音楽メディア・フリーマガジン

“COMIN’KOBE13”

心を動かす一瞬とたくさん出会った日

2013/4/29@ワールド記念ホール /
神戸夙川学院大学

メイン

阪神大震災を風化させず語りついでいき、イベントを通じて神戸を活性化させる。そして神戸から全国の被災地へ恩返しすることを最大のテーマとした“COMIN'KOBE”。9回目の開催日となる2013年4月29日は、見事なまでの快晴で迎えられた。1年目・2年目と雨に見舞われて以来、占い師(松原氏の母親)が占って日程を決めるようになってからは、なんとただの一度も降られたことがないらしい。偉大なる神戸の母に尊敬の念を抱きつつ、早速会場へと赴いた。

いよいよ“COMIN'KOBE13”開演! まずは全13ステージの中でもいちばんに始まるアーティストのひとり、清水アツシの弾き語りへ向かう。ジェイムスのギターボーカルとしてダイナミックに叫ぶ姿も素敵だが、彼がギターをつま弾きながら紡ぐ言葉の、なんと沁みることか。外国人を好きになった男のラブソング「愛しのサマンサ」を歌った後「実は今日、サマンサをライブに誘ったから、どこかで聴いてくれていると思う」と言う話を聞いた時は、何ともドラマチックでキュンとしてしまった。そしてパフォーマンスエリアでふみもと大すけの歌に耳を傾けつつ、Kitchen STAGEにてROACHのステージへ。どアタマからヘヴィなハードコア・サウンドをぶちかまし、あっという間にフロアは興奮のるつぼと化していた。汗と熱気でぐちゃぐちゃになりながらも、最高の笑顔を見せるオーディエンス。音の鋭さ・ライブの激しさに反して、彼らの歌は優しさがにじみ出ていてとても暖かい気持ちになる。今度は食堂からワールド記念ホール方面へ。すると道中、妙な盛り上がりを見せる人だかりを発見。“下ネタのナポレオン”こと、クリトリック・リスが、パンツ一丁に下駄という奇怪な格好で歌っていた。女性の視点で描かれた「バンドマンの女」の歌詞を紡ぐ姿は、歌うというより独白に近いかもしれない。“私がいくらあんたにお金貸してるか、わかってる!?”“いつまで夢見てんの? あんた今年35やで!”そう言いながらも、バンドマンの男を愛し続ける女の歌。半裸で、しかもバンドマンその人が歌っているというのに、その曲は驚くほど心に響いてくる。最後には、周りのお客さんと一緒に惜しみない拍手を送る私がいた。

人波に流されること15分。やっと到着したワールド記念ホールでは、EGG BRAINが会場を沸かせていた。さすが地元神戸を代表するバンドのひとつ、すさまじい人気ぶりだ。吹き抜ける春風ように爽やかな「CROSS THE SKY」から、随所随所に挟まれるシンガロングが気持ち良い「YEAH! YEAH!」そしてライブの超定番曲「SEVENTEEN」! もはやセットリストだけでも、その場の盛り上がりが容易に想像できるのではないだろうか。天高く突き上がる腕が、一面を埋め尽くす様は爽快だ。軽く昼食を取った後再びワールド記念ホールへ向かうと、ちょうど良いタイミングでHEY-SMITHが始まる。1曲目「Endless Sorrow」でイントロのトランペットが聴こえて来た瞬間「ウオオオォォ!」と声にならない雄叫びが上がり、会場のボルテージは最高潮に。「Download Me If You Can」でスカダンスやサークルを存分に堪能したところで「The First Love Song」! 甘酸っぱく初々しい恋の歌は、子どもの頃を思い出すようでどこか照れくさくもあり、熱いものが込み上げてくる。“COMIN'KOBE”に出演しているアーティストたちは、どうしてこうも心を震わせるのだろう。

日も高く晴れ渡る午後、休憩をとるお客さんたちが芝生エリアに集まってくる。それと同じくして、PJブースではハロー青空トレインの演奏が始まった。聴くだけで元気になるような、明るいピアノポップバンド。バンド名を含め、このロケーションにこれほどピッタリなアーティストはいないだろう。耳馴染みの良い音楽はともすれば聴き流されてしまいやすいが、ボーカルの確かな歌唱力によって歌がしっかりと飛び込んでくる。何より、メンバーがすごく楽しそうに演奏しているから、こっちまで自然と笑顔になるのがすごい。良質なポップミュージックに癒された所で、ガラリと気分を変えてUPLIFT SPICEのステージへ。エモーショナルなボーカルと、タイトかつアグレッシブな演奏で形成される楽曲でハイになり、「リバティ・ベル」「オメガリズム」のように、社会風刺をはらんだ歌詞にハッとさせられる。曲やサウンド、そして言葉が心に刺さる、インパクトの強いバンドだ。インパクトと言えば、KAMAMOTOMIKAも衝撃的だった。まずカラフルな衣装に目を奪われ、少し個性的な、しかしとてもキャッチーなメロディーに耳を奪われ、ちょっとした仕草のひとつひとつに心を奪われる。初めて見る人・ものに対して、人はどうしても壁ができるものだ。だけど彼女たちはそれをひょいと飛び越えて、あっという間に心の距離を縮めてしまう。気付いた時にはすっかり彼女たちの世界観に入り込んでいるような、なんとも不思議な感覚に陥った。

KSGU GREENステージに着くと、そこはワタナベフラワーの独壇場。「ゴーゴーレッツエンジョイサマー」「わーい」といった全員参加型の楽曲で、一気に会場の空気を掌握する。前列から最後尾のオーディエンスまで、一斉に両手を挙げる様子は壮観だった。その後246ステージに移動して、alcottを観る。“無所属性のオルタナティヴ・ロック”を提唱するだけに、単なるジャンルの枠だけでは形容しきれない音楽性を有したバンドだ。全方向から鳴り響くサウンドと、ほどよくウェットなボーカルが思わずクセになる。そして、エモ・ガールズロックバンド界で着実に名を広めているFLiP。「ワンダーランド」のような躍動感のある曲から「雨の女」のようにどこか叙情的な雰囲気の曲、そしてFLiPの真骨頂とも言えるマイナー調のメロディーが魅力的な「カートニアゴ」のような曲まで、幅広い表現を身につけた彼女たち。演奏力や歌唱力もライブを観る度に向上しているのだから、まだまだその成長の底が知れない。そしてFLiPの次にKSGU GREENステージに登場したのはlocofrank。「survive」が鳴り響いて歓声がドッと湧き、地響きと共に土煙がもうもうと立ちこめる。激しいサウンドの中に確かな存在感を放つメロディは、聴く者の気持ちをグイグイと引っ張っていき、「Start」ではコール&レスポンスと大合唱がおこる。最後の「one」ではVo./Ba.木下が客席エリアへと降り、たくさんのオーディエンスと一緒に歌い上げた。

あてもなくフラリと歩いていると、どことなくセンスの良い音楽が聴こえてくる。導かれるままに音をたどっていくと、ほどなくしてヒダリのステージにたどり着いた。打ち込みを利用したリズムと、ビートルズを彷彿させるようなギターロックサウンド、透明感のあるクリアなボーカルの3要素がバランス良く絡み合って、絶妙な心地良さを生み出している。

World STAGEはSiMのライブを心待ちにする観客の興奮で埋め尽くされていた。Vo.MAHの「行こうぜ神戸!」という叫び声がこだまし、「Blah Blah Blah」でライブがスタート、堰を切ったように客席がうねりだす。広いステージを所狭しをBa.SINが暴れまくり、G.SHOW-HATEはモニターの上で高らかにギターを掻き鳴らし、Dr.GODRiは重厚なリズムを次から次へと繰り出していく。彼らの支配力は圧倒的で、名曲「Same Sky」でグッと心を掴んだかと思えば、最後は「KiLLING ME」で再び会場をカオスへと落とし込む。「音楽の力、信じています。ありがとう」というMAHの最後の言葉に、会場の全方向から大きな歓声が起こったのが印象的だった。そして徐々に日が暮れ出した頃、何とも自由でハッピーな音楽を聴かせてくれたSUNSET BUSの存在を忘れてはいけない。彼らが音を奏でれば、あっという間に暖かい空気が広がっていく。ゆったりとビールを飲みながら、リズムに委ねてずっと揺れていたくなるほどだ。また、この時出演バンドの面々が多数観に来ていたのが強く記憶に残った。特にTHE SKIPPERSのVo./G.ジャガーは、途中ステージに上がってBa./Vo.SATOBOYにビールを薦めたかと思うと、ぐいっと一気飲みさせるという暴挙に出る(笑)。同じ土俵に立つバンド仲間・ライバルたちに愛される、SUNSET BUSの人柄の良さがにじみ出ているようだった。

「ライブハウスからやって来きました!」とWorld STAGEに現れたのは我らがROTTENGRAFFTY。幕開けの「D.A.N.C.E」から圧倒的な存在感と類まれなる演奏力、百戦錬磨のステージングでガンガン攻める。「金色グラフティー」で興奮を加速させ、「銀色スターリー」で更に興奮を爆発させる。沸騰したお湯のような状態になった観客を前に、最後は「This Word」。たくさんの手拍子と地鳴りのような大歓声を全身に浴びながら、短距離走を全力で何度も何度も繰り返すようなテンションで一気に駆け抜けた。いよいよ各ステージのトリが現れる時間帯、私が向かったのは神戸夙川学院大学体育館。ESP REDステージ最後を飾るのは、初めてトリを務めるというサクラメリーメン! 「待ちぼうけ」「サイハテホーム」といった、王道の胸キュンロックを畳み掛けるように繰り出せば、景色さえもキラキラ輝いて見える。全編を通して思わず口ずさみたくなるような楽曲が、バンドとファンの距離感をグッと近づけ、ラストは「ブルーバード」「飛べない鳥が空を翔ぶ」のコンボでフィニッシュ。懐かしい曲から比較的新しい曲まで披露されたステージだったが、今も昔も変わらずに瑞々しく響く音楽に感動を覚えたのだった。

長かった一日も、遂に終わりを迎える時が来た。“COMIN'KOBE”立ち上げ当時からオオトリの大役を勤め上げてきたガガガSPが、今年もイベントを締めくくる! 「青春時代」から始まった彼らのライブ。まずはBa.桑原とDr.田嶋がリズムを生み出し、G.山本が疾走感溢れるギターリフで加速させ、その上にVo.コザック前田がどストレートなメッセージを乗せていく。続いて「国道二号線」を披露した後、少し長いMCタイム。新曲「友よ」について話はじめた。TVアニメ『ムシブギョー』の主題歌ともなっているこの曲は、なんと原作者・福田宏がガガガSPの大ファンということで実現したらしい。どこまでもまっすぐで、暑苦しいまでの男臭さ・泥臭さがにじみ出たこの一曲。サビ部分で“友よ”と力強く叫ぶのも、まさにガガガらしいアレンジだ。コザックが「いくつになってもこの曲を古臭くなく歌えることを誇りに思います」と語り歌った「晩秋」、そして「“COMIN'KOBE”が始まって丸8年。お前らは何か変わったか? 俺は変わったぞ!」と言って披露した「あの頃の僕は君にとってどう見えるかい」。青春時代から早数年経った今、変わっていったものもあるだろう。だが、唄い手が今でも変わらずにリアルな気持ちで歌えるからこそ、聴き手である私たちにとってもいつまでも色褪せることのない曲となっているのだ。しみじみと余韻に浸りながら、“COMIN'KOBE13”本編は幕を閉じた…。

かと思うと、どこからともなく声が聴こえてきた。“行けよ男達 山を越え谷を越え 中途半端なまま突き進め それが人間だ”。アンコールを叫ぶかわりに、オーディエンスがガガガSPの「弱男」を歌い出したのだ。ひとり、またひとりと声は増えていき、いつしか会場を包み込むほどの歌声に。そして再びメンバーがステージに現れ、アカペラでサビを大合唱、そのままバンド演奏へとなだれ込む! 残された体力をすべて出し切るように、全力で騒ぐオーディエンス。最後には実行委員長の松原氏が登場し、会場全員で「カミーーーーーーーーングッ」「コーーーーベーーーー!!!!」のコール&レポンス! 大感動の中でグランドフィナーレを迎えた。

“COMIN'KOBE13”で、私はいくつもの素敵な光景に出会った。いたるところで募金をする人が見受けられたし、率先してゴミ拾いする人もいた。その中でも、特に印象的だったことがある。夕方18時半頃のこと、学園から芝生エリアに移動する途中、人だかりが出来ている箇所があった。気になって見てみると、そこでは「東北のライブキッズたちへ!!」と書かれたポスターを持った人が。会場にいる人たちから東北のキッズたちへ寄せ書きを送ろうと、呼びかけをしていたのだ。そしてそれに賛同した人たちが、続々とメッセージを書き足していく。服装からして、呼びかけをしていたのはおそらく一般のお客さんだと思う。“自分達たちに出来ること”を考え、自発的に行動している彼らの姿を見て、どうしようもなく目頭が熱くなった。私がそうだったように、このイベントがキッカケで震災に対する関心が高まった人は必ず生まれるだろうし、いずれはその人たちが、復興へ向けて自発的に行動をすることになるかもしれない。“心を動かす一瞬”がたくさんつまったこのイベントは、これからも人生が変わるほどの感動を教えてくれるキッカケとなっていくのだろう。

TEXT:Takeshi.Yamanaka・森下恭子

 

募金箱 6,363,681円
チャリティーリストバンド 1,413,807円
アーティスト、物販からの寄付(集計中)
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義援金総額 7,777,488円(5/20現在)

_MG_5985_MG_4980_MG_9973松原さん

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