音楽メディア・フリーマガジン

nano.RIPE

原点回帰からその先へ。3人は突き抜けていく

10/3に2ndフルアルバム『プラスとマイナスのしくみ』を発表したばかりのnano.RIPEが、なんと1ヶ月も空けずにニューシングル『もしもの話』をリリースする。TVアニメ『バクマン。』第3期オープニング主題歌となった今回の表題曲では、原作のストーリーとバンドとしてのテーマが一致したことで互いを高め合うような理想的なタイアップが実現。新たな挑戦に取り組んだアルバムを経て、再び原点へと立ち返るかのように自らの持ち味を全開した楽曲となっている。Vo./G.きみコの声帯結節発症に伴う手術〜休養の後、12月には赤坂BLITZをファイナルとしたワンマンシリーズも控えている彼ら。全てを意味のある糧として突き進んでいく3人の勢いは、ここからまたさらに増していく。

●10/3にアルバム『プラスとマイナスのしくみ』をリリースしてから1ヶ月も経たない内での、ニューシングル発売となるわけですが。

きみコ:元々、アルバムを10月に出そうということは先に決めていて。その後に、今回の『バクマン。』オープニング主題歌のお話を頂いたんですよ。そこで話し合った結果、アルバムには入れないことになったんです。

●結果的に、短期間での連続リリースになったと。今回の「もしもの話」はタイアップが決まってから書いた曲?

きみコ:元々、1コーラスだけあったものをあたしがすごく気に入っていて。“この曲は1コーラスだけでいいんじゃないか”と思うくらい、自分の中ではすごくよくできていたんです。でもそこに全てを詰め込んでいたので、その先が書き出せずにいたんですよ。

●最初の1コーラスのクオリティが高すぎて、逆に行き詰ってしまっていた。

きみコ:そこから『バクマン。』のお話を頂いて、書きかけのストックを漁っている中でちょうどこの曲を見つけて。“テーマ的には実は近いのかもしれない”と思ったので、『バクマン。』のストーリーを頭に置きつつ続きを書いて完成したんです。

●『バクマン。』とテーマがちょうど重なったことで、この曲自体も完成を見たわけですね。

きみコ:どうするか悩んでいた部分は、『バクマン。』をイメージしつつ書いていきました。『バクマン。』は“主人公の2人がずっと夢見ていた漫画家になったのはいいけど、やりたくないこともやらなきゃいけない。でも結果的には、自分たちが一番やりたかったことで成功する”っていう話なんですよね。それは音楽においても理想的なことで。

●漫画と音楽というフィールドの違いはあるけど、理想のあり方は近い。

きみコ:ありがたいことにnano.RIPEはやりたくないことをやらされたことは今までないんですけど、きっと音楽の世界でもそういう経験がある人はあるだろうし、日常生活でもあるんだろうなと。最終的にやりたいことでハッピーエンドになれるのが理想だなと思ったので、2番の歌詞は元々あったものをそのまま使って。

●2番の“声が出なくなったら歌えなくなんだ”という歌詞は、きみコさん自身から出てきた言葉ですよね。

きみコ:原曲を作った時は、すごく落ち込んでいた時期だったんです。“歌でも書かないとやっていられないや”と思って書いていったら、こんな歌詞が出てきて。“ここからどうやって希望を持たせたらいいんだ…?”と思って、止まってしまっていたんですよ。

●そんな楽曲を完成させるキッカケになった『バクマン。』ですが、元から知ってはいたんでしょうか?

きみコ:知っていました! あたし、『DEATH NOTE』が大好きなんですよ。

●どちらも同じタッグ(原作・大場つぐみ/作画・小畑健)による作品ですからね。ということは、ずっと読んでいた?

きみコ:読んだことはあったんですけど、全部は読めていなくて。今回のお話をキッカケに全巻読みました。

●これまでもアニメのタイアップに合わせた曲は書いてきたわけですが、何か違いがあったりもしましたか?

きみコ:どのアニメのお話を頂いた時もストーリーの中で自分が共感できるところを見付けて、そこから広げて書くというやり方をしてきたんです。でも今回はそういう部分を見つけて書くというよりも、作品自体がそのまま自分に当てはまるくらいだったので本当に素直に書けましたね。

●自分が思っていたことに、作品が重なった。

きみコ:本当にそのままっていう感じです。だからタイアップに関係なく、普段の曲を書く時と同じくらい素直に書けましたね。“テーマはこれ”というものだけ決めて、あとはスラスラと書いていきました。

●アニメの制作側からは、何か指定があったりしなかったんですか?

きみコ:全然なかったです。『バクマン。』は“漫画を書く”という大きなストーリーの流れに加えて“恋愛”も間に入ってくるんですけど、今回の第3シリーズは恋愛よりも漫画の方で悩んで最後に成功を掴むというお話だということだけは伺っていました。

●ストーリーの軸がクリエイティブな部分だったから、余計に共感できたのでは?

きみコ:そうなんですよ。だから、かなり色んな部分で感情移入しましたね。前に読んでいた時から感じていたものが、今回読んだ時にはよりリアルになっていたというか。高校生がいきなりプロの漫画家になるという部分は、nano.RIPEと違ったんですよ。ぼくらは下積みがすごく長かったから、いきなり“あたしと一緒だ”とは思わなかったんです。でもプロになってからの苦労や悩みというものは、すごく近いなと思いました。

●重なるところもありつつ、2番の“何かを盾にしながら正義や覚悟や悲しみを叫んだってきっときみにさえ届かないんだろう”という歌詞は、きみコさんお得意の“毒”の部分かなと(笑)。

きみコ:2番でちょっと際どいことを言っちゃうやつですね(笑)。

●“久々に出たな!”と思いました(笑)。

きみコ:アニメで流れるのは1コーラスの90秒だけなので、2番では言っちゃってもいいだろうということで思い切って書きました(笑)。たとえば今はTwitterとかで簡単に不特定多数の人に発信できる場所があるじゃないですか。そういう場で自分のことは棚に上げて誰かのことや世の中に対して攻撃するような行為が、あたしは苦手で。結局それはパソコンや携帯の向こう側にいるから言えることで、それを盾にしている気がして。直接言えばいいことを、その向こう側から叫んでも届かないし伝わらない。“それは違うな”と、最近すごく思うんですよね。

●そんな想いがこの歌詞に…。

きみコ:集約されています!

●最初に1コーラスができた時点ですごく気に入っていた曲なわけですが、完成形はそれ以上に良くなったという実感もあるのでは?

きみコ:そうですね。かなり理想的というか、自分でも“この1コーラスは良すぎる! ここからどうしよう!?”と思っていたところから、結果的にそれを上回るものができているのですごく満足しています。

●今回のタイアップがすごく良いキッカケになった。

きみコ:もし『バクマン。』と出会っていなかったら、今も“どうしよう?”と思ったまま、放ったらかしにされていたかもしれないですよね。

●歌詞は『バクマン。』との出会いで一気に進んだわけですが、曲自体にも変化はあったんですか?

きみコ:元々はバラードにするつもりで、かなりゆったりとしたテンポでメンバーに聴かせていたんですよ。でも『バクマン。』のお話を頂いた時に、“これをアップテンポにしたらカッコ良いかもしれない”と思って。実際にやってみたらカッコ良かったので、この形でいこうと決めました。

●「もしもの話」という曲名は、完成してから付けた?

きみコ:このタイトルは、最初の1コーラスができた時点から付けていました。Aメロの歌詞(“あのね もしも今すぐにきみの元へと”)からなんですけど、日常生活の中でもたとえばの話ってよくあるじゃないですか。“もしもあの時これを選んでいなかったら…”とか“もしも今ここでこうしたら…”っていうことを、みんなが意識的にも無意識的にもイメージしている。その結果、何かを選んで進んでいるというのが人生なのかなと。そこからストレートに「もしもの話」と名付けたんです。

●そこはアニメのストーリーにも重なりつつ、誰しもに当てはまる普遍的なテーマですよね。今回のシングルは、収録した3曲に近いテーマがあるように感じていて。「もしもの話」では“何かを手に入れたくて”という歌詞があって、M-2「呼吸」には“本当に欲しいものがまだわからなくて”とあって、M-3「パルスター」には“足りないものがあったけどそれをやっと見つけたんだ”とある。どの曲も“何かを探している”という点で共通しているように思うんです。

きみコ:そう言われてみればそうですね。実は「呼吸」は1年半くらい前に書いていて、いつかシングルのタイトル曲として出そうと思っていたものなんですよ。それで今回のタイアップのお話を頂いた時に「この曲がピッタリじゃないか」となって、候補に挙がっていたんです。結果的に「もしもの話」が選ばれたんですけど、そういう意味ではすごく近いものがあったんでしょうね。

●今作のために作ったわけじゃないけど、テーマ的には『バクマン。』と近かったと。

きみコ:やっぱり『バクマン。』という作品のテーマと、あたしが普段から思っていることがすごく近かったんだなと改めて思いましたね。これをカップリングにするのは正直もったいないなと思ったんですけど、テーマ的にもピッタリだったので「このタイミングしかないだろう!」ということで出しちゃいました。

●「パルスター」は、たまたまテーマが重なった感じ?

きみコ:そうですね。このタイトルは造語なんですけど、1stアルバムの『星の夜の脈の音の』というタイトルを考えている時に作った言葉なんです。

●造語だったんですね。

きみコ:脈拍という意味の“パルス”と、星という意味の“スター”をくっつけて“パルスター”にしました。『星の夜の脈の音の』に入っている「セラトナ」ではさそり座のアンタレスという恒星について歌っているんですけど、アンタレスは脈動変光星といって、星自体が脈を打って膨張したり収縮したりするらしいんです。星が脈を打っているということがすごくカッコ良いなと思って、いつかそれをタイトルに曲を書きたいと考えていて。

●それを今回、形にしたと。

きみコ:これはノブ(Ba.アベノブユキ)が原曲を持ってきたんですけど、その時点で“これがパルスターっぽいな”と思っていて。なので、タイトルから書き始めていった感じですね。

●タイトルのイメージから歌詞を書き進めていった?

きみコ:そうですね。小さい頃に眠れない時は枕に耳をぴったりと付けると、自分の脈の音が聞こえていつの間にか眠くなっていたんですよ。それをこの曲では歌いたいなと思って。“ゆりかごみたいに優しい脈の音で眠くなって”という歌詞もあるんですけど、そこから物語を作っていきました。

●この曲を今作に収録した理由は?

きみコ:nano.RIPEのシングルはいつもタイトル曲とカップリング2曲というよりも、3曲入りのミニアルバムのような感覚で作っていて。今回は「もしもの話」と「呼吸」を入れることが最初に決まっていたので、この2曲に対してどんな曲が入るといいかを考えたんです。そこのバランスや“今聴いてもらいたい曲”という点で考えた結果、「パルスター」になったというか。意図していたわけじゃないけど、やっとノブの曲がデビューすることができました。

●今までのnano.RIPEは、きみコさんかジュンくん(G.ササキジュン)のどちらかの曲だったわけじゃないですか。そこにノブくんが作った曲を入れていくというのは、新たな挑戦でもあったと思うんですが。

きみコ:そうですね。nano.RIPEの形からあまりにかけ離れた曲をやるのは違うし、ノブの曲をnano.RIPEにすることが一番最初の課題というか。ただ、ノブはあたしの曲やジュンの曲がどんな感じかわかった上で、“じゃあ自分はどんな感じの曲を作ろうか”と考えて作るタイプなんですよ。どうやって“nano.RIPE”という形にまとめるかということは、ノブ自身もすごく考えながらやっていると思いますね。

●やっぱり最初に聴いた時の印象は違ったりした?

きみコ:ジュンの曲は長いこと歌ってきているし、ジュンもあたしのクセをわかっているので、歌いづらいことはあまりなくて。でも、この曲を初めて聴いた時は“すごく難しいな”と思いました。あたしの中にもジュンの中にもないメロディだったので、歌がなじむまでには時間がかかりましたね。

●ノブくんが作る曲の特徴ってあるんですか?

きみコ:コードが難しい! 今までのnano.RIPEは王道のコード進行を軸として曲を作ってきたんですけど、たぶんノブは今までぼくらがやらなかったことを意識した曲を作っている気がするんですよね。だから「何そのコード!?」っていう、すごく複雑で長ったらしいコードが多いんです(笑)。

●ここ最近のインタビューで話されていた“nano.RIPEの王道からはみ出るようなこと”の1つになるかもしれないですね。

きみコ:そうですね。あたしとジュンが書けないような曲をノブは書いてくるので、それも上手く自分たちのものにして、新しいnano.RIPEとして枠がどんどん広がっていけばいいなと思います。

●ちなみに今作の初回限定盤には、「もしもの話」のミュージックビデオを収録したDVDが付くんですよね。

きみコ:そうなんです。あたしはミュージックビデオ用の絵コンテを見た時点で泣いちゃって…。

●どんなストーリーなんですか?

きみコ:最初に小さな男の子と女の子がいて、女の子が欲しそうにしていた本を男の子が探しに行くんです。途中で怪しげなお爺さんにもらった薬を飲んだら本は手に入ったんですけど、声が出なくなっちゃって。色々と悩んだり泣いたりして“どうしよう”と思っていたところでハッと気が付いたら、まだ薬を飲む前で夢を見ていただけだったということで。結局、男の子は薬をもらわず本も手に入れずに、赤い風船だけをもらって女の子のところへ戻っていくというお話なんですよ。“何かを手に入れたくて何かを手放すというのは違うよ”ということをストーリーにして頂きました。

●そのストーリーが、きみコさんの涙腺を刺激したと。

きみコ:そういうストーリーが単純に好きなのと、男の子が女の子のために何かを必死に探しに行くという部分でしょうね。男の子の演技がすごく純粋で素敵だということもあるんですけど、声が出なくなっちゃうというところであたしがちょうど声帯の手術をするというのにもリンクして…。最終的に風船だけを持って行くというのも、すごく素敵な結末だと思うんですよ。

●今の自分とリンクしたから、グッときたわけですね。

きみコ:この歌詞を書いた時には自分がそんなことになるとは思ってもいなかったけど、今改めて見たらすごくリンクしているんですよね。「呼吸」だって本当はもっと早くリリースすることだってできたはずなのに、今になったということが結果的にはすごく良いタイミングだったのかなと。毎回、“今歌いたい”とか“今届けたい”と思うタイミングで出せているなと思います。

●そういう意味では、このシングルをこのタイミングで出すということにもちゃんと意味があるんでしょうね。

きみコ:『プラスとマイナスのしくみ』というアルバムとはまた違う、『もしもの話』という1枚の作品としてMVも含めて楽しんでもらいたい作品になりました。アルバムではチャレンジした部分も多いんですけど、「もしもの話」という曲には原点回帰的な部分があって。あえて難しいことや新しいことをせず、nano.RIPEが一番得意とする曲調やアレンジで勝負しているんです。だからアルバムを聴いた後にこの曲を聴いてもらえるのは、すごく意味のある流れなんじゃないかなと思います。

Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj