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heidi.

揺るがぬ芯で結びついた不動の4人が 結成5周年という区切りの先に見据える未来

 2011年に結成5周年を迎えた4ピース・ロックバンド、heidi.(ハイジ)が初のベストアルバムをリリースする。

結成以来、不動のメンバーはその内の誰1人欠けても“heidi.”にはならないという強い結束の下で、共に突き進んできた。言葉と想いをしっかり届ける力強さと聴き手の心を優しく包みこむしなやかさを併せ持つ義彦(Vo.)の歌を軸に、この4人でしか表現できないサウンドを創り上げてきた彼ら。

これまでの5年間で培ってきたものが詰まった今作は、その歴史を雄弁に物語るかのようだ。初回限定盤には、バンド結成当初にライブ会場でのみ販売された幻の楽曲「マリア」も収録。現在は入手困難な作品からも楽曲を収録するなど昔からのファンはもちろんのこと、新たに彼らを知ったファンもバンドのヒストリーを追体験できるような珠玉の作品集となっている。

今作のリリースにあたって、JUNGLE☆LIFEではメインソングライターであるナオ(G.)のソロインタビューを敢行。この5年間を共に振り返ってもらうと同時に、音楽的なルーツやバンドの芯にある想い、さらには現在の心境から今後の展望に至るまでを語ってもらった。

Interview

「自分たちは何の型にもハマらないで自由にやっていこうと。バンドとしての軸さえブレなければ、好きなようにやっていけばいいんじゃないかなと思っているんです」

「今まで自分達の中で大事にしてきたものを出すことによって、1つの区切りを付けられる部分もあったりするのかなって。次に進む気持ちがもっと大きくなって、より前向きになれるんじゃないかと思うんですよ」

●昨年に結成5周年を迎えられたわけですが、今回のタイミングでインディーズベストアルバムをリリースしようと思った理由は何だったんですか?

ナオ:ベスト盤をリリースするということ自体に関しては、単純にこのバンドを5年間続けてこられたので"1枚くらいはそういうアイテムがあってもいいんじゃないか"というのが理由です。そこから"どんなベスト盤にするのか"を考えた時に、メジャーへ行くまでに自分達が培ってきたものを1枚にまとめるというのが、今リリースする形としては一番いいんじゃないかなという結論に落ち着いて。

●今リリースするものとして、一番適している形態にしたかった。

ナオ:まだ自分たちだけでやっていた1年目からフルアルバムも出していたから、曲数も結構あって。そういうところからも選んでいきました。新たに次へ進むための区切りというか、初心に返るためにもそういうものを残した上で次に取りかかっていくのがいいかなと思ったんです。

●ナオさんは節目ごとに、過去の音源を聴かれたりするそうですね。

ナオ:振り返ること自体にそれほど重要な意味はないんですけど、何となく新しい音源を出すたびに聴くようにしていますね。前の音源を聴いて、"昔はこういうアプローチもやっていたな"とか考えるのが好きなんですよ。それに常々思っていることですけど、最初の頃にあった"初期衝動"はなくしたくないから。

●初期に作った作品って技術的には未熟かもしれないけど、だからこそ今じゃ真似できないこともある。それが刺激になったりするのかなと。

ナオ:まさにその通りで、"何だったんだろう、これ?"みたいなことを聴くたびに思ったりします。その時その時のものがきちんと作品ごとに詰め込まれているし、それを踏まえた上でどう超えていくのかっていう感じですね。基本的に自分が曲を書くことが一番多いので、同じことをやっていてもしょうがないなという考えもあって。

●聴き直してみる中で、自分が書く曲や歌詞に変化を感じたりもする?

ナオ:曲や歌詞の根本は変わらないですね。昔から自分が表現したいことをやっているというのは変わらないんですけど、そこに向かうアプローチは変わってきているのかな。

●技術的な進化も当然あるのでは?

ナオ:そんなに上手くなってはいないですけどね(笑)。でも無駄がなくなって削ぎ落されてきている部分もあって、そういうところに楽曲の魅力を引き出せる"何か"があるんじゃないかなっていうのは最近のレコーディングでも各パートで共通して感じています。

●バンド全体として、無駄な部分を削ぎ落す方向性に向かっている。

ナオ:ちょっと前にミニアルバム『シックスセンス』(2011年9月)を出した頃が、その極みだったというか。"シンプルでカッコいいのが一番"っていう風潮は、バンド内にありましたね。

●そういう心境の今改めて過去の音源を聴いてみた時に、どんなことを感じましたか?

ナオ:特にギターは無駄に重ねていたりもして、"これ、ライブでどうやって再現するの?"みたいなアプローチもありました。それが今回聴き直してみて、一番強く感じた部分かな。今は全然そういうことをしていなくて、いい意味で大雑把というか。ノリでいく部分は、昔と比べるとかなり強調されているような気がします。

●今はライブでの再現性を重視して曲を作っている?

ナオ:どちらかというと、最近はそういう作り方の曲が多いですね。昔は単純に"曲がよければそれでいい"っていう感じで、ライブを一番に考えての曲作りはしていなかった。今でも思うままに作る時もありますけど、とりあえず原曲を作ってみてからメンバーとアプローチを話し合いながらやっていくのが基本で。やっぱりライブに一番重きを置いているので、そこで活かせない曲は作らないようにしています。

●ライブでは再現できないような無茶ができるのも、初期衝動ならではという気もしますが(笑)。

ナオ:自分たちがいるシーンの中でちょっと変なことをやることで、他と差別化しようと考えていた時期もあって。そういう意味での試行錯誤は、昔のほうがしていたと思います。でも今は曲に対して素直に向き合えるので、無理に変なことをやってやろうという感覚はなくなってきたんじゃないかな。

●heidi.は所謂"ヴィジュアル系"のシーンを中心に活動してきたと思うんですが、その中でも他のバンドと違うことをやろうという意識が強かった?

ナオ:自分たちは最初から"ヴィジュアル系"としてバンドを始めたわけですけど、そのシーンのお客さんだけじゃなくて、"音楽ファン"の人達に届けられるような音楽を作っていきたい気持ちは結成した頃からあって。自分達なりに色々とやってきてはいたんです。でも活動の中心はどうしてもこのシーンになってしまうので、その中で少し変わった動きをしていきたい気持ちは元からありました。

●"ヴィジュアル系"的なイメージに囚われない活動というか。

ナオ:このシーンには作り込まれた世界観のバンドが伝統的に多いんですけど、それはそれでカッコいいと思うんですよ。でもそれはそういうことができるバンドにお任せして、自分たちは何の型にもハマらないで自由にやっていこうと。バンドとしての軸さえブレなければ、好きなようにやっていけばいいんじゃないかなと思っているんです。

●作りこまれた世界観やガッチリしたバンド・コンセプトがあるわけではない。

ナオ:特に"こういう感じのバンドにしよう"という具体的な話から始まったわけではないし、だからこそメンバーそれぞれのキャラも活かせていて。そこを重視しないと、バンドって簡単に潰れちゃうんじゃないかな。これまでもそうしてきたから、自分たちは今もいい状態でいられる。ある意味での不自由さがある中で、試行錯誤していく面白さみたいなものは今でも感じています。

●今回のベスト盤を聴いていても、所謂"ヴィジュアル系"的なイメージとは異なる歌い方や音作りが印象的でした。

ナオ:やっぱり音楽を聴いてパッと耳に入ってくるのは、歌だと思うんですよ。そういう意味で、Vo.義彦はヴィジュアル系以外のシーンでも通用するボーカリストなのかなと。楽器の音作りもそのシーンはあまり意識していないんです。各メンバーが前にやっていたバンドもヴィビュアル系だったので、自分たちで新たにやり始めるにあたってノウハウがあるのはこのシーンだったというだけで。バンドとして自分達を表現する場が"heidi."だというのは、何も変わらない部分なんですよね。

●メンバーのルーツになっているのは、どんな音楽なんですか?

ナオ:たとえば俺の場合だと、よく音楽を聴くようになった時期にちょうどヴィジュアル系がブームで。元々はJ-POPも好きだったので色々と聴いてはいたんですけど、"これがバンドなんだ"と強く意識したのがヴィジュアル系だった。Ba.コースケは俺と小学校から一緒なので、似たような感じだと思います。Dr.桐はGLAYが好きで、義彦はSOPHIAが好きだったりして、ジャンルとしてはそういうところに偏った人間が集まっていますね。

●普段のTVではJ-POPがメインで流れていた時代に突然、X JAPANや黒夢みたいなバンドが現れた時はインパクトがすごかったと思います。

ナオ:当時は本当に衝撃的でしたね。派手なメイクとかも含めて、"この人たちはその辺のヤツと違うな"と思って引き込まれていったんです。あと、見た目が真似しやすいというのもあって、ある意味ではそこが一番大きな要素だったりするのかなと思います。

●見た目が特徴的だから、モデルにしやすいというのはありますよね。そこからの音楽遍歴は?

ナオ:ヴィジュアル系を聴いていた後に洋楽もかじるようになったんですけど、最終的には音楽自体をあまり聴かなくなったんですよね。今もそんなに聴いていないので、聴いてきた音楽を語れるほどではないんです。でも中学校の時にすごく音楽を聴いていたので、それがバンドを始めるにあたっての引き出しに貯めこまれていて。あの頃に聴いていたものが、今の自分が表現していることの発端になっているのかなと思います。

●heidi.の音楽からは洋楽よりも、邦楽的なエッセンスを強く感じます。

ナオ:洋楽は勉強のために聴いていた感じなんですよ。やっぱり日本のワビサビ的なもののほうが好きで、マイナー調の哀愁漂う曲とかを好んで聴いていましたね。そういうものが好きだし、自分でも表現したいなという気持ちは元々ありました。

●そこはheidi.をやる前のバンドから同じだった?

ナオ:サウンドやアプローチは全然違いましたけど、歌を軸にしたものをやりたいっていう意識はバンドを始めた時からあるんです。だから、そこに対しての考え方は昔と変わっていないというか。自分から出てくるものを素直に出したい気持ちがあって、培ってきたものを全てさらけ出すという意味では前のバンドもheidi.も変わらないですね。

●歌を軸にするということは、ボーカリストが一番大事になってきますよね。

ナオ:だから義彦を見つけるまでには相当、時間がかかって。あきらめかけた時もあったんですけど、あきらめなくてよかったなと思います。

●加入を決めるセッションの際に義彦さんと一緒にやったのがM-2「街角慕情」だったわけですが、この曲を選んだ理由とは?

ナオ:"これを歌いこなせる人だったら何でも歌えるだろう"っていう感覚があったんです。激しくもなくスローでもないので歌という軸が一番現れるし、リズム感も大切になる曲だから。何よりこの曲の雰囲気を表現できるのであれば、自分達とやっていく上での方向性も見えてきやすいんじゃないかなと思って。

●この曲を義彦さんが歌った時に、すぐ求めていたイメージにハマる感覚があった?

ナオ:ボーカルを探すのに1年以上かかっていたので、それだけ時間をかけると"本当にこの人でいいのかな?"という迷いも出ちゃって。でも2回目のセッションをした時に義彦はさらに歌い込んできていて、1回目の時より明らかによかったんです。"こいつを口説かなかったらもうバンドはできないぞ"と感じたので、その場で一緒にやろうという話をしました。

●短い期間でもちゃんと進化して自分のものにしていたというか。

ナオ:俺の中では、それが一番大きかったですね。これなら他の曲も任せられるって感じでした。

●この5年間でも、義彦さんはさらに進化してきているのでは?

ナオ:それはもちろん自分も感じています。メンバー間でもライブでのパフォーマンスや盛り上げ方を試行錯誤してきたんですけど、そこでも著しく成長が見て取れるのは義彦のボーカルなんですよ。そもそも彼はheidi.に入るまでワンマンをやったことがなかったのでプレッシャーや葛藤も色々あっただろう分、逆に吸収するものも大きかったのかなと思いますね。

●ボーカリストはある意味でバンドの看板なのでプレッシャーはありつつも、それをバネに進化している。

ナオ:基本的には義彦の声ありきなので、大変なポジションではあると思うんです。でも伸びしろはまだまだあるし、これからもっと上手くなっていくんじゃないかな。

●今回のベスト盤収録曲にも5年間の幅があるわけなので、曲ごとに聴き比べるとボーカルの進化も感じやすそうですね。

ナオ:思っていることや表現方法は目まぐるしく変わりつつ、彼なりのやり方や感じ方で進化しているんですよね。彼がすごくいい方向に変わっていると、俺は感じていて。曲順が時系列になっているわけじゃないけど、それは今作を聴いてもらえばわかると思います。昔の曲は荒々しさが出ていたりもするし、一番わかりやすく成長が見て取れるのは歌なんじゃないかな。

●自腹で制作していたという本当に初期の曲まで、今作には入っているわけですが。

ナオ:わざわざ地方に行って録っていたので、大変でしたね。俺とコースケが栃木県出身なので宇都宮のスタジオまで行って、実家に泊まりつつ車で1時間以上かけて毎日通っていました。スタジオの方にもCDの売り上げが出るまでは支払いを待ってもらったりとか、色んな人の協力があったからこそ活動できていた部分もあって。その頃にやっていた曲は、どうしても思い入れが強くなっちゃいますね。

●そういう環境で録った曲というと、今作ではどのあたり?

ナオ:M-1「白昼夢」と「街角慕情」、M-3「夕焼けと子供」にM-16「マリア」が完全にセルフプロデュースでやっていた頃の曲かな。アルバム『渦奏』(2007年)に入っていた曲も録音自体は自分達でやったので、今作の半分くらいはそういう環境での曲になります。

●そういう曲もあえて録り直さず出してしまえるのも、愛着や自信があるからこそかなと。

ナオ:やっぱり技術的な部分では俺も"どうしたもんかな"と思ったりするんですけど、それも踏まえて楽しんでもらった方がいいのかなって。変に録り直したりするよりは、当時の感覚や初期の楽曲を素直にそのまま聴いてもらった方が面白いと思うんです。それを嫌だとは全く思わないですね。

●今回の収録曲はどんな基準で選んだんですか?

ナオ:まず第一に、インディーズ時代のシングル曲は全部入れたいと思っていて。あとは当時ライブでお世話になった曲とかを選んでいくと、全16曲が必然的に決まってきて。各メンバーが15~16曲程度の候補を出してきた時に、ほとんど一致していたんです。選曲に関しては、みんなが思い描いていたとおりのベストアルバムになったのかなと。

●曲順は時系列じゃないということですが、どんなイメージで並べたんでしょうか?

ナオ:時系列にしちゃうと元からCDを持っている人が聴いても面白みがないだろうし、それよりもライブのセットリスト的なものにした方が面白いんじゃないかなと思って。1つのアイテムとして曲の流れを完結させた方が、みんな楽しめるんじゃないかなと。

●収録曲が1つのセットリストと考えると、初回限定盤のみ収録の「マリア」はアンコールみたいなイメージ?

ナオ:この曲はまた特別な立ち位置の曲だったりするんで、そういう意味合いもありますね。

●"特別な立ち位置"とは?

ナオ:本格始動するにあたって無料ワンマンを2006年にやったんですけど、その日に会場限定で販売したCDに入っていたのが「夕焼けと子供」と「マリア」だったんですよ。たぶん300枚くらいしか生産していないし、アイテムとして考えるとすごく愛着が湧くというか。持っている人も当然少ないと思うので、このタイミングで再び収録してあげるのも意味があることだなと。そういう意味で、"特別な立ち位置"にある曲ですね。

●今作のラストに入れたということで、曲自体にも愛着はある?

ナオ:最初の無料ワンマンをやるにあたって持ち曲を並べてみた時に、あまり盛り上がりそうな曲がなかったんですよ。そこで初めてライブを意識して作った曲でもあるので、そういう意味での思い入れもありますね。

●前の15曲がライブ本編だとして、「マリア」をアンコールでやると最後にまた一気に盛り上がりそうな画が浮かびます。

ナオ:無料ワンマンの時も、確かアンコールでやったような記憶があります。今でもごくたまにライブでやったりすると反応がいいので、俺らにとってもお客さんにとっても特別な曲かな。今だからこそオープンにしていこうという部分もあって。

●"オープンにする"というのはどういう意味で?

ナオ:今まで自分達の中で大事にしてきたものを出すことによって、1つの区切りを付けられる部分もあったりするのかなって。次に進む気持ちがもっと大きくなって、より前向きになれるんじゃないかと思うんですよ。

●原点を振り返る1枚でありつつ、ここから先へと進むキッカケにもなる作品というか。

ナオ:俺の中では、そっちの意味合いの方が大きいですね。やっぱり前を向いて進んでいくしかないと思っているから。

●"もう振り返らないでいよう"という歌詞がある「白昼夢」を1曲目に持ってきたのは、そういう心境を暗示している気がしました。

ナオ:それは単なる偶然ですね…でも、そう読み取ってもらえたりもするのかな。俺は今言われて初めて気付きましたけど、そういうことにしておきましょうか(笑)。

●そういう意識でいたから、自然と導かれたんでしょうね(笑)。既にもう次の作品に向けた制作も始まっているんですか?

ナオ:今は曲を作りつつ、レコーディングもぼちぼち始まっています。ベストを出したからどうっていうわけではなく、制作に関しては常にやっていかないといけないことだと思っているんですよ。でも今作のリリース後にはツアーも控えていますし、そこで初めて完結するのかなと。ツアーで現在進行形のheidi.を聴いてもらって、そこからまた何かが始まればいいなと思います。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

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