”とかのサイケデリックなデザインのポスターがすごく好きになって。ポスターに載っている字面に興味を持ったところから、それがバンド名なんやと知ったんです。そこからそういうバンドの1stアルバムをとりあえず買うということを続けていたら、いつの間にかこんな感じになってしまったんですよね。

●元々はサイケデリックなポスターがキッカケだった。

長濱:そこから派生して、色々と聴くようになって。(ギューンカセットの)須原さんと19歳の時に出会ってから、さらに色んなものを教えてもらっているところもありますね。あと、難波BEARSにも17歳の時からずっと通っていたから…。

●そんな歳からBEARSに…。

長濱:山本精一さんやAcid Mothers Templeがすごく好きやったんです。そういうところからの影響は強いかもしれないですね。でもパブロックとかも好きですし、最近は本当に何でも聴きます。だから“サイケ”とか言われても、あんまりピンと来ないのかもしれない。1stの時もそうやったんですけど、“果たして自分がそこまで行きつけているのかな?”っていうのはいつも疑問に思ってしまうんですよ。

●1stの時は、まだ自分の中のイメージをそこまで具現化できていなかった?

長濱:まだ曲もあんまりない時期にリリースの話を急に頂いたので、慌てて曲を作ったりして。レコーディングも初めてだったのでやり方もよくわからない部分があって、その時できることに限界があったんです。だから、やりたいことの輪郭くらいは少なからず表現できているんでしょうけど、まだまだやったなと。

●自分の中では満足できていなかったんですね。

長濱:聴いた人は“良い”と言ってくれるんですけど、自分の中ではもっとしたいことがいっぱいあって。だから今回の2ndを出すにあたっては、色々とやりたいことが頭に浮かんでいたんです。1stを作ったことで“もっとこうしたほうが良いな”というイメージや表現したいことが広がったというのはありますね。1stはまだ“確認”という部分が強かったのかもしれない。

●そこで自分が本当にやりたいことを確認できたと。

長濱:あと、活動休止中はソロでライブをやっていたこともあって。東京や名古屋にも行ったりして、色んなところでライブをやったんです。そういう中で、“歌の在り方はこういう感じが良いのかな”というところが定まった感じはありますね。

●ソロでライブをやったことも大きかった。

長濱:色んなところで、色んな経験をして。色んな人を見て、色々と教えてもらったりもして、勉強になったことがすごく多いですね。そこら中に上手い人がいるので、そういう人たちを見ていたらすごく感化されて、“私も頑張りたいな”という気持ちになりました。だから復活ライブをして、2ndアルバムを出したいという気持ちにもなったんですよ。

●前作に比べて、自分の頭の中にあるものをより具現化できている?

長濱:それはレコーディングしていても、すごく感じて。今回はゲストミュージシャンにゑでぃまぁこんのペダルスティールギター奏者・元山ツトムさんに入ってもらったり、森田式子さんにキーボードを入れてもらったこともそうなんですけど、“こうしたい”というイメージが漠然とあったんですよね。

●そういう音が頭の中に浮かんでいた。

長濱:元山さんとは最近ソロのアコースティックライブで一緒に演奏していたりもして、その時にすごく良いなと思っていたんです。今作でもスティールギターを入れたら良くなりそうなものが何曲かあったので参加してもらいました。やっぱり今回は“歌もの”というところに比重を置いた作品を作りたいという気持ちがあって。

●スティールギターが入ることで、歌の魅力をより引き立てているというか。歌っている歌詞の内容も変わってきていたりする?

長濱:歌詞に関しては“みんなもっとこうしたら良いのにな”と思うことだったり、“最近、楽しいことがあったな”ということだったり、自分が普段1人で考えていることをそのまま出している感じですね。今回も入ってしまっていますけど、本当は歌詞の中で“私”とか“あなた”という言葉を使いたくなくて。二人称を使うことで、具体的な誰かをイメージしている感じになってしまうのが嫌なんです。聴いた人がどうとでも受け取れるようなものにしたいんですよね。

●“いかんせん花おこし”というバンド名も、そういう想像力を喚起させて色んな解釈ができる名前かなと思います。

風間:絶対にみんな二度聞きするんですよね。「えっ? 何?」って(笑)。

長濱:最初はバンド名を言うのが、めちゃくちゃ恥ずかしかったんですよ。“なんで私、いかんせんとか言ってるんやろう?”っていう。だからライブの挨拶でも、バンド名を言う時の声がどんどん小さくなっていって…。

●どういうバンドか、気にはなりますけどね。

小池:僕も、入る前からバンド名はずっと気になっていました。

風間:まだ礼香ちゃんと2人で活動している時に、ライブが始まる前に対バンの人たちが「“いかんせん花おこし”だって〜!」みたいな感じで持て囃してくれたことがあって。でもライブが終わった後はシ〜ンとして、誰も近寄って来なかったのが面白かったです(笑)。

●ヤバいと思われたということ?

長濱:いや、逆ですね。もっとすごいことをするのかなと予想していたら、意外と普通に歌ものやったからだと思います。

風間:アッパーなバンドやと思っていたみたいで。でも全然アッパーじゃないし、静かなフォークをギターとドラムだけでやって終わり…みたいな(笑)。その時は浅川マキさんの曲をカバーしたりしていたのもあって、とにかく暗かったんだと思います。

●バンド名から想像するイメージと違ったと。

長濱:“もし気に入らなかったら変えよう”みたいな感じで決めて、そのままここまで来てしまって…。別にバンド名と音楽が同じではないから、今は“もういいか”っていう感じですね。自分が出せるものを出しているだけやから。“サイケ”って言われることもそうなんですけど、もうみんなが言ってくれるジャンルで良いんじゃないかなって思います(笑)。

Interview:IMAI

 

 
 
 
 

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