音楽メディア・フリーマガジン

Art Building

儚くも美しい音と歌声が、思い描く理想郷へと誘う。

“RHYMESTER”や“ぼくのりりっくのぼうよみ”が所属し、新しい音楽の形を提示し続けているビクターエンタテインメント内レーベル、“CONNECTONE”。そのレーベルイベント“CONNECTONE NIGHT”内のオーディションで最優秀賞を獲得した、Art Buildingが1stアルバム『door』をリリースした。鹿児島在住で平均年齢20歳という彼らの放つ音からは、まるで風景が目に浮かんでくるようだ。Vo./G.前田 晃希の脳内に広がる世界を具現化した独自の楽曲と、瑞々しい歌声は新世代の台頭を確かに予感させる。

 

「“この感情は、自分の中にあるこの風景に当てはまるな”みたいな感じで、形にしていくというか。自分がドキドキするような風景や場面を思い浮かべながら、歌詞は書いていて」

●高校時代に結成されたそうですが、それぞれにバンドは元々やっていたんでしょうか?

前田:自分以外の2人はバンドをやっていました。僕もバンドがやりたかったんですけど、最初はなかなかメンバーが見つからなくて。高校3年の時にちょうど2人(※北山と仁志)が前のバンドを辞めた時に誘って、そこからArt Buildingが始まったんです。

●前田くんの中で、“どういうバンドがやりたい”というイメージはあった?

前田:そこのイメージは特になかったですね。中学3年の時にギターを始めて、そこから1人で曲はずっと作っていて。自分の曲をバンドでやりたいなと思って、メンバーを集めました。

●ギターを始めたキッカケは?

前田:中学2年から3年の始めくらいまで、あまり学校へ行かずに引きこもっていたんです。近所のおじさんがそれを見かねて、「ギターをやってみないか?」と言ってくれて。アコギをいっぱい持っている人だったんですけど、その中から1本くれたんですよ。そこからギターを始めました。

●ちなみに、学校へ行かずに引きこもっていた理由は何だったんでしょう…?

前田:単純に学校が嫌いだったからですね。生徒同士の仲が悪いというわけではなかったんですけど、先生とはめっちゃケンカしていました(笑)。学校のどこか”縛られている”感じがすごく嫌だったんですよ。それで“もういいや”と思って、行かなくなって。でもギターを始めてからは、また真面目に行くようになったんです。

●ギターを始めたことが、学校へ行く理由にもつながっている?

前田:曲を作るようになってから、そこに自分の生きる意味を見出せた気がして。心にちょっと余裕ができたんですよね。高校でバンドを組もうと思っていたから、進学するためにも学校へ行こうと思うようになりました。

●音楽を始めたことで1つの目標ができたと。

前田:それはすごくあります。

●1人で作っていた当時の曲を、バンドでやっていたりもするんでしょうか?

前田:バンドを組む前に作った曲は、ほぼやっていないですね。曲自体も結構、変わったと思います。バンドでやるようになってからは、コードは少なめで曲を作るようになって。アレンジではリズムに重点を置いているので、弾き語りで作っていた頃とは全然違うと思いますね。

●メンバーは前田くんが作ってくる曲に対して、どう感じていた?

北山:やっぱり他にはないものを持っているなと思っていて、そういうところに魅力は感じていました。

仁志:僕は元々コピーバンドをやっていたんですけど、そのバンドがなくなって。その結果、ここに流れ着いたという感じなんですよ(笑)。前のバンドとはやっているジャンルも全然違ったので、当初は自分から進んで“このバンドをやろう!”という感じではなかったんです。

●仁志くんはどういうジャンルが好きなんですか?

仁志:僕のルーツは、ヘヴィメタルですね。X JAPANとかを聴いて、バンドを始めました。でもメンバーは全然そういうところは聴いていなくて。

●3人の音楽的な趣味やルーツが近いわけでもない?

北山:そういうわけではないですね。自分はポップス寄りのものが好きで。椎名林檎や東京事変からの流れで、ジャズを聴いたりもしていました。

前田:僕はplentyが好きだったんですけど、そんなに音楽を聴いているわけでもなくて。3人の趣味は本当にバラバラです。

●特定のジャンルやバンドから影響を受けたわけではないので、単に“ギターロック”という枠には収まらない独自の音になっているのかなと。

前田:誰かの曲からイメージを引っ張って、曲を作るということは全くなくて。基本的には、自分の頭の中で鳴っているものを形にしていくという作業なんです。

●前田くんの頭の中にあるものを具現化する感じ?

前田:そうですね。僕が歌詞と曲を作って、構成やアレンジもだいたい考えていて。あと、自分の頭の中には街や森の風景があって、そういうものを曲やアートワークで表現しています。

●歌詞がちょっと抽象的な感じがするのは、そういう理由からなんですね。

前田:歌詞に関しては自分の思っていることと、頭の中にある風景を組み合わせて作っているんです。“この感情は、自分の中にあるこの風景に当てはまるな”みたいな感じで、形にしていくというか。自分がドキドキするような風景や場面を思い浮かべながら、歌詞は書いていて。だから、少しは作りごとや理想も混ざっていると思います。

●今回のアーティスト写真は、緑の森の中にいるようなイメージでしょうか?

前田:今回のアーティスト写真は自主制作した1st EP『hourglass』のジャケットに描かれている風景の中に自分たちがいるというイメージなんです。場所は同じですね。アーティスト写真やジャケットのアートワークから物販の絵まで、全部が1つの世界になっていて。その世界を色んな視点から見て、描いているんです。

●アートワークも自分で描いているんですか?

前田:いや、自分では描いていないです。自分が“こういうふうにしたい”というイメージを友だちに伝えて、描いてもらっています。2人いるんですけど、そのどちらかに描いてもらっていますね。

●メンバーも前田くんの頭の中にある世界について、話を聞いたりする?

北山:聞きます。やっぱり前田が持っている世界をアウトプットしていくわけなので、それをどうやって形にしていくかがメンバーの仕事だと思っていて。前田に言われたことをどう解釈するかはよく考えますね。

●前田くんから指示を受けたりもするんですね。

仁志:そうですね。自分たちが任されているのは細部で、大きな流れみたいなものは前田が作ります。

●前田くんの頭の中では、全部の楽器の音が鳴っているんでしょうか?

前田:最初の一部分が鳴っているという場合が多いですね。それをまずスタジオで僕の指示通りにメンバーに演奏してもらって。それを聴いたら全体のイメージが出てきたりもするので、そこから構成を僕がその場で伝えて最後まで仕上げたりもします。

●メンバーに弾いてもらうことで、自分のイメージがさらに広がったりもする?

前田:そういう曲もあるし、最初からイメージができている曲もあります。曲によって違いますね。弾き語りの時点でできていたものもあるし、僕が作った一部分をスタジオで広げるものもあるし、最初から全部の構成を伝えたりする場合もあって。

●今作『door』に入っている中で最初から全体のイメージが浮かんでいたものは?

前田:M-3「modern」、M-5「朝に」、M-6「無題」の3曲は最初から全体のイメージができていました。

●「朝に」と「無題」はつながっているのかなと思ったんですが。

前田:その2曲は最初からつなげるつもりで、1曲1曲を作っていきました。「朝に」はタイトルどおり朝で、「無題」は昼過ぎくらいの時間帯を描いた曲なんです。(曲中での)時間帯と主人公の感情みたいなものが全部つながっています。

●この曲の最後に“僕等はいつまで此処にいれるだろう”と歌っている部分は、どういう感情なんですか?

前田:「無題」は主人公が前の夏にあった出来事を思い出しているような曲なんです。前の夏にあった色んな出来事を思い返して切なくなりながら、“ここにずっと留まることはできないけど、いつまでいれるかな?”という主人公の想いを歌詞にしました。

●そういうことを歌っていたんですね。世界観以外の部分で、今作を作る上で何かコンセプトはあったんでしょうか?

前田:アルバムを通してのコンセプトはないんですけど、Art Buildingの良いところと新しいところを全部入れて、色んな人に伝わることを意識して作りました。M-1「cycle」やM-4「tete」は今まで自分たちが作ったことのないタイプの曲で、逆に「modern」や「無題」は僕ららしい世界観がよく表れている曲だと思います。

●「cycle」や「tete」は、新しいことに挑戦している曲なんですね。

前田:新しいですね。まず“元気な曲を作ろう”という発想がなかったから。そういうものを作ってみようということで、まず最初にできたのが「cycle」でした。

●それが結果的にMV曲にもなったわけですが、自分たちでも良いものができたという感覚はある?

北山:自分たちでも「cycle」が一番カッコ良いと思っています。今までとはちょっと別物ですね。

前田:「cycle」は、ベースがすごくカッコ良くて。生き物のようなベースを弾いている感じがします。

●「cycle」のMVもすごく良いなと思いました。

前田:地元の鹿児島で撮ったんですけど、あの知林ヶ島の部分だけを1カットで撮っておこうということで2テイクくらい撮ったんですよ。実際は他のシーンも撮っていて、違うパターンのMVもあったんですけど、両方を見比べた時に僕らの「cycle」のイメージと知林ヶ島のロケーションの広くて壮大な感じがすごく合うなと思って。僕らから「こっちが良いです」と言って、決まりました。

●「tete」も、自分たちの中では新しい曲ということでしたが。

前田:かなり新しいですね。この曲や「cycle」みたいな初期衝動的な感じの曲をこれまで作ったことがなくて。「無題」みたいなアレンジが入り組んでいて、ドラマチックな展開の曲が今までは多かったんです。

●普通は初期衝動的なものが先にできるはずなんですが、逆なんですね。

前田:そうなんですよ。これまでは自分の中にある風景を曲にしていたから、アレンジに関してもシーンが切り替わるようなイメージで考えていて。パッパッと場面が切り替わっていくイメージで、1曲が1本の映画になるように作っていたんです。でも今作に向けた曲作りがキッカケで、初期衝動みたいなものを入れるのもすごく楽しいとわかって。そういうところから、この2曲はできあがりましたね。

●今作を作ったからこそできた曲というか。

前田:そうですね。『door』を作っていなかったら、できなかった曲だと思います。

●自分たちの幅も広がったのでは?

前田:広がりましたね。とりあえず曲はたくさん作ったので、それによっても広がったんです。自信のある曲も、今までの自分たちにはなかったタイプの曲も入れて、色んな描写ができたと思いますね。

●『door』というアルバムタイトルはどこから?

前田:僕が考えたんですけど、初めての全国流通盤というところで、“これからドアを開けて外の世界に踏み出していこう”という意味で付けました。

●ここから新たな世界へと踏み出していくという気持ちを表している。

北山:初めての全国流通盤をリリースしたので今後はもっとたくさんの人に聴いてもらえるように、良いライブをしていきたいですね。

●2/24には下北沢GARAGEで、自主企画“Watch The Sound”が決まっているわけですが。

前田:初めて東京で自主企画をやることになって。ここから何回も続けていけたら良いなと思っているので、今回はそこに向けた第一歩ですね。

仁志:今後も継続して開催していくことを踏まえた上で、1回1回が同じものにはしたくなくて。僕らが変わっていくところも、楽しんでもらえたらなと思っています。それもArt Buildingの“物語”として見てもらえたら良いですね。

●続けていくことを念頭に考えている。

前田:自主企画も続けていきたいし、僕はどんな状況になってもこのメンバーと一緒にバンドを長くやっていきたいんです。今後の目標は、このメンバーで音楽を何十年も作り続けていくことですね。

Interview:IMAI

 

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