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lynch.

怒り、悲しみ、あらゆる感情を湛えた美しいメロディと深い詞世界が理想形への進化を予見する

lynch_APメロディと歌詞の伝わりやすさを強調したキラー・シングル『LIGHTNING』から、よりメロディアスに突き詰めたかのごときニューシングル『BALLAD』をlynch.が完成させた。怒りや悲しみといった感情をヘヴィでラウドなサウンドで表現するのではなく、美しいメロディと深い詞世界で伝えるという挑戦を見て取れる今作。幅を広げた楽曲と深みを増した音の威力は、さらに多くのリスナーの胸を撃ち抜くことだろう。3/2にはZepp DiverCity Tokyoでのワンマンライブにて、長期に渡った“THE FATAL EXPERIENCE”ツアーのクライマックスを迎える彼ら。だが、飽くなき進化欲求を抱く5人の求道者たちは、その先にある理想形すらも既に捕捉しようとしている。

lynch.・Vo.葉月 & Ba.明徳 SPECIAL INTERVIEW

●前作の『LIGHTNING』では周りの意見も取り入れて、より伝わりやすいものを作るという試みをしたわけですが、今作『BALLAD』もその延長線上にあるんですか?

葉月:いや、今回はもう好きなものを作ろうということだけでした。だから『LIGHTNING』の時みたいに他の人の意見を聞いてデモを何10パターンも作ったりしていなくて、今回は1パターンだけで。アレンジもおそらく最初から今の形だったんじゃないかな。自分の頭の中に明確なイメージがあったので、それをそのまま出した感じですね。『LIGHTNING』との共通点はメロディを大事にするというところだけなんですけど、2012年の下半期はその意識がずっとあったんです。

●『LIGHTNING』の頃から、メロディを大事にするというテーマが続いているんですね。

葉月:その当時はまだ“こういうことをやりたい”という明確なコンセプトが全然なかったんですよ。そこで今までやっていないことで何がやりたいかと考えたら、メロディで色んなことを表現したいというものが浮かんで。怒りみたいな激しい感情や悲しみも、シャウトや重いサウンドじゃなく全部メロディで表現してみようと。それで2012年の下半期はメロディ重視というテーマになったんです。…でも今作をもって、僕の中でその期間は終わったんですけどね(笑)。

●このシングル2枚で終了したと(笑)。2012年は実験の年だったとtwitterでもつぶやいていましたよね。

葉月:この『BALLAD』と『LIGHTNING』が実験そのものなんです。メロディアスな方向に振り切るというか。特に今回のカップリング曲「CRYSTALIZE」に関しては、極限までポップにしました。

●今までの流れで聴いていると、ビックリするくらいでした。メンバーとしては、どんな印象でしたか?

明徳:特に違和感もなく、“次はこういう感じなんだ”というだけでしたね。たぶん、他のみんなもそうだったと思います。新しいタイプの曲が来たとしても、“こういうアプローチで来るなら、自分はこうしてみよう”くらいの感じで対応できちゃうんですよ。いつも“何が来たとしてもやりますよ!”というくらいの気持ちではいます。

●葉月さんの振り幅の大きさがわかっているから、驚きはしないというか。

明徳:驚くことはないですね。でも2012年にはアルバム『INFERIORITY COMPLEX』もリリースしたんですけど、それと同じくらい強いものをこの2枚のシングルからは感じていて。もしかしたらこの2枚はアルバムよりも大きな存在かもしれないと最近思い始めました。

●それくらいのインパクトをこの2枚は持っている。先ほど葉月さんが言ったように、「CRYSTALIZE」が表題曲の「BALLAD」以上にポップな方向で振り切っているというのも大きな挑戦だったのでは?

葉月:『LIGHTNING』の時もカップリングには「THE MORNING GLOW」という割とポップな曲を収録していたから、さすがに『BALLAD』のカップリングでは歌モノじゃなくて一発うるさい曲をやったほうがいいんじゃないかという話もしていて。

●イメージが歌モノに偏りすぎるのを危惧していた?

葉月:実は「CRYSTALIZE」は次のアルバムに入れる予定だったんですよ。でも次作のイメージが日に日に固まってくる中で、“これは違うな”と思って。そこで次作の候補から外れたので、もう今しか出す時はないだろうと。せっかくメロディで勝負している時期だからということで今回のシングルに入れることになったんです。なのでアレンジでも激しいセクションを入れて変にバランスを取ろうともせず、思いっきりポップな方向に持って行ったという感じでした。

●いっそポップな方向に振り切ったと。

葉月:今までだったらどこかでもうちょっと凝ってみたりして、“こういう面だけじゃないんだよ”みたいな要素も入れていたと思うんです。だけど、それだとイメージがモヤっとするだけかなという気持ちがあって。もっと明確にわかりやすく出したほうがいいなということで勇気を出して、こういう形にしました。

●イメージを明確にするために、アレンジ面でもあえて色んな要素は入れなかったんですね。

明徳:「CRYSTALIZE」に関しては元々が4つ打ち系だから「電子音を入れまくって、ダブステップみたいにしちゃいますか?」と葉月さんに訊いたら、やっぱり「それだとモヤっとしちゃうよね」と言われて。

葉月:それは誰でも思い付くところだからね。

●他のバンドがやらないことをやるというか。

葉月:もう流行っちゃっているスタイルなら今の自分たちがやってもしょうがないし、そもそもダブステップの知識がそんなにあるわけでもないから。ハンパなものにはしたくなかったので、“じゃあ、もう生の音でやりましょう”という感じでした。

明徳:最終的にはライブで再現できるバンドサウンドにしようとなって。結果的にダンスナンバーっぽいけど、意外とロックナンバーにもなりましたね。

●この曲は歌詞の言葉がすごくストレートに伝わってくる印象がありました。

明徳:僕もこの曲は歌詞の発音がメチャクチャ良い気がします。歌詞カードを見なくても、言葉が全部わかるんですよ。

葉月:そこは自分でも気を付けて、矯正したんです。この曲の歌ではクセみたいなものを極力取り除いたので、言葉がはっきり聞こえすぎて自分としてはちょっと恥ずかしいですね(笑)。

●歌詞の内容自体は特に新しいものではない?

葉月:lynch.には、たまにこういう歌詞があるんですよ。女々しいというか、男のヘボいところを出しまくったような歌詞がたまにあって(笑)。この曲もその1つですね。

●別れた女性が夢に出てきてしまうというのは、男ならではの女々しさというか。

葉月:未練は全くないんですけどね。夢の中で当時良い感じだった頃のイメージがポンッと出てくるんです。それで起きた時に“ええー!? なんで今さら?”みたいな…ただそれだけの歌です(笑)。

●未練はないのになぜか夢に出てきたことに対して、不思議がっている感じ?

葉月:そのモヤっとした感じを出したかったというか。何の結末もないし、モヤッとしたまま終わるんですけど…ただのひとりごとです(笑)。

●何か伝えたいことがあるわけでもない?

葉月:この歌詞は僕が書きたかったことの1つなんですけど、今のところはあまり共感を得られていなくて(笑)。誰しもこういう経験があると思うんですけどね…。意外と、みんなには「ない」って言われるんですよ。

●明徳さんも共感できないんですか?

明徳:んー、僕は結構すぐに忘れちゃう人なので…。

葉月:いや、別に引きずっているわけじゃないから(笑)。

●忘れたはずの相手が夢に突然出てきた理由がわからなくて、モヤモヤした気持ちになっているわけですよね。そういう経験もない…?

明徳:全然ないっす。

一同:(爆笑)。

●という感じで(笑)、「CRYSTALIZE」が恋愛の記憶に関する歌詞なのに対して、「BALLAD」はもっと普遍的な“愛”がテーマなのかなと思いました。

葉月:実はこの曲で言いたいことが何なのかというのが、自分でも最初はよくわかっていなくて。何度も聴いたりして考えている内にだんだんわかってきたんです。大きなテーマとしては“孤独”というものがあって、最初は“人は1人で生まれてきて、1人で死んでいくんだよ”というだけの歌だったんですよ。でもそれだと自分で読んでいてもつまらないなと。

●そこから歌詞を変えたんですか?

葉月:一番最後に自分の純粋な気持ちとして、“それでも僕は人が好きだよ。信じたいし、人を愛している”ということを付け足しました。結局、何が言いたいのかというと、自分の考え方次第で何でも変えられるんじゃないかということで。“人は1人で生まれてきて、1人で死んでいく”という絶対的な事実に対しても、そういうものも全て“自分の考え方次第で覆せるんじゃないの?”っていうことに最近気付いたんですよ。変なたとえをすると、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「つけまつける」という曲があって…。

●なんで急に、きゃりーぱみゅぱみゅが(笑)。

葉月:“つけま(つけまつ毛)を付けることによって、自分の見える世界も変わる”っていう内容なんですけど、これが実は良い歌なんですよ。ある意味で、それと一緒のことを歌っています(笑)。

明徳:僕もこの曲は歌詞の内容を聞いた時に、“なるほどー!”と思って。

●きゃりーぱみゅぱみゅのたとえを聞いて?

明徳:いや、それは今日初めて聞きました(笑)。それまでは何となく普遍的な愛の話だなと思っていたんですけど、歌詞の内容を聞いてから僕はこの歌がすごく好きになったんです。あと、この曲はブレスから始まるんですけど、そこにも何か感じるものがあって。

葉月:あれは作りものじゃなくて、本気のブレスだからね。この曲のブレスはあんまりきれいに息が吸えていないんですけど、それをあえてそのまま使っているので逆に説得力が出ているんじゃないかなと。

●生々しさやリアルな感じがある。

葉月:普通だったら録り直すところを、僕の中でも何か引っかかるところがあったのでこのまま使おうとなったんです。イビツな感じが本物っぽくて、逆に良かったんでしょうね。人間らしいというか。

明徳:最初は自分でも何だかよくわからなかったんですよ。iTunesで色んな曲を聴いている時に「BALLAD」が急に流れてきて、メチャクチャ生々しいなと感じて。ピアノと歌で始まるからかなと最初は思っていたら、(原因は)ブレスだったんですよね。ブレス始まりなことによって、急にリアルで生々しい雰囲気になる。

葉月:…まぁ、「CRYSTALIZE」もブレス始まりなんだけどね。

一同:(笑)。

●特に「BALLAD」のブレスは生々しかったと。

明徳:あと、「BALLAD」はすごく聴きやすくてキャッチーなんですけど、意外とスルメっぽいところもあって。何回か聴いている内により良さが出てくるんですよ。みんな別に特殊なことをやっているわけでもないのに、今回は音にすごく深みがあるんです。そこはエンジニアさんの力も大きいと思うんですけど。

●今回のミックスを担当した比留間 整さんはLUNA SEAやBUCK-TICKでの仕事で有名な方ですよね。

葉月:やっぱり全然違いましたね。ラフミックスの段階でも結構良い感じだったんですけど、そこからすごく変貌して返ってきたので初めて聴いた時は笑っちゃいました(笑)。最初は“やれるものならやってみろ”くらいの気持ちで渡したと思うんですよ。…その結果、“あ〜、やられた!”と。でもその道のプロに手がけてもらうからには本来、そういうものであって欲しいんです。今回は自分の理想を初めて超えてきた感じがしました。

明徳:本当に深みが出たと思います。

●ちなみに「BALLAD」はタイトル通り、最初からバラードを意識して作ったんですか?

葉月:そういうことではないですね。元々は曲ができた時に、仮タイトルとして「BALLAD」と付けていて。歌の印象が強かったので何となく付けたんですけど、最終的にそれを超える言葉が出てこなかったので、そのまま本タイトルに昇格した感じです。

●これもtwitterでつぶやかれていましたが、lynch.の仮タイトルはかなり雑だとか…。

葉月:基本的に仮タイトルはヒドいんです。過去には「アホ」っていう曲までありましたからね(笑)。「アホ」は「ANIMA」(『INFERIORITY COMPLEX』収録)のことなんですけど、アホみたいな曲だったからという理由で。制作中はずっとそのタイトルで呼ぶので、あまりにも変な仮タイトルにするとそのイメージが付きすぎちゃって良くないなと最近は思っています。

●変なタイトルのイメージに引っ張られそうですよね。

葉月:「ANIMA」っていうタイトルも、「アホ」を引きずっている感じがしますからね。どっちも“A”から始まるっていう(笑)。

明徳:そういう中でも仮タイトルの段階で「BALLAD」というタイトルが付いていたというのは相当な想いを込めて作っていたんだなと今、再認識しました。

葉月:…そうでもないけどね。

明徳:えぇ〜(笑)。

●それはさておき(笑)、葉月さんは今作のリリース後に予定されている3/2のZepp DiverCity Tokyoでのワンマンライブをバンドにとって、1つの区切りと位置づけているそうですが。

葉月:少なくとも僕はそう考えていますね。今、明確にやりたいことが自分の中にあって。既に新曲もかなりできているんですけど、今までとは全然違う感じがするんです。僕自身が持ってきた曲も全然違うし、今後は僕以外のメンバーも曲を持ってくるようになるんですよ。そういうところもあって、自分の中では1回生まれ変わりたいなという意識があるんです。

●その区切りが3/2のライブだと。

葉月:メンバーが増えるとか減るとかではないんですけど、意識の問題として僕の中ではそこで今までのlynch.は1回終わりにしたいんです。次からは作曲形態の違いも含めて、スピリットの部分も変わると思うから、今までのlynch.とは区切りたいんですよ。言い方が難しいですが、たぶん音を聴いてもらえばわかると思います。

●そのくらい変化を感じられるものになっている?

葉月:そうなっていると思います。もう余計なことを考えるのは一切やめようと思って。たとえば“これはもっとこうしたほうが受け入れられるんだろうか?”とか“こうしたほうが何かと都合が良いのかな?”っていうものを一切排除して、本当に自己満足からスタートさせようと思っているんです。最終的にそれをいかに自己満足じゃないものに昇華させるかは後で考えればいいから、曲を作る段階で余計なことを考えるのはやめようと。

●まずは自分たちのやりたいことを素直に形にするというところから、意識を変えていく。

明徳:僕らはすごく変えていこうと思っているし、メンバーみんなが曲を作ったりするというところでも実際に変わってきていて。でもファンの人たちからしたら、たぶん“このlynch.を待っていたんだよ!”というものになると思います。

葉月:『INFERIORITY COMPLEX』とこの2枚のシングルを出してきた中で自分の思うlynch.像もあるし、世間がlynch.というバンドに対して求めているものというのも感じているんですよ。その“lynch.って、こういうものだよね”というイメージをより高い次元で、次は具現化させたいんです。それを念頭に置いてやっているので、ファンの人からしたら本当に“これを待っていたんだ”というものにはなると思います。“ええー!”とはならないし、良い意味で裏切らないですね。

●みんなが求める理想のlynch.像に近付いている。

葉月:と、僕は思いますね。こういうものを自分はやるべきなのかなというふうにも感じていて。…あんまり深く話すと色々バレちゃうので、今日はこのくらいにしておきます(笑)。

Interview:IMAI

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