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稲妻の如き鮮烈な輝きが一瞬で心を撃ち抜く。進化を止めない彼らの新境地的ニューシングル

アルバム『INFERIORITY COMPLEX』を今年6月末に発売してからわずか4ヶ月足らずにして、lynch.がニューシングル『LIGHTNING』をリリースする。全国各地へと自ら足を運んでライブを見せてきた彼らの原点へと立ち返るような“THE FATAL EXPERIENCE”ツアーの合間に、さらなる広がりを求めて制作されたという今作。メロディと歌詞の伝わりやすさに重点を置いてサウンドを研ぎ澄ませた結果、聴く者の心を一瞬で打ち抜く威力を持つ名曲が誕生した。常に進化を希求し挑戦を続ける彼らが、ここから新たな地平を切り開いていく。
●6月にアルバム『INFERIORITY COMPLEX』をリリース以降、“THE FATAL EXPERIENCE”ツアーで久々にキャパの小さい会場をまわったわけですが。

葉月:でも東京ではキャパを下げたとはいえ、地方に関しては去年の夏のツアーと同じくらいの規模だったんですよ。たまたま秋以降は大きめの会場が多かっただけなので、“元に戻ってきた”という感じでしたね。

●今回のツアーでは今まで行ったことのない土地もまわりましたが、そこでの反響はいかがでした?

葉月:順位を付けるわけじゃないんですけど、今回のツアーで一番良かったのは初めて行く場所だったんですよ。反応がもう…狂気的でしたね(笑)。

●狂気的って(笑)。

葉月:運動会を見ているような感じというか、「お〜、すげぇな!」と(笑)。今まで行ったことがない場所だから「来てくれてありがとう」という声も多かったですし、そういう声を聴くのはやっぱり嬉しいですよね。

●今回は意識的にそういう初めての場所を選んだ?

葉月:主要都市だけをまわって、地方の人たちには「そこまで来て下さい」という感じのバンドが多いと思うんです。でも「その土地土地にもライブハウスはあるわけだから行こうよ」というのが、昔から僕らのスタンスとしてあって。こっちから行くことで無理やり浸透させていくという意味もあるし、そういう場所って行けば行くほど反応があるのが嬉しいんですよね。

●ツアーファイナルはなぜか高知だったわけですが、反応はどうでしたか?

葉月:最高でしたね。ファイナルだからかもしれないですけど、動員も前回行った時の3倍くらいになっていて衝撃を受けました(笑)。実はラストインディーズツアー(“THE JUDGEMENT DAYS”)の時に僕が喉の不調で公演をトバしちゃった場所の1つが、高知だったんです。そういう意味でのリベンジも含め、良いファイナルができたと思います。

●ファイナルということで、他の地域から遠征して来たお客さんもいたんでしょうね。

葉月:それは絶対にいましたね。よく見る顔も結構いましたから(笑)。

●お客さんの顔がよく見える距離でライブをやるのも、久々で新鮮だったのでは?

葉月:でも僕自身のキャリアで言えば、今までやってきたライブの95%くらいがその距離でしたからね(笑)。たまたま去年の秋以降はお客さんとの距離がある大きめの会場でやることが多かっただけなので、そこはいつも通りな感じでした。

●元いた場所に戻るような感覚だったということで、原点回帰的な意味合いもあったんでしょうか?

葉月:そういう意味でも、重要なツアーでしたね。

●9月後半までツアーをまわっていたわけですが、今回のシングル『LIGHTNING』の制作はいつ頃から?

葉月:原曲はツアー前にできていて。それを持ってアレンジしながら、各地をまわっていた感じでしたね。M-1「LIGHTNING」は変形に変形を重ねていったんですけど、そのアレンジはツアー中にずっとやっていました。

●元は全然違う感じだったと。

葉月:テンポ以外は、コードもメロディも構成も全然違いましたね。

●そこまで変化した原因は何だったんですか?

葉月:まず今回は”こういう音楽がやりたい”というイメージが特になかったんですよ。前作の『INFERIORITY COMPLEX』の時みたいに激しい曲をやりたいとかいう気持ちもなく、何もないフラットな状態で作ろうと思って。その中で唯一あったのが、”たくさんの人に聴いて欲しい”ということだったんです。そこで「色んな人に届けるにはどうしたらいいんだろう?」という問いかけをスタッフチームにしたら、彼らも「たくさんの人に届けたいのなら、こっちも言うぜ」という感じで。デモを渡すと、ダメ出しがブワーッと出てきて…(笑)。その上で書き直していったら、全然違うものになりましたね。

●今まで数多くのCDを売ってきた実績のある人たちから真剣な意見をもらえるというのも、メジャーだからこそですよね。

葉月:そうなんですよ。今までは自分たちが「やりたいことをやらして下さい」とずっと言ってきたので、何も言われなかったんです。でも今回はあえて「何でも言って下さい」と言って、意見を全部聞いてみて。

●初の試みだけに、新鮮な意見もあったのでは?

葉月:音楽制作のプロではない人の意見が特に新鮮でしたね。たとえばデザイナーさんや宣伝担当の方みたいに音楽の制作には直接関わっていなくて、一般層に近い人たちの意見はほとんどがメロディについてだったんですよ。僕の中ではメロディがいくら良くてもバックとの兼ね合いが良くなければ…とかつい考えてしまうんです。でも“コード進行が単純すぎる”とか、そんなことはどうでもいいんだなと気付かされたというか(笑)。

●ほとんどのリスナーは、そんな細かいところまで聴いていないですからね。

葉月:だから今回はそういうマニアックなこだわりよりも、とにかくメロディをわかりやすくてインパクトのあるものにしようというところにずっと目を向けていました。

●何よりも“たくさんの人に聴いてもらう”ということを重視した。

葉月:でも”たくさんの人に聴いてもらいたい”という気持ちは、最初からありましたからね。バンドを始めた頃から、アンダーグラウンドに行きたいなんて思ったことは一度もなかったから。メジャーだから当然インディーズの頃よりも売り出してもらえるんですけど、その宣伝力に乗っかって普通にポップな曲を作るんじゃなくて、『INFERIORITY COMPLEX』や『I BELIEVE IN ME』のような2ビートでシャウト満載の作品を出したら面白いんじゃないかという気持ちがデビューしたての頃はあったんですよ。

●あえてメジャーっぽくないものをやることの面白さというか。

葉月:それも自分の中で落ち着いてきて「じゃあ、どうしようか?」となった時に、たくさんの人に聴いてもらうにあたって最も純粋な見せ方をしようと思ったんです。

●それがわかりやすいメロディの追求だった。

葉月:逆にそういうことはやったことがなかったので、僕自身がそこにまっすぐ向き合って作ってみたいなと思ったんです。歌詞についてもメッセージ性を乗せるというのは一切やったことがなかったので、「じゃあ、やったことがないことをやってみよう」と。自分の中で今回の歌詞は、かなり刺激的でしたね。

●初めて歌詞にメッセージ性を持たせることを意識したわけですね。

葉月:今まではそういうことを一切考えてこなかったし、色んなインタビューでも実際にそう答えてきたんですよ。「メッセージ性はないし、歌詞で伝えたいこともない」と言うことで、インパクトを狙っていた部分も多少はあったんです。でもそこに飽きてきている自分もいて、「じゃあ、何が新鮮なんだ?」と考えたら真逆のことだったんですよね。だから今回は、メッセージ性を一番に考えて作りました。

●伝えたいメッセージは決まっていたんですか?

葉月:メッセージを乗せるとなると、本当に自分が思っていることじゃないと絶対にダメだと思って。そのへんから取って付けてきたようなものだと、リスナーにもすぐ見抜かれてしまうから。そこで“自分が心底思っていることは何だ?”と考えてみたら、”いつ死ぬかわからないから、とにかく今日を精一杯楽しく生きたい”ということだったんですよ。

●それは昔から思っていたこと?

葉月:バンドを始めたての中学〜高校の頃から思っていたことですね。僕は高校を途中で辞めていて、そこからバンド1本でやってきたんですよ。“人生は1回しかないし、明日死ぬかもしれない”と考えたら、勉強している時間がもったいないなと。“こうしている間にも歌を練習したほうがいいんじゃないか”といった想いもありつつ、ずっとバンドを15年くらい続けて今に至っているところがあって。

●それほどの覚悟でやってきたから、今がある。

葉月:でもみんなに「学校を辞めろ」とか言っているわけでは決してなくて(笑)、「明日死んでもいいような生き方をしてね」っていうことなんです。そう言うと”戒め”のような感じで重く聞こえちゃうんですけど、僕の中ではそうじゃなくて背中を押してくれる支えのようなものというか。「人生は1回しかないんだから、やっちゃいなよ」と、背中をポンと叩いているくらいのイメージで捉えてもらえたら嬉しいですね。

●ずっと思っていたことを、今回で初めて素直に歌詞にしたというか。

葉月:自分に向けた歌詞はあったんですけど、他人に向けたことはなかったですからね。「じゃあ、やってみよう」という感じでした。

●今までの歌詞にもリスナー側の解釈次第で、メッセージ性を感じられるようなものはありましたよね。

葉月:そこからファンの人たちが色んなことを感じてもらう分には全然かまわないんですけど、「そっちには向けていないけどね」っていう感じだったんですよ(笑)。でも今回は思いっきり他人に向けて書いたので、そこは今までとちょっと違うんじゃないかなと。

●曲名を“稲妻”という意味の「LIGHTNING」にしたのは、“今この一瞬に輝け”というメッセージなのかなと思いました。

葉月:そうですね。すごくスピード感があって力強いものというところから、“稲妻”がパッと浮かんだんです。最初は“稲妻となれ”という歌詞もあったんですけど最終的にはなくなって、タイトルだけが残りました(笑)。テーマが決まっていたので、曲名はデモができた段階から「これしかない」と決めていましたね。

●タイトルもそうですけど、言葉としての力強さというのは多くの人に訴えかける上ですごく重要ですよね。

葉月:そこは意識しましたね。TVやラジオから流れてくるのを1回聴いただけでlynch.に興味を持ってもらうまでに至らせるのは相当難しいと思うんですけど、今回はその1回流れた時の威力をとにかく高めたかったんです。そういう意味で、メロディと歌詞のわかりやすさは特に意識しました。

●シングル曲やリード曲って、本来そういうものですからね。

葉月:そうなんでしょうね(笑)。今までのリード曲はうるさいものが多かったんですけど、それはTVやラジオから流れた時の「何これ?」というインパクトを狙っていたところもあったんです。でも今回は真っ当に「良い曲だな」と思って欲しかった。そういう意味で、初めて“シングル”というものに向き合ったのかもしれないですね。

●前作のリード曲「INFERIORITY COMPLEX」なんて、“Fuck Off”とか言っちゃってますからね(笑)。

葉月:「ラジオでかけられない」って、宣伝担当から非難轟々でした(笑)。

●ハハハ(笑)。今作ではカップリングのM-2「THE MORNING GLOW」からもメッセージ性を感じますが、こちらも意図的にそうしたんですか?

葉月:「結局、そうなってしまった」というほうが近いですね。この曲は今まで通り曲自体から受けたインスピレーションのみで書こうと最初は思っていたんですけど、書き終わってみると“窓をあけて”とか歌っちゃっているな…と自分でも気付いて。

●メッセージになってしまっていると。

葉月:でも自分の中では“伝えよう”という気持ちは全然なくて。どちらかというと、現代や世界をある意味で無責任に見ての感想というか。歌詞にも“ニュース”という言葉が出てきますけど、これを書いている時はちょうどイジメ問題がひどかった時期なんです。ニュースを見ていて、“ひどいな…”と思って。僕も小学校の頃にイジメられていたことがあったので、自ずとそういう内容になったのかもしれないですね。

●当初考えていたように、曲自体から受けたインスピレーションも反映されているんでしょうか?

葉月:Aメロの歌詞はまさにそうですね。今までは楽曲の雰囲気から情景が浮かんで、それを文字にしていくことが多かったんです。この曲もAメロはまさにそういう感じになっているんですけど、だんだん変わっていって最後にはメッセージ性がバリバリに出ちゃった(笑)。

●Aメロに出てくる“夕鬱(ゆううつ)”という言葉が面白いと思いました。

葉月:僕は秋の夕方が嫌いなんですよ。寂しくなっちゃうから(笑)。でも音の印象がそんな感じだったのでこの言葉を入れることによって、そこの印象がより際立つかなと思って。言葉遊び的な感じですね。

●以前からおっしゃられている「日本語の美しさを追求する」という試みも見える曲かなと。

葉月:日本語で歌詞を書くからには、そこは常に追求したいですね。逆に「LIGHTNING」は、そういう部分で大変だったんですよ。あんまりそこばかり追求しすぎると、今度はメッセージ性がよくわからなくなってくるから。わかりやすい言葉なんだけど、文字としての美しさやロックならではの言いまわしのカッコ良さとかも絶対に必要だし…っていうところのせめぎ合いでした。

●今回の2曲は同じ時期に歌詞を書いていたりする?

葉月:同じ時期ですね。どちらも“歌詞を書こう”として書きました。

●だから、両方ともメッセージ性が出ているんでしょうね。「THE MORNING GLOW」は曲調的にも今までにない感じがします。

葉月:カップリング曲って割と自由にできるから、僕は好きなんですよ。アルバムに入れるとなると特徴があり過ぎて、全体の流れに組み込むのが難しい曲だと思いますね。カップリングだからやろうと思えたというか。

●シングル『MIRRORS』のカップリングに入っていた「DEVI」も異色な感じだけど、ファンからは好評だったんですよね。

葉月:この曲も深いファンの間では、「LIGHTNING」より好評になるかもしれないですね(笑)。lynch.的には、非常に新しい曲だと思います。

●今まで以上の広がりを目指した「LIGHTNING」と、音楽的な新しさもある「THE MORNING GLOW」を組み合わせたことで、横軸と縦軸の両方で広がりが見えるシングルになっている気がします。

葉月:同じことをずっとやっていると、僕自身が飽きちゃうんですよ。だから、これからもどんどん変わっていくと思います。特に意識はしていないんですけど、“前にやったような気がするな”という曲はボツになっちゃうんです。どこかに新しさがないと、自分の中でOKのラインには届かないですね。

●広がりを意識した作品だけに、ツアーでの反応も楽しみなんじゃないですか?

葉月:「LIGHTNING」に関しては、ライブで活躍するのが目に浮かぶんですよね。実は9月のツアー後半戦で、「LIGHTNING」は先にやっていたんですよ。新曲なのでライブの中盤くらいでやっていたんですけど、どう考えても中盤でやる曲じゃなくて。ライブの頭かラストを飾るくらいの威力がある曲だから、そこがもどかしかったんです。でも次のツアーではやっと、やるべきところでやれるかなと。それによって威力も全然違うだろうし、その時にはファンの人たちも覚えているだろうから反応が楽しみですね。

●リリース後のツアーなので、ファンもちゃんとCDで予習してから来られる。

葉月:ライブでは歌詞も全部聞き取れるわけじゃないですからね。聞き取れたファンの中には「本当に感動しました」と言ってくれた人もいれば、「あんなわかりやすい歌詞を書いて大丈夫なんですか?」と心配してくれる人もいて。発売されれば、より様々な意見が出てくると思うから楽しみですね…ちょっと怖いけど(笑)。

●メッセージ性があるだけに、ちゃんと歌詞カードを見て欲しいという気持ちもあるのでは?

葉月:lynch.のファンって、あんまり歌詞に興味がなかったと思うんですよ。僕自身も興味がなかったくらいだから(笑)。歌詞カードをちゃんと見たことがない人もいるかもしれないけど、今回はぜひ見て欲しいですね。

Interview:IMAI

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