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漆黒のオーラを身に纏った5人が新たな戦いの始まりに闇を突き立てる

lynch_中面mainlynch.というバンドは今、さらなる高みへと到達しようとしているのかもしれない。2012年から13年にかけての長期にわたって敢行してきた全国ツアー“THE FATAL EXPERIENCE”。そのファイナルとなる3/2のZepp DiverCity Tokyoのライブを、彼らはバンドとして1つの区切りと位置づけていた。そして過去最高のパフォーマンスを見せつけてツアーを締めくくった次の一手として、リリースされるのが今回の『EXODUS-EP』だ。メンバー全員が作曲に取り組むという新たな挑戦も含めて、制作に全精力を注ぎ込み完成させた今作。ここにはバンドが当初持っていた凶悪なほどに魅惑的な“ダークネス”が満ち満ちている。数多の苦行を経て自らの幹をより強靭なものとした今、広がりを志向するためにあえて封印していた武器を彼らは再び手に取った。5人が身に纏う漆黒のオーラは鋭く尖った切っ先で、広大な世界へと通じる扉を叩き斬っていく。

Vo.葉月・1万字インタヴュー#1

「“ヴィジュアル系というシーンから脱却して、もっと広いところに行きたい”とメイクを落としたり普通の服にしたりしたけど、今ここで思い切ってこういう姿に戻してみることでやっとそこから脱却できたような気もしているのが面白いなと」

●今年3/2のZepp DiverCity Tokyoのライブをバンドとして1つの区切りと位置づけられていたわけですが、そういうものになった実感はありますか?

葉月:ライブの内容云々というのは関係なく、そこで区切りを付けたという実感はあります。ライブが終わった時に「やっと終わった」と思って、ホッとしていたのは覚えていて。「やっと次に向けて動けるんだな」という安堵感というか、そこでわずらわしさが消えたところはありますね。

●わずらわしさを感じていた?

葉月:わずらわしい期間が3ヶ月間ほどあったんです。2012年というのは僕にとって模索の年だったんですけど、「どうしたらlynch.がもっと良くなるのか?」ということを色々と実験しながら考えていて。年末の12月に『BALLAD』を録り終えてから、「次はこうしたい」というものが明確に現れてきたんですよ。そこから3月のZeppまでの3ヶ月間は「次に行きたい場所が決まっているんだけど、その前に区切りを付けておかないといけない」というところでのもどかしさがあって…。だから「やっと終わった…」という想いはありましたね。

●マインド的にはもう次に向かっているところを我慢していたわけですね。その年末に見えていたものが、今回の『EXODUS-EP』につながる方向性だったんですか?

葉月:そうです。『BALLAD』を録り終わった後すぐに、曲もでき始めていて。「自分たちがどうあるべきか?」ということを考えた時に、lynch.って“ダークさ”というものを結成当初は持っていたな…と。それはヴィジュアル系というところから始まっているのでごく自然なことなんですけど、長年やってくるにつれて「そういうところから脱却したい」「もっと色んな人に伝えたい」というところでどんどん“普通”になっていったんですよ。

●“普通”になったというのは?

葉月:ハードなのは変わらないんだけどダークではなく、基本Tシャツ・ジーパンというスタイルでやっていたんです。でも「それは果たしてlynch.にとってベストなのか?」というのを自分自身で考えた時があって。やっぱりバンドって、「こうであって欲しい」という需要があると思うんですよ。たとえばSlipknotのコリィ・テイラーにはマスクをかぶっていて欲しいし、The Birthdayのチバユウスケさんにはスーツを着ていて欲しいわけで。そこで「lynch.はTシャツ・ジーパンなのか?」と考えたらそうじゃなくて、「やっぱり黒くビシっと決めてメイクもして“ダークネス”というものを武器にするべきバンドなんじゃないか」と自分で思った。「じゃあ、やってみよう」というところで『EXODUS-EP』に向けて動き出したのが、去年の12月頃でしたね。

●それって、ある意味ではバンドの出発地点に立ち返るようなことじゃないですか?

葉月:同じようなことなんですけど、真逆で。元々は「ヴィジュアル系というシーンの中で、激しい音楽をやるバンドを目指す」というところから、今は「激しい音楽をやるバンドとして、ダークな世界観を武器にしたい」になった。そういうふうに、時が経つにつれて真逆になったというか。「ヴィジュアル系というシーンから脱却して、もっと広いところに行きたい」とメイクを落としたり普通の服にしたりしたけど、今ここで思い切ってこういう姿に戻してみることでやっとそこから脱却できたような気もしているのが面白いなと。やっと個性の強いロックバンドとして生まれ変わることができたのかなっていうところで、何かすごくスッキリしていますね。

●7月からの“TOUR’13「THE NITE BEFORE EXODUS」”のライブ会場限定で販売されているシングル『ANATHEMA』には、「I'm sick, b'cuz luv u. (Re-Recording)」が収録されていて。この曲の「今でも 其処には見たこともない景色が広がり 脈を打つ 今なら 此処から飛び立てるだろうか」という歌詞が、今おっしゃられたことに通じる気がするんです。昔から見えていた理想の景色なんだけど、やっと今ならそこに向かって飛び立てるかもしれないと思ったから、このタイミングでこの曲を再録したんじゃないか…と。

葉月:それは…アレですね…偶然です(笑)。

●ハハハ(笑)。深読みでしたか(笑)。

葉月:その通りだったら美しいんですけど、偶然です(笑)。確かに6年前の曲とはいえ今でも全然通用するものだと思っていますし、ライブでも定番の曲で。でもあの時に録ったものというのは求めているレベルに至っていなくて、今聴くと音質的にどうしても「う〜ん…」となってしまうところもあったので、ずっと録り直したいなと思っていたんですよ。それで単純に録り直しただけではあるんですけど、あの時に目指していた録音のクオリティにやっと今回到達できたというところは確かにあって。そう考えると「今なら〜」という歌詞とリンクしているとの見方は面白いですね。

●結成当初から見ていたビジョンはブレていないし、それを今ようやく具現化できるようになったということなのかなと。

葉月:そこに向かって今までずっとウロチョロと模索してきましたけど、やっとドシッと座れたみたいなところはありますね。

●『ANATHEMA』をリリース前のツアーで先に出すというのは、今作につなげる意味合いもあってのことでしょうか?

葉月:単純に「会場限定の音源を久しぶりに出してみたら面白いんじゃないか」というところから始まっているんですけど、「I'm sick, b'cuz luv u.」は『EXODUS-EP』に入れるわけにはいかないなと思って。ちょうど録り直したいし、「じゃあ、会場限定で出そう」ということでした。カップリングの「HIDDEN」は『EXODUS-EP』用の曲だったんですけど、流れ的にそっちに入るのはベストではなかったので。

●『EXODUS-EP』の流れにはハマらない楽曲だった。

葉月:曲のクオリティどうこうではなく、作品の流れ的な問題で『ANATHEMA』に入ったというだけですね。でもライブに来るのは激しいものを求めている人たちだろうし、結果的にそういう人にはピッタリのCDになっちゃったなと(笑)。あと、「lynch.は生まれ変わります。今度はこういう感じになりますよ」というのがものすごくわかりやすい形になっているので非常に良いなと思っています。

●特に「HIDDEN」は今作を意図して作ったものだから、近い雰囲気が出ているんでしょうね。

葉月:たとえるなら全く同じ畑から穫れたもので、売っているところが違うというだけですからね。

●ちなみにタイトルの『ANATHEMA(アナセマ)』は聞いたことのない言葉だったので調べてみたんですが、カトリックの用語で「破門」という意味なんですよね?

葉月:「破門」とか「呪い」という意味らしいんですけど、深い意味は全然ないですよ(笑)。

●そうなんだ(笑)。単に響きから?

葉月:「メタル的な言葉や悪魔的な雰囲気の言葉はないかな?」ということを言っていて。最初は『オーメン(OMEN)』だったんですけど「それはあまりにも…」というところで、別の言葉を探していたら『ANATHEMA』という言葉が出てきたんです。読み方も色んな人に訊いたんですけどよくわからなくて、とりあえず僕たちは『アナセマ』と呼んでいます。…だから、意味はないです(笑)。

●メタルや悪魔的な雰囲気のある言葉にしたかっただけだと(笑)。

葉月:匂い的な部分だけですね。そういう匂いや雰囲気はタイトルからも出したいので、良いんじゃないかなと。

●今回の『EXODUS』は「出国」という意味なので2作のタイトルを続けると、「破門されて出国する」という何とも意味深な感じに…。

葉月:「あれ、インディーに戻るのかな?」みたいな(笑)。

●そういう深読みもしちゃいますよね(笑)。『EXODUS-EP』のほうもそういった雰囲気で選んだんですか?

葉月:『EXODUS』のほうはちゃんと意味があります(笑)。タイトルを決める以前に今回のテーマとして、この言葉をメンバーに伝えていたんですよ。今回は「模索中で定まらなかった今までの自分たちや、僕らに対する固定観念みたいなものから抜け出して生まれ変わりたい」というコンセプトがあったので、別に『REBORN』とかでも良かったんでしょうけど。『EXODUS』のほうが響き的にも字面的にも良くて気に入ったし、意味的にも良いので「これをコンセプトで」ということで提示しておいたら、それがそのまま作品のタイトルになっちゃったという…(笑)。

 

Vo.葉月・1万字インタヴュー#2

「もう“誰が作ったから”というのは関係なしで、“作品に合うものでクオリティの高いものをただ選びます”っていう話だったので。ひょっとしたら僕の曲が1曲もなくなるかもしれなかったし、どうなるかはわからなかった」

●去年の年末の時点でもう今作の世界観や曲調といった具体的なイメージまで見えていたんでしょうか?

葉月:そうですね。ちょうどそのくらいの時期に、M-1「EXODUS」ができたんですよ。「あ、この感じね」と自分で思って、そこから広げていったというか。その曲を元に、他の楽曲も考えられるようになったんです。

●タイトル曲がそのまま出発点になっていると。確かに歌詞にも「影落とし 闇を突き立てる」というダークな世界観が描かれています。

葉月:とにかく“ダークネス”というメインテーマがあって。ダークでヘヴィでハードなものっていうか。

●メジャー2ndアルバムの『INFERIORITY COMPLEX』も攻撃性を強調した作品でしたが、それに加えて今作ではダークさが増しているのが違いなのかなと。

葉月:あの時は「速くて激しくてメロディアスなものを」ということだったんですけど、そこは今も変わらなくて。それに付随して“ダークさ”というものが新しく入ってきた感じですね。今まではそこを負い目みたいに感じて、抜いてしまおうとしていたところがあったんですよ。「ヴィジュアル系特有の歌詞みたいなのはもう卒業しなきゃな」という部分もあったんですけど、「いや、卒業しなくていいよ」って思えるようになった。「自分にしか書けないものを書こう」っていうところから、そこを武器に変えられた感じかな。

●自分で勝手に負い目だと感じていたものを、逆に今度は武器にしてしまったというか。

葉月:日本のロックシーンでここまでダークネスな世界観をガッと前に出しているバンドはそんなにいないですし、「これは武器にするべきだ」というところであえて取り入れた感じですね。

●M-6「NIGHT」の「あの時かざした黒塗りの旗を もう一度翳してみようか」という歌詞は、結成当初のダークな世界観を再び押し出していくという意思表明のように思えます。

葉月:これって実は、インディー時代の代表曲「Adore」の歌詞(「その手で黒く塗り変えた旗翳せ」)をほぼそのまま引用していて。どちらの曲も僕たちとファンの人たちとの絆みたいなものを歌った曲だから、あえてここでもう一度その言葉を使ってみたんです。ハッとさせたいところもありましたし、ちょっと遊んだところはありますね。

●ずっと聴いているファンの人にはわかる遊び心というか。

葉月:長いファンの人は「おやっ?」と思うんじゃないかな。

●「NIGHT」もそうですが、今回はすごくライブで盛り上がりそうな曲が多いですよね。

葉月:はい。ライブは大変ですけどね…シャウトが多すぎて、ヘトヘトになっちゃう(笑)。今までよりも、明らかにシャウトの比率が高いから。

●シャウトの比率が高くなったのは、曲がそういう感じだったから?

葉月:そういうものを欲していたし、やるべきだと思ったものがそれだったという感じですね。自分でも面白いなと思ったのが、M-2「ASHES」は歌ものを作ろうと思って作り始めた曲なのにシャウトが多すぎだろうっていう(笑)。「また不思議な融合の仕方が始まっているな」という感覚が自分の中であって。この曲の場合はもうシャウトをシャウトとして見ていないというか、歌メロの一環としてその手法を取り入れているみたいなところがあるんです。そういう意味で、新しいタイプの1曲かなと思っています。

●新しいシャウトパートの取り入れ方をできた曲なんですね。

葉月:何の違和感もなく「ここはシャウトだろうな」ということで進んでいったんですけど、後で思えば「すごく入り組んでいるな」と。「HIDDEN」もそうなんですけど、(メロディとシャウトの)境目がないというか。より高い次元で融合させられている気がして…好きです(笑)。

●逆に今作で最もメロディが強く押し出されているのが、M-4「BE STRONG」なわけですが。

葉月:これは僕の曲じゃないんですよ。G.悠介くんが作った曲なんですけど、斬新ですよね。

●今回からは全員が作曲を始めたということですが、悠介さんの曲が唯一採用された理由というのは?

葉月:単純に「良いな」と思ったからですね。もう「誰が作ったから」というのは関係なしで、「作品に合うものでクオリティの高いものをただ選びます」っていう話だったので。ひょっとしたら僕の曲が1曲もなくなるかもしれなかったし、どうなるかはわからなかったんですけど、結果的にこういう感じになって。

●「BE STRONG」は今作の世界観に合っていたということ?

葉月:「“逆に”合うよね」という話をしていて。悠介くんは「激しいアルバムなのに、大丈夫なの?」と言っていて、自信がなさそうだったんですけど(笑)。「いやいや、逆にこれが良いんだよ。真逆すぎて」っていうことで入れました。

●今作の中で一際メロディアスというところが逆に良かった。

葉月:そうですね。「逆に激しい」みたいなところがあって。静かな曲調の中にも“内なる何か”みたいなものが感じられたので。

●今回は最初にテーマを伝えていたわけなので、悠介さんの中ではそれを意識しながら「BE STRONG」を作ったということになりますよね?

葉月:あの人はたぶん、そんなに考えていなかったと思います。「いいの!? 浮かない?」とか言っていましたから。考えて作ってきていたら、そんなことは言わない(笑)。

●ハハハ(笑)。最初にこの曲を聴いた時はどんな印象でしたか?

葉月:聴いたことのない感じのメロディだなとは思いましたね。自分の中からは絶対に出てこないものというか。「曲調に対して細かいメロディだな〜」と思いましたけど、それが面白いのでそのまま採用して歌詞を乗せただけの形になっています。

●今回はこの曲だけが全て日本語詞になっているわけですが。

葉月:これは絶対に日本語のほうが合うと思ったので、そうしました。

●今回の曲名はどれもシンプルな言葉が多いですけど、その中でも「BE STRONG」というのは一際ストレートですよね。

葉月:これには理由があって。実はP.T.P.(Pay money To my Pain)のVo.Kくんに向けて書いた曲なんですけど、彼の首元に「BE STRONG」というタトゥーが入っていたんですよ。

●昨年12月に急逝したKさんにあてた曲だったんですね。

葉月:歌詞の内容的にも「BE STRONG」というタイトルがすごくマッチするというか、「強く生きたい」っていうところでこれしかないなと。曲調からしたら「BE STRONG」というタイトルは真逆というか、ストロングな感じは全然ないんですけどね。メンバーに嫌がられるかなとも思ったんですけど、何も反対されなかったのでそのまま採用になりました。
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Vo.葉月・1万字インタヴュー#3

「言ってしまえば、(その時の)夢はもう叶っているんですよ。叶ってはいるんだけど、もっと高いところを見た時に今は“変に目標を定めるよりも行けるところまで行きたい”という感覚になっていますね」

●曲名で言うと、M-5「INVINCIBLE」という言葉も初めて聴きました。

葉月:これは「無敵」っていう意味ですね。歌詞の中に“an invincible force”という言葉が出てくるので、そこから取りました。

●この曲の歌詞にも最近の心境が表れているのかなと。

葉月:そうですね。とにかく最近は強いバンドが現れまくっているから、その中でも最強になりたいっていう気持ちがあるんですよ。昔はもっと細かい夢をいっぱい持っていて「憧れの人に会いたい」とか「デカい会場でやりたい」とかだったんですけど、最近とある先輩からすごく良いお話を聞いて。「日本武道館でやりたいと言っている人はおそらく武道館には立てないよ。東京ドームを目指すくらいの力がないと、おそらく武道館には辿り着けない」っていう。目標のさらに1つ上に行くくらいの夢見る力を持っていないと、そこには到底辿り着けないという話をされて「なるほど」と思ったんです。

●そこで考え方が変わったんですか?

葉月:僕は「武道館でやりたい」とずっと言っていたから、このままだと武道館ではできないなっていうところで「どうしようか?」と。「じゃあ、目標を東京ドームにしよう」っていうアホみたいな話じゃなくて(笑)、そういう細かいことはもう考えず「人類最強になりたい」っていう…これもアホみたいな考えなんですけど(笑)。たとえば「日本人は外タレには勝てないから、日本人なりに頑張ろう」とかじゃなくて「外タレにも勝とうっていうくらい努力すればいいんじゃない?」っていうふうに、その言葉を聞いてから切り替わったんですよね。歳を重ねるにつれて努力自体も楽しくなってきて、最近は貪欲であることがすごく楽しいんです。そういうこともありつつ書いた歌詞ですね。

●その先輩の言葉が大きかったと。

葉月:それはすごく響きましたね。

●元々、バンドを始めた当初から何らかの夢を抱いてはいたんですか?

葉月:そうですね。僕は黒夢の清春さんに憧れていたので、ライブでギャーギャー叫んでいる奇抜な人になりたかったんですよ。そのためには歌を練習しなくてはいけないから「イヤだなー」と思っていて。…歌が嫌いだったんです。

●えっ、そうなんですか!?

葉月:カラオケとかも大嫌いだったんですけど、それがキッカケで歌の練習を始めたんです。だから言ってしまえば、(その時の)夢はもう叶っているんですよ。「お客さんの前で激しいライブをやって、それで食っていきたい」というのが夢だったので。叶ってはいるんだけど、もっと高いところを見た時に今は「変に目標を定めるよりも行けるところまで行きたい」という感覚になっていますね。

●そういう貪欲さがあるから、進化していける。

葉月:結局、夢を叶えた時にはそのさらに先へと夢が移動してしまっているというか。それの連続だし、だったら最初から未知のところを目指そうかなと。目標として具体的な何かを持つのはすごく良いことですけどね。

●かといって、作品ごとに明確な目標を設定していたりはしない?

葉月:そういうのはあんまりないですね。その時のことしか僕はいつも考えていないので(笑)。「いずれはこうなって〜」とかは全然考えていないです。

●作品ごとに最高傑作を更新していくという姿勢が、lynch.には近いのかなと。

葉月:そればっかりですね。本当に計画性が全くない(笑)。

●ハハハ(笑)。ちなみに、今作の制作期間はどのくらいだったんですか?

葉月:作曲から考えれば、半年くらいですかね。年末から始めて、6月には録り終わっていましたから。

●そういえば2月号での『BALLAD』のインタビューでは、もう次のことを話しそうになっていましたよね(笑)。

葉月:あの時がもどかしい期間の真っ最中でした(笑)。もう『EXODUS-EP』のことで頭がいっぱいなのに、『BALLAD』のことを話さなくちゃいけないっていう…つらい期間でした。

●そういう意味では、7月から既に始まっている“TOUR’13「THE NITE BEFORE EXODUS」”は完全に今のマインドで臨めている?

葉月:そうですね。もうメイクもしっかりして黒い衣装を着ているので、見せ方も今までと全然違うと思うんですよ。僕の意識的にも元々得意なものというか本来の姿なので、今のライブ中は自信に満ち溢れていますね。「久しぶりだな、この感覚」っていう。

●余計な雑念から解き放たれた状態にいる。

葉月:やっぱり「ヴィジュアル系の外に出たい」と思い出してからはずっと何かに向かってもがいている感じで、余裕がなかったというか。良く言えばトライし続けている状態だったんですけど、今は「強くてニューゲーム」みたいな状況にいて(笑)。それを武器として提示できれば最高だし、そうしなきゃいけないんです。「こうやっときゃいいだろう」みたいな“鎧”としてそういうメイクや衣装を取り入れるのはNGなんですけど、“武器”として元々得意だったものを取り入れているので自分としてもすごく心強い感じはあります。

●しかも今のlynch.のメイクや衣装は、一般的にイメージする“ヴィジュアル系”というものとは違う気が…。

葉月:そうなんですけど、そこを主張し始めると「そもそもヴィジュアル系とは何なのか?」みたいな深い話に入っていってしまうので…(笑)。そもそも“ヴィジュアル系”って、「俺たちは他とは違うんだぜ」ということを主張したくて着飾ったり奇抜なメイクをしていた人たちが総称してそう呼ばれるようになったんですよね。でも今は「そのシーンに入りたいです!」という感じでバンドを始めて、「僕たちはヴィジュアル系をやりたいんです」という人が多いから。「それって、もう“ヴィジュアル系”じゃないよな?」と思うところがあって。

●“ヴィジュアル系”のファッションに憧れて、それを真似ているだけというか。

葉月:僕らはやっぱりそうはなりたくないっていうところで、メイクや衣装もあくまで“鎧”ではなく、他にはない“武器”として取り入れなきゃいけないと思っているんです。本当にそういう気持ちでやっていますね。

●それはそれとして自分たちできちんと築き上げてきたものだから、隠す必要もないというか。

葉月:そうですね。今になって、それに気付きました。これまでは逆に、今の自分たちが闘うべき相手だと思っているバンドたちに合わせている状態になってしまっていたなと。やっと今、他とは違う自分たちの個性を打ち出せたかなと思っているんですよ。「lynch.ってこうだよね」というものが、やっと出せた気がします。

●ファンが望むlynch.の姿になれている。

葉月:昔からのファンの人たちには「黒い格好をして、邪悪な感じであって欲しい」というのがあると思うから。その需要というのは僕としても全然アリだし、あえてそこを自分たちで体現したいというか。そうしてもいいんじゃないかと思えたんですよ。

●12月に予定されているZeppツアーのタイトルを“TOUR’13「THE BLACKEST NIGHTMARE」”としたのも、そういう黒いイメージにこだわってのこと?

葉月:これは「NIGHT」の中にある“the blackest night”という歌詞から取ったんですけど、そういうイメージを大事にしたいなという想いもありましたね。

●今後もより“黒”のイメージを前面に押し出していくんでしょうか?

葉月:やっぱり、そうしたいですね。わかりやすくありたいというか。もうちょっと僕らの幹みたいな部分を太くしたいんですよ。やっとその種がまかれた状態が今回の『EXODUS-EP』なわけで、その次に出るであろうフルアルバムではバンドの幹となるものを作れたらいいなと思っていて。それまではガッツリ、このイメージでキメて行きたい。今回でやっと掴んだ感じがあるので、ここからもっと広げようかなっていう。もっとできることはあると思うので、より深く、より質の高いものを突き詰めていければいいなと思っています。

Interview:IMAI

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