音楽メディア・フリーマガジン

lynch.

究極的に研ぎ澄まされた彼らの攻撃性は タブーさえ破壊する爆発的な進化を生む

新宿歌舞伎町のど真ん中でライブパフォーマンスを行うという、ド派手なメジャーデビューから1年。

今年3/3には初のZepp Tokyoワンマンを成功させるなど、lynch.はその間にもさらなるスケールアップを果たしてきた。

そんな彼らにとってメジャー第2弾にして通算6枚目となるニューアルバム『INFERIORITY COMPLEX』が、6/6にリリースされる。世間の風潮に迎合することなく、自らの牙を研ぎ澄ますことで支持を広げている彼ら。

その経験と自信に裏打ちされるかのように今作は、過去最高の激しさを誇った前作『I BELIEVE IN ME』すら遥かに上回る鋭いエッジとスピード感に満ちている。

lynch.史上最速にして最もメロディック、そして最もハードな作品に仕上がった新作。さあ、この音に身を委ね、打ちのめされるがいい。

#Interview

「やる前からタブーだと言ってしまうのは違うかなと。自分たちの中だけで実験することに関してはタブーを作らない方が、発想が色んなところに飛べるんですよね。新しいものを生み出すって、きっとそういうことだと思う」

●今年3月に行った初のZepp Tokyoでのワンマンはいかがでしたか?

葉月:1曲目が始まった時に、目の前の景色が凄すぎて笑ったのは初めてでしたね。思わず明徳の方を見て、「これ、ヤバくない?」と素で言ってしまいました(笑)。

●ハハハ(笑)。過去最大規模だったんですよね。

葉月:イベントで出たことはあったんですけど、ワンマンだとまるで景色が違うのにはビックリしました。

明徳:ステージ上にベース台があって、周りより少し高くなっていたんですよ。だから余計に景色が凄くて、"ここから降りたくない"と思いました(笑)。絶景過ぎて、ずっと見ていたかったです。

●緊張するよりも、気分がアガったというか。

悠介:思ったほど緊張せず、最初から最後までライブができましたね。以前にイベントで出た時は"広いな"と感じたんですけど、今回のワンマンでは昔の印象と全然違ったので自分でも"あれ?"と思って。それはバンドで積み重ねてきたものがあるからなのかなと。

●自分たちの進化を感じる部分もあった。

悠介:広い場所でやっている割にはお客さんとの距離感も全然感じなかったし、やっていて不思議でしたね。もう1回と言わず、何回でもここに立ちたいなという気持ちにもなってきて。今度はZeppツアーをやりたいなというくらいの気持ちになっています。

玲央:ライブ自体も凄く良かったし、ステージに出ていった時の歓声も凄く嬉しかったんですけど、もっと先に向かう欲のほうが大きくなっちゃったというか。「絶景だな」と思いながらも冷静にライブを進められたのは、これまでライブの数をこなしてきたからで。自信が付いた分、自ずと景色は変わっていなきゃいけないし、"あの頃"のままじゃいけないという責任感もある。そういうふうに今の自分たち自身を把握する上でも、凄く良いライブだったと思います。

●これまで数多くのライブをこなしてきた経験があってこそ、冷静に向き合えたわけですね。

玲央:最近は特に、会場や歓声の大きさに左右されないようにしないといけないなと感じていて。去年1年のツアーを通して色んな規模のライブハウスをまわった時、観に来てくれた1人1人の気持ちは変わらないのに、自分がそこに左右されてしまうのはおかしな話だなという気持ちが明確になったんです。お客さんが1人でも1千人でも1万人でも冷静にやれるように、自分をコントロールできるようになってきたのかな。

晁直:自分も、お客さんの数に惑わされることはなかったですね。全景が見えるのは入退場の時だけで、ドラムに座ってしまったらずっと景色は変わらないから。曲の進行を担っている分、そっちのほうが気がかりで景色に左右されることなく落ち着いてできたと思います。

●以前のインタビューで葉月さんは「お客さんにもっと自由にしてほしい」と話されていましたが、その変化も感じられましたか?

葉月:そこはいきなり変わるような部分ではないんですけど、徐々に良くなってきているとは思います。最近は自由に楽しんでいる人がどんどん増えてきたように感じていて。Zepp Tokyoの時もライブが始まったら、相当な数のお客さんが前に押し寄せていましたからね。"みんな、わかっているな"と思いました(笑)。

明徳:会場は広かったんですけど、全員の顔がすごくハッキリ見えたんですよ。みんなが良い顔をしているのが凄く伝わってきましたね。

玲央:フロアの距離感もなくなってきているし、僕らとオーディエンス、そしてオーディエンス同士の信頼感が形に表れてきているんだと思います。同じものが好きな人間がそこに集まっているわけで、そこに理由や遠慮はいらないんじゃないかなと。

●メジャーデビューから1年が過ぎた今だから感じられる成果もあるのでは?

葉月:今のところ、悪いことは1つもないですね。あと、やっと追いつけてきたかなと思っていて。インディーの時に比べて、あらゆる物事の進行するスピードがメチャクチャ速いので最初は正直、ついていくのが大変だったんです。でも今はもう予測を立てて動けるようになってきたので、モノにできている感じはしていて。

●最初は環境の違いに戸惑う部分もあったんですね。

葉月:それこそインディーの時はリリースしても取材は3~4本くらいだったのが、『I BELIEVE IN ME』ではラジオとかも含めるといきなり50本を超えたわけですからね。最初は目が回るような感じでした(笑)。でも今は予測が立っているので心の準備もできるし、内容はより濃くなっているんじゃないかと思います。

●より濃くなっているというのは、作品にも言えることですよね。今作『INFERIORITY COMPLEX』は過去最高に激しい作品だった前作の方向性を、さらに突き詰めた感じがしました。

葉月:その通りですね。今回はパッと聴いただけで、どういうバンドかわかる作品にしたかったんです。自分の中では、『I BELIEVE IN ME』はちょっと広すぎたかなと思っていて。それが良いとか悪いとかじゃなくて、もう少し幅を狭くすることでわかりやすくしてもいいのかなと。より音に焦点を合わせるというか。激しくて、メロディが美しい上で、『I BELIEVE IN ME』でも目指したスピード感というものに焦点を当てて作りました。

●そのアイデアはいつ頃からあったんですか?

葉月:それこそ前作が完成した時ですね。毎回、作り終えると"次はどうしようかな"って考えるんですよ。自分が1ファンとして『I BELIEVE IN ME』を聴いた時に"もう少し焦点を絞ったものを聴きたいな"と思ったので、それをそのまま叶えたというか。

●今作収録曲の制作も全て『I BELIEVE IN ME』を作り終えた以降で?

葉月:M-9「INFERIORITY COMPLEX」だけは元々、インディー時代のボツ曲だったものを復活させました。構成もアレンジも変えたら凄く良くなって、リード曲にまでなっちゃったという(笑)。原曲は退屈なアレンジだったんですけど、リフだけは使えるなという感じで。(今の形の)曲ができた段階では、リード曲にしようと思っていなかったんです。でも歌まで全部録り終わって聴いてみたらすごく良くて、スタッフとも意見が一致したし、みんなに「これをリード曲にしたい」と言った時も反対はなかったんですよ。

●全員一致で納得する仕上がりだったと。

玲央:決め手はサウンドの仕上がりでしたね。今回の収録曲の中で自ずとこういう位置付けになるだろうという感覚は、録っている時からありました。

明徳:自分も聴いた瞬間に"たぶん、これがリード曲になるだろうな"と思ったし、作っている段階で何となく雰囲気は出ていたんですよ。

●リード曲が全英詞というのも珍しい気が。

葉月:lynch.としても、全英詞の曲を選ぶのは初めてかもしれないですね。今回はリード曲が1曲じゃないので、ここまで思い切ったことをできたという部分もあって。もう1曲がM-8「FROZEN」なので、ここまで無茶ができたんじゃないかな。

●『INFERIORITY COMPLEX』はアルバムタイトルにもなっていますが、"劣等感"という意味ですよね。この言葉が今作のテーマになっている?

葉月:テーマとまではいかないんですけど、最大公約数になる言葉だったんですよね。それに自分の中では『I BELIEVE IN ME』というタイトルとほぼ同じ意味というか、表裏一体なんだろうなと。歌っている内容も前作の頃とほぼ変わっていなくて、"自分自身も色々あるけど、やるしかない"っていうか。表現は違っても、結局はそこなんです。

●葉月さんの中にも劣等感がある?

葉月:バリバリありますよ。きっと誰でもあるんじゃないですかね。やっぱり他人の作る作品はカッコ良く聞こえるし、それと比べると自分のものはダメに聴こえる。"じゃあ、どうするんだ?"と考えたら、頑張るしかない。それの繰り返しだと思うので、劣等感は常にあります。

●劣等感をバネにして、より良いものを目指す。

葉月:"じゃあ、どうしたらいいんだろう?"と考えていることが、一番意味のあることだと思いますね。

●「INFERIORITY COMPLEX」に関しては元々ボツ曲だったこともあって、アレンジの面で模索した部分もあるんじゃないですか?

悠介:ベーシックな部分は最初にもらったデモの通りなんですけど、サビの部分については自分の中で凝ったことをやっているつもりなんです。最初は自分らしくないこともやってみようかと考えてみて。でも(慣れないことをしたら)クオリティを保てないので、"だったら、どうすればいいのか?"と考えた結果が今の形になりました。テンポが速い中でいかに表現できるかという部分で、自分なりのパズルは上手くハマったんじゃないかな。

●今作はlynch.史上最速のアルバムにもなっているんですよね。

玲央:でも自分の中ではメチャクチャ速いという印象はなかったんですよ。こういう曲を葉月自身が思い描いていて、かつバンドもこういうものを欲しているからこそ今作が生まれたわけで。言い方は変だけど、僕らの現状を考えた時に"ツール"としてこの曲たちが必要だったんじゃないかなって。

●今作を通して聴いていると、スピード感全開の前半からM-6「THEY'RE ALL AFRAID」でガラッと雰囲気が切り替わる感覚がありました。

葉月:実はそこが一番悩んだところで、最初は5曲目と6曲目が逆だったんですよ。でも逆だと、アルバムの印象がぼやけるんです。5曲目に「ANIMA」が来たほうが、"ああ、こういうアルバムね"と落ち着くというか。前半を意識して順番を決めたことが後半にも効いて、前・後半で美味しさが分かれた仕上がりになりましたね。

●前半でもM-4「NEW PSYCHO PARALYZE」はとりわけ異色な気がしました。

玲央:ちょっとファンクっぽい、ヘヴィロックですね。

葉月:lynch.の中ではなかった感じだし、今までは避けてきていたところだと思います。自分の中で音楽的に新しいかと言われたら違うけど、lynch.的にはやったことがないものなのでやってみようかなと。

●歌詞もトガった言葉の羅列で面白いです(笑)。

葉月:お経みたいですよね(笑)。日本語に聞こえない日本語詞を目指していたら、こうなったんです。日本語って普通は1つの音符に1文字しか乗らないんですけど、それではちょっとカッコ悪いなと思って、最低でも2文字は乗る日本語を選びました。

玲央:この曲調にこの感じの歌詞が乗るっていう組み合わせを、日本のバンドとしてやっていることが面白いと思いますね。

●この曲調と言葉が合わさることで、lynch.にしか表現できない面白みも出ている。

玲央:もっとテンポがスローな曲だったら、モロにお経みたいになってしまいますからね(笑)。

晁直:自分的には一番やりやすいテンポ感なので結構、曲中でも遊んでいて。lynch.らしくないといえばlynch.らしくないのかもしれないけど、逆にそれが新鮮なのかもしれないですね。

●"lynch.らしくない"ものを"lynch.らしく"仕上げることで、バンドとしての幅も広がっているというか。

玲央:今までは横に広げていたものを、今回は縦に広げている感じというか。上から見たら真っ直ぐなんですけど、横から見ると広がりが見えるような。今までとは、軸の違う広げ方ですね。

葉月:この曲は『MIRRORS』(シングル)のカップリングに入っている「DEVI」に近いんですよね。うるさいんだけど、なんか変っていう(笑)。自分の中で「DEVI」は完全に本筋とは違うところでの遊びだったんですけど、ファンの方からの評価がすごく高かったので「えっ、本当に…?」という気持ちもあって。あれがあったから今回、こういう曲ができたのかもしれない。

●『MIRRORS』のインタビューでは「今後は日本語の美しさをより活かした歌詞を書いてみたい」とも話されていましたが。

葉月:M-2「THE FATAL HOUR HAS COME」や「FROZEN」、M-10「A FLARE」は特にそういう曲だと思います。今まで避けてきていたものも恐れずに、雰囲気のある言葉をガンガン入れていった感じですね。

●ちなみに今作を聴いていると、"Fuck"という言葉がよく出てくる気がするんですが…。

葉月:今回の英訳を手伝ってくれたBULL ZEICHEN 88のSEBASTIANは、"Fuck"という言葉が相当好きらしくて(笑)。その結果、今作にはペアレンタル・アドバイザリーマークを付けられることになりました…。

●洋楽のヒップホップやラウド系のアルバムでよく見ますけど、暴力的な言葉や性的な描写など"不適切な歌詞"が使われていると判断された作品に警告の意味で貼られるマークですよね。

玲央:でも根本的に、"lynch."というバンド名自体がそういうものですからね。そういう意味で付けてはいないんですけど、やっぱりそう受け取られてしまう。でもこのバンド名が足枷になるとしても、それを打破したいという気持ちで付けたんです。タブー視されている物事でも僕らの出すエネルギーが大きければ、上回れるはずだと思っているから。

●勝手な邪推や規制を、音でねじ伏せるというか。

玲央:そうじゃないといけない。それができずに終わるのなら、それまでのバンドだというだけですからね。「lynch.はメジャーなのに、こういう音楽をやっていて凄い」ということを言われたりもするんですけど、僕はその"メジャーなのに"という言葉がすごく引っかかるんですよ。僕の価値観では"メジャー"というのはレコード会社の資本や流通の違いであって、作品の中身とは全く違う部分の話なんです。でも、そういったイメージを植え付けられている人が多いんだろうなと。

●タブーというのも、単なるイメージの植え付けかもしれないわけですからね。

玲央:真理とタブーは決してイコールではないと思うんです。真理の上でNGなものは絶対にNGだと思いますけど、作品を作る上でのタブーは極力減らしていきたいですよね。

●今作でもそういう試みはしている?

玲央:今までも曲やセクションごとにギターの持ち替えをしていたんですけど、今回はそれを徹底的にやろうと思って。コードなのか単音なのかによって適したギターが違うので、フレーズごとに持ち替えたりもしているんです。"点"のような状態で録っていったんですけど、合わさると1本の"線"になっている。

●レコーディングならではの手法ですよね。

玲央:あくまでも、ライブとレコーディングは別のものだと捉えているんです。1本のギターで弾かなきゃいけないと考えて、こういうこともタブー視する人は多いと思うんですよ。でも自分にとっては仕上がったものを聴いてどう思うかというだけの話なので、やる前からタブーだと言ってしまうのは違うかなと。自分たちの中だけで実験することに関してはタブーを作らない方が、発想が色んなところに飛べるんですよね。新しいものを生み出すって、きっとそういうことだと思う。

●誰もやらなかったことだから、新しい。

玲央:アメリカ大陸を見つけたアメリゴ・ヴェスプッチも「そっちには何もないよ」と言われていた方向に行ってみて、新大陸を見つけたわけで。すごく大きな話になってしまうんですけど(笑)、時代を作るってそういうことだと思うんです。

葉月:タブーって、僕はチャンスだと思うんですよ。誰もやっていないから、それを成功させれば第一人者でしょう? メジャーでやっているから、(積極的に)アンテナを張っていない人たちにも届けるチャンスがたくさんあると思っていて。そこで逆に、タブー視されているようなことをする。たとえば「TVで流れるのでシャウトは少なくして、聴きやすいものにして下さい」と言われたなら、逆にメチャクチャうるさい曲を流したら気になるわけで。『I BELIEVE IN ME』の時からやってきていることなんですけど、今作はその極みのような気がしますね。

●そのリリース後には再びツアーも待っています。

悠介:今回は初めて行く場所も多いので、普段はlynch.のライブに来たくても来られない人を少しでも減らすことができるんじゃないかなと。もちろん今まで行っている場所でも今まで以上に盛り上がるようなライブにして、熱気をどんどん増していけたらいいですね。

晁直:キャパシティが今までより小さめのハコが多いんですけど、だからこそ今作の曲が活きる部分もあると思うんです。会場が小さいからこそ"非現実的"ではなく、より"現実的"なライブになってくるのかなと僕は考えているので、そういう部分も楽しんでもらえたらいいなと思います。あとはまだライブでやったことがない曲が、ツアーでどうなっていくかという楽しみもありますね。

●今回もかなりの本数をまわりますよね。

明徳:毎年夏にはすごい本数のツアーをやっているので、lynch.からしたら特別なことじゃなくて。いつも来てくれている人たちにとっては「今年も始まった!」という感じだと思うんです。でも毎年、人は成長しているし変化もしている。『INFERIORITY COMPLEX』を作って、去年の夏よりも一皮むけた今のlynch.を見られるのはこのツアーだけなので、ぜひ遊びに来て欲しいですね。

●ツアースケジュールの最後が高知X-pt.になっていますが、この後に追加でファイナル公演が発表されたりする?

玲央:いえ、これで全部です。高知がファイナルですね。

●高知に何か深い縁が…?

玲央:特にないですね。単にタイミングの問題で、たまたま高知になったというだけです(笑)。

●あ、特に意味はないんですね(笑)。

玲央:でもそれもさっきのタブーの話につながると思うんですよ。僕らも名古屋在住で地方の人間なので、ツアーファイナルがいつも東京でなきゃいけないということにも違和感があって。やっぱり東京以外の人は、少なからず置いてけぼり感があると思うんですよね。そういう部分のタブーも自分たちがなくしていけたらいいなと。

Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M

「やる前からタブーだと言ってしまうのは違うかなと。自分たちの中だけで実験することに関してはタブーを作らない方が、発想が色んなところに飛べるんですよね。新しいものを生み出すって、きっとそういうことだと思う」

●今年3月に行った初のZepp Tokyoでのワンマンはいかがでしたか?

葉月:1曲目が始まった時に、目の前の景色が凄すぎて笑ったのは初めてでしたね。思わず明徳の方を見て、「これ、ヤバくない?」と素で言ってしまいました(笑)。

●ハハハ(笑)。過去最大規模だったんですよね。

葉月:イベントで出たことはあったんですけど、ワンマンだとまるで景色が違うのにはビックリしました。

明徳:ステージ上にベース台があって、周りより少し高くなっていたんですよ。だから余計に景色が凄くて、"ここから降りたくない"と思いました(笑)。絶景過ぎて、ずっと見ていたかったです。

●緊張するよりも、気分がアガったというか。

悠介:思ったほど緊張せず、最初から最後までライブができましたね。以前にイベントで出た時は"広いな"と感じたんですけど、今回のワンマンでは昔の印象と全然違ったので自分でも"あれ?"と思って。それはバンドで積み重ねてきたものがあるからなのかなと。

●自分たちの進化を感じる部分もあった。

悠介:広い場所でやっている割にはお客さんとの距離感も全然感じなかったし、やっていて不思議でしたね。もう1回と言わず、何回でもここに立ちたいなという気持ちにもなってきて。今度はZeppツアーをやりたいなというくらいの気持ちになっています。

玲央:ライブ自体も凄く良かったし、ステージに出ていった時の歓声も凄く嬉しかったんですけど、もっと先に向かう欲のほうが大きくなっちゃったというか。「絶景だな」と思いながらも冷静にライブを進められたのは、これまでライブの数をこなしてきたからで。自信が付いた分、自ずと景色は変わっていなきゃいけないし、"あの頃"のままじゃいけないという責任感もある。そういうふうに今の自分たち自身を把握する上でも、凄く良いライブだったと思います。

●これまで数多くのライブをこなしてきた経験があってこそ、冷静に向き合えたわけですね。

玲央:最近は特に、会場や歓声の大きさに左右されないようにしないといけないなと感じていて。去年1年のツアーを通して色んな規模のライブハウスをまわった時、観に来てくれた1人1人の気持ちは変わらないのに、自分がそこに左右されてしまうのはおかしな話だなという気持ちが明確になったんです。お客さんが1人でも1千人でも1万人でも冷静にやれるように、自分をコントロールできるようになってきたのかな。

晁直:自分も、お客さんの数に惑わされることはなかったですね。全景が見えるのは入退場の時だけで、ドラムに座ってしまったらずっと景色は変わらないから。曲の進行を担っている分、そっちのほうが気がかりで景色に左右されることなく落ち着いてできたと思います。

●以前のインタビューで葉月さんは「お客さんにもっと自由にしてほしい」と話されていましたが、その変化も感じられましたか?

葉月:そこはいきなり変わるような部分ではないんですけど、徐々に良くなってきているとは思います。最近は自由に楽しんでいる人がどんどん増えてきたように感じていて。Zepp Tokyoの時もライブが始まったら、相当な数のお客さんが前に押し寄せていましたからね。"みんな、わかっているな"と思いました(笑)。

明徳:会場は広かったんですけど、全員の顔がすごくハッキリ見えたんですよ。みんなが良い顔をしているのが凄く伝わってきましたね。

玲央:フロアの距離感もなくなってきているし、僕らとオーディエンス、そしてオーディエンス同士の信頼感が形に表れてきているんだと思います。同じものが好きな人間がそこに集まっているわけで、そこに理由や遠慮はいらないんじゃないかなと。

●メジャーデビューから1年が過ぎた今だから感じられる成果もあるのでは?

葉月:今のところ、悪いことは1つもないですね。あと、やっと追いつけてきたかなと思っていて。インディーの時に比べて、あらゆる物事の進行するスピードがメチャクチャ速いので最初は正直、ついていくのが大変だったんです。でも今はもう予測を立てて動けるようになってきたので、モノにできている感じはしていて。

●最初は環境の違いに戸惑う部分もあったんですね。

葉月:それこそインディーの時はリリースしても取材は3~4本くらいだったのが、『I BELIEVE IN ME』ではラジオとかも含めるといきなり50本を超えたわけですからね。最初は目が回るような感じでした(笑)。でも今は予測が立っているので心の準備もできるし、内容はより濃くなっているんじゃないかと思います。

●より濃くなっているというのは、作品にも言えることですよね。今作『INFERIORITY COMPLEX』は過去最高に激しい作品だった前作の方向性を、さらに突き詰めた感じがしました。

葉月:その通りですね。今回はパッと聴いただけで、どういうバンドかわかる作品にしたかったんです。自分の中では、『I BELIEVE IN ME』はちょっと広すぎたかなと思っていて。それが良いとか悪いとかじゃなくて、もう少し幅を狭くすることでわかりやすくしてもいいのかなと。より音に焦点を合わせるというか。激しくて、メロディが美しい上で、『I BELIEVE IN ME』でも目指したスピード感というものに焦点を当てて作りました。

●そのアイデアはいつ頃からあったんですか?

葉月:それこそ前作が完成した時ですね。毎回、作り終えると"次はどうしようかな"って考えるんですよ。自分が1ファンとして『I BELIEVE IN ME』を聴いた時に"もう少し焦点を絞ったものを聴きたいな"と思ったので、それをそのまま叶えたというか。

●今作収録曲の制作も全て『I BELIEVE IN ME』を作り終えた以降で?

葉月:M-9「INFERIORITY COMPLEX」だけは元々、インディー時代のボツ曲だったものを復活させました。構成もアレンジも変えたら凄く良くなって、リード曲にまでなっちゃったという(笑)。原曲は退屈なアレンジだったんですけど、リフだけは使えるなという感じで。(今の形の)曲ができた段階では、リード曲にしようと思っていなかったんです。でも歌まで全部録り終わって聴いてみたらすごく良くて、スタッフとも意見が一致したし、みんなに「これをリード曲にしたい」と言った時も反対はなかったんですよ。

●全員一致で納得する仕上がりだったと。

玲央:決め手はサウンドの仕上がりでしたね。今回の収録曲の中で自ずとこういう位置付けになるだろうという感覚は、録っている時からありました。

明徳:自分も聴いた瞬間に"たぶん、これがリード曲になるだろうな"と思ったし、作っている段階で何となく雰囲気は出ていたんですよ。

●リード曲が全英詞というのも珍しい気が。

葉月:lynch.としても、全英詞の曲を選ぶのは初めてかもしれないですね。今回はリード曲が1曲じゃないので、ここまで思い切ったことをできたという部分もあって。もう1曲がM-8「FROZEN」なので、ここまで無茶ができたんじゃないかな。

●『INFERIORITY COMPLEX』はアルバムタイトルにもなっていますが、"劣等感"という意味ですよね。この言葉が今作のテーマになっている?

葉月:テーマとまではいかないんですけど、最大公約数になる言葉だったんですよね。それに自分の中では『I BELIEVE IN ME』というタイトルとほぼ同じ意味というか、表裏一体なんだろうなと。歌っている内容も前作の頃とほぼ変わっていなくて、"自分自身も色々あるけど、やるしかない"っていうか。表現は違っても、結局はそこなんです。

●葉月さんの中にも劣等感がある?

葉月:バリバリありますよ。きっと誰でもあるんじゃないですかね。やっぱり他人の作る作品はカッコ良く聞こえるし、それと比べると自分のものはダメに聴こえる。"じゃあ、どうするんだ?"と考えたら、頑張るしかない。それの繰り返しだと思うので、劣等感は常にあります。

●劣等感をバネにして、より良いものを目指す。

葉月:"じゃあ、どうしたらいいんだろう?"と考えていることが、一番意味のあることだと思いますね。

●「INFERIORITY COMPLEX」に関しては元々ボツ曲だったこともあって、アレンジの面で模索した部分もあるんじゃないですか?

悠介:ベーシックな部分は最初にもらったデモの通りなんですけど、サビの部分については自分の中で凝ったことをやっているつもりなんです。最初は自分らしくないこともやってみようかと考えてみて。でも(慣れないことをしたら)クオリティを保てないので、"だったら、どうすればいいのか?"と考えた結果が今の形になりました。テンポが速い中でいかに表現できるかという部分で、自分なりのパズルは上手くハマったんじゃないかな。

●今作はlynch.史上最速のアルバムにもなっているんですよね。

玲央:でも自分の中ではメチャクチャ速いという印象はなかったんですよ。こういう曲を葉月自身が思い描いていて、かつバンドもこういうものを欲しているからこそ今作が生まれたわけで。言い方は変だけど、僕らの現状を考えた時に"ツール"としてこの曲たちが必要だったんじゃないかなって。

●今作を通して聴いていると、スピード感全開の前半からM-6「THEY'RE ALL AFRAID」でガラッと雰囲気が切り替わる感覚がありました。

葉月:実はそこが一番悩んだところで、最初は5曲目と6曲目が逆だったんですよ。でも逆だと、アルバムの印象がぼやけるんです。5曲目に「ANIMA」が来たほうが、"ああ、こういうアルバムね"と落ち着くというか。前半を意識して順番を決めたことが後半にも効いて、前・後半で美味しさが分かれた仕上がりになりましたね。

●前半でもM-4「NEW PSYCHO PARALYZE」はとりわけ異色な気がしました。

玲央:ちょっとファンクっぽい、ヘヴィロックですね。

葉月:lynch.の中ではなかった感じだし、今までは避けてきていたところだと思います。自分の中で音楽的に新しいかと言われたら違うけど、lynch.的にはやったことがないものなのでやってみようかなと。

●歌詞もトガった言葉の羅列で面白いです(笑)。

葉月:お経みたいですよね(笑)。日本語に聞こえない日本語詞を目指していたら、こうなったんです。日本語って普通は1つの音符に1文字しか乗らないんですけど、それではちょっとカッコ悪いなと思って、最低でも2文字は乗る日本語を選びました。

玲央:この曲調にこの感じの歌詞が乗るっていう組み合わせを、日本のバンドとしてやっていることが面白いと思いますね。

●この曲調と言葉が合わさることで、lynch.にしか表現できない面白みも出ている。

玲央:もっとテンポがスローな曲だったら、モロにお経みたいになってしまいますからね(笑)。

晁直:自分的には一番やりやすいテンポ感なので結構、曲中でも遊んでいて。lynch.らしくないといえばlynch.らしくないのかもしれないけど、逆にそれが新鮮なのかもしれないですね。

●"lynch.らしくない"ものを"lynch.らしく"仕上げることで、バンドとしての幅も広がっているというか。

玲央:今までは横に広げていたものを、今回は縦に広げている感じというか。上から見たら真っ直ぐなんですけど、横から見ると広がりが見えるような。今までとは、軸の違う広げ方ですね。

葉月:この曲は『MIRRORS』(シングル)のカップリングに入っている「DEVI」に近いんですよね。うるさいんだけど、なんか変っていう(笑)。自分の中で「DEVI」は完全に本筋とは違うところでの遊びだったんですけど、ファンの方からの評価がすごく高かったので「えっ、本当に…?」という気持ちもあって。あれがあったから今回、こういう曲ができたのかもしれない。

●『MIRRORS』のインタビューでは「今後は日本語の美しさをより活かした歌詞を書いてみたい」とも話されていましたが。

葉月:M-2「THE FATAL HOUR HAS COME」や「FROZEN」、M-10「A FLARE」は特にそういう曲だと思います。今まで避けてきていたものも恐れずに、雰囲気のある言葉をガンガン入れていった感じですね。

●ちなみに今作を聴いていると、"Fuck"という言葉がよく出てくる気がするんですが…。

葉月:今回の英訳を手伝ってくれたBULL ZEICHEN 88のSEBASTIANは、"Fuck"という言葉が相当好きらしくて(笑)。その結果、今作にはペアレンタル・アドバイザリーマークを付けられることになりました…。

●洋楽のヒップホップやラウド系のアルバムでよく見ますけど、暴力的な言葉や性的な描写など"不適切な歌詞"が使われていると判断された作品に警告の意味で貼られるマークですよね。

玲央:でも根本的に、"lynch."というバンド名自体がそういうものですからね。そういう意味で付けてはいないんですけど、やっぱりそう受け取られてしまう。でもこのバンド名が足枷になるとしても、それを打破したいという気持ちで付けたんです。タブー視されている物事でも僕らの出すエネルギーが大きければ、上回れるはずだと思っているから。

●勝手な邪推や規制を、音でねじ伏せるというか。

玲央:そうじゃないといけない。それができずに終わるのなら、それまでのバンドだというだけですからね。「lynch.はメジャーなのに、こういう音楽をやっていて凄い」ということを言われたりもするんですけど、僕はその"メジャーなのに"という言葉がすごく引っかかるんですよ。僕の価値観では"メジャー"というのはレコード会社の資本や流通の違いであって、作品の中身とは全く違う部分の話なんです。でも、そういったイメージを植え付けられている人が多いんだろうなと。

●タブーというのも、単なるイメージの植え付けかもしれないわけですからね。

玲央:真理とタブーは決してイコールではないと思うんです。真理の上でNGなものは絶対にNGだと思いますけど、作品を作る上でのタブーは極力減らしていきたいですよね。

●今作でもそういう試みはしている?

玲央:今までも曲やセクションごとにギターの持ち替えをしていたんですけど、今回はそれを徹底的にやろうと思って。コードなのか単音なのかによって適したギターが違うので、フレーズごとに持ち替えたりもしているんです。"点"のような状態で録っていったんですけど、合わさると1本の"線"になっている。

●レコーディングならではの手法ですよね。

玲央:あくまでも、ライブとレコーディングは別のものだと捉えているんです。1本のギターで弾かなきゃいけないと考えて、こういうこともタブー視する人は多いと思うんですよ。でも自分にとっては仕上がったものを聴いてどう思うかというだけの話なので、やる前からタブーだと言ってしまうのは違うかなと。自分たちの中だけで実験することに関してはタブーを作らない方が、発想が色んなところに飛べるんですよね。新しいものを生み出すって、きっとそういうことだと思う。

●誰もやらなかったことだから、新しい。

玲央:アメリカ大陸を見つけたアメリゴ・ヴェスプッチも「そっちには何もないよ」と言われていた方向に行ってみて、新大陸を見つけたわけで。すごく大きな話になってしまうんですけど(笑)、時代を作るってそういうことだと思うんです。

葉月:タブーって、僕はチャンスだと思うんですよ。誰もやっていないから、それを成功させれば第一人者でしょう? メジャーでやっているから、(積極的に)アンテナを張っていない人たちにも届けるチャンスがたくさんあると思っていて。そこで逆に、タブー視されているようなことをする。たとえば「TVで流れるのでシャウトは少なくして、聴きやすいものにして下さい」と言われたなら、逆にメチャクチャうるさい曲を流したら気になるわけで。『I BELIEVE IN ME』の時からやってきていることなんですけど、今作はその極みのような気がしますね。

●そのリリース後には再びツアーも待っています。

悠介:今回は初めて行く場所も多いので、普段はlynch.のライブに来たくても来られない人を少しでも減らすことができるんじゃないかなと。もちろん今まで行っている場所でも今まで以上に盛り上がるようなライブにして、熱気をどんどん増していけたらいいですね。

晁直:キャパシティが今までより小さめのハコが多いんですけど、だからこそ今作の曲が活きる部分もあると思うんです。会場が小さいからこそ"非現実的"ではなく、より"現実的"なライブになってくるのかなと僕は考えているので、そういう部分も楽しんでもらえたらいいなと思います。あとはまだライブでやったことがない曲が、ツアーでどうなっていくかという楽しみもありますね。

●今回もかなりの本数をまわりますよね。

明徳:毎年夏にはすごい本数のツアーをやっているので、lynch.からしたら特別なことじゃなくて。いつも来てくれている人たちにとっては「今年も始まった!」という感じだと思うんです。でも毎年、人は成長しているし変化もしている。『INFERIORITY COMPLEX』を作って、去年の夏よりも一皮むけた今のlynch.を見られるのはこのツアーだけなので、ぜひ遊びに来て欲しいですね。

●ツアースケジュールの最後が高知X-pt.になっていますが、この後に追加でファイナル公演が発表されたりする?

玲央:いえ、これで全部です。高知がファイナルですね。

●高知に何か深い縁が…?

玲央:特にないですね。単にタイミングの問題で、たまたま高知になったというだけです(笑)。

●あ、特に意味はないんですね(笑)。

玲央:でもそれもさっきのタブーの話につながると思うんですよ。僕らも名古屋在住で地方の人間なので、ツアーファイナルがいつも東京でなきゃいけないということにも違和感があって。やっぱり東京以外の人は、少なからず置いてけぼり感があると思うんですよね。そういう部分のタブーも自分たちがなくしていけたらいいなと。

Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M

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