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Neat’s

新津由衣が直面した“生きる”ということ

2011年2月までRYTHEMとして活動していたシンガー・ソングライター、新津由衣。

ソロプロジェクトとして昨年7月にスタートさせたNeat'sの活動の中で、彼女は26年間守ってきた大切な物を失い、自分の生き方について深く考えることとなる。
音楽的なセンスと絶妙なポピュラリティを散りばめ、記号的なキャッチーさと中毒性、等身大のメッセージ性を携えた1stフルアルバム『Wonders』。

同作を制作していく過程で、彼女にどのような変化が生まれたのだろうか。

Interview

「嘘をつきたくないと思って、自分をさらけ出すように音楽をしようと思っていたのに、まだ嘘をついてた」

●Neat'sさんは2011年2月にRYTHEMを解散して、2011年7月にNeat'sプロジェクトを開始したわけですが、RYTHEMを解散した時点で音楽を辞めるという選択肢はなかったんですか?
新津:解散してすぐに震災があったので、"音楽を仕事としてやるのはどうなんだろう?"という想いが一瞬よぎっちゃったことはあったんですけど、でも根本的に"音楽から離れる"という選択肢はまったくなかったですね。逆に音楽ともっと近くなりたくてRYTHEMの解散を決めた部分もあったので。

●ああ、なるほど。

Neat's:だから解散したらもっともっと音楽に近くなれるように努力しなくちゃと思っていたんです。"音楽人生はこれからだ"という気持ちの方が強くて。

●「音楽ともっと近くなりたくて」とおっしゃいましたが、それは職業としてという話ではなくて、自分がどう生きていくか? という思考レベルでの想いですよね?

Neat's:そうです。"生きる"ということと"音楽を仕事にする"ということは、もっと近くにあっていいと思ったし、そういうアーティストになりたいと思ったから。でも、私の中で覚悟をしていたつもりだったんですけど、Neat'sの活動を始めてから"全然覚悟が足りなかった"ということに気づくこともたくさんあって。

●そもそもどういう考えでNeat'sプロジェクトを始めたんですか?

Neat's:とにかくやってみたいことがあったから、それをやってみたかったという感じ。絶対に楽しいだろうな! と思っていて。でもNeat'sで色々とそれをやっていくうちに、当初見ていたゴールと全然違うことがわかって。

●あ、違ったんですか。

Neat's:全然違う。びっくりしちゃうんだけど、音楽と近くなれる覚悟はできていると自分では思っていたんです。自分をさらけ出すことはできると思っていたというか。"私は嘘をつく音楽をしたくない"と思ってNeat'sを始めたんですけど、そういう活動がきっとできると思っていたんです。

●ふむふむ。

Neat's:でも無自覚に近いところで、もう殻だらけだったんです。自分を守ろうとして。嘘をつきたくないと思って、自分をさらけ出すように音楽をしようと思っていたのに、私は自分を守り過ぎだったんです。

●嘘つきだった?

Neat's:嘘つきでした。RYTHEMは生活を見せるようなアーティストではないと思っていたのであまり自分をさらけ出せていなかったんです。でもさらけ出せていないことが、だんだん嘘をついているような感覚になってきて。音楽に関しては嘘をついていたら活動をしている意味がないと思っていたし、そこで嘘をついたら"聴きたい"と思ってくれる人たちの感性までも傷つけちゃうんじゃないかと思ったし。RYTHEMをやっていたときに関わってくれていた人たちは今も大好きで、ものすごく感謝しているんです。だけど、その活動をやっていたときはイライラして仕方がなくて。自分に対して"なんでこんな嘘つくんだろう"って。

●なるほど。

Neat's:そこに対する責任感を持ちたかったんですけど、私一人では持てないことにジレンマも感じていたし。

●「嘘つきだった」とおっしゃいましたが、それはおそらくRYTHEMというアーティスト単位の問題ではなくて、J-POPと呼ばれるシーンでのチャート至上主義と、そこに向けて邁進することに自分を重ね合わせることができなくてイライラしていたんでしょうね。

Neat's:そうなんです。チャートの順位を上げていく努力と、いい音楽を作る努力が同じになってしまっていたというか。だから"嘘をついている"と私は感じていて。嘘をついてみんながハッピーになれる商売って他にあると思うんですよ。だけど音楽がそうなっちゃったらすごく悲しい。音楽はそういうものじゃないと思う。

●Neat'sさんの中に"音楽は商業主義的な考えと切り離して純粋なものであって欲しい"という想いが根底にあるんですね。世の中には"チャート至上主義"と"音楽に対する純粋性"を同時にできる人もたくさんいると思いますが、Neat'sさんはちょっと不器用で潔癖症なので(笑)、そこのバランスが取れなかったという。

Neat's:そうですね。"そういう世界でプロにならなくちゃいけない"と思っていたから足並みを乱したくなかった。でもやっていくうちに私も嘘が上手になっていくんですよ。嘘をつくことを覚えると、自分の中で"諦め"みたいな感情が芽生えて、"まあこういうもんでしょ"って自分を守ってしまうんです。でも一方で、"自分は嘘つき野郎だな"と思ってしまってすごくイヤで。

●それがもっと進むと"嘘をついている"という自覚がなくなってしまうんでしょうね。

Neat's:それがもう怖くて。

●なるほど。そういう反動があってNeat'sを始めたのに、自分は嘘つきだったということに気づいたと。

Neat's:うん。最悪な結果です。自分の中で汚したくないポイントがあって、私は26年間ずっとそれを守り続けてきたんです。大人になると「それは仕方がないよ」「そういうもんだから」みたいなよくわからないルールで、自分の頭で考えようとしなかったりとかするじゃないですか。

●うんうん。

Neat's:そういう大人を見て"この人たちは自分なりの答えを出す楽しさを忘れてるな"と思っていたから、自分はどれだけ時間が経とうが、子供にしかわからないこの気持を絶対に捨てるもんか! と思って生きてきたんです。

●はい。

Neat's:わざとバカなふりをして、大人のルールがわからないふりをしてそこを守っていたんです。「わかんない」「知らない」とか言って、「由衣ちゃんは子供だね」と言われて友達ができなかったりして(笑)。友達ができなくたってそれを守る方が大事と思っていたから平気だったんです。

●生き方として。

Neat's:そう。その守ろうとしてきたのは"子供の純粋な気持ち"みたいなものなんです。"無垢な気持ち"というか。でもNeat'sを始めてから、守ろうとしてきたが故に、その純粋な気持の周りにトゲみたいな殻がブワーッとできていて、すごく真っ黒な人間だということに気がついちゃったんです。

INTERVIEW #2

「ただ24時間過ごすなんてすごく簡単じゃないですか。だけど私はちゃんと生きたいし、濃密にエネルギーを持ちたい」

●自分が真っ黒な人間だということに気づいたのは何かきっかけがあったんですか?

Neat's:色々あるんですけど…例えば、私はずっと絵本作家になりたくて。絵本作家って夢を形にする仕事だから、その人自身が夢の塊じゃないといけない、という持論があって。いつまでも夢を信じていられる身体でいたいと思っていたので、サンタさんをずーっと信じ続けていたんです。サンタさんはいるって。

●はあ。

Neat's:周りのみんなが「サンタさんってパパとママだよね」と言っていたとしてもそこでシャットダウンして、"そっちの世界はそうかもしれないけど私の世界では違う"って。そしたらある日、お母さんに面と向かって「サンタさんはいないから。サンタさんはママとパパなんだからプレゼントもわがまま言わないでよね」と言われて。それで一気に守っていた壁を壊された感じがして、私は怒っちゃったんですよ。「何言ってんの? 夢を仕事にしたいと言ってるのに私から夢を消すなんて! ホント親として有り得ない!」って。

●ややこしい子供(笑)。

Neat's:「本当はサンタさんがいないことなんて知ってるよ。でも自分の口で"いない"と言っちゃったらそれが本当になるから、私の周りではサンタさんがいる世界をずっと作り続けてて。私もずっと"いる"って言い続けるから、私の目の前では"サンタさんがいない"という言葉を発さないで下さい」って。

●うわぁ。

Neat's:…っていう話を「こうやって私は子供の魔法みたいな純粋な気持ちをずっと守ってきたんです」ってNeat'sのスタッフにしたんですよ。そしたら「お前、ひん曲がってるな」と。

●そりゃ言いますわ(笑)。

Neat's:でも私は「え? なんで?」って。そしたら「"サンタさんはいない"という事実を受け入れる方がよっぽど素直で純粋だぞ」と言われて。そこで気づいたんですよ。私は純粋な気持ちを守っていたんじゃなくて、自分が美味しいと思うものだけを受け入れて、自分が不味いと思うものからずっと逃げていたんだなって。それから何が大切なのかわかんなくなっちゃって。

●要するにNeat'sプロジェクトを始めてから色んな人に突っ込まれたんですね。「お前は純粋と思ってるけど、それおかしいよ」って。

Neat's:そうなんです。でも私はそもそも、Neat'sプロジェクトでは子供の頃からずっと大切にしてきた"純粋な気持ち"を音楽で表現しようと思っていたから、色々と突っ込まれていくウチに「私はそもそも純粋な気持ちなんて持ってなかったんだ」って。

●えらいこっちゃ。
新津:えらいこっちゃですよ。何もなかった。それが、今回リリースする『Wonders』の制作途中で気づいちゃったんです。

●マジですか?

Neat's:私の人生として、人格の軸はそこにあるとすら思っていたんです。それをNeat'sの1stアルバムに詰め込んでやろうと。私の魅力はそこしかないと思っていたから、そこがなくなっちゃったら「あれ?」って。

●そこでどう対処したんですか?

Neat's:どうしたらいいのか、今もわからないんです。

●は?
新津:だからね、涙が出てきちゃうんです、空っぽ過ぎて(泣きながら)。

●いやいや、空っぽじゃないよ! ってなんで僕が慰めてるねん(笑)。
スタッフ:最近の取材では3割くらいの確率で泣いてます。しかも周りはみんな爆笑してます。

●アハハハハハ(笑)。今の状況そのままだ(笑)。

Neat's:みんなわかるの? 生き方わかりますか?(泣きながら)

●いや、わかんないですよ。でも、そもそも"自分をさらけ出そう"と思っていたわけでしょ?

Neat's:はい(泣きながら)。

●今「生き方がわかんないです」ってさらけ出してるじゃないですか。"わからない"ということに嘘をついてないじゃないですか。だったら現時点ではいいと思いますけど。

Neat's:そうなんですよ(泣きながら)。

●わかってんのかい!
一同:(笑)。

Neat's:すみません。生き方がわからないから泣いてるんじゃないや(泣きながら)。

●じゃあなんで泣いているんですか?

Neat's:生き方なんてわからないもんなんです。でも"わからないものだ"と受け入れて生きていくことを、私は今まで練習して来なかったんです。"生き方がわからないなんて有り得ない"と遮断していたから(泣きながら)。

●ああ~、そういうことか。

Neat's:わからないまま今を生きるなんて本当に怖いことだし、私にとっては初体験で。今まで私は自分の中で確信的な未来として、ずっと"純粋な心"を持って生きてきたつもりだったので、人生がわからないなんてことはなかったんです。自分の中にすべてがあると思って。

●はい。

Neat's:でも今は、心から"人生はわからない"と思っているから虚無感があるというか。「そういうもんなんだよ」というところまでまだ行けていないんです。"人生はわからない"ということは変わらないし、絶対にそうだということはわかってるんです。だけど、受け入れるのが怖い(泣きながら)。

●あ、また泣いた。

Neat's:私にとっては"人生はわからない"と思いながら生きていくことは、今まで生きてきたことよりも4倍も5倍もエネルギーが要ることなんです。今までどれだけ自分がしっかり人間として生きて来なかったかということを、Neat'sを始めてからすごく実感しているんです。私は人間として生きたいと思っていたけど、"人間として生きるってこんなに覚悟が必要なんだ!"って涙が出ちゃうくらい思うんです(泣きながら)。

●ハハハ(笑)。

Neat's:すっごいパワーが要るもん、ちゃんと楽しく生きようと思ったら。ただ24時間過ごすなんてすごく簡単じゃないですか。何もしなくていいし、何も楽しいこと考えなくても、日なたぼっこしてるだけで"幸せだな"と思えることもあるし。だけど私はちゃんと生きたいし、濃密にエネルギーを持ちたいんです。

●ちゃんと生きたいのか。

Neat's:ちゃんと生きている人って、相当な努力と相当な不安を抱えながらがんばっているんだなって。それを笑い飛ばせるくらいに私はなりたい。みんな悲しかったり苦しかったり"生きづらい"と思っているのは、楽に生きている人もちゃんと生きている人も同じだと思うんだけど、ちゃんと濃密に生きている人は、たぶん私が今ぐーっと感じている痛みを絶対どこかで乗り越えて、痛みを逃がせるようになっているんじゃないかなって思うんです。

●逃がせるというか、受け入れるというか。

Neat's:そうですね。痛みを見ないふりもしないし、遮断もしない。でも真正面から受け入れても押しつぶされることはなくて、上手く対処できているんじゃないかなと思うんです。

●うんうん。

Neat's:でも私は無意識のレベルで見ないふりしたり遮断することがクセになっちゃっているところがあるから、Neat'sの活動はリハビリですよね(笑)。

●『Wonders』の制作途中でそのことに気づいたとおっしゃっていましたが、本当にここ最近の話なんですね。

Neat's:そうですね。ここ1ヶ月くらいのことです。1回意気消沈しちゃって。

●超最近じゃないですか(笑)。何やってんだよ!

Neat's:アハハハ(笑)。でも本当にそうなんです。私はポップをやりたいと思っていて、大衆音楽をやりたいと思っているんですけど、"人間としてちゃんと生きたい"と思っていないと、中身がどんどんスッカラカンになっちゃうなって。だから4倍5倍のエネルギーで生きていないと、自分はまた嘘つきになっちゃう。

●『Wonders』を作っているときは?

Neat's:制作途中で「私はそもそも純粋な気持ちなんて持ってなかったんだ」と気づいたんですけど、『Wonders』はそういう自分の心の波とかも入っているというか、濃密で純粋だと思っていたものだったり、それがグワンと崩されて、その自分と闘う様までが入っているから、ストーリーとしてもちゃんと濃密な作品になったと思えるんです。でもこれからは、『Wonders』みたいな偶然の産物ではなくて、"私がNeat'sとして何を伝えるべきか"というステージに行きたかったんですけど、『Wonders』の制作が終わってからその答えが見えなくなって。すごく意気消沈したんです。この人大丈夫かな? と自分で思っちゃって。音楽をやる人としてこんなのでちゃんと人前に出れるのかな? って。

●大変やな(笑)。

Neat's:やる気は100%あるんです。でも「人生はわからない、そんなもんだ」と言って2ndアルバムに向かって行くなんて、難しすぎると思っちゃったんです。何かしらの世界を掴んでおきたかったんですけど、今の自分はそれだけのパワーを持ってない人間なんだということに気づいて、意気消沈して、そのときは難しくて。でも今はわかったんです。

●どうわかったんですか?

Neat's:生き方はわからないけど、2ndアルバムでやりたいことはわかったから。行きたい世界がひとつあるだけで、毎日がわからなくてもいいと思えるようになったんです。

●M-2「ナイト・イン・サイダー」で歌っていることに関係しているかもしれないですね。"最悪なことを10個並べて泣いている君が見るべき今は/目の前のこれひとつだけだよ"と歌詞にありますが。

Neat's:ああ~、最近「ナイト・イン・サイダー」を歌うとすごく私自身に歌ってるなって思うんです。そもそもこの歌詞は人に対して言うつもりで書いたんです。落ちているときって何ひとついいことが考えられないじゃないですか。だけどいいことを考えるのも悪いことを考えるのも同じだけの労力が必要なんだから、最悪なことを考えて泣いてる暇があるんだったら、目の前のことを楽しく過ごすことに目を向けてごらんって。

●それって、今のNeat'sさんにそのまま言えることですよね(笑)。

Neat's:そうですよね(笑)。今は自分に対して歌ってます。

●不器用ですね(笑)。

Neat's:最近このアルバムを色んな人に聴いてもらって意見をもらうんですけど、よく「不器用だね」言われます(笑)。会ったこともない人に「この人は生き方が下手そうだ」って。

●歌詞に"悲しい"とか"辛い"とかいっぱい出てきますしね。

Neat's:「ナイト・イン・サイダー」だけじゃなくて、そもそもは全部人に対して書いた歌詞なんです。

●え? そうなんですか?

Neat's:これは私のクセでもあるんですけど、私は自分のことをそのまま表現できないんです。何かに例えたりしないとできない。だから物に例えたりとか、私が人を見て"この人はここがいけないんだ"とか"ここをこうすればもっとこうできるんじゃないかな"と思っていたことを今作の歌詞に書いていたんです。

●へぇ~。

Neat's:でも、今は歌えば歌うほど「あれ? これ私だ」って思っちゃう。

●ほぼ全部自分のことを歌っていると解釈したんですけど。

Neat's:あ、でも"私がこう歌われたい"と思うことを書いているかもしれない。

INTERVIEW #3

「人間として生きるにはそこに可能性が多いにあって。その素晴らしさとか気持ちよさは、ただ楽に生きているだけでは感じられない気持ちだと思う」

●Neat'sさんはなぜ音楽を作ってるんですか?

Neat's:なんでだろう…作りたい。

●なんで作りたいんですか?

Neat's:なんで? じゃあなんで作らないの? っていう感じかな。

●いやいや、それって質問から逃げてません?

Neat's:うーん…難しいな。なんで作ってるんだろう。やっぱり作りたいと思っちゃう。作りたいと思わなかったら作らないし。…うーん、気持ちよくなるポイントがあるんだ。

●気持よくなるポイント?

Neat's:最近ライブのリハーサルをしているんですけど、そこで感じることを言うと、なんか食べている感じがするんですよ。歌を歌っていると、嫌な気持ちを食べている感覚があるんです。嫌な気持ちをもぐもぐ食べているとスッキリするんです。

●うんうん。

Neat's:消化されたなっていう感じで。それが気持ちいいポイントなんですけど、"嫌だな"とモヤモヤしたときにそれを食べざるを得ないというか、モヤモヤしたままだと1日を暮らせないから、それを食べて「ふぅ、スッキリ」とするような作業というか。

●それがNeat'sさんにとって"音楽を作る"という作業なんですか。

Neat's:でもそれは音楽に限らないかも。私にとって何かを作るということはそういう感覚があるんです。

●なるほど。今作を聴いて、"この人はなぜ音楽を作っているのかな?"と僕なりに考えたんですよ。

Neat's:はい。

●で、どう解釈したかというと、1つは自分が"かっこいい"とか"オシャレだ"とか思っている自分なりの感性を表現したいという表現欲が強い人だと思ったんです。それと2つ目は、自分の中のどろどろした感情を解消したり、もしくは欠落しているようなものを埋めようとしている欲求が強いのかなと。その2つでNeat'sという音楽ができている。だから「嫌な気持ちを食べている」というのはすごく納得できて。

Neat's:なるほど。今2つの話がありましたけど、最初の1つはすごく合ってる気がするんです。でも2つ目の方は、そういうどろどろした感情とか欠落しているようなものを誰かと共有したいという感覚に近いかな。

●共有したい?

Neat's:私が大衆音楽にこだわっている理由の1つとして、"重なる"ということがやりたんです。ただ、小学校のときとかに「昨日のテレビおもしろかったよね」ってみんなで言ってるような共感はクソッタレだと思っていて。そうじゃなくて、本当に涙が出てその場にいる10人全員が泣く…みたいなことって日常生活でもたまにあるじゃないですか。

●ありますね。

Neat's:そういう空間で「うわぁ」ってなるのは、すごく人として素敵なことだと思うんです。そういう瞬間を音楽でやりたいし、増やしたい。そういう瞬間って本当に気持ちが豊かになれるじゃないですか。そういう意味での共感をずっと目指していて。

●今おっしゃったように、薄っぺらい共感は世の中にいっぱい溢れていると思うんです。チャート至上主義もそういう共感だらけだと思うし、"共感"という感情はすごく安くなっている気がしていて。でもそうじゃなくて、心が豊かになれる共感というか、人とそういうコミュニケーションが取りたいからNeat'sさんは音楽をやっていると。

Neat's:そうですね。自分もそうなりたいし。話していても思うのは、そういう意味で人と共感するとか、そういうレベルで人生を生きるのってすごく大変なことだと思うんです。やろうと思ってできるものでもないし、自分はまだできなし。でも人間として生きるにはそこに可能性が多いにあって。その素晴らしさとか気持ちよさは、ただ楽に生きているだけでは感じられない気持ちだと思うんですよ。

●うんうん。

Neat's:そう考えると、以前は"生きる"というところですごく弱いエネルギーで24時間を過ごしていたんだなって。今はこうやって話しているだけでも涙が出ちゃうし大変だけど、すごく濃密に時間を過ごせている気がするし、そういうポイントで「あ、この人と分かり合えた!」っていう瞬間があったら、とんでもない幸せになりますね。

●なりますね。

Neat's:これは私が挑戦したいことなんですけど、表現の濃度を薄めることなく、今までとは違うやり方でみんなの興味を惹かせたいんです。「これ見たことある」とか「聴いたことある」という感じで振り向かせるんじゃなくて、「なにこれ!」っていうのをずっと続けるっていう。

●ああ~。

Neat's:そうすると、みんなも飽きないじゃないですか。やっぱり人間は慣れてしまうし飽きてしまう生き物だけど、慣れてしまったものを継続させるには中毒にしないといけないじゃないですか。そうすると、ちょっと不純なもの…例えば食べ物だったら薬物とか…を入れないといけなくなる。でも私はそういうことをしないぞ! と思ってNeat'sプロジェクトをやっているので、人に刺激を与え続けないといけないなと思っているんです。

●Neat's TVもそういうことですよね。(※Neat's TV:Neat'sがプロジェクトを始動させた7月からyoutubeで毎日アップしているネットTV。すべてNeat'sが制作している)

Neat's:そうですね。でもやり続けてみて、みんながなぜこれをやらないのか? ということもわかってきますよね。大変だもん。毎日ネタがあるわけじゃないし、何度も諦めそうになったけど、そこで自分の濃度を薄めちゃいけないんだなと思って。諦めちゃったら4倍5倍の濃度で生きられないっていうことだから。そこはちょっとがんばってみなきゃいけないですよね。人ができないことを。

INTERVIEW #4

「だから今はとにかく日々をしっかり生きようと思っています。当たり前にできることなんて何もないんだから」

●今作を聴いて1つ感じたことがあったんですけど、Neat'sさんは自分の"女性らしさ"を上手く表現に採り入れているなと感じたんです。それは歌詞の視点もそうですが、歌い方だったりメロディも含めて。もっと濃く女性らしさを出してしまうと音楽としてのセンスから焦点がズレるような気もするし、逆に女性らしさを薄くしてしまうとキャッチーさが削がれるような印象があって。

Neat's:『Wonders』を作っていたときには意識していなかったんですけど、今の私にはタイムリーすぎる話です(笑)。

●というと?

Neat's:今の私のテーマの1つとして"女性らしさ"があるんです。私は自分が女性であることを受け入れたくなかったんです。ずっと。

●いつまで?

Neat's:2ヶ月くらい前まで(笑)。

●それも最近やん!
一同:(笑)。

Neat's:それまでは少年だったんです。さっき言っていた"純粋な心を持ち続けたい"というところからの派生なんですけど、世界の不思議を見れるのは少年だという思い込みがあって。冒険するのは少年だから。

●はい。

Neat's:でもようやく"自分が女性なんだ"ということに、ポジティブに目を向けることができるようになったから、今は受け入れようと思えるようになったんです。最初は"女性"というものに対してネガティブな印象しかなくて。なんか芯がなくて、嘘つきで、いつもユラユラしていて"かっこ悪い"と思っていたんです。1人じゃないと生きていけないという弱さを受け入れたくなかったというか。"私は1人でも生きていけるタイプだから女性じゃなくて少年だな"と思っていたんですけど、全然そんなことはないじゃないかと。

●はい(笑)。

Neat's:1人で生きていけるなんて、私はなんてことを思ってたんだろう! って。大人の女性って"誰かのために生きる"とか"誰かを守る"みたいなイメージがあって、すごく儚くてか細いなと思っていて。それが嫌だったし、自分はなりたくなかったんです。でも女性らしさにもいいところがあると気づいて、それは男性にはないおもしろい表現になるんじゃないかなと。そこに嘘はつかずに、自分が女性であることを受け入れようと。

●"女性であることを受け入れない"ことは、女性である自分に嘘をついていることですからね。

Neat's:そうなんですよ。女性って素敵だなって思え始めたんです。

●今作を作ったことによって気づいたことがいっぱいあるんですね。

Neat's:いっぱいあります。でも自分の個性とか良さにも気づけたところもあって。だから今はとにかく日々をしっかり生きようと思っています。当たり前にできることなんて何もないんだから、毎日ゼロに戻ってやり直すっていう感じですね。

interview:Takeshi.Yamanaka

2011

年2月までRYTHEMとして活動していたシンガー・ソングライター、新津由衣。ソロプロジェクトとして昨年7月にスタートさせたNeat'sの 活動の中で、彼女は26年間守ってきた大切な物を失い、自分の生き方について深く考えることとなる。音楽的なセンスと絶妙なポピュラリティを散りばめ、記 号的なキャッチーさと中毒性、等身大のメッセージ性を携えた1stフルアルバム『Wonders』。同作を制作していく過程で、彼女にどのような変化が生 まれたのだろうか。

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