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HEY-SMITH

己を信じ続けることで掴み取った“俺たちのフリーダム”

 2011年5月にリリースしたフルアルバム『Free Your Mind』が見事オリコン・インディーチャート1位を獲得し、名実共に日本のPUNK界に必要不可欠な存在となったHEY-SMITH。

60本にも及んだリリースツアーは各地で大きな盛り上がりを見せ、福岡と東名阪の4会場で行われたFINAL SERIESは全てSOLD OUT。そのグランドファイナルとなった大阪BIGCATでのライブを余すところ無く収録した初のDVD『Our Freedom』が、2/8にリリースされる。

2011年、信じた道をただひたすらに走ってきた彼らの集大成が、リアルに詰め込まれた熱量・密度共に高い内容になっている今作。アルバムリリースから今に至る経緯、そして今後彼らが進む道をG.猪狩に訊いた。

Interview

「俺たちのワガママに付き合ってくれる、気持ちが入っている人達と一緒に仕事が出来ているのが本当に嬉しいんです」

●DVDのリリースは"Free Your Mind TOUR"に出る前から決定していたんですか?

猪狩:いつかはライブDVDを出したいよねっていう話は以前からあったんですが、ツアーに出てからこのタイミングでリリースすることが決定しました。ツアーファイナルを地元大阪のBIGCATで行うことが決定した時に、ファイナルを丸ごと収めた内容にしようっていうことでみんなの意見が一致したんですよ。ごく自然な流れでした。

●当日は僕もライブレポートを書かせてもらったし、結構前からHEY-SMITHのライブを観てきた側の率直な意見は「嬉しかった」なんです。4年程前に初めて観たHEY-SMITHがどんどん成長していくのを間近で観てきて、素直に嬉しかった。自分たちでは今の状況を思い描いてきたから通過点に過ぎないと思うんだけど、当時周りで観てきた人たちは今の状況を想像してなかったんじゃないかなと思って。

猪狩:確かにそうかもしれないですね。昨年5月に『Free Your Mind』をリリースしたとき、バンドマンや関係者からの反応が凄く良かったんですよ。「めっちゃ良くなってるやん!」って。でも自分たちにしてみたら「そうなん?」って感じなんです。"変わった"という認識が無いというか、まだちゃんと認識できていない感じですね。レコーディングにはこだわったので音質は圧倒的に良くなっているのは事実なんですが、『Free Your Mind』のどの部分を評価してもらっているのかまだ掴みきれていないんです。

●有名なマスタリングエンジニアを起用したということもあり、確かに閉じ込められた音の迫力は凄いですよね。納得のいく良いものが出来たということが自信に繋がって、結果として作品の評価も高まったのでは?

猪狩:以前は時間や予算に限りがあったけど、今回は自分たちのやりたいことが出来たので満足していますし、『Free Your Mind』にはアメリカの風が吹いていると思っています(笑)。でもそれが自信に繋がっている訳ではなくて、その時のベストを閉じ込めたものを評価してもらって「俺たちがやろうとしたことは間違ってなかったんだ」という再認識が自信に繋がっているんだと思います。

●なるほど。

猪狩:その時に作りたかったものが完成して、それを評価してもらえてからは「次は的外れな変わったことをしてやろう」という邪念は無くなりましたね。自分が良いと思ったものを作ればいいんだっていう考え方になった。次にリリースする時の気分が『Free Your Mind』の延長線上に無いってことも考えられますけどね(笑)。

●ギターも全く歪んでなかったりして(笑)。

猪狩:可能性としてはありますよ。その時にやりたいことをやるだけですからね。

●"Free Your Mind TOUR"は60本以上というタフなツアーでしたが、今までのツアーと比べて違った部分はありましたか?

猪狩:本数的には慣れていたので問題は無かったんですが、ほとんどの日程を自分たちで決めたので、どの公演もトリだったし演奏時間も1時間半近くと長かったんですよ。それがもの凄く辛くて(笑)。過去のツアーは30分程度の演奏時間だったけど、それが倍以上の演奏時間になるだけでこれほど疲れが溜まるものなのかと…。そろそろ歳なのかなって思いましたもん(笑)。

●純粋に倍以上の演奏時間ですもんね。

猪狩:ライブが3日以上続くと、今まで経験したことのない疲労度でよくわからないテンションでした(笑)。オフを挟んだ後のライブって無茶できるし怖いもの無しのいいライブが出来るんですが、体力の限界を感じながらするライブは、「この日で俺は灰になってやる!」という違った闘争心と高揚感が沸いてきて、これまた良いライブが出来るんです。

●"ランナーズハイ"ってやつだ。

猪狩:まさにそんな感じです! アドレナリンもエンドルフィンも出まくりの、良いライブが出来ていたんじゃないかなと思います。力む体力さえ残ってない日もありましたからね(笑)。

●最近のHEY-SMITHのライブを観て「角が取れてきたな」って思うことがよくあるんですよ。決して丸くなった訳では無いんだけど、発言も含め以前はもっと尖っていたなと。

猪狩:それはありますね。以前はもっとギラギラしていたと思います。いろんなバンドのライブを観て、演奏中の表情や「この言葉を言った後にこの曲に入る」という流れに心を奪われていた時があって、自分の曲を必要以上にカッコ良くみせようとしていた時期があったんです。曲に合ったMCを必要以上に考えていたり、色んなプランを用意してライブに臨んでいたんですが、今は全くそういうことは考えていなくて、ごく自然体でライブが出来ていると思います。

●なるほど。

猪狩:前作『14 -Fourteen-』のリリースツアーの時は一緒に回ったバンドもギラギラしていて、打ち上げの席で「今めっちゃギラギラしてるのは自分でもわかってるんやけど、"ギラギラの先のキラキラ"になりたいねん」って話をよくしていたんです。ギラギラしたまま突っ走ってもしんどいだけやん! って(笑)。

●ギラギラした状態を抜け出したと感じたタイミングってありましたか?

猪狩:やっぱり先輩バンドとの対バンが続いたのは大きいですね。今まで自分が大好きだった憧れの先輩と同じステージに立つことができて、話す機会も増えたんですが、皆さん本当に優しいんです。でも、この人たち昔はヤンチャだったんだろうなってことも同時に感じて(笑)。俺はそれが安心できるというか、大きなものに包まれている感覚になるんですよ。そういう人たちがまさに"キラキラ"の状態なんじゃないかなと思うようになりました。そういう人たちって、他のバンドの演奏をちゃんと観てるんですよ。そういう姿勢は凄くカッコいいですよね。

●60本以上のツアーを回って、ファイナルシリーズの最終日である大阪BIGCATの様子がDVDに収録されている訳ですが、今からツアーファイナルが始まるの? ってくらい猪狩くんはリラックスしていますね。

猪狩:ようやくDVDの話になりましたね(笑)。撮影があるから特別気負うこともなかったし、普段通りのライブが出来たと思います。他のメンバーは緊張していたみたいですけど(笑)。でも、気付いたら残り1曲とかで、あっという間に時間が過ぎていました。超満員のBIGCATを初めて経験したのが確かKEMURIのライブで、めちゃくちゃ興奮した記憶があるんですよ。意識していた訳じゃないですが、感慨深いものは少なからずありましたね。

●HEY-SMITHのライブでいつも楽しみなのはアンコールなんですよ。お前ら何回アンコールするねん! って(笑)。そこを知っている人にはニヤリとする演出もありますね。

猪狩:アンコールは1回だけの会場もあったし、3回したところもあるし特には決めてないんですよ。アンコールが終わってから10分経っても「もっともっと!」って声が聞こえたらもう1曲やってやろう! っていう気になりますね。

●ズバリDVDの見所は?

猪狩:その時の熱量が詰め込まれたものなので、ライブDVDとしての完成度は凄く高いものになっているのは間違いないんですが、特に感じてもらいたいのは映像の美しさなんです。今回"maxilla"という映像チームに撮影をしてもらったんですが、彼らの作るMVがクソカッコ良くて。その映像美と、アングルやカット割も含めての臨場感は彼らにしか出せない唯一無二のもので、「Over」のMVも撮ってもらったんですが、出来上がった映像を見て"間違いないな"という確信に繋がりました。ライブDVDを作るなら、映像は彼らしかいないだろうなって。安心してまかせられたのも大きかったし、結果的に求めていた以上の出来になったので"ほら見てみぃ!"って感じです。

●確かに色合いもビビッドだし、質感も素晴らしいですよね。映像もさることながら、音質も素晴らしくて、ツアーの集大成だなと感じました。

猪狩:映像もそうだし、もちろん音にもこだわりました。いつもレコーディングしてくれているエンジニアさんに当日来てもらって、ミックスしてもらいながらマイクで録音したものと合わせているんです。DISC1に関しては、全てがホンマにカッコいいから観てくれ! って感じですね(笑)。

●話を聞いていると、たくさんの仲間がひとつのチームとして動いていて、そこには信頼関係という強い結束力がしっかりと存在しているんだなと感じました。

猪狩:本当に仲間に恵まれているなと最近感じるんですよ。俺たちのワガママに付き合ってくれる、気持ちが入っている人と一緒に仕事が出来ているのが本当に嬉しいんです。感謝しか無いですね。

●DISC2にはMUSIC VIDEOの他に、アメリカでの様子も収録されているんですよね?

猪狩:DISC2は基本的にMVが中心になっているんですが、未公開のMVも収録されているし、楽しみにしてもらいたいですね。「Theme Of HEY」なんてふざけまくってますから(笑)。アメリカでの映像は権利の問題もあって限られた時間しか収録できなかったんですが、雰囲気は伝わると思います。音楽とは全く無縁のEXTRA MOVIESも収録されているので、こちらも楽しみにしてもらえたらと思います。

●アメリカへはどういう経緯で?

猪狩:アメリカへはフェスに出る目的と、US盤の『14 -Fourteen-USA』というCDがLess Than Jakeのレーベルからリリースすることが決まったので、その打ち合わせを兼ねて行ってきたんです。これも本当に嬉しいことで、大好きだったLess Than Jakeと共演もできて、しかも彼らのレーベルからリリースできるなんてあり得ないことですからね(笑)。会える訳無いと思っていましたから。

●それが会える訳無いこと無いんですよね。

猪狩:そうなんですよ! 最近よく思うんですけど、夢って叶うんだなって。思いっきり努力したら、なんとかなるもんなんだなって本当に思います。冒頭の話にもありましたけど、今のHEY-SMITHの状況もある程度は予想していたというか、"この時期にこんなことをしているだろうな"っていうイメージは頭の中にはずっとあったんです。もちろん思い描くだけじゃなくて、そこに行く為の努力はいろいろしてきましたけどね。

●HEY-SMITHが提唱するロックフェスである"HAZIKETEMAZARE FESTIVAL"の成功もそのうちのひとつですよね。

猪狩:いろんなフェスが乱立している中で、自分が好きなフェスとそうでないフェスというものが明確にあって、好きだなと思えるフェスを自分たちで作ってみたいなというのが始めたきっかけなんです。やっぱりバンド発信のフェスが大好きだったし、自分たちが大好きでカッコいいと思えるバンドを一堂に集めたフェスをしてみたかったんですよね。

●2年連続で参加させてもらいましたが、どのバンドもHEY-SMITHに対する愛情を持ってステージに立っていたのを感じたし、何よりもそれぞれが"俺らが主役だ!"と言わんばかりの熱いパフォーマンスを披露してくれていたのが印象的でした。

猪狩:本当に感謝しか無いですよね。自分の出番直前まで会場を回って出来る限り多くのバンドを観るようにしてるんですけど、全バンドがギラギラしてるんですよ(笑)。いつもの対バンのときとは明らかに違うテンションでライブをしてくれているのを観て、出演者もお客さんにとっても特別な日になったなと思うんですよ。

●それは僕も感じました。

猪狩:大きなロックフェスで「いつもはライブハウスに出ていて今日は大きな舞台だけど、普段通りのライブをします」っていうMCを聞くことがあるんですけど、それは"絶対嘘やろ"って思うんです。言葉にしている時点で嘘だと思うし、特別な日があってもいいと思うんですよ。"HAZIKETEMAZARE FESTIVAL"に関しては、いつも通りのライブをして欲しいなんてことは思っていないし、coldrainなんて俺らのステージでみんなダイブしていたりと明らかにおかしいテンションでしたからね。俺らの気持ちがちゃんと伝わってるなと感じたし、特別な日になりました。

●バンド発信のフェスとしてどこまで出来るのか挑戦してもらいたいっていう期待もあるんですよ。

猪狩:フェスもそうなんですけど、音楽業界自体が抜本的に変わらないといけないなと思うことが多々あるんです。

●例えば?

猪狩:例えば映画は公開終了後すぐにDVD化されるし、TVもレコーダーに録画したら1枚のDVDにしか複製できないようになったりと、今まで出来っこないと思われていたことが当たり前にできるようになって、システム自体が常に進化していると思うんです。そんな時代の中、音楽業界からは目新しいものが生まれてこないし元気がないと言われている。俺たちが変えてやる! ってつもりはないけど、みんなでなんとかしようぜ! って想いはあるんです。CDも簡単にコピーできちゃうし、簡単にデータでやり取りできるじゃないですか。音楽は素晴らしいものだけど、その唯一無二のものという武器に甘えている気がするんですよ。このままじゃ、良い音楽を奏でるバンドがいなくなっちゃうんじゃないかなって。

●猪狩くんからこういう話が聞けるのは意外でしたが、なんとかしないといけないというのは僕も同じ気持ちです。今年はどんな活動をされる予定ですか?

猪狩:リリースに関しては今のところ今回のDVD『Our Freedom』とUS盤の『14 -Fourteen-USA』しか予定していなくて、今まで通りライブをしながら僕は曲作りを並行していく予定です。曲作りが趣味なんで、良い曲ができれば発表していきたいという気持ちは常々あるんですよ。でも最近は「今これがしたい!」 っていう想いよりも、バンドを長く続けたいという想いが強くて、大事なことだなって思うんです。自分のペースで好きな音楽ができることが大事だし幸せだと考えるようになって、自分が納得できる曲ができないとリリースしたいって気持ちにならないんですよ。まだまだ『Free Your Mind』の曲に飽きていないし、ツアーファイナルでようやく形になってきたと思うくらいなんです。いろんな表現の方法で音楽を発信していけたらいいですね。楽しみに見守って頂ければと思います。

●いろんな話を伺いましたが、言い忘れていることはありませんか?

猪狩:そうそう、以前JUNGLE☆LIFEで対談したSiMとcoldrainの3バンドで4月にツアーを回るんですよ。今から凄く楽しみだし、今一番観てもらいたいバンドなんで絶対遊びに来てもらいたいですね!

Interview:上田雄一朗

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